青年団リンク青☆組「うちのだりあの咲いた日に」

◎揺るがないリアリティ ぎっしり詰まった伏線が見事
小畑明日香(慶大生)

「うちのだりあの咲いた日に」公演チラシ処女作の五年ぶりの再演、であり、執筆当時の自分の意向をも演出家の立場からよく汲み取っていたと思う。
脚本家コンクール入賞作家の、演出家としての力量も充分に感じさせてくれた。あ、若手演出家コンクールで賞とっている人でした。失礼しました。

柱時計と、二方向に縁側のある日本家屋の居間が舞台になる。
客席に面した二方向が縁側なので居間がなかば庭にせり出す造りになっていて、開演前には縁台に座布団が並べて干してある。
客入れの最中に役者の一人が、潮風にさらされたらしいその座布団を咳き込みながらはたいて取り込み、去っていく。ふと見ると客席の足元まで庭で、白い細かい砂が敷き詰められている。
これから取り込まれたその座布団に、出演者全員が座ることになる。

リアルに作りこんでいくと思えばそうでもなかった。庭の上手隅にある白い小さな砂山の周りには、何種類かの花が小さく咲いていることになっている。海の近くであるが波の音を絶えず流すわけでもない。
途中にお経をあげるシーンがあるが、これもなかなかぶっ飛んでいて意表を突かれた。上演中なので詳しいことは書かない。書かないけど、コメディが好きな人、特に映画の「お葬式」が好きな人はあのお経のシーンだけでも見に行こう。そして読経が聞こえてきたら腹筋に力を入れてください。私は途中で噴いた。

「うちのだりあの咲いた日に」公演

「うちのだりあの咲いた日に」公演
【写真は「うちのだりあの咲いた日に」公演から。撮影=大石広和 提供=青☆組 禁無断転載】

住職が来るあたりまでの展開は完全にシチュエーションコメディである。家を出た長女・次女と彼女達の関係者、それに隣家の夫婦が飛び入り参加して住職が来るまでの算段を整えようとするとき、いくつもの「びみょーな間」が起こる。びみょー、の原因は隣家の奥さんの手作りクッキーだったり「アンパンマン」でのジェネレーションギャップだったりする。

つつがなく場を収めようとしているときに、「なんでうなぎパイって夜のお菓子なの?」って発言が飛び出してしまったりする。さあお鮨でも食べよう!って段になって次女が自分の彼氏に絶望して泣き出してしまう一コマもあり、客席も静まり返ったこのシーンで私は一人にやにやしてしまった。ああ、いる、いる、こういう子。気持ちは分かるけど何も今泣くなよ、って子。

作品の話からはずれるけど、青年団役者の小林亮子さんが演じた次女・江美子は個人的に一番ツボにはまった。決定している次回公演が12月のようで待ち遠しい。
それと、同じく青年団役者で「ライフ・レント」「五月の桜」とコミカルなノリの役どころだった天明留理子さんは、チョコチップの代わりにコーヒー豆入れてクッキー作っちゃう役どころながら、雰囲気が全く変わっていて、ラストでは大人のしんみりした悲しさを見せてくれた。プロだ。

「うちのだりあの咲いた日に」公演

「うちのだりあの咲いた日に」公演
【写真は「うちのだりあの咲いた日に」公演から。撮影=大石広和 提供=青☆組 禁無断転載】

さて、「うちのだりあの咲いた日に」はコメディとしても心温まるドラマとしても終わらない。

居間での団欒の雰囲気をしばしばぶち壊す一人に、長女の、高校生になる娘である。制服の感じといい高校生っぽさが出ていて名キャスティングだったと思う。とても印象に残っています。
完全なコメディなら、この高校生は最後まで爆弾発言を繰り返すキャラクターだったかもしれないが、吉田小夏さんは彼女の内面をほうっておかない。住職が帰ってひと段落した後は、この娘を含めた長女の家族を中心に話が展開する。娘が気持ちをほどいたことで、長女と長女の夫もわだかまりを解く。
そしてヒューマンストーリーなら、それぞれにわだかまりに決着をつけた長女・次女・長男の三人が集うシーンで話は終わっていただろう。
しかし、一つの命を弔ったこの家は同時に、刻々と容態の変化する、寝たきりの祖母を抱えている。物語はその現実をラストにきてざっくりと見せて終わる。
「うちのだりあ」が咲いた日も時間は止まらない。ぎっしり詰まった伏線が見事に処理されている。

シアトルに20年ぶりに雪が降った5月、のある日の話である。
社会情勢に大変疎いので、誠に恥ずかしながら実際の出来事だったかどうかは自信が無い。が、遠く離れたシアトルの天気が舞台となる湘南の一家族の法事に微妙に影響し、状況を変えている。
物語のほとんどはシアトルなんか関係なく進むが、長女の家族が遊びに行く海は世界とつながっている。途中途中で大胆に遊びを入れたぐらいでは揺るがないリアリティがあった。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド 第89号、2008年4月9日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
小畑明日香(おばた・あすか)
慶應義塾大学文学部4年。中学時代からの脚本執筆や役者経験を経て現在に至る。「中学校創作脚本集2」(晩成書房)「中学校のクラス劇」(青雲書房)などに脚本収録。2007年10月Uフィールド+テアトルフォンテ『孤独な老婦人に気をつけて-砂漠・愛・国境-』(マテイ・ヴィスニユック作)などに出演も。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/takagi-noboru/

【上演記録】
青年団リンク青☆組「うちのだりあの咲いた日に
こまばアゴラ劇場(2008年4月5日-13日)
作・演出 吉田小夏

キャスト:
*足立誠 小笠原大 藤一平 陽茂弥(ねねむ) 藤原進一朗 *小林亮子 福寿奈央 *天明留理子 林竜三 *堀夏子 荒井志郎 岡﨑貴宏(アンティークス) 郡司直樹 長井明日美
*=青年団

スタッフ:
舞台監督 喜久田吉蔵
美術 濱崎賢二
照明 伊藤泰行
音響 泉田勇太
振り付け 本居蓮
宣伝美術 空
制作 宮永琢生+中嶋秀樹
総合プロデューサー 平田オリザ

予約 2800円 当日 3000円 ペアチケット 5000円

★アフタートーク=終演後、開催。ゲストは次の通り。
4/5… 永井愛(二兎社)
4/6… 岩井秀人(ハイバイ)
4/7… 飯島早苗(自転車キンクリーツカンパニー)

企画制作 青年団リンク 青☆組 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
協力 ZuQnZ/スターダス21/青年団/㈱融合事務所/(有)レトル(50音順)

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