激情コミュニティ「つぎ、待ち」(クロスレビュー挑戦編第21回)

 激情コミュニティは主宰の垣本朋絵と兼桝綾によるユニット。垣本が早稲田大学演劇倶楽部に所属していた2009年に旗揚げ。「言葉じゃなければ表現できないことと言葉に出来ない表現を探求することを目的」(公式HP)とし、言葉と体を結びつけた「身体性の高い会話劇」を目指してきたそうです。
 銀河鉄道999を下敷きにした今回の「激情コミュニティ流”回顧”と”前進”と、成長の物語」はどんな展開を見せたのでしょうか。レビューは★印による5段階評価と400字コメント。到着順の掲載、各レビュー末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)

梅田径(早稲田大学大学院)
 ★★★★★
「つぎ、待ち」公演チラシ(表) 完成度は最低。演出と脚本が互いに憎悪を燃やし、錯乱していて演出過剰。俳優もよわよわしい。舞台美術をうまく生かせてないし、物語はどうしようもなくしょぼい。話のつながりもきわめて悪い。外挿されるスローモーションやパントマイム、ビデオカメラを使ったテクニカルな演出だけがまるで現代詩を視覚化したように印象に残るが、突然すぎて意味がわからない。過去の人々たちの手紙の朗読と現前の舞台とのギャップは観客の苦痛を誘う。正直言って見てられない。
 でももちろん、僕らが舞台に行くのはよくできたものを見に行くためだけではない。
 激情コミュニティの混乱と嘆きは、僕らに演劇の原風景を見せつける。「つぎ、待ち」は詩のように抽象的で愛のあるメッセージとイメージで、世界の重みと釣り合おうとゆう無謀な試みである。この混乱と敗北を乗り切った先には本当に見たかった景色が広がっているのかもしれない。その可能性のひとかけらをたしかに受け取れたから、星ゼロ個と隣り合わせの五つ星をつける。
(2月2日19:30の回)

藤原ちから/プルサーマル・フジコ(編集者、フリーランサー、BricolaQ主宰)
 (星ゼロ)
 人に見せる意欲がちっとも感じられない。「人生ってこうなんでしょ?」程度のなんとなくの甘い見込みで書かれたクリシェ全開のセリフを、存在感の希薄な俳優たちが、もたもたとゾンビのようにみっともなく動いて、力なく喋る……。幾何学模様の床面には少し目を惹くものを感じたが、これではなんにもならない。苛立ちながらも辛抱していたけれど、とうとう「一人で生きてくのはイヤだから一緒にいてほしい」みたいに駄々をこねるシーンが登場し、席を立った。人が誰かと共に生きていくことは、そんなに簡単なものではないはずだ。
 脚本家については、さるリトルマガジンに掲載されていた小説をかなり面白く読んだことがあり、期待していたが、今回は失敗と言わざるを得ない。言葉に粘った跡がない。「それっぽいもの」なら今の時代、誰でも手癖で書けてしまうのだ。ある言葉がこの世に生まれる瞬間を、そう簡単に通り過ぎないでほしい。
(2月2日19:30の回)

手塚宏二(CoRich舞台芸術!演劇コラムニスト、CoRich手塚の小劇場応援ブログ
 ★★★
「つぎ、待ち」公演チラシ(裏) 開演前から芝居が始まっていた。舞台上では駅員役の役者によるパントマイムが演じられている。そのマイムを観ている最前列の観客が音楽とともにスモックを脱ぎ、芝居の演者となる。始まり方は華麗だ。
 モチーフは銀河鉄道の夜。その銀河鉄道に何組かの男女が乗車し、旅に出る。それぞれが何かを求め、何かを探しながら。しかし、すれ違いの連続、そして…。
 主宰者であり、演出家である垣本朋絵はパントマイム出身の演出家である。登場人物の心情を身体表現で表すのが得意だ。特に集団を動かすのがうまく、それはマイムのようであり、ダンスのようであり、それらとは全く違う新しいものを築きあげている。
 兼枡綾の描く物語は、一組ずつの男女の物語を描きながら、全体として同世代のもどかしさやいらだちをていねいに描いている。
 部分部分がまばゆいくらい光り輝いているにもかかわらず、全体として、それらが有機的に絡み合っていないのが少し残念。
(2月2日19:30の回)

徳永京子(演劇ジャーナリスト)
 ★
 「自分が観たい作品をつくる」とは、よく聞く言葉ではあるけれど。それがつくり手にとって「自分も観たことのない」なのか「自分が好きなものを再構築して」なのかでは雲泥の差がある、という当たり前のことを痛感させられた。
 作品は、異なる男女の関係を扱った5つの短い物語が、それらとは直接関係のない(ように思われる)手紙の朗読や群舞的なムーブメントを挟んで進んでいく。だが、そこで聞かされるせりふも見せられる動きも、すべてが手垢にまみれていた。誤解がないよう書くが、新しさを無条件に称賛するつもりは毛頭ない。しかし、作・演出の垣本朋絵と脚本の兼桝綾が演劇に対して抱く定義、与える既定値は、あまりに古く、小さくはないか。
 作品の芯を担うエピソードに登場する男性が言う(会話は私の記憶による大意)。「夕焼けって、寂しくて悲しいよね」、それを聞いた女性が「私はそんなふうに感じたことがなかった。君ってすごいね」と感心する-。演劇って、こんなに貧しいものではない。言い方を変えれば、演劇はすでにそこにはいない。必死になって「自分も観たことがない」地平を切り拓こうとする人の作品を、私は観ていたい。
(2月2日19:30の回)

齋藤理一郎(会社員、個人ブログ「RClub Annex」)
 ★★★☆(3.5)
 開場前の役者たちの空気作りから前座芝居の雰囲気、さらには開演時の舞台への観客の取り込み方などもしたたか。エピソードごとのかつての人々の文章の朗読と今を描くシーンたちの接点の取り方には観る側に気付きを与える力があり、ビデオカメラなどを小道具に作られる視野や、その中に刻まれる刹那から個々のエピソードの印象にとどまらない一つの時代の群像感が浮かんでくる。
 銀河鉄道を借景にした舞台はよく見かけるのですが、それらの中でもひと味違った作り手の視点や語り口、さらには、男たちが歩んでいくことへの普遍の切り取り方に心惹かれました。
 ただ、作品として、観客を巻き込むような密度に至るための精緻さにはやや欠けている印象もあって。それはひとつの刹那の中のトーンのバラツキであったり、映像の見せ方、あるいはシーンを重ねるときのミザンスであったりもするのですが、作り手の意図を十分に羽ばたかせるクオリティには今一つ届いていない感じがしました。
(2月6日13:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★
 列車に乗り込んだ数組の男女の関係のあれこれが、オムニバスで描かれる。どのカップルも、男性はぐだぐだ甘ったれダメンズで、女性は辛抱強くそれにつきあうが、結局、別れを告げる。捨てられた男たちは、「君の大事さに今気がついた、ごめん、これからは僕が君を背負っていくから、こっちへ来いよ」みたいなビデオレターを作り、驚いたことに女たちはそれを受け入れ、落ちてくる美しい白い紙吹雪の中、男の背中におんぶされる。
 女性は銀河鉄道999のメーテル、男性は鉄郎であることが幕開けの衣装によって示されるので、そういう関係性は予想されたのだが、よくわからないのは、そういう事態を皮肉っているわけではなさそうだったということだ。これが「少年が大人になる瞬間」なのだろうか。スローモーションやストップモーションを使った映像的な演出が印象的でいいなと思う場面もあったのだが、残念ながら内容には共感できなかった。
(2月4日19:00の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★
 カラフルな差し色を配した可動式ベンチ、ビニールテープを張って床に描いたいくつもの四角形、4か所のモニターに映し出されるタイトルや手紙仕立ての文章、ところどころに散りばめられたマイム的な動きなど、センスよさげな道具立ては整っていた。朗読されるその手紙の中には、無頼派の田中英光や民芸の父といわれた柳宗悦のものも含まれている。そしてかなりの音量で流れる忌野清志郎の曲。そういう、ちょっと目や耳をひくものの陰で、オリジナルの男と女(というより、上演台本にもある通り“男子と女子”)の物語が埋もれてしまって、いっかな記憶が蘇ってこない。
 一番気になったのは、ラスト近くで男子たちを見捨てた女子たちが、結局彼らにおんぶされて仲直りをするシーンだ。どうしてこの展開? 今までのいざこざは雲散霧消?…と唖然(女が男社会の中で、傷だらけになりながら居場所を作ってきたのを目の当たりにした世代としては、若い女性がこんなに古色蒼然とした男女像を描くことに、正直ショックを受けた…)。
 鉄郎とメーテル、男の子とやさしいきれいなお姉さんのイメージは、新たに展開されることなく内輪に留まってしまった感じ。観客は作り手に「…なーんちゃって」と見事にうっちゃりを食わされることを、心ひそかに期待しているのだけれどなあ。
(2月2日19:30の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★
 尾籠な譬えで恐縮だが、あらゆる舞台芸術を排泄系と吐瀉系に分けてみたらどうかと妄想したことがある。つまりは「うんこ」と「ゲロ」。下痢でも固形でもともかく「うんこ」は食べ物が体内を通って出てくるから、その人特有の色や臭いが付いている。しかしゲロは食べ物が胃袋止まりなので似たり寄ったり。その人らしさがみられない。強引に分けると、今回の公演は吐瀉系ではないか。
 男女の仕事絡みのやり取りは実態不明で切実感がない。実家管理を巡る兄弟夫婦の諍いは底の浅い紋切り型。恋人たちのもつれもイチャイチャの域を出ない。特徴のない凡庸な会話でもいいけれど、それなら凡庸が生活の心棒だと確信的に押せばいい。あるいは俗悪の極みとして隈取り深く記録しても構わない。しかし総じて人物も会話もふわふわ薄く描かれるのだ。
 その反面、場面転換では田中英孝(台本では「田中栄光」)、柳宗悦、坂口安吾らの格調高い文面が読み上げられる。その乖離があまりに甚だしい。しかもしっかり者の女たちが登場していまどきのフェミニズム風が吹くのかと思ったら、あっという間に男たちに甘えるどんでん返し。女たちの歴史は羽毛ほどにも軽いのか。薄くても軽くても構わないが、批評的であることが色と臭いのあるうんこになり、やがては人々の肥やしとなって実を結ぶのに-。
(2月2日19:30の回)

【上演記録】
激情コミュニティ第4回公演『つぎ、待ち』
作・演出 垣本朋絵
脚本 兼桝綾
日暮里d-倉庫(2012年2月2日-5)

キャスト
あに子(アリー・エンターテイメント)
伊藤 寛
井上 千裕
小野 紗知
カゲヤマ気象台(sons wo : )
酒井 尚志
佐賀 モトキ
佐藤 至恩
柴田 周平(Feather Village Family)
杉 香苗(劇団虫の息)
椎谷万里江(拘束ピエロ)
野依 美弥子(アリー・エンターテイメント)
原田 シェフ(ヲカシマシン)
松浪慧
ヤマスケ

スタッフ
舞台監督橋爪智博(あんかけフラミンゴ)
舞台美術 湯ノ迫 史 都築 響子 北城みどり
美術協力 伊藤 杏奈
照明 山内 祐太
照明操作 榎本 茜
音響 カゲヤマ気象台(sons wo:)
音響操作 岡田まりあ(劇団森)
衣装 あに子(アリー・エンターテイメント)
技術指導 ヤマスケ
演出助手 新上 達也(水道航路)
宣伝美術・web 垣本 朋絵
写真撮影 御菩薩池真鈴
制作 飯塚 なな子(Ort-d.d)
企画・製作 激情コミュニティ

料金 前売り一般 2300円  学割(要学生証)1800円 当日 各券200円増し

「激情コミュニティ「つぎ、待ち」(クロスレビュー挑戦編第21回)」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 梅田 径

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