◎さわやかで、空っぽで、のほほんとした笑いの世界
鈴木麻那美
とくお組は今回初見。
「とくお組」っていう名前から、暑苦しい感じをイメージしていたんだけれど、コメディよりのさっぱり風味で一安心。
それでも幕開けはシリアスで、どこかの国の王さまが戦時下で降伏宣言をするシーンから始まる。
だけど、役者さんは国王って感じじゃないし、どこからどこまで本気にしていいやら、最初はどういう姿勢で見ればいいのかわからなかったけど、直後にコントモードに突入してボケ、ツッコミ、現代っ子の喋り口調のコンボで納得。
肩の力を抜いて観ろっていうことなんだと理解した。
白旗を揚げようとして国旗出しちゃったり、部下がボケつつも戦争の犠牲になっていくのを尻目に、王はタイムスリップの穴を発見。突入した先は原始時代のような場所。王はそこでトリケラとして生きる。
つまるところ、マンモスを狩らなきゃ生きていけないんだけど、俺ら文化系だし狩れないじゃん? という話。
ストーリーはシンプルでわかりやすい親切設計。
登場人物もみんなストレートで、どこか憎めないかわいらしさがある。直球で健全でほのぼのしたつくりのせいか、男だらけでもすっきりさわやかな印象。現代っ子のテンションで、妙なリアリティ。それぞれまじめだけどちょっと抜けている、だめだめな魅力をうまいこと表現する。
役者さんはきちっと観客を油断させる演技をしていて、細かいネタ(本当に細かい)まで、あくまでもさりげなくツボを押さえているのはすごい。
賢い集団なんだろうなあ。間の取り方なんかが絶妙だったり。
誰でもどこかしらで、クスッとさせられる部分はありそう。
主人公は、時には仲間を巻き込みつつも時代を行きつ戻りつしながら、結局最後には元々いた時代には戻っていない。戦争の話はどこへやらで、その上心温まるエンディング風(映画、かもめ食堂を思い出した)な仕上がり。
あまりにも堂々としたエンディングなので、一瞬だまされてしまうんだけど、抜け落ちているものが多すぎて、最終的にポカーンとしてしまう。
笑ったなあ、で、なんだったっけ? っていうこの感じ。
ストーリーは正直追うだけむだなんじゃないかと思っちゃうくらいで、良くも悪くも、後に見事に何も残らない薄っぺらさというか、こっちが「終わり方おかしいだろ」ってツッコミたくなる斬新さ。
お芝居自体が壮大なボケっていうことかな。
最初から最後まで楽しく、今っぽいノリで、テレビのバラエティ番組の感覚で見れてしまった。
ライブで、これだけきちんと笑いを詰め込んでいて、観ている間は笑い以外の内容は特に何のつっかかりもなく感じるのは不思議。笑いの軽さで、重いものは全部飛んでいってしまうような。
それがとくお組の持ち味なのかもしれないし、もしかしたら欠点なのかもしれない。
今回観た限り、とりあえず確実に笑いをとれる人たちだなっていうことは十分に理解できた。なので、これだけはとくお組じゃなきゃ観れないというような、後一押しする何かが欲しいと思う。
地に足が着いた描き方はそれとして、何かすごく飛び抜けた感じがないのはもったいない気がする。敢えてのことなのかもしれないけれど。ブラックさをもっと表に出してもいいくらい。
とにかくさわやかで、空っぽで、のほほんとした笑いの世界でした。
個人的には、最近見かけないドムドムハンバーガーが、まだちゃんと存在しているってことに妙に感心してしまいました。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第14号、2006年11月01日発行。購読は登録ページから)
【筆者紹介】
鈴木麻那美(すずき・まなみ)
1982年生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒。だけど学生の時、映画もあまり観なくなり、演劇にハマる。wonderland 執筆メンバー(幽霊部員気味)。雑多サイトは現在進行形のようす。
(http://bringastring.blog59.fc2.com/)
・鈴木さん執筆のKATHY「KATHYのお片づけ」
【公演演記録】
とくお組「マンモス」
新宿 タイニイアリス(2006年10月4日-9日)
脚本・演出 徳尾浩司
出演 篠崎友 北川仁 堀田尋史 鈴木規史 徳尾浩司
スタッフ
【舞台美術】恩地文夫 金子隆一 許斐光太郎
【照明】中島誠
【音響】押田麗子
【衣裳】鈴木智子
【映像】岡野勇
【宣伝美術】飯塚美江 後藤隆宏 小西朝子 高良真秀
【制作】佐藤仁美 樫岡佐弥香 菊池廣平 中村良法 安藤幸子 小林絵理奈 宮田亜惟
【TP】平野ユウキ
【舞台監督補佐】久保大輔
【舞台監督】高山隼佑
【プロデュース】永塚俊太郎
【企画・製作】 とくお組