田上パル「日記ちゃん」「タイトな車」(クロスレビュー挑戦編 第18回)

「熊本弁、多彩なアクション、ファンタジー性を絶妙なバランスで散りばめた、緩急の利いた疾風怒濤の展開で、観劇後の爽快感を生み出す」(劇団HP)という田上パルの公演。今回取り上げるのは、ひと味違うスペシャル2本立て企画です。主宰の田上豊が作・演出する一人芝居「日記ちゃん」と、広島の劇団ブンメシの作品を高羽彩(タカハ劇団)演出、田上も俳優として舞台に立つ「タイトな車」。どんな味わいだったか、★印による5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。末尾の括弧内は観劇日時です。(ワンダーランド編集部)

田上パル スペシャル公演チラシ
田上パル スペシャル公演チラシ(表)

大越勇磨(医療事務)
 「日記ちゃん」★★★★☆(4.5)
 「タイトな車」★★★☆ (3.5)
 救われるために信じる、妄想の人達。「日記ちゃん」は図書館勤務の女性が恋する相手に想いを伝えたいけど伝えられず悶々と妄想する話。女優一人きりで変幻自在に役が入れ替わり、緩急激しい演技で妄想の世界を突っ走る。片思いの想いは伝えられずに膨らみ続け、まるで膨張し続ける宇宙さながらだ。「タイトな車」は記憶喪失した男2人が、周囲の状況から自分達の状況と記憶を妄想していく話。男優2人、記憶が無い設定の妙で暴走し続けて収拾つかないと思いきや、投げ放った設定が全て力ずくでつながっていくラストは見事だ。劇中に「これは確固たる妄想だ」という台詞があるが、妄想は妄想でしかなく現実であっても事実ではない。妄信して救われようとしても、傍から見れば猛進して足元 すくわれてるんだけれど。でも世界は見えるところまでしかないならば、自分が信じる世界だけが幸せだし、信じる者が滑稽に見えても、その滑稽さも含めて人間だなぁと思う。
(11月20日19:00の回)

カトリヒデトシ(カトリ企画URエグゼクティブプロデューサー、演劇サイトPULL編集メンバー、舞台芸術批評)
 「日記ちゃん」★★
 「タイトな車」★★
 田上豊と高羽彩、それぞれにほめことばとして、「やんちゃ」だったり、「はねっかえり」だったりが魅力。その二人の組み合わを楽しみにしていた。ともに2009年のパル「青春ボンバイエ」、タカハ「GOD NO NAME」でそれぞれ驚きと興奮を与えてくれた経験を持つ。期待するがゆえに、今回私には面白くはなかった。
 「日記ちゃん」はセリフと独白と傍白が混在を通り越して混乱し、さらには二役まで行う。その盛り沢山さではいくら団員の二宮がきちんと役を見せることのできる役者であっても荷が勝つというものだ。一人芝居ではいかにことば数を減らしていくかに腐心してほしい。「謂ひおほせて何かある」(「去来抄」)である。少なくともセリフとTwitterのような、役を客体化するつぶやきである傍白との明解な違いは感じさせてほしい。
 「タイトな車」は二人芝居というコンパクトな豊穣をいかせず、仕掛けを成り立たせることに専心しすぎてかえって語るに落ちるてしまう感がいなめなかった。上手い役者が上手く演じているだけではいかがなものか、とおもった。
(11月21日19:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 「日記ちゃん」★★★★
 「タイトな車」★★☆(2.5)
 一人芝居『日記ちゃん』の二宮未来が秀逸! 図書館に勤めるナルカワと「日記ちゃん」という女性二役を演じているかに見えていたのが、実は日記ちゃんなんていなかった! →エッ、もしかして全部妄想? →やっぱり元の木阿弥の一人なんじゃない!! という展開なのだけど、そこに「見渡せば花ももみぢもなかりけり浦のとまやの秋のゆふぐれ」ばりの恋物語が幻出する。思い余って、ついつい相手の愛用のiPodを盗んじゃう勢いの片想い、その可笑しさと切なさの手触りだけが、チープなオレンジ色の夕日とともに眼裏に残るのだ。この女優さん、狭い空間を、背中と足を突っ張ってするすると登ったりするのが、副業はスパイじゃないか!? というくらいのスゴ技。セリフも身体も瑞々しくて、ガッキと心をつかまれてしまう。
 『タイトな車』では、幕間に、木製のパーツをパカパカッと組み合わせて作る装置(美術:濱崎賢二)が、さりげにホンワカとした空気感を醸し出していた。ただあのお話のラストのひっくり返し方はいかがなものだろうかと…。
(11月18日19:30の回)

田上パル スペシャル公演チラシ(裏)
田上パル スペシャル公演チラシ(裏)

福田夏樹(演劇ウォッチャー)
 「日記ちゃん」★★★
 「タイトな車」★★★
 両作品ともワンアイデアを効かせた作品。「タイトな車」は、記憶喪失のヤクザと借金王が、実は友人の結婚式で余興を行う二人のホームレスであったという話。「日記ちゃん」は、一人二役を演じているかと思いきや、実は日記中で作った二重人格で、同一人物であったという話。
 前者は他劇団からの作・演出とはいえ、両者とも、シチュエーションで持っていくのはこの劇団らしい。ただ今回、シチュエーションからの笑いが提供されない分の何かとして、強く残るものがなかったように感じた。確かに両作品ともアイデアは面白いが、なるほどねで終わってしまった。特に、両作品とも最後にネタばれ的に、作品の構造を明示してしまったのは、成功だったかどうか。そこが伝わらないとどうしようもない作品とはいえ、もっと自信をもってもよかったのではないか。明示しないことで残る余白を意識してもよかったのではないか。そのための、演出上の工夫は不可能だったのだろうか。
 前者の緊迫感のある芝居、後者の人格の演じ分け等には満足であり「普通」には面白かったので、星三つ。
(11月26日14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 「日記ちゃん」★★★☆(3.5)
 「タイトな車」★★★
 図書館職員である若い女性の一人芝居「日記ちゃん」は、“激しく恋する乙女”の日記。図書館に通ってくる男性に激しく片思いする日記ちゃんとその同僚の女性を一人二役で演じていると思って見ていると、結局その二人(?)は一人だったというところに落ち着くのだが、幕開け、二宮未來が最初の台詞からすばらしくて、何だかうっとりしてしまい、一気に見てしまった。終わりがもう少し説明っぽくなければもっと好きだったと思う。
 「タイトな車」は、記憶喪失の男を二人出して、あちこちで二人が発見した小さな手掛かりをもとに、話を大暴走させる。記憶喪失の男を二人出すというアイデアの勝利だろう。見ながら、こんなに風呂敷を広げておいて、どう収束させるのだろうとわくわくした。ただ、どうなるんだろうとぐいぐい引きつけておいて、結局、最後に全部説明して種明かししてしまうのは、何とももったいない。
 ふたつの作品の間の場面転換がとてもいい感じだった。
(11月23日14:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
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 「日記ちゃん」は一人芝居とは言っても、一人で二役、いや三役四役も演じるステキな舞台。「タイトな車」は仕掛けに満ちた、演劇ならではの作品。広島の劇団で初演された作品を東京に持ち込んで上演するという珍しい試みだった。
 クロスレビュー挑戦編は、劇団やカンパニー、ユニットの進取の試みを多くの人たちに見てもらおうという素朴な地点から出発した。実験的な手法、挑戦的な作品などリスクの多い上演に関心を持ってもらいたかったのだ。今回はスペシャル企画。意外性もあり新機軸を打ち出そうする意欲もあってクロスレビュー企画の趣旨から外れていないけれど、やはり取り上げるなら本公演がふさわしい。アウェー企画よりホームの公演を重視したいと、あらためて感じた。つまり、このスペシャル企画を推した自分にイエローカード。今回は自戒を込めて「評価せず」とします。今回の公演が無星ではありません。念のため。
(11月25日19:30の回)

【上演記録】
田上パル スペシャル  2本立て公演「タイトな車」「日記ちゃん」
アトリエ春風舎(2011年11月18日-27日)
「日記ちゃん」
作・演出:田上豊
出演:二宮未来

「タイトな車」
作:末田晴(ブンメシ)
演出:高羽彩(タカハ劇団)
出演:日高啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)、 田上豊

スタッフ
舞台監督:宮田公一
照明:伊藤泰行
音響:阿久津未歩
宣伝美術:根子敬生
制作:尾形典子

アフタートーク:
18日(金)…19:30 田上豊×高羽×日高啓介
19日(土)…19:00 田上×高羽<ゲスト:深井順子(FUKAIPRODUCE羽衣)、糸井幸之介(FUKAIPRODUCE羽衣)>
20日(日)…19:00田上×高羽×日高<ゲスト:河村竜也(ブンメシ・青年団)>
21日(月)…19:30田上×二宮
23日(水・祝)…19:00 田上×高羽


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