イキウメ「図書館的人生 vol.2」

◎手に負えない、もっと大きなものと格闘を
岡野宏文(ライター&エディター)

「図書館的人生 vol.2」公演チラシ超科学と呼ばれる一連のものごとが好きなんである。
心霊、オーパーツ、超能力、UFO、古代文明は宇宙人が作った説、火星の人面岩、スカイフィッシュ、ミステリーサークル、などなどしこたま。信じているのではない。信じているならむしろ、つぎはぎだらけであるにしろ科学の冷静さの方に軍配があがる。

では超科学なるものの面白さとは何か。なんらかの現象が確かに起きている、というところである。なのにその現象の源が分からない、どうにも割り切れない、つまりは「分からない」っつー居心地の悪さこそが魅力なんである、うん。歪んだ格好をした異物が食道のあたりにつっかえている、そんなあてどのない感触の楽しさなのだ。

もちろん、分かろうとするあまりひねり出されてくる、あまた「研究者」たちのアクロバチックな妄説も、いわゆる「トンデモ本」で一読三笑、怪しい気配の味わいときたら尽きるところはないし。そして彼らの「あがき」もまた、「分かりたい営み」の端緒以外のなにものでもないではないか。

だから私にとって、オカルト、SF、ミステリー、ホラーなどの彩色が頻繁になされるというイキウメの舞台は、最高に楽しい数時間となるのじゃないか、というより、私のためだけの芝居である可能性がかなり大きい、そう考えて三鷹まで出かけたのであった、横浜から、遠いのよ、観劇時間より電車に乗ってるあいだのが仰山なわけ。やってほしかったよ電車の中で芝居を、そうすれば二本観られる。ま、それはそれとして。

「図書館的人生 vol.2」は、図書館に沢山の本が並んでいるように、ステージに多くの人生が出現するという意味らしく、ごく短い作品を複数上演するオムニバス形式の公演であった。

第一話は「賽の河原で踊りまくる「亡霊」」。
時代の移り変わりによって、石でなく、箱の積み上げを亡者たちがおこなうシステムに変じた賽の河原。鬼と奪衣婆も、どこぞの工場長や事務員みたいな出で立ちだ。そこへ、いましも四人の死者が送り込まれてきた。彼らは段ボール箱の積み上げ作業を強制されるものの、やっと積み上がると鬼が崩しの繰り返し、この労働の意味が分からなくなってくる。ところが突然言い渡される一人の「上がり」。どんな法則でこの状況から上がって抜け出せるのかますます混乱する残りの三人。

とまあ、だいたいこういったようなお話。要は人生もともと無意味なのだからその無意味を飲み込んで初めて先がひらける、って感じの寓話なんだね。もひとつ、そうした生き方のコツは、誰からも教わらない、自分一人で見つけるしかない、ってメッセージも入ってる。

驚くのは、鬼の勤勉さと真摯ぶり。いや、なんか悪役なんだから、もっと酷薄でも、残虐でも、老獪でもいいはずが、拍手したいほど真面目なんだわ。そう思いながら観てると、ラストでその鬼の真面目さに文字どおりお客が拍手を送る体のオチが用意されていて、わたしゃとっくに心の中で拍手してるわいなと呟きながらも、それなりに納得はしたのだけれど。

二話目。「やさしい人の業火な「懐石」」は、暴漢に襲われた青年・丹野を自宅に招いた辻夫妻が、眩暈がするほどのやさしさを振りまくうち、その善意にもどかしさを募らせる丹野が、重罪の服役からつい先日出所したばかりの我が身を語り、やがて夫を縛りあげ包丁をかざし、緊迫感はいや増すってな流れ。
この話はたぶん思考実験の手法で書かれている。絶対の善と悪が衝突したらどっちが脆いかが命題だ。逆にいえば、なにを「勝ち」とするかが問われているわけ。理不尽な暴力と負傷に沈黙して耐えることを最大の抵抗だと決断するか、暴力に暴力を以て立ち向かうことか、あるいは叩かれた頬を今一度差し出すか。つまり全世界のいたるところで繰り返されている戦いの答えを探る試みであろう。私の観た感じだと、両者痛み分けが本作の結論だろうか。あるいは、この青年が次のエピソードにお遍路さんとなってつかの間登場するのをみると、辻夫婦の辛勝なのかもしれない。

ただ私は、この舞台に観たよりももっと大きな悪が知りたい、もっと底なしの善に触れたい、その戦うさまを目撃したい、観劇しながらそう切実に願った。きっと結論は出るまい。出ないまま、「分からない」の判子がドォーンと押された幕切れにあられもなく感動したいなどと思ってしまうのであった。

第三話「瞬きさせない宇宙の「幸福」」
目にすると意識が飛んでしまい、体も固まって見つめ続け、醒めたときに猛烈な幸福感に襲われる奇妙な隕石を拾った男たちの物語。高知県の小さな町。山の物置で、餓死している天文部の後輩が見つかった。変死の謎を追ううち、二階堂は隕石の奇妙な力に気づく。おりしも渋谷で大惨事の起きたニュースが飛び込んできて、衛星写真は惚けたように街角に佇む大群衆に突っ込んでいく車の姿をとらえていた。東京も隕石に祟られている!
ワンアイデアのコントで、隕石による災厄が世界同時多発テロなのか、黙示録によるカタストロフィなのか、はっきり示されずに終わっている。なぜならそんなことはどうだつていいからだ。この石が放つフェロモンに観客が取り憑かれるかどうかが作品のキモなんである。その意味ではキチンと成功していたエピソードだといえよう。だって一個欲しくなったもん。締め切りの日に編集者に見せる。NHKの集金人に見せる。夜中にJR降りてホームをいきなり走り出すやつに見せる。いろいろ便利な使い道があるじゃない。

加えてこのパートでは、回想シーンと現行のシーンをなめらかにつなぐ処理が、語りと照明の共同作業によって、巧みに施されていた。場所のみならず、時間も接着させていたのがたいへん心地よかった。

第四話 「東の海の笑わない「帝王」」。新婚のさくらは、夫の至があまりにも感情を外に表さないので、ストレスでいっぱいだ。そのくせカップを天井にぶつけカーペットに紅茶をまき散らすなど、奇妙な行動を見せる至。彼は彼で、そろそろ自分の抱えた重大な秘密を明かすころかと悩んでいる。至の奇怪な感情表現が笑いをさそう一編。
ただし、本作は私にはいただけなかった。企まれている笑いは、アチャラカコントで使われる定番みたいなシチュエーションで、エノケン、有島一郎、八波むとし、森川信など第一級のものをすでに私が観てきてしまったからかもしれない。こういうのは立ってるだけで体が可笑しい俳優でないと成立しがたいところのある気がする。逆にいえばこの手の本はそうしたフィギュアの俳優にあてて書く類なのではないか。
さて全体を通してみるとき、ありありと感じられるのは前川の劇作・演出における手際の良さである。人一倍器用なのが彼だ。ストーリーも場面転換も、俳優たちの演技も、もつれたり躓いたりせずにスルスルと見るものの喉元を下っていく。ここぞという場面でなにが客席に手渡されようとしているのか、それも丸ごと腹に落ちる。泣くべき客は泣くだろうし、笑うべきは笑うはずだ。

じゃあいいじゃないかといえばそのとおりなのである。そのとおりなのに、いささかひねくれた私の中の一部は、疑似科学はもっとあやしいとダダをこねるのだ。もっといかがわしいと拗ねるのである。実にインチキな顔をして世界のはじっこに掴まっている彼らの佇まいほど、仄暗い悦びをかき立てるものはないのだ。

ああ、だからきっとこうだ。私は、前川にはなにか今よりもっと手に負えない大きなものと格闘してほしいのだ。その戦いのプロセスを戯曲として書いてほしいのだ、もちろんエンタメで。ムチャクチャに勝手な要望でいわれたほうもたまらんだろうが、いってるほうだっていつ本人から血文字で書いた怒りのFAXが届くかとビクビクものなんだから許してほしい。ともあれ2時間10分がさほど長くないと感じた客席ではあった。
(初出:マガジン・ワンダーランド第118号、2008年11月26日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
岡野宏文(おかの・ひろふみ)
1955年、横浜市生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒。白水社の演劇雑誌「新劇」編集長を経てフリーのライター&エディター。「ダ・ヴィンチ」「せりふの時代」「サファリ」「e2スカパーガイド」などの雑誌に書評・劇評を連載中。主な著書に「百年の誤読」「百年の誤読 海外文学編 」(豊崎由美と共著)「ストレッチ・発声・劇評篇 (高校生のための実践演劇講座)」(扇田昭彦らと共著)「高校生のための上演作品ガイド」など。

【上演記録】
イキウメ「図書館的人生 vol.2 盾と矛 ~攻めるものと守るもの、武器についての短篇集~」
三鷹市芸術文化センター星のホール(2008年10月24日-11月3日)

作・演出 前川知大
出演
浜田信也/盛隆二/岩本幸子/森下創/緒方健児/伊勢佳世/古河耕史/板垣雄亮/窪田道聡
■賽の河原で踊りまくる「亡霊」
鬼 :板垣雄亮
亡者A:國重直也
亡者B:盛 隆二
亡者C:森下 創
亡者D:浜田信也
奪衣婆(だつえばあ):伊勢佳世

■やさしい人の業火な「懐石」
丹野不二夫:古河耕史
辻 正彦 :盛 隆二
辻 圭子 :岩本幸子
愚連隊/甲・乙・丙:浜田信也・國重直也・緒方健児

■東の海の笑わない「帝王」
馬頭 至 :浜田信也
馬頭さくら:伊勢佳世
寺泊 満 :國重直也
辻 圭子 :岩本幸子

■瞬きさせない宇宙の「幸福」
二階堂 望:窪田道聡
山田輝夫 :森下 創
藤枝次郎 :緒方健児
辻 圭子 :岩本幸子
ラッパ屋 :板垣雄亮
巡礼者(丹野):古河耕史

スタッフ
美術 土岐研一 /
照明 松本大介(enjin-light)/
音響 鏑木知宏 /
楽曲提供 安東克人(&cut)/
衣裳 今村あずさ(SING KEN KEN)/
ヘアメイク 前原大祐/
演出助手 矢本翼子/
舞台監督 谷澤拓巳
演出部 渡邉亜沙子 上嶋倫子/衣裳部 山本有子(ミシンロックス)
宣伝美術 末吉 亮(図工ファイブ)/
WEB制作 渡邊由布/宣伝写真 坂田智彦/
舞台写真 田中亜紀
後援 TOKYO FM /
制作協力 エッチビイ/
制作 中島隆裕 吉田直美
主催 イキウメ  (財)三鷹市芸術文化振興財団


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