指輪ホテル北米公演”CANDIES – girlish hardcore”

YUBIWA Hotel “CANDIES – girlish hardcore”(指輪ホテル北米公演)
◎痛みを痛みとおもわないための儀式。いきのびるために。
田口アヤコ

この文章を書くにあたり、
劇評 というものをだれが必要としているのか についてかんがえたのだが
わたしは作家ですので演出家劇作家女優ですので
演劇の評論は書けませんので、なんらかの記録として、
指輪ホテルという団体が劇団としてのかたちをたもっていた一時期
指輪ホテルに劇団員として所属していた経歴をもつ
演出家劇作家女優田口アヤコが、
ニューヨークで、
YUBIWA Hotel “CANDIES – girlish hardcore” North American Tourについて
なにをみたか。
という文章を書きます。

春くらいに ことしはニューヨークに行くんだよ と
指輪ホテルの演出家ひつじやさんから聞いて、
いいですねえ、わたしニューヨークいったことないしな、観に行こうかな、
とかるく答え、
でもそのあと自分自身が8月に劇場公演をすることをきめ、
8月に利賀演出家コンクールに出場することもきめ、
9月から10月まではポタライブの公演を一ヶ月連続でやることになり、
ああこりゃあ9月にニューヨークなんて行く余裕あるわけねえ、
とおもっていたのだけれど
8月 利賀演出家コンクールに敗れ、惨敗し、みじめだ、
そのご報告メールニュースの返信としてひつじやさんから、
にゅーよーくおいでよ、と書いてあった、そのメールに
ああ、そうか、呼ばれた、とおもって
うん、と
むかった、
ジャパンソサエティ というところ。

2006年1月に横浜相鉄劇場にておこなわれた
“CANDIES – girlish hardcore” European Tour出発直前の
同作品のワークインプログレス上演に わたしはすごくすごく感動し
なにに感動したかと言うと、
舞台にのっているものすべてがシャープであったこと、
すべてがひとを殺すことのできる武器であったこと、
討ち死にする覚悟をもって舞台にのっているひとたちであったこと。

ジャパンソサエティでの ”CANDIES – girlish hardcore” ニューヨーク版
構成要素としてのシーンの変更は ほとんどなく、
ランドセルを背負い 動物のおめんをかぶった女子たちが
対立し、結託し、ちょっとしたいじめをする、
女子のおしりからしぼりだされ焼かれたホットケーキを食べる、食べさせあう、
姉妹の会話、その姉妹の会話の大阪弁と東北弁の会話バージョン、
ナイトキャップをかぶった女子たちのバスケットボールのパス、
老女たちの会合、亡くなったらしいひとりの老女の不在、
そして踊りつづけ、服を剥がし、煙草を吸い、
暗転。
こう書き出すと、すべてうつくしい悪夢のようだ。

指輪ホテル北米公演の舞台
【CANDIES - girlish hardcore" North American Tour in New York、提供=指輪ホテル】

わたしは
ラストシーンの
踊りつづけ、服を剥がし、煙草を吸い、
暗転。
が とても好き、
踊りつづけるかのじょらは、じぶんの皮膚を剥がしていくようにもみえる、
剥がされたのちの身にまとう衣裳、
横浜版、いろとりどりのカラフルな
フリル付きチューブトップとフリル付きパンツという
ポップなレビュー風の衣裳から、
ニューヨーク版、これもいろとりどりとはいえ暗色の
ブラジャーとTバックショーツのセットという
なまなましくなまめかしく必死な衣裳へと変更されていた、
わたしはこれはとても日本的だとおもった。日本でがんばりつづけるわたしたち女子のすがただとおもった。踊りつづけるかのじょらは、みられつづける、みられつづけることをやめるわけにはいかない、みられつづけじぶんを「売る」ことをやめるわけにはいかない、みられつづけ犯されつづけることをやめることはできない、わたしたち日本の女子のすがただとおもった。
さいごにたばこを消す、かのじょらは全員背中に入れ墨の化粧をしているのだけれど、
たばこをじぶんのハイヒールの靴底で消す、
これはまるで入れ墨を入れるような痛みだとおもった、
この劇は、痛みを痛みとおもわないための儀式だとおもった。
いきのびるために。

もうひとつ、このニューヨーク版においていちばんおおきな変更点は、
冒頭の、そして中盤の大阪弁と東北弁の会話、
2回にわたって取り交わされる「姉妹の会話」の内容だった。
横浜版では
あなたの考えている「愛」は、わたしとはちがう、という
ほんものの姉妹同士の会話(対立)だったが、
ニューヨーク版では
幼い頃から姉妹のようにして育った友人同士、疑似姉妹の会話になり、
片方の女子の結婚式の日、お祝いに駆けつける途中のもう片方の女子の母親が死ぬ、
そのことについての会話(対立)となっていた。

父を殺す というのはオイディプスで
おとこのこが成長する 成人するはなしで
死んだ母を送る というのは
おんなのこのための おとなになるための物語なのかもしれないなあ
とおもったのだが
ひつじやさんからは カミュの『異邦人』みたいだよね、
近代的だよね、といわれた、
近代的、そうなのかな、あまりぴんとこない、
この文章を書くために『異邦人』を読むべきか、ともおもったのだけど
やめた。

母を送る ことについて。
にんげんだれしも 母親の死 という日がいつかは来る、
親よりさきに死んでしまったらべつだけれども、
母親というのはだれにでもひとしくひとりにひとりずついる、
母親の死という日がだれにでもひとしくひとりに1回ずつ来る、

わたしは2年前の12月1日にその日が来て、
前の日にでんわをして、お昼ごはんをたべる約束をした、
まちあわせの有楽町駅で待っていたのだけれど来ない、
時間をまちがえただろうか、とおもい
1時間待って、
来ない、
1時間20分待って、父親に電話し、
アパートに見に行ってよ、
といわれ、
東海道線でむかった、
東海道線の車内でぜんぜんちがうひとに会いにゆくことをおもった、
母親もだれかと浮気でもしているのならいいのに、とおもった、
横浜駅からバスで30分くらいかかる、
アパートのとなりが大家さんの会社で、
鍵のありかがわからない、といわれる、
待つ、
鍵を開けてもらったら、
あんのじょうはだかでうつぶせで倒れていた、
救急車をよんでもらってそこからはもうわけがわからないわかるのだけれど
おかあさんおかあさんおかあさんとよんでもつめたい、
前夜、お風呂上がりに、くも膜下出血が起こって、そのまま、おしまい、
バスタオルを頭にまいて、はだかで。
ここからもいろいろ大変だったがそれは割愛、

“CANDIES – girlish hardcore” ニューヨーク版 オープニング、
舞台中央にひつじやさん、走る、花束と、シャンパン、

わたし、
とんでもない日に死んじゃった、

わたし、
とんでもない日に死んじゃった、

わたし、
とんでもない日に死んじゃった、

というくりかえし、走る、走る、花びらと、シャンパンが、こぼれ、
ばたん、
倒れる

おかあさーん、

呼ぶ声、
上手客席から、
ともみちゃんが駈けてきて、舞台上にのぼろうとする、
のぼれない、失敗する、のぼる、
止まる。
近づく、どうしようもない、ゆっくり、
手を 組み合わせてあげる、となりに、
寝る

そして
おかあさーん と呼ぶ声、
下手客席から、
ゆきちゃんが駈けてきて、舞台上に ころん、と のぼる、
白い手袋と 白いヴェールをつけている、
そういえばともみちゃんは
黒い手袋をしている、
白い手袋をしたかのじょは結婚式から、
黒い手袋をしたかのじょはお葬式から、
めでたいことと 弔事
そのあいだにあるもの どちらでもないもの

日々の暮らしか
二人の女子はお互いの持っているものと持っていないものに嫉妬する
おかあさんはともみちゃんのおかあさん、ゆきちゃんのおかあさんではない、
結婚相手の水泳選手はゆきちゃんのおとこである、ともみちゃんのおとこではない、
指輪ホテルというなまえの
指輪 と ホテル
指輪ホテル創始者のおふたりが
いちばんすきなことばをひとつずつもちよってつくった団体名である、
とおもっていたのだけれど
ジャパンソサエティでもらった当日パンフレットには
ジャパンソサエティのArtistic Director Ms. Yoko Shioya の Director’s note、
「The word yubiwa means “ring,” the kind you wear on your finger. Juxtaposed with “hotel,” a place of potentially shady activity, her company’s name invokes the complexity of these seeming contradictions.
(田口訳)yubiwaということばは ゆびにはめる「指輪」を意味している。これに並べられたhotelということばは、「いかがわしいしごと」に関わる可能性のある場所である。彼女のカンパニーの名前は、みかけとしてはまったく正反対の複雑さを呼び起こさせる。」
という文章があり、
永遠の約束と 一夜の夢
どちらもほしい
ということか とわたしは解釈し、
どちらも手に入れる ということはむずかしくむずかしく
だからこそとてもうつくしいなまえであるのだなあ と
あらためて焦がれるようなおもいをもった、
というニューヨークでわたしがみたもの。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第13号、2006年10月25日発行。購読は登録ページから)

【筆者紹介】
田口アヤコ(たぐち・あやこ)
1975年11月生まれ。岩手県盛岡市出身。東京大学美学藝術学専修課程卒。演劇ユニットCOLLOL主宰。演出家/劇作家/女優。劇団山の手事情社・劇団指輪ホテル等での俳優活動を経て、自身の劇作を開始。おさんぽ演劇「ポタライブ(potalive)」の劇作を劇作家岸井大輔氏とともに進行中。
blog『田口アヤコ 毎日のこまごましたものたち』http://taguchiayako.jugem.jp

【公演記録】
YUBIWA Hotel”CANDIES – girlish hardcore” North American Tour
・Japan Society http://www.japansociety.org/events/event_detail.cfm?id_event=1830651073&id_performance=1687206080
・TBA http://www.pica.org/tba/

Date:
9月8日The Time-Based Art(TBA ) Festival in Portland, Oregon
9月9日TBA festival
9月10日TBA festival

9月14日Japan Society in NY
9月15日Japan Society
9月16日Japan Society
This event is part of the Girl, Girly, Girlish series.

作・演出 羊屋白玉
出演 生田和余,羊屋白玉,村田朋未,坂田有妃子,卯月妙子

美術 坂田アキコ
衣装 飯島真弓
照明 アイカワマサアキ
音楽 岩原智
記録 有末剛
マネージングディレクター兼カンパニーマネージャー 佐藤道元

【関連情報】
・指輪ホテル北米公演”CANDIES-girlish hardcore North American Tour” http://www.yubiwahotel.com/release/2006/20060801_candies.pdf(指輪ホテル)
http://staff.yubiwahotel.net/?cid=8859(指輪ホテルスタッフブログ◇YUBIWA Hotel ANNEX)
・ひつじのぼんぼり 指輪ホテル/ 羊屋白玉blog http://blog.yubiwahotel.net/?month=200609
・指輪ホテル 北米ツアーレポート(本日の… 本日の卯月妙子。blog)http://diary5.cgiboy.com/3/tae_u/index.cgi?y=2006&m=9#29

「指輪ホテル北米公演”CANDIES – girlish hardcore”」への2件のフィードバック

  1. お母さんが亡くなった
    その様子をはじめて知りました。
    何にも・・・・・・いえない。

  2.  本日、日本凱旋公演の初日でした。
    自分が何を体験したのか、再体験できる素敵な文章ですね!!

竹のスケ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください