仏団観音びらき「蓮池極楽ランド」

◎シリアスと愉快な笑いが快調に
西村博子(アリスフェスティバル・プロデューサー)

「蓮池極楽ランド」公演チラシ楽屋風景か、青年がひとり客入り前から黙々と化粧をし青い着ぐるみに着替え、被り物をし、どらえもんになっていった。と、チャーミングな赤鬼-女装なのだが、それがとってもよく似合う-が出てきて、あなたはどんな罪を犯してきた? どこから来たの? そう静岡、でも可哀想、あなたはもうこの地獄から帰れないわよと脅しをかけるなど、いかにも大阪らしい〝客いじり〟となり、そして見る間にキャラクターたちの総出演、極楽ランドのショー。客席から引きずり?出されたおじさんもいっしょになんまいだ、なんまいだのダンスとなり、蜘蛛の糸の這い上がり争いとなっていく……ラクに見た舞台は、シリアスと愉快な笑いが入り混じりながら快調に始まっていった。

そうここは、かつてディズニーランドのパレードの一員だったり、杉良太郎の斬られ役だったり、劇団四季の端役だったりした人々の寄り集まり。芝居はそういうショー出演者たちと、客薄で経営難の極楽ランドを、夫の浮気もなんのその、なんまいだ(「陀」は「堕」だったかな? 全体スゴイ当て字だった)の宗教にすがって無理やりショーを続けていこうとする旅館の女将、それに、その夫を奪い、事故で頓死した彼女に替わって二代目女将になる経理の事務員との、大きく言えば2本の糸の絡み合いから成っていた。

結局、蓮池極楽ランドは、旅館の温泉が温泉の素を入れた偽装だったこと、ショーのキャラクターたちがオリジナルの許可なしの著作権侵害だったこと、ニヤッとするような悪事?がばれて閉鎖となるのだが、芝居は最後、閉鎖になるわけと、そのため転職した出演者たちの冴えない後日とが、幕の両端からテンポよく代わる代わる出てきてトントントンと手短かに終わった。偽装のばれる前に彼らの踊った「中国残疾人芸術団」ふう千手観音も申し分なく面白かったし、ははあん、作・演(キティちゃんの妹ミミィとして出演も)の本木香吏が「今回は北京五輪が近いのでそんなネタもちょっと入れてみ」(アリスインタビュー)たと言っていたのはこれだな、と思った。時事への敏感が楽しい。再演、再演の今のでない、創り出す力のあったころの歌舞伎もこうなふうだったのでは?と想像された。

笑いながらただ楽しく見ていればいい、と言えばその通りの芝居。小難しい理屈を言う必要は全くないのだが、ただ本木のこれまでの作品には共通して、その笑いの底に自身の愚かさに気づかぬ同性(自分自身も)を鋭くつく苦さがあって、それが大きな魅力だったということから言うと、今度の「蓮池極楽ランド」、ちょっと物足りさが残ったと言わなければならない。

さっき2本の糸と言ったうちの1本、出演者たちが過去にすがり虚勢を張り合いながら結局落ちぶれていく姿は、他人事と言えなくて、いい。それが女性と限らず男女だったことも、社会的な幅という点でおそらくいい。しかしもう1本の、芝居全体を動かしていくいわばタテ糸。一代目の女将のほうである。なぜあれほどまでに彼女が続けようとした極楽ランドのショー、蜘蛛の糸がプッツン切れてしまったか。それは、糸の先端を大仏さまのもろい薬指から親指に結わえ直してくれという出演者の申し出を彼女が断ったからということになっていたのだが、なぜ彼女は断ったか?である。

彼女はそれを大仏の親指のところには燕が巣を作っているからと言っていた。-言葉としてはそれでいいだろう。が、この言葉だけでは彼女の単なる好き嫌いでしかない。なぜ断ったか。言外が伝わる伏線ははれなかったか? と思った。そう言わせたのは経営難だろうか事務員と夫との関係だろうか虚勢だろうか、それとも……? もし彼女の断りが出演者たちと通じる、あるいは見るものに通じるナニカであったらもっと爆笑だったのにと思った。彼女は落下してきた大仏の薬指に押しつぶされて死ぬ。自業自得の表わし方が抜群に面白かっただけに、余計残念だった。

「本木香吏氏が扱う視点の幅が広がって」きたとは、すでに指摘されているところである(葛西李奈 http://www.wonderlands.jp/archives/12242/)。今回も確かにその通り。渾身の大作であった。さて次回は?である。

ラクの座長挨拶に、仏団観音びらきのメンバーが二人もタイに、ひとりは行ってしまった、ひとりはこれから行く、とあった。ま、まさか休団では?と早くも危惧の噂がひそかに飛び交っている。が、毎回素敵な客員たちとともに、本木香吏はこの状況をいかにして逆転するか、きっと女将以上の四苦八苦、七転八倒をしてくれるにちがいない。私はそう確信している。(2008.01.14所見)
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第83号、2008年2月27日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
西村博子(にしむら・ひろこ)
NPO ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)理事長。小劇場タイニイアリス代表取締役兼アリスフェスティバル・プロデューサー。大阪南船場にアリス零番舘-ISTもオープン(2004.10)。日本近代演劇史研究会(日本演劇学会分科)代表。早稲田大学文学博士。著書は『実存への旅立ち-三好十郎のドラマトゥルギー』、『蚕娘の繊絲-日本近代劇のドラマトゥルギー』I, II など-とは、実は世を忍ぶ仮の姿。その実体は自称「美少年探検隊長」。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/na/nishimura-hiroko/

【上演記録】
仏団観音びらき第7回公演「蓮池極楽ランド」
東京公演 新宿・タイニイアリス(2008年1月12日-14日)

作・演出:本木香吏
<出演>
本木香吏 峰U子 萬知明(劇団ウエスト) 松岡里花 東口善計 桂都んぼ 広田あき 藤原新太郎(TEAM-DARKーBLUE)藤原求実子 小林徹 ベッカム木下(激富) 濱崎右近
金明玉(大阪・福岡公演) 豊田文緒(大阪・福岡公演) 池下理都子(東京公演) 宮奥雅子(東京公演)ほか

スタッフ
作・演出:本木香吏
舞台監督:杉岡hige亮介(BS-=)
舞台美術:宮田志保
衣装:飯田直子
音響:安藤通康
照明:松田早織
イラスト:本木香吏
着ぐるみ制作:中村かおり・家路快将
振付:日垣陽子・豊田文緒・萬知明
宣伝美術:堀川高志(kutowans studio)
映像:石田アキラ(A.I.Films)
制作補助:鈴木ホリケ
プロデュース制作:福田祐子

映像出演:吉田千佳子 川北富貴 澁谷かおる 徳永あや子(流しそうめん一座) 豊田祐満 古川祐 美和 陽太

「蓮池極楽ランドのテーマ」
作詞:本木香吏
作曲:村山裕希

<福岡公演>くうきプロジェクトワンコイン実験シアター
2008年2月26日(火)
<会場>福岡市立青年センター(地下鉄天神駅徒歩4分)
<料金>500円!(全席自由)

<大阪公演>
2007年10月12日(金)-14日(日)
<会場>中津ピエロハーバー(阪急中津駅より徒歩2分)
☆イケメン日替わりゲスト☆
12日PM7:30 水津安希央  八田浩司
13日PM2:00 クスミヒデオ  緒方晋(TheStoneAge)
PM7:00 八田浩司  森田展義(吉本新喜劇)
14日PM6:00 小沢直行(ボーナス・トラック) 土性正照(劇団赤鬼)

<料金> 前売2500円 当日2800円(全席自由)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください