庭劇団ペニノ「ダークマスター」

庭劇団ペニノ「ダークマスター」公演は不思議な芝居でした。物語に起承転結はあるのですが、それが大事かというと、どうもそうではなさそうです。オブジェというか、大がかりな舞台セットが圧倒的な存在感で迫る芝居。ほとんどそれに尽きるようなお話だったといえばいいのではないでしょうか。ただ、その先が問題ではありますが。


さびれた食堂にたまたま立ち寄ったのがリストラされたサラリーマン。彼はこびとのマスターに半ば強いられて調理場に立つようになりますが(餌は月収50万円!)、調理方法をほとんど知らない彼に、マスターが2階から無線で指示するという設定です。その結果、月間売り上げ600万円を記録するするほど店を繁盛させますが、やがてサラリーマンはそこを立ち去るというお話です。

観客はFMラジオでマスターの指示内容を聞き取るという手の込んだ仕掛けもありますが、最後にあらわになった2階は、1階と同じ食堂ですが、もっと金ぴかで洋風の豪華な内装になっていました。それがガタンと傾いていすや調度品が崩れ落ちてきて、そのがらくたをかき分けてサラリーマンが出ていく場面で幕となります。

この舞台では実際に焼き肉やオムライスを調理しますが、肉の焼けるにおいなどが客席まで漂ってきます。昨秋のとくお組公演「インドのちから」でも同じというか、もっと凝った食堂が実現していましたし、実際にカレーが調理されていました。前例はかなりあるような気がします。

またFMラジオで指示を出すのは珍しいことは珍しいのですが、海外の翻訳劇ではFMラジオで日本語のあらすじを流すのはよくある話です。視覚障害者にストーリーを伝えるために使われたりしています。指示がなくなったあとのホワイトノイズが特別の意味を載せていたようには思えません。

最後に舞台が崩れるといえば、やはり昨年のドイツ・フォルクスビューネ公演「終着駅アメリカ」で舞台全体が傾いて、乗っていた調度品がすべて滑り落ちて壊れるシーンが記憶に残っています。テネシー・ウイリアムズの原作に現代ポーランドの出来事を引用し、革命歌・労働歌とアメリカの60-70年代ロックを抱き合わせ、ト書きを字幕に映し出して引用=張り合わせをことさら露わにした上で、最後に登場人物ごとすべてを舞台から突き落として壊してしまう荒技でした。

さて庭劇団がもっとも力を入れたとみられる2階建てのセットは、いろいろ想像力をそそるようです。「しのぶの演劇レビュー」は「2つの部屋が現れ、2階が倒壊し、サラリーマンが去る。そして裸になったヤクザが立ちすくむ・・・その間、セリフは全くありません。観客がそれぞれに自由な解釈をせざるを得ない、衝撃的な結末だと思います」とした上で、次のように踏み込んで解釈しています。

1階は日本、2階はアメリカおよび西洋資本主義であると私は捉えました。
アメリカ(マスターおよびキッチン長嶋)は、焼け野原の日本および日本人(=リストラされたサラリーマン)に強引に救いの手を差し伸べます。実は手なづけて奴隷のように働かせ、そして搾取しようとしていただけなのですが。
まじめな日本人は労働を喜びに変えていきます。言われたとおりに働いて、すっかりアメリカに追いついてから周りを見回してみると、家族(=喪服の女)は傷ついており、子供(ジャイアンツのユニフォームの子供)は目的を見失って呆けています。ビジネスがうまくいき始めたら、ヤクザにたかられて金を奪われるようになりました。
日本人はアメリカの横暴と自らのアイデンティティの喪失に気づいて、再びゼロからやり直すことを決心し、店から出て行きます。2階の床が落ちることはアメリカの崩壊を意味し、その崩壊が日本(=1階)にも壊滅的な打撃を与えるのです。
最後に登場するヤクザは資本主義社会の膿(うみ)のような存在で、金づる(=サラリーマン)を失って茫然自失している様かな・・・と想像しました。・・・でもこれはかなりこじつけですね。よくわかりませんでした。

なるほど。日米関係を象徴するとの見立てに思いは及びませんでした。

「*S子の部屋」は「『ダークマスター(=闇の支配者)とは誰か?』という謎かけを、現実とも幻想ともつかないような不条理な出来事をちりばめることで複層的に構成している。だから見る側にはさまざまな解釈が成り立つんだろうが、どうにも他人の夢日記を精神分析するような不毛感がぬぐえない」としてたあと、ざっくばらんに、ことの顛末をこう総括します。

主宰のタニノクロウは久々にあらわれた良質の香具師なんじゃないか。やってることはゆってみりゃゴス版後藤ひろひとなんだけど、世界観の偏執的なつくりこみと観客を煙に巻くインテリっぽさやアートっぽい目くらまし、そのぶ厚さが効いている。唐十郎や寺山修司なんてまさに超一級の香具師だったわけで、あのレベルのハッタリまであと一歩だろう。あと足りないのは金か?話題性か?でもそんなものはじきに追っついてくるにちがいない。

かなりイイ線いってるんじゃないでしょうか。こういう鋭い直感が的を射通すような気がします。

ぼくですか? うーん。凝った2階が忽然と現れたときはうなりましたが、そこまででした。壊れっぷりも「劇」の内部で中途半端にとどまり(ホントに壊したら、一回しかできないしね)、逆にその不燃感を際だたせる仕掛けもなかったからです。

先の映画「小さなリボンのレストラン」や「黒いOL」公演でもみられたように、登場人物を無造作に「役」に投げ込むやり方は相変わらず。思惑が滲んでくるようでいささか引いてしまいます。説明抜きの人物設定も、遊びをわざと作ってぼくらの意識を誘う仕掛けのように感じ取れます。

「黒いOL」は、新宿に残された原っぱに長くて大きなテントを建て、水を奥まで引いてその細長いエリアがそのまま舞台になっていました。最後に舞台になった細長い溝の先を通って観客が帰る仕掛けですが、この道の先達に、そこに性的意味合いが刻まれていると示唆されてみると、これもなるほど納得。観客は闇夜に「排出」される存在なのでした…。などなど怪しい臭いが漂っていると、香具師ではないのですが、脚本・演出のタニノはなかなかの曲者と思えてきます。さまざまな仕掛け、あるいはたくらみが伏せられていて、ぼくらが引っかかるのを楽しむ、よく言えばやんちゃな視線、皮肉にみると底意地の悪い視線が潜んでいるような気がしました。それこそダークマスターそのものかもしれません。そのあたりの癖のある不気味さが持ち味なのではないでしょうか。(2006.2.6一部修正)

[上演記録]
庭劇団ペニノ第12回公演「ダークマスター」
東京・こまばアゴラ劇場(2006年1月12日-22日)

原作:狩撫麻礼・泉晴紀(2001年コミックビーム連載)
脚本/演出: タニノクロウ

出演:
久保井研(劇団唐組)
瀬口タエコ
マメ山田
白鳥義明
横畠愛希子(マンションマンション)
田中寿直
山崎秀樹
渡辺卓也

スタッフ:
舞台監督/矢島健
舞台美術/田中敏恵
音響/小野美樹 川口典成
照明/今西理恵
宣伝美術/野崎浩司
WEB/定岡由子
写真撮影/田中亜紀
チラシ画/泉晴紀
演出助手/佐山和泉
映像・撮影/玉置潤一郎
票券管理/河口麻衣
制作/野平久志
制作助手/島田桃依
制作協力/三好佐智子
企画製作/PUZZWORKS
協力/株式会社エンターブレイン
主催/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場

・動画資料
「818STAGE」の特集庭劇団ペニノ(予告編 プロモーション)

イープラス配信(予告編


投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

「庭劇団ペニノ「ダークマスター」」への1件のフィードバック

  1. 北嶋孝@ノースアイランド舎です。
    引用先を間違えるというお恥ずかしいミスがありました。先ほど訂正しました。「しのぶ」さんと「*S子の部屋」さんにご迷惑をおかけしました。あちこち引用して最後に大整理して半分ぐらいに圧縮したところまではよかったのですが、最後の確認がおろそかになりました。スミマセン。以後気を付けます。

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