劇団しようよ「茶摘み」

◎方言と人形と閉塞感
 水牛健太郎

「茶摘み」公演チラシ 腿ぐらいの高さで、幅1.5メートルぐらいの細長い舞台。両側を客席に挟まれ、その背後の壁に一枚ずつ白いシーツが、スクリーン代わりに垂れ下がっている。役者が一人出てきてビデオカメラを構えると、スクリーンに映るのは田舎の風景。見渡す限り茶畑が広がる。カメラがある家の居間に入っていくと、夫婦とその娘らしい三人が四角いちゃぶ台に座ってざるそばをすすっている。ちゃぶ台のもう一辺にも一人前ざるそばが置いてあって、どうやらそれが撮影者の分なのだ。すると、舞台の上で、ビデオ画面同様にちゃぶ台を囲んで座っている家族の中の母親が、ビデオを構えた俳優に「はよ、食べてしまいなさいよ。もう、そんな撮ってんと」と声を掛けてくる。うまい導入だ。

「茶摘み」はお茶の栽培農家「北山家」の人々を主な登場人物とする作品だ。ビデオを撮っていた長男ののりおは、農家の日常が退屈で耐えられず、外国で起きる戦争だろうと、隣町の火事だろうと、幼馴染のたかし君のミュージシャンとしての活躍だろうと、すべてのドラマチックなことが自分の横をすり抜けていくように感じている。毎年繰り返される茶摘みが、抜け出したい日常の象徴だ。

 一方妹のりえは、自分のニキビが戦争や火事などあらゆる悪いことを自分の皮膚下に封じ込めているという妄想を抱いていて、ニキビがつぶれることと戦争や火事の発生を関連付けて考え、罪悪感にさいなまれている。

 この作品でまず面白いと思ったのは、全編が関西弁で演じられることだ。「そんなこと」と思うだろうが、実はとても珍しい。私が京都に来て以来、全編関西弁の作品を見たのはこれがはじめてだ。私がこれまで見た限りでは、ほとんどの京都の劇団は「全編共通語」あるいは「共通語ベース、時々関西弁」で上演をしているようだ。

 これは、近代演劇という制度の中に共通語使用が含まれているからだ。だから、演劇における方言使用という問題に意識的でない限り、当然のごとく「全編共通語」になる。「そんなこと考えたこともない」というのが実情だろう。時々関西弁を使う劇団があるのは、作中に風穴を開けたいという意識からで、関西弁の使用場面は、ぼそっと本音をもらす設定であったり、笑いに結びつく状況だったりする。共通語使用を前提とした上でスパイスとして関西弁が使われているのだ。

 こうした状況の中、今回の作品は別に気負って関西弁を選んでいるのではなくて、ただ関西の田舎の話だからという理由(ちなみに作・演出の大原渉平によると、彼の郷里の滋賀県の言葉だそうだが)で関西弁を選択している。なかなかない選択を、ごく自然体で行っているところに好感を覚えた。

「茶摘み」公演チラシ
「茶摘み」公演チラシ

 この公演に関してほかに目につくところといえば、北山家の四人がみんな、大きめのぬいぐるみを背負っているところだろうか。緑系統の布を使った、かわいくないこともない面白いセンスの人形である。登場人物の代わりに置いたりもするが、使い方は一定していない。明らかに劇世界を広げる効果はあったと思うが、もう少し効果的な使い方はあるかもしれず、研究の余地があると思う。

 「劇団しようよ」は作・演出・出演の大原渉平とミュージシャンの吉見拓哉の二人を中心に結成した団体で、吉見は上演の間ギターを演奏、歌も歌う。曲はすべて自作とのことで全編生BGM付きは大変贅沢だ。

 一方、作品の問題点は、自分の生活にドラマがないことを嘆くのりおと、自分の身体と世界の変調を直結させるりえの対照が、あまりにぴったりと合わせ鏡になりすぎていることだろう。逃げ場がないというか、少し息苦しい感じがするのだ。特に兄と妹という組み合わせは、きょうだいであっても、いやむしろきょうだいであるからこそ、一般の男女関係以上に閉じられたエロスの絆を感じさせる関係である。そのうちの女性である妹の方に世界と直結する妄想を背負わせることで、いわゆる「セカイ系」の作品に近い、あるいはそれ以上の閉塞感を感じさせるものになっている。

 閉塞感そのものはむしろ、大原の意図するところとも思えるが、閉塞感を表現したというよりは、作品そのものが閉じられているように感じられるところが、少し気になる。他人の視線を拒絶するとでも言ったらいいか。特にりえのキャラクター造形にそれを感じた。そうなるのはやはり、作品の中でりえの背負う「世界」とのエロス的なつながりを作者自身が欲しているからだと思う。この構図は母親と幼い息子の関係のようなもので、他人(観客)の入り込む余地が残らない。たとえば女性の観客はこの作品をどう見たのだろうか。

 たとえば男女の役割を入れ替えるだけでも風通しはずいぶんよくなる。面白い趣向の多い劇団なので、作家としての今後の成長に期待したい。

【筆者略歴】
 水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。大学卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。2011年4月より京都在住。元演劇ユニットG.com文芸部員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
劇団しようよvol.2 『茶摘み』(アトリエ劇研協力公演)
京都・アトリエ劇研(2011年9月2日-4日)

策・演出 大原渉平
音楽 吉見拓哉

【出演】
大原 渉平
宗岡 ルリ
渡邉C憲明(十中連合)
比嘉花恵(劇団ソノノチ)
脇田 友(劇団ソノノチ)

【観劇料金】
一般 前売1300円 / 当日1500円
学生 前売1000円 / 当日1300円

【アフターイベント】
●2日(金)19:00 ゲスト:三國ゲナンさん(サワガレ)
●3日(土)15:00 ゲスト:水牛健太郎さん(wonderland編集長)
●3日(土)19:00 出演者によるアフタートーク
●4日(日)15:00 劇団しようよ4のつく日のパフォーマンス『ガールズ、
遠く』


「劇団しようよ「茶摘み」」への6件のフィードバック

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