水牛健太郎(ワンダーランド)
★★★★
まんまと自分の「14歳」を思い出させられてしまった。それは6、7人の仲間と生徒会室で過ごし、その中の一人、思いを寄せていた女の子の転校で終わりを告げたわずか数カ月の日々だった。
そんな柄にもない回想を誘う力がこの芝居にはある。思春期に生まれたばかりの柔らかい自我が、仲間とのつながりを通して世界との合一を成し遂げる。そのきずなは必ず失われる運命にあるのだが、喪失を通じて純化され、普遍へと昇華して心のどこかにとどまり続ける。
作・演出の藤田貴大は、そんな普遍へと至る回路を手にしている。それを表現するだけの粘り強さと技術も持っている。それを才能と人は言う。でもだからこそ、切れる刀を振り回さないようにした方がいい。例えば、いかにものBGMで客を泣かせようとしている。それは誤解かもしれないが、そうした誤解そのものが、観客の作り手への信頼を損なう。
一層の開花を願って、今回は★四つにとどめる。
麓 香緒里(都立高校2年)
★★★★☆(4.5)
私は今、17歳。この世界の人より年上。でも、演じている人よりは年下。でも、違和感はなかった。迷う事なく、この世界に入って行けた。
いきなり始まるバレーの試合。そこから時間は巻き戻されては再生される。同じセリフ、同じ動き。それを違う角度から見て行くと、どんどん違う物に見えていく。角度が変わるたびに、違う人の過去が見えてくる。そして、謎が解けていく。頭を働かせながら見る舞台は楽しい。
そしてそれ以上に私が引きつけられたのは、明かされて行く過去だった。その過去がとってもリアル。私が今まで出会ってきた人と何かしら似ている所があって、時には小学校の友達、中学校の部活仲間、高校で今同じクラスにいる人と重なって見える。そして、その中にもちろん自分も見えていた。舞台に見入っていると、今までの楽しかった事も、辛かった事も色々思い出しちゃって、なんだか泣きそうになった。
松岡智子(劇場勤務)
★★★★☆(4.5)
前評判がとても良いものだから、悪いところを探してやろう、というような半ば意地悪な気持ちで観た。にもかかわらず、いつの間にかしてやられた。個々のシーンがしつこいほど多様な角度から語られ、注意深く観ていたつもりだったのに、途中誰がどの登場人物を演じているのか混乱し、それでもその混乱が交差し重なり合った一瞬、まるで故意に遠近法を狂わせて事物を配置した後期印象派の静物画のような美しさを感じた。そうなったら、もはやストーリーや演技力なんてどうでもよくなり、過ぎ去った記憶、という動画としての舞台が目に焼きつく。中盤、感情がヒートアップするバレーボールの試合では、舞い上がるホコリでさえ、金色の紙吹雪に見えた。子供時代がまだ手をのばせば届くところにある、今の彼らだからこその、今観るべき、旬の作品。でも、あまりにも人の気持ちのセンチメンタルな部分に向かい直接的なのが気になったのでマイナス0.5点。
日夏ユタカ(ライター)
★★★★★
開場後、舞台上にはバレーボールのユニフォームを着た女の子たちが準備運動をしていた。試合間近と開演直前という時間が重なり、客席にもその緊張感がゆるやかに伝染していく。そして試合開始。エア・バレーボールをはじめた彼女たちは、必死に見えないボールを追い、懸命に叫んでいるが、それはどこか異世界の光景だ。けれど物語が進み、次第に彼女たちひとりひとりの個性や思いを知ると、その後ふたたび繰り広げられる試合のシーンでは、全員を強く応援することになる…。
とはいえ、ほんとうに語るべきは、そんな巧みな物語の構造ではなく、劇中で描かれている出来事を、いつしか自分が過去に体験したかのように錯覚してしまったことだろう。まるで、記憶が捏造されるかのように。けっしてこんな中学校生活をおくったわけでも、ましてや少女だったことなどないというのに。さらには14歳の不安や戸惑いまでもを共有し体感できてしまう、恐るべき舞台だった。
【写真は「ハロースクール、バイバイ」公演から 撮影=飯田浩一 提供=マームとジプシー 禁無断転載】
都留由子(ワンダーランド)
★★★
中学の女子バレーボール部が舞台。人が集まり、人間関係を作る。いろいろなことが起きるに違いない、思春期の女子中学生なのだから。ひとつのエピソードが角度を変えて何度も何度もくり返され、最初は不明だったその出来事の意味がだんだん見えてくる。あることがどういう意味を持つかは人によって違うという当然のことが、その意味をお互いに知ることはないという、もうひとつ当然のこととともに、さらに、その関係にもいつかは「バイバイ」しなくてはならないということとともに、切なく迫る。とてもとても美しかったその「バイバイ」の場面に、久しく会わない友人たちの顔が浮かんだ。ただ、すでに14歳の日々を遠く離れてしまった筆者には、途中から、くり返される同じ場面が少々煩くなり、また、少女たちの甲高い大声にもちょっと辟易してしまって、その切なさは続かず、心をぐいと揺すぶられるところまでは行かなかったのが、悔しくも残念だった。
大泉尚子(ワンダーランド)
★★★★
あのチームはどうにもブロックが弱い。ボールのほとんどを後ろに逃して、改めて1、2、3で返してる。レシーブもやっとやっとで、結局山なりのボールを戻しちゃったり。かろうじてアタックしても、スナップが効いてないから、ラインオーバーしがちだし。っていうか、部員はマネージャー以外きっちり6人しかいない? そんな中学の弱小女子バレー部のお話。
同じエピソードが何度もリフレインされるが、少しずつ変わるアングルのせいか、フッと俯瞰感覚に襲われる。時に通俗に流れかけて、すんでのところで演劇のオンラインに留まるそのギリギリ感が、14歳前後という世代によく似合う(劇中歌われるノリのいい校歌は、岡崎藝術座に出演中の召田実子作詞作曲とのこと、その多才ぶりには驚く!)これは、ぽっかり浮かんだ浮島のような時間の物語。終盤、バレーコートの向きは次々と変わり、センターラインが、上手側、舞台奥、舞台前と移動する。それは、年表のように左から右へ流れる相対的な時間と、過去へ、未来へと向かう絶対的な時間のイメージとも読め、彼女たちの姿の見えない対戦相手は、そんな時間なのかもしれない。微細なものへの眼差しと直截な躍動感のブレンド具合が巧み。身の内に、弾み出して抑えきれないものを感じたのは、筆者が40数年前、9人制時代のバレー部員だったせいばかりではない。
高木登(脚本家・演劇ユニット鵺的主宰)
★★★★
アニメーションの仕事をし、同時に演劇をおこなっていて気づかされるのは、人間の身体から発せられる情報量の多さである。ちょっとした間、ちょっとした表情の変化さえあれば成立する場面も動画ではまま叶わない場合があるが、身体は些細な変化が一千語を費やすよりも雄弁であるときがある。本作を見ながら考えていたのはそんなことだ。
本作の作者は言葉と身体表現をほとんど等価と考えており、したがって戯曲と演出の関係も傍から見るかぎり渾然一体としていて、これほど稽古場をのぞいて見たくなるカンパニーもない。とにかく「なに言ってるのかよくわからないのに、なにやってるのかはよくわかる」のは単純に凄く、屹立した演出がいたってシンプルな青春物語を阻害することなく盛り上げている。このスタイルで観客を泣かせるとはおそれいった。必見の舞台である。
【写真は「ハロースクール、バイバイ」公演から 撮影=飯田浩一 提供=マームとジプシー 禁無断転載】
プルサーマル・フジコ(「エクス・ポ」編集者、雑文家)
★ナシ
超満員で異様なムードに包まれた東京版初日。ピンクに塗られたアトリエ劇研の壁の中で生まれた京都バージョンから再編集され、全く異なる印象に変化した。より細部へとオブセッシヴ(ほとんど変態的)にリフレインが繰り返され、皮膚を爪でひっかくようにして生まれる感情のさざ波は、中心人物を入れ替えながらも繊細に受け渡されていく。藤田貴大の演劇的たくらみは、飛びそうで飛べないこの極小の規模=時間=会話=言葉=グルーヴの中で「無駄」に消尽されていく「声」に照準を定めつつある気がするが、一夜明けた今はもう少しじっくりと噛みしめて考えてみたい(★はナシで)。それと、〈湿地帯〉〈トイレ〉〈砂嵐マクドナルド〉〈かもめ〉〈フィルム〉といったシンボリックに浮き上がる装置はとても挑発的で面白いので、これらのシーンで役者たちはそのプレイをぜひもっと大胆に(楽しんで)かまして(遊んで)ほしいなーとわたしは思います。そう、全てはプレイ、のために。忘れがたい作品になってしまった。
北嶋孝(ワンダーランド)
★★★
劇団のwebサイトによると、今回の公演は中学女子バレーボール部員らの「体温と、風景を、立体的に映した青春群像劇」という。練習、合宿、試合。転校生、下級生、キャプテン、ときに男の子。友情と仄かな恋心と、でも試合にかける部員の思い。揺れ動く14歳を、時間軸をシャッフルし、コアのシーンを身体表現に託して多彩な角度から変奏する手法で描く。舞台世界を中学時代に絞って、かつ凝った手法で作り上げる公演は4回目。素材も手法も十分手の内にあるだろう。学校を水槽とメダカに例えるシーンも用意して、外部から舞台世界を俯瞰する視点にも目配りする。ちょい苦い、でも思い出すたびに切なくなるセピア色の時間を実に巧みに舞台に実現してみせる。完成度が高いことは疑いない。
ただ彼女らの振る舞いは、その振幅と音量がどこかで適度にコントロールされていないか。メーターの針が振り切れるような時間がそっと回避され、隠されているように感じてならない。だから切なく、精緻に思い出せるのではないか。
あるテレビ番組でタレントのタモリが青春時代を問われて、とっさに「思い出したくもない!」と吐き捨てるように声を荒らげたことを記憶している。この「思い出したくもない」とは、針が振り切れた時間と風景なのだろう。その隠れた部分がせり上がるようになったら、この劇団の舞台はもっと静謐に、深く胸に届くのではないだろうか。
【上演記録】
マームとジプシー11月公演「ハロースクール、バイバイ」
作・演出 藤田貴大
<出演>
伊野香織 荻原綾 河野愛 木下有佳理 斎藤章子 成田亜佑美 緑川史絵 尾野島慎太朗 波佐谷聡
<スタッフ>
舞台監督:森山香緒梨
照明:吉成陽子
音響:角田里枝
宣伝美術:本橋若子
制作:林香菜
■東京公演(F/T公募プログラム)
シアターグリーンBASE THEATER(2010年11月24日-28日)
■京都公演
KYOTO EXPERIMENT フリンジ ”HAPPLAY♥”参加
アトリエ劇研(2010年11月12日-14日)
■プレイベント「マームとジプシー VS モモンガ・コンプレックス エアーバレーボール対決!」(坂あがりスカラシップ関連企画)
YCCホール(2010年10月28日)
配信:http://www.ustream.tv/user/mum_gypsy/videos
主催:マームとジプシー 坂あがりスカラシップ(急な坂スタジオ・のげシャーレ・STスポット)
共催:ヨコハマ創造都市センター(YCC) [公益財団法人横浜市芸術文化振興財団]
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