仏団観音びらき「宗教演劇」

ご無沙汰しております。
かなり久しぶりの登場です。
公演から半年も経過していて恐縮ですが
ずっと心に残っていた仏団観音びらきの
第6回公演「宗教演劇」の劇評を執筆しました。

初めて仏団を観たときの
エピソードも含めて書き出してみました。
読んでいただけたら嬉しいです。


◎笑いの渦に潜む人間の脆さ

 私が仏団を知ったのは第3回公演「女囚さちこ~ブス701号怨み節~」である。お世辞にも美人とは言えない女性が、包丁を持って私を睨みつけているチラシを見て興味を引かれたのだ。世の中が不平等であることを認められない哀れなブスの物語。あらすじを読んで暗い印象を抱いていたのだけれど、観に行って驚いた。観客を巻き込む笑いのセンスとド派手で華麗なアクションの数々。そして随所に組み込まれている「笑っている場合ではないかもしれない」と思わされる毒のあるエピソード。すっかり仏団の自虐的エンターテイメントに魅了されてしまった私は、それ以来、東京公演にはたびたび足を運んでいる。

 第6回公演「宗教演劇」のチラシは、また相当にインパクトのあるものだった。チケットノルマを握り締める女性、異常にメイクの濃い金髪のお嬢様、後方で諸手を上げる黒髪の人物。キャッチコピーは「美内すずえ先生!今度こそ観に来てください!」その堂々とした「ガラスの仮面」パロディっぷりに感銘を受け、期待を膨らませながら、私は劇場タイニイアリスに赴いた。

 主人公は、客足の少ないラーメン屋で住み込みで働く32歳独身の魔夜峰子。ある日、来店した怪しい黒服の人物に演劇の道に進むことを促される。その人物の名は月影千草。彼女を信じ従来の生活を捨てて劇団月影に入団したマヤだったが、実はその劇団は宗教団体だった…!団員はチケット売り上げや団員勧誘の実績で昇進しなければ、出番の多い役がもらえないのだ。マヤはようやく掴んだチャンスを逃すまいと、紅天女を演じる夢を追い求めて奔走することになる。

 あらすじだけでも笑えるが、初めて会った客にも体当たりでチケットを売りつけようとするマヤの姿は爆笑ものだ。亜弓さんは劇団内エリートを鼻にかけ、桜小路は劇団費用支払いのために掛け持ちバイトをしている。月影先生は身体能力を見せつけるかのように飛び蹴りをかまし、網タイツを履いた男性が速水真澄の秘書である水城として登場する。原作の熱狂的ファンだったら、もしかして怒る人もいるかもしれない。けれど私のように漫画を知っているからこそ、爆笑ポイントが増えた観客は多かったのではないだろうか。

 しかし私は仏団の魅力は笑いだけではないと思っている。心がほぐれて油断しているときに「今だ!」とばかりに毒針を突き刺してくるような瞬間があるのだ。私が一番印象に残ったシーンは、ようやく念願叶い、紅天女の舞台に立とうとしているマヤと亜弓のところに桜小路が駆け込んでくるところである。実は紅天女はストリップショーだと告げる桜小路に対し、2人は「それでもいいの」と答える。結局、ショーの最中に2人とも上半身ほぼ裸になってしまい、紅天女を演じるにはマヤには若さが、亜弓には乳が足りないということが露呈される。ここは劇中最大とも言える笑いどころなのだけれど、私はたとえ騙されていると気づいても舞台に上がりたいという2人の姿に関心を抱いた。何故ならば、仏団の設立趣旨である「いるよね、こんなバカ」と嘲笑いながら、ふと「もしかして私のこと!?」と気づいて欲しいという主宰者の意図が、この瞬間に見えたからだ。

 当日パンフレットによると、作・演出の本木香吏氏は「営利目的の劇団に引っ掛かり、多額のレッスン料やチケットノルマを支払う演劇人の姿」をガラスの仮面を素材にして描き出したとのこと。だが私は、営利目的の劇団だけでなく、どの集団でも起こりうることを舞台にのせているのではないかと思った。人間は誰でも、自分が社会に生まれてきた存在意義を求めている。その意味を得るために、自分を必要としてくれた集団に執着したりする。たとえ理不尽な要求を突きつけられてもだ。事実を知ってもなお、紅天女を目指しストリップショーに出演すると決めたマヤと亜弓。私はその姿に自分も確かに持ち合わせている人間の脆さを垣間見たような気がした。仏団の公演を大笑いしながら観たあとの、じわじわとした痛みが広がる感覚が、私は好きだ。

 先日、購入した仏団過去公演のDVDを見返したのだけれど、本木香吏氏が扱う視点の幅が広がっているという印象を受けた。第3回公演「女囚さちこ」では主人公の内面、第5回公演「女殺駄目男地獄」では男女の関係性に焦点が当てられている。今回は3人以上の人間の集まり=集団の持つ陰湿さを取り上げたことで、観客の受け取り方も広がったのではないだろうか。それでいて仏団のパワフルさは健在なので、これからも、もっともっと社会の暗黒面を鋭く突いて欲しいと思う。話題性もあるようなので今後の可能性に期待大だ。

次回の東京公演も楽しみである。(2007.4.13)

【筆者紹介】
葛西李奈(かさい・りな)
1983年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース卒業。在学中より、演劇の持つ可能性を活かし『社会と演劇』の距離を近づけたいと考え、劇評とプレイバック・シアターというインプロの要素を含んだ心理劇の活動に携わる。現在はフリーライターとして活動中。wonderland 執筆メンバー。

【公演記録】
仏団観音びらき第6回公演「宗教演劇」
アリスフェスティバル2006
新宿・タイニイアリス(10月14日-15日)
<作・演出>本木香吏
<出演>
峰U子・水津安希央・本木香吏・ゆであずき
<ゲスト>
 萬知明(劇団ウエスト)
 藤原新太郎(TEAM-DARK-BLUE)
 東口善計
 酒井謙輔(グリッドロックペペロンチーノ)
 高橋麻衣・青木瑞敬(自分支部)
 ながたしゅん 濱崎右近
 宮奥雅子  立本恭子
<スタッフ>
舞台監督/酒井謙輔(グリッドロックペペロンチーノ)
音響/安藤通康
照明/松田早織(㈱アイ・エス・エス)
宣伝美術・写真/堀川高志(kutowans studio)
衣装/堀家和代
小道具/ゆであずき
プロデュース制作/福田祐子
協力/タイニイアリス 自分支部
    グリッドロックペペロンチーノ
    サラマンドラ・エンターテイメント
    Duck Soup

【関連情報】
・アリスインタビュー<本木香吏さん、峰U子さん> 仏団観音開き「宗教演劇」(10月14日-15日)「ガラスの仮面」が宗教とリンク 楽しめる東西のネタも満載


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください