ゴキブリコンビナート「いつかギトギトする日」

@新小岩劇場 作・演出 Dr.エクアドル 5月30日~6月2日 言わずと知れたキツイ・キタナイ・キケンの3Kミュージカル、だが意外にも舞台装置はなんか、ポップ。 会場に入ると数年前に一度見た「君のオリモノはレモンの匂い」 … “ゴキブリコンビナート「いつかギトギトする日」” の続きを読む

@新小岩劇場
作・演出 Dr.エクアドル
5月30日~6月2日

言わずと知れたキツイ・キタナイ・キケンの3Kミュージカル、だが意外にも舞台装置はなんか、ポップ。
会場に入ると数年前に一度見た「君のオリモノはレモンの匂い」を髣髴とさせる、天上にびっしり張られた丸太。上手側の入り口から舞台算法をぐるりと鉄骨の足場が囲み、中央はベニヤむきだしの「桟敷」。床は一面水。桟敷の正面に二段組で丸太の足場があり、奥の足場にも観客がじか座りできる。
なんかビッグサンダーマウンテンを思い出すんだよねー。場内整理もむずかしいので観客は劇場外に一旦並んでからぞろぞろ入るのだが、ディズニーランドのアトラクションにとてもよく似ている。一枚百円でレインコート販売してるところもねずみ王国の商魂。買わずに入ってみました。


「下流の皆さん。ゴキブリコンビナートは一貫して、食品にかかわる薬害について皆様に警告してまいりました。(中略)今年のテーマは、「なめこ」です。あのなめり感について、あのぬるぬるした感じについて。あんなものは無い!あれは化学薬品です!(後略)」

病気マンの演説から始まった前半は怒涛の展開。障害者の少年カツオを父と義兄が水に突き落とし、
「この排水はメチル水銀を多く含んでいる!」「認定が受けられればお前にも旨い物食わしてやっから。」「♪水俣病になれ~!」と水中に蹴倒す出だしは完全に放送禁止である。先月、水俣に取材した風琴工房の「hg」を見たところで、このシンクロに不謹慎にも爆笑。父と義兄はひきこもりだった息子を障害者に仕立て上げ、認定を受け慰謝料をもらおうとしている。半端に水俣病のことを調べてあるあたりが心憎い。

塩化ビニールでなめこのぬめりを作っていたというなめこ廃工場跡を舞台に、工場長や、青ジャージを着た謎の中国人が登場する。なぜかカツオを助けにきた中国人は、「俺が……あたしがわかる?」とカツオに話しかける。
カツオの記憶が戻るとともに新たな謎が明かされる。序盤で「お父さん独り占めはいけませんよ!」「なんだ婿養子のくせに!」と口論していた少年の義兄と父は、マスオと波平。ゴキブリコンビナート第23回公演は崩壊した「サザエさん」の物語だったんである。

「ここからの放送は、明日のための技術をつくる、東芝がお送りします!」

ワカメの台詞とともに全員がテーマソングを合唱しながら客席ごと舞台を移動させ、さらには桟敷席の真後ろの壁を倒してベニヤ床の舞台にしてしまう。桟敷は今やただの島、である。水に入れない分俳優よりあぶなっかしい。
ベニヤ舞台を見ようと懸命に前後を入れ替える観客を見下ろして笑いが止まらなかった。今回の出色のシーンはこの演出だったと思う。

淫乱でマスオと浮気していたフネ、フネの血を引き伊坂先生をレイプするサザエを目の当たりにしたトラウマからワカメは性同一性障害をわずらい、かつ錯乱した折にサザエとフネを殺している。その二人の歌声が、なめこ工場奥から聞こえるので行ってみると、サザエとフネは東芝の技術開発部だった波平の力で人造人間になり、上層部をたらしこんで東芝のドンになっていた。
ほんとに東芝をスポンサーに迎えてやってほしいぐらいのB級設定だが、ワカメが窮地に陥った時に、引きこもりの記憶が戻ってきたカツオが「こんな家庭ぶっ壊してやる!」とサザエ達につかみかかるなど、伏線ががっちり引かれている。歌の最中に何度もブレーカーが落ちているのだがそれすらおもしろく、スタッフの機転も見事で楽しめた。

物語の主役がワカメたちからマスオに移るところで雰囲気が変わる。
ラーメン屋をやっていたマスオの過去に波平と東芝の技術が絡んでおり、それを思い出したマスオが突如サザエとフネに復讐を始める。
が、ベニヤを下ろす回想シーンが再び挟まることもあってこの辺で疾走感ががくっと落ちる。

話が「なめこ」から「ラーメン」に移ってしまうところが一番残念だった。前半にラーメン、およびマスオの過去が一切出てこないので、とても唐突に思える。
マスオの回想、ということでマスオ役の役者が台詞によってたくさん状況説明をする羽目になり、それが舞台の勢いを殺ぐ結果になっているように見えた。

最後はマスオによってラーメン作りのアンドロイドにされてしまったワカメと、ラーメンのだしにされてカツオが煮られるところで話は終わった。
「♪この世では理不尽なことばかりが起こる」という最後の全員の大合唱でとどめのブレーカー落ち。
無音のうちにがさがさ去っていく役者たちを見送って「公演はこれにて終了となります」とスタッフの声がかかった。
たしかに理不尽だった。あのブレーカーが落ちる所まで演出なら間違いなく傑作である。しかしお話としては途中でぎとぎとラーメンに逃げてほしくなかった。なめこのぬるぬるをギトギトさせるところまで行ってほしいと思う。

<上演記録>
CAST
碓井清喜 オマンサタバサ 横畠愛希子 若人あきこ 宇田川真代 病気マン Dr.エクアドル 本間幸子 油絵博士 亀子のぶお 植松ベーコン
STAFF
作・演出・美術 Dr.エクアドル
作曲 Dr.エクアドル+病気マン
音響操作 千鳥格子
その他操作 お花さん
制作 バボ
当日スタッフ 安藤ヒヤシンス子 マコッチン Qぼっち まりっぺ みうちん ボボジョ貴族 ワッシャー木村 ももだんご 古澤裕介 グチコ もじゃ公 バボ
協力 スガ死顔 人間ナイアガラ!! 山田映像企画 新小岩劇場

「ゴキブリコンビナート「いつかギトギトする日」」への2件のフィードバック

  1. 最初に演説してたのは、病気マン氏じゃなくて、Drエクアドル氏だったような…って違っていたらすいません。

  2. >とく子さん
    御指摘ありがとうございます。
    劇団に問い合わせてみたところ、Drエクアドル氏でした。この場を借りて訂正、お詫び申し上げます。大変失礼いたしました。
    なお、劇団の方からレインコートの値段についても御指摘いただきました。以下に併せて訂正したく思います。

    病気マンの演説 →Dr.エクアドルの演説

    一枚百円でレインコート販売
    →一枚二百円でレインコート販売

    陳謝。

    小畑明日香

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