演劇博覧会「カラフル3」観戦記(上)

◎「これからの演劇界」を考える機会に 全国から25カンパニーが結集  カトリヒデトシ  名古屋で開催された、国内最大規模の小劇場の博覧会に行ってきた。「演劇8耐」と銘打つだけに、1時間の舞台を1日で8ステージ見るという、 … “演劇博覧会「カラフル3」観戦記(上)” の続きを読む

◎「これからの演劇界」を考える機会に 全国から25カンパニーが結集
 カトリヒデトシ

 名古屋で開催された、国内最大規模の小劇場の博覧会に行ってきた。「演劇8耐」と銘打つだけに、1時間の舞台を1日で8ステージ見るという、修行のような企画である。
 またそれを全部見る酔狂を敢行。のべ4日間、30本を鑑賞した。なるべくいろんな劇団を見たいと思っている人間には格好のイベントであった。
 しかし、今回の名古屋行きは、「演劇のショーケースとはなにか」、「東京外、地域での演劇の活動」、「地域小劇場の今後」など、きわめて「これからの演劇界」での課題を実感させ、考えさせてくれる機会となった。

▽「カラフル」とは何か

 「カラフル」とは、名古屋若手演劇人有志とその支援者によって2003年に立ち上げられた演劇フェスティバルである。「超光速トイソルジャー」,「FIRE☆WORKS」という2劇団が中心となり、実行委員会が結成され、初代のプロデューサーは聖澤毅だった。残念ながら、現在までに前者は解散、後者は活動休止、聖澤さんも東京の制作会社で活動と、初回の実行委員会を知る人は残っていないようである。

 その年の9月に第1回大会が名古屋市中区栄の名古屋市青少年文化センター「アートピアホール」にて開催された。若手エンターテイメント系9カンパニーが参加した。1時間の短編演劇を連続上演するというスタイルで、1日に多くのカンパニーの作品を見ることができるようにするというのが「カラフル」の方式である。

 あらかじめ、1時間の作品をつくる「枷」がはめられているところに、高校演劇のようだと感じたり、作品づくりに初めから「縛り」があるのか、と疑問や抵抗を感じられるかもしれない。しかし、そのルールを徹底することにより、現在のような運営形態が可能になった。そのメリットを考えると、一概に批判することはできない。この点については、後段で考察する。

 03年当時の名古屋はエンターテイメント演劇の隆盛期で、その頂上イベントとしての色彩が濃厚だったらしい。しかし、「カラフルじゃなくて、みんな似通ってるじゃねぇか」とからかわれたとも聞く。

 07年の5月、2年前の愛・地球博のメイン会場があった、名古屋市に隣接する長久手町で「カラフル2」が開催された。
 この大会は若手カンパニーに限らず、作風や地域も越えて、16劇団が参加する大会となる。北村想率いる「avecビーズ」やベテラン「てんぷくプロ」が参加したが、今大会には継続参加してもらえてない。名古屋には「少年王者館」や「B級遊撃隊」というベテラン、大物劇団があるわけで、そういう団体が登場する博覧会はぜひ実現してもらいたい。
 「長久手町文化の家」という町の文化会館の二つのホールで別演目が同時上演されるというスタイルがここで採用される。2ホールが同じタイム・スケジュールで進行していくため、1時間ごとに両ホールを観客が行き来することとなった。この時から、東海シアタープロジェクト、長久手町、東海テレビ放送が主催に参加する。
 そして09年全国1都1道2府5県から、25カンパニーが結集し「カラフル3」が開催となる。武豊町教育委員会とアートNPOの“NPOたけとよ”も主催に加わった。

▽「カラフル3 1stステージ」のようす

 まず3月14日(土)、15日(日)、知多郡武豊町「ゆめたろうプラザ「輝きホール」」(最大席数678席)でファーストステージが行われた。全国から公募により14団体が公演した。朝11:00から(15日は10:30から)各日7団体が1時間の持ち時間で作品を発表。
 内訳は東京3、横浜1、静岡1、大阪2、名古屋6という団体数。
 公演順に紹介する。

・旧劇団スカイフィッシュ「適切な距離」
 「小説の演劇化」という、類例のない形式の芝居。といってアングラ風でも実験作風でもない、ややSF風味だがまっとうな物語。わかり得ない家族の物語を主人公の日記を座付きの小説家(!)がテキストにしている。「傷つきやすさをめぐる奇妙な味」を立ったまま行う、リーディング形式で構成する。もっと見ていきたい団体である。

・演劇組織KIMYO「カスタネット ホーム」
 電車中の迷惑な乗客の小ストーリーをグランドホテル形式で。市民生活の点描でありながら、ひとりひとりは決して「ありふれた一人」ではないいうことを表現。プラレールを使い、レール音を題名どおりカスタネットで創り出すのがナイス。

・BQMAP「バースデイ」
 日常生活がいつかしらSFへと滑り落ちていく初期の小松左京の風情。時空を越えて人をつなぐ壷が大阪冬の陣の真田十勇士と現代の若い女性との心を結びつける。恋愛をモチーフに時代の違いやそこで生きる人間の相克をキレイに落とし込んでくるかなりな手腕。

・Marmoset「ヌーディスト」
 現代的人間のゆがみを「摂食障害」「逆玉の輿」「買売春」「ゲイピープル」など、風俗的なキャッチーなモチーフで構成。「映画のような、映像的舞台」を目指すと標榜するだけに、モデルなどが所属し、音楽とのコラボなどメディアを越えた活動をするカンパニーらしい。

・劇団渡辺「授業-喜劇的ドラマ- 」
 人形振りでイヨネスコ「授業」を1分たらずのダイジェストで行い、それをからくり時計のように4度5度と繰り返すという秀逸な前説、後説がみものだった。確かにそれならば確かに女中のいう「今日、40人目」というせりふが現実味を帯びる。不条理がコントであることを喝破する演出。見事だった。

・劇団C-Factory「シャインズマン」
 会社の総務部という地味な部署の社員たちが戦隊モノを演じて広報活動をする。そこに恋愛模様や「仕事」での自己実現といった話題をヒューマンに織り込む。シャインピンクが最高。名古屋には名古屋独自の「人情もの」があることを実感させる。

・柿喰う客「恋人としては無理」
 イエスと12弟子がエルサレムに入城し、イエスが磔刑になり、原始キリスト教団が生まれるまでの概略を、「弟子たちはイエスを神と信じたのではなく、そばでことばを聞きたいがために、ついて行っただけだ」という解釈で舞台化。5人で12弟子を演ずるために、ユダはヘッドホン、ヨハネはカーディガンと受け渡されるアイテムが人格である。それがいつものスピードで受け渡され人格が入れ替わるという秀逸なアイディアと演出で勝負する。見事。

・劇団820製作所(はにわせいさくじょ)「izumi(あるいは思いだせない夢のはなし) 」
 森の迷宮で始まるのでファンタジーかと思いきや、幼年時代の記憶と、変貌していく故郷を重ねるノスタルジックな物語。ややテキストが長くキャラ立ちに弱さがあるが、リリカルな仕上げがあきさせなかった。

・劇団コーヒー牛乳「男の60分~名古屋場所~」
段ボールだけのセット、男7人だけの役者。時折7人のダンスシーンを交え、テンポよく少年時代の物語をノスタルジックに語る。しかし、「在日」や「貧困」などを折り込み、最後に母親への感謝でしめるという、見事な作劇。ご当地名古屋向けにアレンジする手腕も尊敬。

・劇団蒼月「カケル」
 InnocentSphereを連想させる時代劇。メインキャストが女6人で、ハードな殺陣あり時代劇をやりきるガッツは賞賛する。物語の力とことばの力をまっすぐに信じきる強い思いがが印象的だった。

・特攻舞台Baku-団「ピッツァ・ヒーロー・ミックス・Lサイズ」
 戦隊ヒーローたちの再生と融和の物語。浪速風人情ドラマテイストだが、正しい「アチャラカ」を追求しようという熱い心意気がすばらしい。最後まで照れず、ごまかさず「アホ」をやりきる強い意志。おもしろくなる可能性、成長性は大。期待できる。

・fuzzy M.arts 「A day in the life」
 少女の意識が触れた人に受け渡されていき、その人々を順々にいやしていくというファンタジー。キレイなおとぎ話をきっちりと構成していける力量はまだまだ可能性を秘めている。

・スマイルバケーション「さすらいダンボール」
 ここも将来性に期待大。うまいわけではない。しかも若手だったらあまり食いつかないような「ベタな人情モノ」を厚顔に演じきる。しかし観客がばかばかしくならないのは、正副代表がヤンキーでありながら(笑)、ギャグに乱闘に、体を張りまくり観客を有無をいわさずもってくところにある。凄絶なコケには感動すら覚えた。

・西田シャトナー演劇研究所「例えばなし砦」
 一世を風靡した「惑星ピスタチオ」の西田シャトナーが今、名古屋にいるとは知らなかった。ゆるやかで暖かいコメディを演じつつ、音楽でしめるというムダな抵抗を試みないハートウォーミングな構成。こういうのもありかなと優しい気持ちになるが、上演順に恵まれなかった。

 観客動員は主催者集計で、750名(のべ観客3000名)。名古屋中心部から名鉄で1時間弱かかる知多半島の町が会場である。健闘していると思う。

 審査委員推薦1団体、当日観客のアンケート投票上位3団体、また書き込みサイト「演劇ライフ」の特設ページへの書き込み投票によるインターネット推薦1団体、計5団体がセカンドステージへの参加団体が選出された。

 審査員(王子小劇場玉山悟氏)枠は「劇団コーヒー牛乳」が、観客選抜が14日1位「劇団コーヒー牛乳」、15日1位「劇団C-Factory」、3位「劇団スマイルバケーション」、4位「柿喰う客」、インターネット審査1位「特攻舞台Baku-団」が選出された。

 当然のごとく、観客投票の形式では、客観的な投票にはなりえない。全作品見ての投票ではないし、さらにはアンケートを提出した観客のみの集計である(ごく普通のアンケート用紙が、チラシ束に添付され、それに投票欄がついている)。

 そもそも地元の団体には観客が多いわけである。筆者が実力を感じた、静岡の「劇団渡辺」はセカンドに進むことができなかった。
 しかし、14日観客の投票1位と、二日間見た上で審査員が推薦した作品とが一致しているわけで、またネット投票は大阪の劇団であることを考えると、「身贔屓」、「お手盛り」といった結果にはなっていないところがたのもしいと感じる。(続)
(初出:マガジン・ワンダーランド第142号、2009年6月3日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
 香取英敏(かとり・ひでとし)
 1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校勤務の後、家業を継ぐため独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。ウェブログ「地下鉄道に乗って-エムマッティーナ雑録」を主宰。「カトリ式小劇場の歩き方」をワンダーランドに連載中。

【上演記録】
演劇博覧会「カラフル3」
http://colorful3.jp/index.php

▽1st 武豊
3月14日(土)
11:00 旧劇団スカイフィッシュ
12:15 演劇組織KIMYO
13:45 BQMAP
15:00 Marmoset
16:15 劇団渡辺
17:45 劇団C-Factory
19:00 柿喰う客
3月15日(日)
10:30 劇団820製作所
11:45 劇団コーヒー牛乳
13:15 劇団蒼月
14:30 特攻舞台Baku-団
15:45 fuzzy m. Arts
17:00 劇団スマイルバケーション
18:15 西田シャトナー演劇研究所

▽2nd 長久手
2nd.stageタイムテーブル
5月2日(土)       【森のホール】———–【風のホール】
Aブロック    11:00  劇団スマイルバケーション—オイスターズ
Aブロック    12:15  帰ってきたゑびす———–ユニット美人
Aブロック    13:30  劇団C-Factory ————-Theatre劇団子
Aブロック    14:45  座”K2T3 ——————-弦巻楽団
=客席入れ替え
Bブロック    16:15  劇団コーヒー牛乳————負味
Bブロック    17:30  試験管ベビー—————-坂口修一
Bブロック    18:45  TAKE IT EASY! ————特攻舞台Baku-団
Bブロック    20:00  柿喰う客———————ニットキャップシアター

5月3日(日)       【森のホール】———–【風のホール】
Cブロック    11:00  劇団コーヒー牛乳————特攻舞台Baku-団
Cブロック    12:15  柿喰う客——————–坂口修一
Cブロック    13:30  試験管ベビー—————-ニットキャップシアター
Cブロック    14:45  TAKE IT EASY! ————負味
=客席入れ替え
Dブロック    16:15  劇団C-Factory ————-弦巻楽団
Dブロック    17:30  劇団スマイルバケーション—Theatre劇団子
Dブロック    18:45  帰ってきたゑびす———–オイスターズ
Dブロック    20:00  座”K2T3——————-ユニット美人

5月4日(月)      【森のホール】————-【風のホール】
Eブロック    10:00  帰ってきたゑびす————弦巻楽団
Eブロック    11:15  座”K2T3 ——————–Theatre劇団子
Eブロック    12:30  劇団スマイルバケーション—-ユニット美人
Eブロック    13:45  劇団C-Factory ————オイスターズ
=客席入れ替え
Fブロック    15:15  TAKE IT EASY!————-ニットキャップシアター
Fブロック    16:30  試験管ベビー—————-特攻舞台Baku-団
Fブロック    17:45  柿喰う客———————-負味
Fブロック    19:00  劇団コーヒー牛乳————坂口修一

主催:風林火山実行委員会、NPOたけとよ、武豊町教育委員会、長久手町教育委員会、東海テレビ放送、東海シアタープロジェクト
助成:(財)セゾン文化財団
舞台運営・統括:(株)若尾綜合舞台
映像:(株)Asect
劇団選出協力:FPAP、in→dependent theatre、神戸アートビレッジセンター、王子小劇場、フリンジシアタープロジェクト、NPO法人コンカリーニョ
特別協力:演劇ライフ、(財)三重県文化振興事業団、シバイエンジン、(株)Asect ほか
協力:名古屋演劇鑑賞会
企画・製作:カラフル3製作委員会

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