ショウデザイン舎「嘘・夢・花の物語」(空組公演)

何年前に執筆された作品なんだろう。 「『身毒丸』『桜の森の満開の下』の作者」という肩書きから、あたしは岸田理生を古典の世界の人間のように見ていた。 しかし「嘘・夢・花の物語」の生々しさはその観念を壊した。夢見る夢子さん、 … “ショウデザイン舎「嘘・夢・花の物語」(空組公演)” の続きを読む

何年前に執筆された作品なんだろう。
「『身毒丸』『桜の森の満開の下』の作者」という肩書きから、あたしは岸田理生を古典の世界の人間のように見ていた。
しかし「嘘・夢・花の物語」の生々しさはその観念を壊した。夢見る夢子さん、幸せを売る男、歌・香・調の三姉妹という名前を裏切って、登場人物たちの思惑は俗っぽく生々しい。
現代にも通じる、ではなく現代に生きる人々そのままの、時に息苦しく感じるほどの現実的な悩み。或いはその生々しさを中和するために、ことさら可愛らしい雰囲気の名詞を岸田理生さんは多用したのかもしれない。


単純な話である。
10年以上同居している亡姉の夫と、初めてできた体育教師の恋人の
どちらかを選ばなくてはいけなくなった、30歳の夢。
自分達の今の生活を守るために、どちらとも結婚しないよう画策する三人の妹。
更に「幸せを売る男」との出会いを通し、夢の考えは決まっていく。

亡き姉の夫と結婚することは、一生家政婦で居続けることなのだろうか。

体育教師と結婚すれば、彼の嫌いなアップルパイは一生作れないのだろうか。

妹達の発言を通して「妻」という立場の実態が根本からひっくり返され、
一長一短の二人の男の前で夢が立ち尽くす理由は、
「どちらを選べば幸せになれるの?」という気持ちからである。
どっちの男が「より好きなのか」という問いは無い。
自分の一生が丸ごと託される選択の前で、
相手への愛情すら、材料の一つでしかない。
それは誰かが批判できることではないと思う。
牢獄への道を選ぶことだって当たり前にある状況なのだから。

「幸せになりたい」という気持ちが原因と気付いた夢は、幸せを売る男を殺す。
心の迷いを断ち切った夢。しかしラストシーンで彼女は、なんと「母」になってしまう。
夢を除く全員が赤ん坊の恰好で舞台上を暴れ周り、臨月を迎えている夢が全員の世話を焼く。父親が誰なのかは示されない。

このラストシーンはひどくショックだった。
結局行き着くところは「母」なんだろうか。ジャージの上からレースたっぷりのドレスを着た「少女」の夢は、殆ど「母」に直行した、ように見えた。
なんていうか堪らなく日本的じゃないか。女性観がいかに根深く文化に染み付いているのかを体感した気がして愕然とした。
理生さんはどんな思いでラストシーンを書いたんだろう。やるせない気分のまま劇場を出た。

<上演記録>
作●岸田理生

演出●山本健翔

出演●剣持直明 塚本一郎 

○風組○
ささいけい子 志村彩佳 森幸子
池田理沙 嶋崎徹

○空組○
清田直子 プンミー朝倉 有川加南子
井上未夏 松下達也

美術●金井ひろみ

照明●竹井崇

音響●唐沢義男

舞台監督●小島とら

制作●水野恭子

製作●ショウデザイン舎

2006年6月29日~7月2日 こまばアゴラ劇場

ショウデザイン舎HP http://www.eva.hi-ho.ne.jp/~show-design/

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