タレイアスカンパニー「レッドくんのもくようび」

◎何もないところから生まれるカラフルな世界
野宮安寿(劇作家)

「レッドくんのもくようび」公演から。提供=横浜こどものひろばジャンルとしては子ども向け芝居なんだろう。子ども券があるし。 でも小さな頃から「ポンキッキをつくる人になりたい」と思い続け、しかし「テレビ局は体力勝負」という現実の声に負けてフジテレビを受けず、そのくせ30を過ぎた今も子ども本を読みまくり、最近は翻訳が待ちきれず洋児童書までがつがつ読んでいる私にとって子ども向けだろうが老人向けだろうが関係ない。カナメは面白いか、どうかなのだ。

直前まで自分の公演があったためへとへとのぼろぼろで開場時間ぎりぎりに辿りついたが、小さい人たちの隙間に入りしっかり真ん中に席をとった。

舞台の薄あかるい照明の中に2×1.5mくらいの透明なアクリル板が立っていて、足元にいろいろな色の溶いたポスターカラーが置いてある。水森亜土を思い出す。

わくわくするねぇと話しかけたいが、小さな人達はトイレとか靴脱ぐとか暗いとかつまらないとかママとかしか言わないので話にならない。その上ママが赤ん坊を見ているから私にトイレについてきてほしいと頼まれるなど、思いがけない展開になる。

あたふたする中、なし崩し的に主演のジョアシムと通訳の女性登場。ジョアシム、つっ立っているので場内整理の人か付き人さんかと思ったら主演だったという、微妙な押し出し加減が素敵だ。
二人が挨拶して、暗転。そして開演。

ラベル、ドビュッシー、ショスタコービッチの音楽に合わせて、透明キャンバスにレッドくんの旅がはじまる。アクリル板のあちこちに次々と絵の具が塗られ、これから1枚の絵が出来ていくのだ。セリフは無い。でも七章に分かれているので章ごとのタイトルが語られ、そこだけ通訳される。

レッドくんはただの絵の具の「丸」だ。そのくせおうちがほしくなったり、あそびたくなったり、旅に出たり、水泳を習ったりする。特徴的なのはレッドくんの旅の描かれ方がほとんど抽象絵画だということ。クレーっぽかったり、モンドリアン風だったりピカソやマチスを思い出したり、要するに具体的でない丸や四角、三角を多用していく。色彩は原色をそのままに混ぜないで使うのだが、配置が繊細なためか「赤」「緑」「青」「黄色」という個性のきつい色同志が、不思議に調和している。抽象なので家のつくりも旅の詳細もある意味全然分からず、自由気ままに想像できる。レッドくん、次は何と出会うのか…。

「レッドくんのもくようび」公演から。提供=横浜こどものひろば

「レッドくんのもくようび」公演から。提供=横浜こどものひろば
【写真は「レッドくんのもくようび」公演から。提供=NPO法人横浜こどものひろば 禁無断転載】

が、しかし私は突然内容とは関係なく、ジョアシムはもともと裏方志望だったらしいけどこんなことになってどう思っているのかが気になりはじめてしまった。彼は裏方っぽく大した抑揚をつけずにしゃべるのだが、通訳の女性は演技の心得があるとみえて非常に抑揚をつけて話される。これも計算のうちなんだろうか。演出のルタにも聞いてみたい。ルタが予算の都合で来日していなかったら、あとで揉めたりしないのか…。またジョアシムは絵の具で手が汚れると着ているトレーナーの胸のあたりで拭くのだけれど、それを見るたび小さい人は喜ぶけど、なんだか少し動作に遠慮がある。普段そういうことしないタイプで本当はイヤなのかも。ここもルタ的にはどうしたいのか…。

想像し出すと止まらないが、閑休。それにしても絵って完成品を見ているだけでも楽しいけれど、描く「過程」っていうのは魔術的だ。白い鳥を描いていたはずがふわふわの雲になり、草原だったものが家の壁になったり山になったり、気持ちのはずみを描いた意味の無いものが突然形をもって見えて来たり。筆が動くたびに描く人の心持ちや状態、ひいては深層心理というかその人の神さまが透けて見える。描く人が自由だと、見ている人も解放されるという魔法。この公演の場合、明らかにどういうタイミングで何を描くかという手順は決まっているが、でも試行錯誤していたときの興奮の余韻が確かに息づいている。

なーんにも無いところに形がどんどん描かれてく。音楽に合わせて黄色い四角、緑の四角、跳ねる光、ピンクの家、きのこみたいなもの、犬みたいなもの。関係ないものが繋がりはじめ、だけどいろいろ増えてくると少しつまらなくなって、でもそこに溶剤の雨がふりそそぎ、世界はたちまちカラフルな雨で浄化されて…そして…。

最後のにっこりした巨大レッドくんは、世界と溶け合っているみたい。ああ楽しかった、このまま死ねるし、場合によってはこのまま生まれても構いません、そんな声が聞こえてくる。絵が1枚出来ただけなんだけど、別に私が何かしたってわけじゃないのだが、全身で有酸素運動したみたいなすがすがしさに包まれる。

公称45分だけど実質30分から35分だった。短い。でもすごく長かったとも思う。むぎゅぎゅぎゅと、時間空間人生が凝縮されていたのだ。
となりで夢中だった人にも、ぐーぐー眠っていた人達にも、何かしみこんだ気がする。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第88号、2008年4月2日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
野宮安寿(のみや・あんじゅ)
劇作家、ライター。日本大学芸術学部文芸学科卒業。在学中から北区つかこうへい劇団戯曲コースに4年間在籍。97年「白桃布団」第41回岸田戯曲賞候補、99年「大熊猫中毒」第1回AAF戯曲賞。07年「暗闇荘内線7」演劇引力廣島創作劇プロット優秀賞。趣味は世界の伝統療法、薬草を試すこと。

【上演記録】
タレイアスカンパニー〈ドイツ〉「レッドくんのもくようび」-みなと横濱演劇祭2008
横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール(3月22日-23日)

出演=ジョアシム・トルバン
発案=ジョアシム・トルバン
演出=ルタ・プラタイス
提携 横濱世界演劇祭実行委員会
〈自由席〉親子券(大人1名+子ども1名)3000円 子ども券(2歳以上)1500円 大人券(大学生以上)2000円


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