タッタタ探検組合「ハイパーおじいちゃん3 おじいちゃん月へ行く」

◎面白いことならなんでも演ろう 演劇の可能性を開く舞台
西村博子(アリスフェスティバル・プロデューサー)

「ハイパーおじいちゃん3」公演チラシ運がいいと年に数回、ええッ、こんな○○○芝居あり!?と驚くことがあるが、タッタタ探検組合の「ハイパーおじいちゃん3-おじいちゃん月へ行く」(牧島敦作/牧島・谷口有演出)はまさにその一つだった。○○○にはヘンなと入れてもいいし、楽しいとか素敵なでもいいし、要するに、私にとって新しい発見があり、演劇の可能性をまた一つ開いてくれた、という意味である。

何が私を驚かせたか。それはまず第一に、大活躍する主人公がおじいちゃんだったこと、だと思う。目のつけどころがいい。これまで、漫画でいうなら長谷川町子の「意地悪ばあさん」。演劇でいうなら秋元松代の「アディオス号の歌」、清水邦夫の「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」、岡部耕大の「精霊流し」か。おばあさんが主役だったり、あるいは、ひっそりといちばん奥にいながら、しかし歴史の底に頑として存在していたりといった、日本のおばあさんを描く作品は結構あったけれども、日本のおじいさんが、語り手や脇役としてならともかく、作の中心を担い、描く対象とされた作品は皆無だったから、である。山元清多の「オールドパンチ-男の挽歌」が初めてそのタブーを破りそうだったが、銀行強盗は設定だけで、描かれたのがおじいさんたちの過去、芸尽くしであったのは惜しかった。

高齢化社会だの団塊世代がいよいよ定年にさしかかるだのとマスコミが大騒ぎしている昨今でもある。これを皮切りにいよいよ、熟年あるいは老年の男性たちが演劇のターゲットになってくるかも? これはまだまったくの想像にすぎないが、そのうち日本の男たちを思いっ切り異化し大笑いする作品なども出てくるかも?と期待は膨らんだ。

ついで私を驚かせたのは、その、構成や映像の使い方も含めての演出であった。筋はといえば、半導体が額にくっついたビンボーおじいちゃん(谷口有)が、長男夫婦が月に住む孫夫婦に会いに行くと聞いて自分もぜひ行きたい。が、航空運賃払えない。で、長男の息子を連れて宇宙ロケットの貨物室に紛れ込み、タイトルどおり「おじいちゃん月へ行く」というもの。おじいちゃんはそこで、シリーズ「ハイパーおじいちゃん1」以来の仇敵(の孫?)の眠り姫(桑名しのぶ)と、彼女につくす料理人(栗原智幸)に出会い、三世代家族みんなの先頭に立って大乱闘、ついに姫たちをやっつけ、世界を救う-たわいもないといえばたわいない未来空想話である。が、これが、へとへとになって帰宅してきた、あるサラリーマンの見たDVDだ-という構造になっているのだ。

したがってこのハッチャカメッチャカ、冒頭の白布に映されたTV画面からそのあとの役者たちの演技まで、たとえば早回しや巻き戻し、一時停止で表現されたりする。たとえば、板を背負った、みんなのぐるぐる回りで宇宙を飛ぶロケット内部になったり(無重力もあったら面白かったかな?)、中村座の突撃板や野田MAPのローリングストーンそこのけの、おじいちゃんの、ロケットから左右の月や星への駆け上がりとなったり、面白いことならなんでも演ろうの舞台だった。もちろんDVDの画面だから、四角い後景がくるりと転換さえすれば一瞬でシーンは変わり、役者の出入りは間髪いれず。舞台は終始テンポあって心地よい。

私はこういう、アレヨアレヨと見ていて、あとからあれ、なんだったっけ?と思い出して考えなくちゃならないような芝居が大好きだ。しかしこの際、美しさと若さを保ちたい姫のために不老不死の薬を作ろうとするのがなんで悪?などと考えこむのは止めておこうと思った。作者も少々苦しそう?に、その薬には老人たちの脳のある成分が必要で、姫と料理人はあちこちから老人を拉致している(だからおじいさんは大勢の命を救ったことになる)と言わせてたみたいだし、たくさんの中学生が命を落とした、アメリカについで日本に備蓄が多いと聞くタミフルのように、薬というものにはそもそも何か資本のからくりが潜んでいるかも知れないから、である。けれども終幕、最後にサラリーマンが、このDVDを送ってきたのは未知の双子の弟(分身)だったと、ぽつりと洩らしたことはどうしても気になった。-そうか! DVDのなかのおじいちゃんは、日々、サービス残業と半導体に振り回されている現代の哀しいサラリーマンの、未来に夢見る彼自身だったのだ!

もう一度繰り返そう。芝居を見てる最中にそういうことに気がつくのでなく、終わって、何を見たのか考えてみて、やっと私なりの結論に達したというところに、この芝居の申し分なく○○○所以がある。これはシリーズ「ハイパーおじいちゃん」の3作目。チラシに「さよならおじいちゃん ファイナルカウントダウン」とあったが、これでお仕舞いはいかにも惜しい。マンガ本じゃないけれど、シリーズ1、2の再刊、4、5~とツヅク続刊をぜひぜひと鶴首している。(3/4 所見)
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第32号、2007年3月7日発行。購読は登録ページから)

【筆者紹介】
西村博子(にしむら・ひろこ)
NPO ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)理事長。小劇場タイニイアリス代表取締役兼アリスフェスティバル・プロデューサー。大阪南船場にアリス零番舘-ISTもオープン(2004.10)。日本近代演劇史研究会(日本演劇学会分科)代表。早稲田大学文学博士。著書は『実存への旅立ち-三好十郎のドラマトゥルギー』、『蚕娘の繊絲-日本近代劇のドラマトゥルギー』I, II など-とは、実は世を忍ぶ仮の姿。その実体は自称「美少年探検隊長」。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/na/nishimura-hiroko/

【上演記録】
タッタタ探検組合「ハイパーおじいちゃん3 さよならおじいちゃん ファイナルカウントダウン ~おじいちゃん月へ行く~
新宿・タイニイアリス(2007年3月1日-4日)

☆作 = 牧島敦
☆演出 = 牧島敦
☆出演 = 谷口有 あおきけいこ キクチマコト 栗原智幸 柴田O介 薬師寺淳一 桑名しのぶ 星野謙次郎 松嶋理史 牧島敦
インタビュー(谷口有、あおきけいこ)
☆料金 前売2500エン 当日2800円 ペアチケット4000円 高校生割引1500円(全て日時指定有り)


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