最後まで隙のない映画とエンゲキの演劇

◎KUDAN Project 「美藝公」  鈴木麻那美 脚本・演出:天野天街の二人芝居。 「くだんの件」「真夜中の弥次さん喜多さん」に続き、三作目にして最終章とのこと。 原作は筒井康隆。 舞台は映画産業中心の社会。スーパ … “最後まで隙のない映画とエンゲキの演劇” の続きを読む

◎KUDAN Project 「美藝公」
 鈴木麻那美

脚本・演出:天野天街の二人芝居。
「くだんの件」「真夜中の弥次さん喜多さん」に続き、三作目にして最終章とのこと。

原作は筒井康隆。
舞台は映画産業中心の社会。スーパースターの美藝公。
…という設定を原作から拝借した、あくまで天野ワールドな舞台。

「なあ、ヤジさん」「なんだい? キタさん」
開演前、諸注意のアナウンスに交ざって聞こえる声。すでに弥次喜多。

真っ暗闇。閉じ込められた炭坑の中。
なあんにも見えない、真っ暗闇。
そこにいるのは美藝公のキタさん(キタヤマ)と脚本家のヤジさん(ヤジマ)。
小さな明かりを灯してみると、炭坑らしいディテールはないね。ここはどこ。そこは何もない黒い舞台とお客さんのいる劇場だった。

美藝公の称号が与えられるのは地位ある映画のスターのみ。
美藝公が隠し持った空っぽの白いスクリーンに汽車の到着が映る、その瞬間ばっと降りて来た舞台を覆う白い幕に大写しにされる古い映画のシーンの数々。
文字通り、スクリーンの中に入る二人。

場面変わると部屋。
演劇の脚本を書くため机に向かう脚本家。
炭坑の事件をきっかけに映画の世界を追われた二人は、演劇の世界に身を置いたのだった。
ちっとも脚本が書けない脚本家。なぜなら何にも見えないから。思いつくのは雨風夜靄で真っ暗なシーン。何にも見えない、いいアイディアが浮かんでこないから。
美藝公曰く、「エンゲキっていうのはスイカの皮かぶってバナナ履いてモグラの天ぷらを…」おかしな夢でも見ているかのようなこんなセリフもデジャヴのように現実になる光景。

これは映画か現実か夢か演劇か…。

映画のように飛ぶシーン。繰り返すごとに飛ぶフィルム。
セリフをかんで、間違えてもエンゲキはやり直しがきかない。カチンコでてきてカット、テイク2。やっぱりこれは映画の話なんだ。何もなかったように間違えたところから繰り返される。
アングル変えて演出変えたり、入れ子構造な演劇とムービー。

かくれんぼ。ズルしてるところまで見てたキタさんいなくなっちゃって、白い粉だけ残ってた。

ラストは二人が持つ小さなスクリーンの中に映しだされる同じ二人の姿。スクリーンの二人はゆっくり去ってゆく。そして「THE END」の文字。それを見て、同じように二人はゆっくり去ってゆく。そこに「THE END」の文字は出ない。

このプロジェクトの演出と演技の壮絶さにはいつも驚かされる。最初から最後まで(本当に最後まで)隙のない映画とエンゲキの演劇。
今回はバイオリンとかタップとかの新しい試みもあったけど、個人的に三作目で出前がなかったのは少し淋しい。
演劇と映画(映像)の境の舞台だったけれど、どうも自分にとって目の前の舞台が「リアル」に映るから、映像ってば「ペラペラ」に見えてしまう。なあ、ヤジさん。

どうであっても、今回で最終章とはいえども終わる気がしない…。
最終章は本当に終わったのか、まだまだ続く最終章なのか、今後の展開をやはり期待します。
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第37号、2007年4月11日発行。購読は登録ページから)

【筆者紹介】
 鈴木麻那美(すずき・まなみ)
 1982年生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒。だけど学生の時、映画もあまり観なくなり、演劇にハマる。wonderland 執筆メンバー(幽霊部員気味)。雑多サイトは現在進行形のようす。(http://bringastring.blog59.fc2.com/)
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【上演記録】
■KUDAN Project『美藝公(びげいこう)』
◆原作:筒井康隆
◆脚本・演出:天野天街
◆出演:小熊ヒデジ&寺十 吾

≪名古屋公演≫
■会場:七ッ寺共同スタジオ
■日程:2007年3月8日-12日

≪東京公演≫
■会場:ザ・スズナリ
■日程:2007年3月16日-21日

≪料金≫名古屋・東京
前売・予約:3,400円
当日:3,800円
高校生以下:2,800円(KUDAN Projectでの前売り予約のみ)

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