連載「芸術創造環境のいま-小劇場の現場から」第9回

||| 「都内公共劇場ネットワーク会議」(仮称)を立ち上げ

松島規さん松島 実は去年、公共劇場のネットワークを創るための会議を始めたんです。もう5回ほどやりました。まだ仮称なんですが「都内公共劇場ネットワーク会議」と言います。あうるすぽっとから声をかけて、せんがわ劇場、吉祥寺シアター、座・高円寺、キラリ☆ふじみ、それから西東京市のこもれびホール、武蔵村山市のさくらホールなどが参加しています。声をかけたら結構参加してくれて、さらに広げていきたいと思っています。
とりあえずは関東に声をかけてみようかと。本当は全国的に広げたいのです。例えば政令指定都市の川崎、横浜、名古屋、北九州、仙台、札幌などに声をかけて、ネットワーク会議を年に1回でもできればいいなあと思っています。持ち回りでも構わないんですけどね。そういう構想を持っています。目的は、劇場で上演する演目や情報を交換しようということですね。例えば、あうるすぽっとが座・高円寺と『旅とあいつとお姫さま』をやったように、同じ演目をうちでもやるし、座・高円寺でもやる。情報交換の機会をつくることで、一緒に事業をする可能性も広がるんですね。神奈川芸術劇場とも『おやゆびこぞう』をやりました。どちらも子ども向けですが。
小沼 そうですね。子ども向けの作品の場合、小さい子ども連れだとなかなか地元を離れられないので、演目を回すという考えがあってまた、複数のホールが協力することで、少ない財源でもいいソフトを持ち合えるというメリットがあります。
松島 最大のねらいは、制作費を安くすませることです。やっぱり1館だとお金がかかりますから、それを分担しようというわけです。作品によっては各地で上演することで申請できる公的助成金も増えるし、いろいろなことがありますよね、そういうネットワークを作っていこうじゃないかということで進めています。

||| 劇場法は民間とともに歩んでこそ

-劇場法を提唱している平田オリザさんは、よくフランスの例を引いて、何館か共同で作品を制作し、その後地方にその作品を回して、収益を次の作品の制作にあてる、そういう公演制作の循環を作ると言っていますが、それを始めようということでしょうか。

松島 体裁のいい言い方をするとそうなります。ただ、それは別に新しい発想でも何でもなく、当たり前の考えでしょう。それに、いま、進められている劇場法的構想は、ちょっと突出している点が気になります。それは国の援助を公共ホール優先にして、誤解を恐れずいえば、団体援助を捨象するということですよね。だから、劇場のレジデントに選ばれない劇団は駄目だ、ということになるらしい。私が直接聞いたわけではありませんが。そうすると競争原理に勝てない劇団は否応なく淘汰される。要するに格差を生む構造を国策で助長するということになりかねないですよね。一時代前から今日まで残っている政治の弊害を思うべきです。しかも、地方の公共ホールにも支援の条件として芸術監督の設置を義務付ける。芸術監督というのは、そういうことのために設置するのか? 本末転倒の議論が独り歩きしているように感じられる。いろいろ考えはあると思いますけど、要するに公共の人間は、民間の可能性を摘み取るようなことをしないようなやり方を心がけなくてはいけない。それで初めて民間と同等にできる。私はそう思います。
 いまの劇場法の流れだと、今後はすべて公共ホールに援助をしていきます、ということになっていますね。そうなると、団体に限らず劇場も、民間はつぶれてしまいます。卑近な例だと、劇団昴は三百人劇場を運営していたんですが、あうるすぽっとが開館したのと同じころ閉館した。そのときに、事務所が同じ豊島区に移るということもあって何とか応援しようと、あうるすぽっとで『クリスマスキャロル』を上演していただくことにしたんです。今後、一層民間の劇団・劇場は厳しくなってくると思います。そういう中で地方の劇場も芸術監督を置けなんて、そうなると、もう地方はついて来られないですよ。劇場法はそこをどうするのか。むしろ公共ホールが民間団体をいかに援助できるか、そういう発想からスタートしないと格差を生んでしまう。まあ、いま、劇場法を提唱している人たちはみんな勝ち組ですから(笑)。そこを一考しなければならないと私は思いますね。

-このところ東京芸術劇場が将来性のある小劇団を並べて連続上演するというシリーズを始めました。面白いラインナップを揃えてるのでとても刺激的な企画ですが、そうなると、これまで未知の劇団を発掘してきた民間の小劇場が太刀打ちできなくなる。公共劇場が乗り出してきたときに付きまとう大きな問題ですね。
松島規さん松島 公共劇場の人間はもうちょっと謙虚でなければいけないですよ。俺たちは公共だからお前ら民間を引っ張っているぞ、なんていうことだったらとんでもない話でね。そして援助する側の国も公共には厳しく、民間には易しくという原則で、いかに受益者負担を軽減していくか、文化の裾野を広げていくか、そういう流れにしていかないと、公共の劇場なんてうまくいかない。

-ただこれまでの伝統ある劇団から劇場中心に、お金の流れも人の流れもこれから変わるだろう、いや変えなければいけない、というのが劇場法を推進する人たちの考えですよね。しかもこれは実際に進行している、現在進行形の流れではないでしょうか。
松島 その現在進行形が不透明で議論が尽くされないまま、ある意味、見切り発車的に進められている。劇場法を推進する人たち、といってもまだ大きな流れの議論にはなっていません。動き自体を既成事実化しようということかもしれないが、サイレント・マジョリティーという存在も否定はできません。
-劇場法の一環として、たとえばあうるすぽっとにしても、とてもいいスタッフが集まり、それなりの資金を維持できる財政的行政的バックアップがあって、とてもいい演劇の「場」になっている。文化の底力といまの最先端が同時に味わえるようなラインナップを見せてくれている。これを民間の、例えば私が知っている小さな貸し小屋でやってくれといったら、これはやっぱり無理ではないでしょうか。
松島 現状では無理かもしれませんね。ですから公的援助が必要なんです。もちろん、一定の条件や基準の下にですが。

-逆に民間を援助するとしたら、どういう援助の仕方があるのか悩ましいところです。それと、劇場ではなく劇団だけでやっていくのも、これもまたなかなか辛いところで、劇団はファンが固定化せざるをえなくなる。とすると、劇場中心に、さまざまな演目を組むのがやっぱりこれからの演劇のメインストリームになるのかなっていう気がします。ですから、いまの劇場法を進めている人たちの考え方もぼくはそれなりに理解できるんですが。
松島 もちろん、劇団の人たちも現状についてそれなりの検証は必要です。ただ、劇場中心に助成し、団体援助を縮小ないし捨象することが果たして真っ当か、ということなんです。
 動機はいいと思います。ただね、公立劇場というところに限るっていうから駄目だっていうんです。しかも、拠点になるのは、ほとんどが大劇場ですよ。そういうところから発信していって、あとは要するにそのブランチ(支店)になっていくわけです。もちろんブランチが嫌だと言っているわけではないし支援はいいんだけど、そこに民間をどう入れていくか、ということが表に出てこない。それを打ち出さないことには衆目から支援されるものにはならないだろうと思います。いまのままだとフライング気味の法律になってしまう。
 視点が民間にあれば私は言うことないんですよ。でもいまオープンにされている議論を読むとそのあたりがどうも怪しい。極端に言えば民間なんかもう置いていっていいんだというところにまでいくような発言をしているように感じる。だから私にはこれでいいのか、という気持ちがある。

||| 劇場運営と行政と

-松島さんは、東京都写真美術館や東京芸術劇場の勤務経験もありますし、都内の公立劇場のネットワークを立ち上げたことでも、いろんな公共劇場の方と接触したり、実情を知る機会が多いと思います。ですからそれぞれの館や劇場の特色課題も見えてきているのではないでしょうか。それからもう一つは、逆にあうるすぽっとの課題は何なのか、その二つをお聞かせください。

松島 ネットワーク会議も、まだそこまで密接にやっていないですから、そこから見えてくる他館の課題とか、そういうものはまだ分からないですね。ただ他館も同じだと思いますが、制作部門はだいたいプロパーの人間が担当している。うちの課題も、端的に言えば、いかに行政のスキームの中で運営していくかということです。これは非常に難しいことなんですね。個々の演目について、行政がどうこう言ってくる、ということではないんです。ここの職員は8人全員が民間から来ていますから、行政のシステムというものに対しては、一つ一つの書類の作り方から始まって、決裁の過程、劇場の運営の仕方、もっといえば任用制度とか、そういうものをめぐって非常に抵抗がある。いい悪いじゃなくて、これらをいかに受け入れていくかが、内部運営的には大きな課題です。
 あうるすぽっととして、運営的にまたプログラム的にどうしていくかに関しては、まだまだ本質的な課題は見えてこないです。目先の課題はいろいろありますが。端的に言えば、まだオープンして3年ぐらいですから、もっともっとみなさんからいろんな意見を頂戴して、その中から「あっ、これが大きく忘れていて落としていたなあ」という問題も出てくると思うんです。例えばプログラムの編成についても、あるいは自主事業の実施方法にしても、まだまだ試行錯誤の段階を出ていない。これはもう少しすれば見えてくると思うんです。まだ3年ですから、もう少したたないと本当の課題というのは見えてこないと思いますね。
 うちのロゴを作ってくれたデザイナーの長友啓典さんと話しても、「劇場なんて、どうなるか分かいよね」って言うんです。あの人は劇団「青い鳥」やいろいろな劇団とずうっと付き合っている人ですから、劇団運営についても身近で長年見てきている。
-青い鳥は確か1974年創立だから今年で37年ですか。
松島 例えばこのエレベーターが遅いとか、目先のことはいっぱい言えますよ(笑)。ただやはり本質的な問題というのは、職員も今後次第に変わっていくだろうし、なかなか見えてこないというか見えづらいと思います。

-この劇場企画で取り上げましたが、三重県文化会館の場合、民間から来た人が最初は制作ではなくて、内部の管理部門に入って、県からの出向の人に全部引き揚げてもらって、民間だけに作り替えるのに5年くらいかかった。そこで民間のルールに作り替えるということをやって、それで制作に移ってきた。
松島 時間かけていますねえ。でも、それをやった三重は進んでいます。

-長い伝統の上に、財団として活動されているところにとっては、非常に大きい問題だと思いますね。
松島 ただうちも、最初の3年間は管理部署に派遣職員(区からの出向)がいたんですよ。ただそれはトップじゃないです。こちらの職員だけで、一応全部細かいことができましたから、もう引き揚げました。

-三重県文化会館で、すごく大事なことではないかと思ったのが、予算の問題です。役所は年度でいったん清算しますけど、三重県文化会館の場合、興行収入というか、舞台芸術で利益が上がった分を県に返さずに、それを蓄積していって次の公演などにあてることができるんです。そういうのは、やはり難しいんですか。
松島 三重県がどうなっているのか詳しくは分かりませんが、利用料金制度が確立されていればそれは出来ます。うちもその制度にはなっています。ただ、仮に利益があっても劇場ではなく、財団全体の会計に入ってしまう。会計制度もひっくるめて、本当にうちが独立していれば、経理をおいて、精算もして、ストックしていくこともできると思います。余剰金として積んで、それをまた公益に還元していけばいいわけですから。(続く >>


「連載「芸術創造環境のいま-小劇場の現場から」第9回」への10件のフィードバック

  1. ピンバック: 文化の家
  2. ピンバック: aera
  3. 次のなば缶の会場にして欲しいです!前回は200人規模の会場でチケットがすぐ売れたのでご一考をお願い致します

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