連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」最終回(第14回)

玉山悟さん(王子小劇場代表・芸術監督)
◎独自の選球眼で有望劇団の発掘と育成を

 1年半にわたって、時に地方にも足を伸ばし、劇場の生の声を少しでもお伝えしたいと続けてきたこの連載。2011年も終わろうとする今回をもって、きりよく最終回といたします。ラストバッターとして登場願うのは王子小劇場の玉山悟さんです。席数100とこぢんまりした規模ながら、恒例の演劇祭や演劇賞もあり、東京都内でも一種独特の立ち位置をもつこの劇場。最近注目株の若手劇団には、ここで旗揚げをし公演を重ねてきたところも少なくありません。王子ならではの運営方法をはじめ、いい作品の見分け方や、劇場法(仮称)についてのお考えなどを、じっくりとお聞きしました(編集部)。

||| トイレ掃除までやる芸術監督

-玉山さんは、王子小劇場の代表であり芸術監督でいらっしゃいますね。昨年、芸術監督になられたわけですが、それまでも同じお仕事をされてきて、敢えてそう名乗られるようになったわけは。

玉山悟さん玉山 去年、財団法人セゾン文化財団とこまばアゴラ劇場が主催した「創造型劇場の芸術監督・プロデューサーのための基礎講座」に参加したんですが、その時に、キラリ☆ふじみでは、多田淳之介さんが芸術監督なのにプログラム編成の権利がなくて、報酬が月に10万円とか聞いて、それが芸術監督のモデルになったらいけないだろうと思ったんです。
 劇場に芸術監督がいるのはいいこと。でも、キラリモデルが定着するのもどうかと思いましたし。

-キラリは、平田オリザさんが芸術監督の時もそうだったんでしょうか。

玉山 そうですね、キラリ☆ふじみは10万円なのかもしれません。まつもとの串田さんは、普通の報酬をもらってたと思うんですけど、議会で、何でうちの芸術監督はそんなに高いんだと言う質問が出たらしくて。
 多田さんは、プログラム編成権はないけど、編成についてアドバイスはできる。でも、そういうのだけが芸術監督だろうかって。芸術監督っていろいろなんだよって、モデルを増やしておいたほうがいいと思ったんです。SPACの宮城總さん、あの人は予算執行権・人事権・プログラム編成権を持ってる「芸術総監督」なんですね。それもいいだろうし。私の場合は、ああ、私も全部持ってるか(笑)。
 芸術監督と名前がついているのに、プログラム編成の権利がないとか、雇用が保証されてないとか、それはおかしいでしょう。プログラム編成の権利を持っている者がとりあえず「芸術監督」を名乗ってモデルを増やした方がいいだろうと思って、これから芸術監督になる若い人のために、私もいったんなっとくわ、ってそういうことですね。

-具体的にはどういうお仕事をなさってますか。

玉山 うちの劇場は、だいたいは劇場職員の合議制なんです。たまに芸術監督の強権発動で強引に決めちゃうみたいなことがあったりしますけど。プログラムについてもそう。みんな忙しくて推薦作品を挙げられないこともあって、私が主体的にプログラムを決めてますけど、私以外の職員もプログラム編成はできることになっています。

-強権発動っていうのは、たとえばどういうときですか。

玉山 年末に佐藤佐吉賞を決めるときとか、佐藤佐吉演劇祭のプログラムを決めるときとか。まあめったにないです。

-芸術監督に就任されて1年くらいということですが、代表はいつからなさっていますか。

玉山 王子小劇場は、1998年の7月1日にオープンしたのですが、代表はその日からずっと。もう13年ですか。当時はそう名乗っていなかったのですけど、何て名乗るべきかを考えたときに、館長はいやだし代表かな、ということで。プログラム編成権、人事権、予算執行権、全部を持っています。それ以外に、トイレの掃除からゴミ出しから、全部やります。

-それはすごい。では、いろんなところに作品を見にいかれるんですよね。

玉山 はい。玉山さんに会えるかと思って行ったのにいませんでしたね、ってよく言われます。自分の劇場にはいないんです。

-年間、何本くらいご覧になりますか。

玉山 200本くらい。そのうち50本は自分の劇場ですから、外では150本ってことですね。今年はそんなにいってないかな。週に4本、50回という計算です。ベタで1週間ずっと自分の劇場にいるということも、たまにあります。

-オープンと同時に代表になられた、その経緯について教えてください。

玉山 20歳から24歳までかな、バイトをしながら役者をやるっていう「自称俳優のフリーター」というよくあるパターンの人生を送ってたんですが、そのときにこの劇場の企画発起人の人とたまたま知り合って手伝い始め、1996年の冬から王子小劇場設立のために動きました。

||| 弱冠24歳で劇場代表に!

-プロフィールを拝見すると、失礼ながら大変お若いんですね。

玉山悟さん玉山 よく50代くらいって思われます(笑)。今、37歳で、劇場がオープンしたときは24歳でした。30歳で銀座のどこかの劇場の代表になった人が、最年少だと言われてましたけど、ニュース聞きながら、いや、最年少は俺だ! と思ってました。劇場の貸し出しのルールを決めたり、機材を選んだりしていたのが、23歳の頃です。

-どちらの劇団にいらしたんですか。

玉山 第三エロチカという劇団で2年くらい研究生をしていました。ちょこちょこ他の無名の劇団にフリーとして出てたりして、ナイロン100°Cなんかにも。第三エロチカは、去年解散公演をしたようですね。

-先日の第三舞台もそうですけど、最近そういう解散公演みたいなのがよくありますね。自然消滅じゃなく、やっぱり決まりをつけるというか。

玉山 第三エロチカは解散前も、何年間か劇団公演はないという状態だったんですね。去年はちょうど設立30周年だったので、それで記念というか解散公演をして、これ以降は川村毅個人プロデュースだけにすると決めたみたいです。私は、設立20年目のオーディションで受かったんです。

-解散公演、ご覧になりましたか。

玉山 いや、逃げるように辞めたので、ちょっと敷居が高くて(笑)。

-こちらは佐藤電機という会社の経営だそうですね。

玉山 そうです。佐藤電機という電気工事の会社に、不動産管理部門の子会社である佐藤商事があり、その中に王子小劇場があります。佐藤電機が北区に不動産をいくつか持っていて、それを管理しているのが佐藤商事です。

-そちらの社長さんで佐藤佐吉賞の授賞式のときにいらっしゃる方が、佐藤佐吉さんなんですか。

玉山 いや、今の社長はその長男で、佐吉さんは先代。佐吉さんは、戦争前に電気製品の行商でお金を貯めてこのへんに土地を買った人です。

-では、経営は佐藤商事だけれど、劇場でやることについては、全部玉山さんに任されていると。

玉山 そうですね。任されています。あ、でも、たまに社長から「玉山君、もうちょっと売り上げ、何とかならないの?」って言われますけど。「すいません社長、今年300万円の赤字でした」って言うと「しょうがないねえ」って。

-すごい! 太っ腹ですねえ。

玉山 それでないと東京で貸し劇場は無理じゃないでしょうか。つまり、土地を持ってるオーナーの道楽か、働いている人の奴隷的な低賃金長時間労働のどっちか、もしくはその両方でないと。あともうひとつ、劇団としてアトリエを構えて、団費をうまく維持費にして劇団の稽古場、公演会場にする、たまに外貸しもするという形じゃないと、都内で劇場は無理じゃないかな。健全な経営というのはできない。つまり、劇団さんからの小屋代収入だけで回すっていうのは、ちょっと無理じゃないかなあ。

-劇団も、売れてる劇団でないとダメですよね。

玉山 実際問題、うちの規模だとチケット代だけで公演費用は出ません。そこで幸せにはなれない。劇場も赤字、劇団も赤字でやってる。規模が小さければ小さいほどきついと思います。

-劇場の年間予算はだいたいどのくらいですか。

玉山 売り上げが、悪い時で1800万~1900万円、いい時で2200万円。支出はそれに収まるか、もっといって2300万~2400万円とか。まあ、ざっくり言って収入が2000万円、支出はそれには収まらないってことですね。空調がおかしくなっただけでも、もう普通に100万円くらい飛びますから。
 うちの劇場は創立13年、つまり12回決算して黒字は1回だけ20万円くらいですから。それも、最近決算書類を見返したら、税金の部分が0になってて、売り上げにかかる税金を計算していなかったので、厳密に言えば、黒字だったことは一度もないんです。
 経営のことは全然分からないので、本社に任せています。佐藤商事の扱う貸し不動産業は、入るお金も出るお金も全部税務署に捕捉されますから、税金で500万円持っていかれるのも、赤字が300万円で200万円を税金で持っていかれるのも、まあ同じだから、ということでやらせてもらっているので、劇場経営としてはとても成り立ってはいません。
 税金に取られるくらいだったら、町に賑わいがあった方がいいということですね。今は店舗はなくなってしまいましたが、以前はここに店舗があって電器屋さんをやってましたから、地域に貢献しようという先代社長の考えだったと思います。そういうことで、創業社長、現社長の意向で今の赤字も大目に見てもらっています。

-支出の内訳はどういうものですか。

玉山 一番大きいのは家賃、あとは人件費、それだけで支出の7、8割になりますね。親会社の帳簿ではどうなっているのかはわかりませんが。うちは、佐藤商事に家賃を払っています。今は月に70万円。120万円だったのがとてもまかないきれないので、まけてもらったんです。

-赤字の出た分は、佐藤商事さんで補填ということですね。

玉山 それが、経理上どういう扱いになっているかは、私にはちょっとわかりません。オープン当初このビルは、地下が劇場、1階が電器屋さん、2階は飲み屋さんとカルチャースクールだったんです。何年かやってみて、経営的に厳しすぎるからどれかを閉めようということになったときに、電器屋さんと飲み屋さんはクローズになったんですが、王子小劇場は残ったわけですから、ギリギリ我慢できる範囲の赤字だったのではないかと思います。

-劇場のスタッフは何人くらいですか。

玉山 メインで働いているのは7人。ほかに、音響と照明の担当者が1人ずついます。7人の職員のうち、私は社員、ひとりはアルバイト、それ以外は劇場の作業を請け負う自営業の、いわばひとり親方ということになっています。

-日給制とか時間給制とかいうことですか。

玉山 1回に8時間働いたら、月末にうちに対していくらいくら請求できる、といった取り決めをしていますね。

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