ペンギンプルペイルパイルズ「ゆらめき」

◎妄想を増大させ狂気の階段を昇る
大和田龍夫(大学講師)

「ゆらめき」公演チラシマンションの一室で、まるで田舎の寄合所であるかのようなにぎやかな家庭で繰り広げられる「永年の友人」と「知り合ったばかりの友人」が夫婦に降り注ぐ些細な事件を大きな妄想により大事件に拡大させている、まさに、狂気の階段を昇っていく2時間の舞台であった。

倉持裕の1年2ヶ月ぶりの新作ということで、会場にもその期待で開演前から熱気であふれていた。私は「開放弦」「ワンマンショー」に続いての「倉持劇場」の鑑賞となったが、この3部作とでも位置づけたくなる相互の関係にも見終わったときに大きな満足感を持つこととなった。

高宮進(戸田昌宏)とわたる(坂井真紀)は結婚後それほど経っていない、そこそこ幸福な家庭であり、その家庭には進の友人・仙波(玉置孝匡)、わたるの友人塔子(ぼくもとさきこ)も訪ねてくる。
湘南新宿ライン1本で行ける鎌倉旅行が仕事の都合で行けなくなったことを知りすねるわたる。休業中の仕事を頼まれ出かけた先の年下のカメラマン江尻(近藤智行)に口説かれたことを4人の前で告白し、話は意外な方向へ。
江尻は非礼をわびに進の家まで来ることになり、それをそそのかしたのは、江尻の学生時代の伝説の先輩の朝比奈であった。後半ではこの4者に加えて、仙波の失踪中の妻も出てきて、登場人物全員の肥大化する妄想が劇場中に吹き出すこととなる。
(あらすじはhttp://www.penguinppp.com/next/12_yurameki/story.htmlを参照)

人と人の間にある誤解と妄想そして、その妄想の増大する様の面白さと怖さを描いた芝居である。冒頭にある「鎌倉の思いで」この思い出を思い出すために再び訪れたいという思いと、その鎌倉の思い出を共有すること、そして、鎌倉へ行くことを楽しみにしている妻と、その思い出に価値を見いだそうとしない夫の間の意識の差は、妄想によってどんどん拡大していく「嫉妬」以上に大きなものであるに違いない。
そして、人の行動の動機そのものには大きなエネルギーは不要であり、その嫉妬という栄養源によっていかようにも増幅し、思わぬ発作的行動に取り憑かれてしまうのであろう。本作品では「妄想」は幾重にも用意されていた。夫の進が妻わたるに抱く浮気への疑念とその疑念を増幅させる塔子のことば。そして進の抱く自分の過去の負い目。そして、仙波の妻、実須江への広がる妄想・・・。この妄想は、妻わたるが抱き始める妄想とも事実ともつかぬことと共に、最後に巨大な爆発をすることとなる。その爆発は「鎌倉」への価値観の相違が全てといっても過言ではなかろう。

「ゆらめき」公演1

「ゆらめき」公演2
【写真は「ゆらめき」公演から。撮影=引地信彦 提供=ペンギンプルペイルパイルズ 禁無断転載】

坂井真紀はその嫉妬というエネルギーの増幅作用を見事に演じ切り、ぼくもとさきこはその増幅させるための話題のフリと、やがて判明する意外な妄想と言い訳を的確なまでに演じていた。
小林高鹿の狂気的行動力は、ワンマンショーでも充分なまでに発揮されていたが、今回もその取り憑かれた迫力はどの者をも凌駕するものがあった。後半のキーパーソンとなってぐいぐいと狂気の世界に観客を追い込む力を持っていた。
玉置孝匡はそんな狂気にも圧倒されることなく、自らのスタンスを守りつつ、時に爆発する勢いを堅持し話の伏線を作り出し芝居のミステリーさを保っていた。色々な事実を胸の中にしまい込み狂気の世界いかぬ様踏みとどまる様が舞台からリアルに届いてくるのである。
高宮進(戸田昌宏)も、妄想が肥大していく神経質な夫役を見事に演じきり、倉持の意外さを要求する演技に充分なまでに応えていた。

倉持裕作の「開放弦」では、分かり合うことのない夫婦から、周りの友人が気づく夫婦の絆と分かち合うことを伝えたことから一転、夫婦の間に超えることのできない「価値観の相違」と「増幅する嫉妬と誤解」を伝えた作品といえよう。
開放弦とゆらめきの間に見たつながりとは、どちらも共に夫婦の関係を描いた。開放弦は「他人から夫婦になる様」を描いた。そしてその転換点をギターの開放弦が奏でる音色とともに気がつき、本人はまだその事実に気がついていない。という感動的な終わり方であった。一方、ゆらめきでは、結局夫婦には分かり合えない谷があり、その谷を埋めるものこそ、二人の共通の思い出であり、それ意外の個々の記憶は夫婦の嫉妬と妄想を増幅させる毒素(もしくは栄養源?)でしかない。開放弦の感動的静かなる終わり方に対してゆらめきの絶望的な豪快な終わり方。どちらもとても舞台を楽しくされてくれる演出だと感心したのである。
ゆらめきとワンマンショーの間には共に夫婦の妄想と狂気を描いた作品である。ワンマンショーはまさに1人の妄想が奏でる世界を描いたものに対して、ゆらめきは全ての人の妄想を描いた作品である。1人の作家の脚本を1年ほどで3本見るということはなかなかない機会であったが、このような見比べも面白いものであると感じた。

余談
私の鑑賞した10月19日(金)の回には開放弦・ワンマンショーに出演した水野美紀をゲストに迎えたアフタートークショーがあった。トークでは、女優陣から倉持裕の思わぬ癖としぐさが暴露され、今回の「子どものいない夫婦の作品を描きたかった」という作品への思いと、作品を書くまでの必然性が語られた。水野美紀の次回作への希望で「玉置孝匡とどろぼうの役をやりたい」ということに対して「役者がやりたい役をやると観客がひいてしまうからダメ」ということばに倉持裕の脚本と演技への真摯な姿勢を感じた。が、玉置孝匡のどろぼう役を見てみたいと思ったのは私だけではなかろう。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第67号、2007年11月7日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
大和田龍夫(おおわだ・たつお)
1964年5月東京生まれ。東京都立大学経済学部卒。現在は武蔵野美術大学・専修大学非常勤講師(メディア論)、金融業に従事。季刊InterCommunication元編集長。

【上演記録】
ペンギンプルペイルパイルズ#12「ゆらめき」
【作・演出】倉持裕

【出演】小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、内田慈、近藤智行、吉川純広
坂井真紀/戸田昌宏

【舞台監督】橋本加奈子
【舞台美術}中根聡子
【照明】清水利恭
【音響】高塩顕
【音楽】SAKEROCK
【衣装】今村あずさ
【制作】土井さや佳
【企画・制作】ペンギンプルペイルパイルズ

▽東京公演 吉祥寺シアター(2007年10月17日-10月28日)
アフタートーク
10/18男性編=ゲスト:岩松了さん+戸田昌宏、小林高鹿、玉置孝匡、倉持裕
10/19女性編=ゲスト:水野美紀さん+坂井真紀、ぼくもとさきこ、倉持裕
▽大阪公演 芸術創造館(2007年11月2日-4日)


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