十七戦地「百年の雪」(クロスレビュー挑戦編第22回)

 十七戦地は座長の北川義彦と作・演出の柳井祥緒らが中心になって結成。「現実と幻想の激しい攻めぎ合いを描いて『世界の生態』をつかみ取る作品を上演」(劇団サイト)するという。昨年(2011年)7月の旗揚げ公演『花と魚』の台本が、今年の劇作家協会新人戯曲賞を受賞。期待の高まる第2回公演でした。レビューは★印による5段階評価と400字コメント。到着順の掲載、各レビュー末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)


カトリヒデトシカトリ企画URプロデューサー、演劇サイトPULL、舞台芸術批評)
 ★★
 アダムスキー、ロズウェル、SETIとくれば、分かる方にはわかる話。また08年の高尾山のUFO噂に、戦後解体された旧中島飛行機とおぼしき一族の因縁話を重ねていくのがメインの展開。
 物語は大正、昭和、近未来と三世代が交錯する。また、ドレイクの方程式やフェルミのパラドックスなどから宇宙人、カルト、宇宙物理学へとひろがっていっても構図は散漫にならず、華麗なる一族話のラインを踏み外さずにまとめあげるあたりに作者の力量を感じた。
 高く真っ当な作家性を認める。明転を多用して、三時代を交替させていく演出にも好感をもった。しかし厚い戯曲世界にくらべて、役者の不統一感は否めない。役者に原因があるのではない。これほど厚い戯曲先行の舞台を創るには、公演にむかって多くの役者たちが集まり短期間稽古して本番、という現在の小劇場的な制作の流れでは難しいのではないか。作者の意図を汲み、世界を共有し、団体としての共通認識を持つには相当な時間が必要なのである。簡単ではないことを承知の上で、多くの役者をカンパニーメンバーにすることをおすすめする。
(2月24日 15:00の回)

籾山健太郎(会社員)
 ★★
 小劇場の暗転は漆黒の闇というわけにはいかなくて、幕間にふと見上げるとそこかしこが茫滅して星空のようだ。だがいつもと感じが違う。明らかに僕はナニかを探していた。
 UFOの反重力エンジンの謎をめぐる、50年ずつまたいだ3つの時代の挿話のコラージュ。二つの家(光村家・栗本家)が、最初の時代では協力し反発し、次の時代では恋し、別れ、奪う。糊代のように挿まれる雪の情景こそ実は、影の主役だ。雪は全てを見ていた。
 謎は結局、解かれない。しかし最後の時代で雪は止み、スノーグローブが妖しく光り、確執の二家も恋の予感を残す。確かに、現実の僕たちも先祖が遺した謎と直面してきたのだし、直視することによってしか彼らを慰めることが、できない。でなければ一族ごと消えてしまうしかないのだ、ガルシア=マルケスの孤独の小説のように。
 絵面は美しかった。だが台詞のない間が長過ぎた。テンポが良ければ芝居は、重力に逆らう揚力を得られたかもしれない。月を見せてくれたかもしれない。僕を月の裏側に連れていってくれたかもしれない。
(2月23日19:30の回)

宮本起代子因幡屋通信発行人)
 ★★
 三世代百年間の物語を同じ空間で描くには多くの制約や困難があると察するが、演劇は無理や矛盾を強みに転換できる。時空間を自在に飛び越え、複雑で重厚な劇世界を構築することが可能だ。
 残念ながら本作はその強みをじゅうぶんに活かせておらず、劇世界を観客が共有するには至っていないとみた。
 人物の相関関係や宇宙的で荒唐無稽な設定がなかなか把握できないことや、俳優の演技に強い違和感をもったことが主な理由である。戯曲の台詞と、それを発する生身の俳優とのバランスに、もっと抑制や緩急、めりはりをつけることが必要だろう。
 前作『花と魚』の舞台は未見だが、上演台本をおもしろく読んだ。舞台設定こそ相当に現実離れしているものの、そこに描かれている人々の様相が生き生きして、紙面から飛び出してくるようであった。
 この躍動感が作者の魅力であり、小説や映像にはない演劇の強みをもっと味方にする力があると期待して、今回は上記の★数とする。
(2月24日 15:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★
 八王子に落ちてきたUFOと、国産飛行機の開発と、そこに関わる家族の三世代100年を描く。SF好き、UFOマニアにはたまらないようなトピックスがたくさん散りばめてあったようだが、残念ながら筆者には豚に真珠。それでも三世代100年にわたる物語の着想は面白いと思った。ただ、舞台上ではその物語を花開かせるには至らず、話の筋をたどる展開になっていたように思う。感情の流れに説得力がなくて、激怒したり号泣したりするのがいかにも「台本に書いてあるから」っぽく唐突で居心地が悪かった。それは演技だけの問題ではなくて、大正時代の既婚女性が女学生のような髪型だとか、「女中」さんが白い足袋を履いているとか、昭和40年に「UFO」を「ユーフォー」と呼ぶとか、そういう違和感がいくつも積み重なって、作品の世界に集中できなかったことにも原因がある。若い人たちにはこれで十分大正らしく、昭和らしかったのかもしれないが。
(2月24日 15:00の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★
 「大正、昭和、平成の三つの時代、百年の年月を貫く謎を縦糸に、ある家族の愛憎劇を横糸にして織りなす空想科学年代記」とパンフに。この盛り沢山さに、役者陣をはじめ衣装や美術などのテクニカル面がついてこられなかった感がある。たとえば、思わずト書きの浮かぶ演技「…怒りに駆られて手を振り上げる」と台本に書かれているからやってるなあ…というのが見えたり、またセリフがこなれていなかったりして、これがたび重なるとかなり辛い。役者の〈素〉が透けて見えると観客も素に戻ってしまうのだ。大正、昭和の着物姿や髪型なども、ちぐはぐ感が否めなかった。あくまでも本を重視するのか、若い役者の身体を生かすのか。時代考証に基づくのか、あるいはその辺は全く無視するか。何かをとれば、捨てなければいけない何かが出てくる。
 さらに「Wow! シグナル」「ロズウェル事件」「SETIプロジェクト」などのキーワードが随所にありつつも、私のようなSF音痴には今ひとつ像が結びにくかった。種は仕込まれているのだから、かつての少年漫画巻末のモノクロページにあったような、どことなく胡散臭いSF的な世界が立体的に立ち上がれば、もっと舞台の魅力は増すのではないだろうか。
(2月24日 15:00の回)

藤原ちから/プルサーマル・フジコ(編集者、フリーランサー、BricolaQ主宰)
 ★
 二つの家系の数世代にわたる因縁を描いた物語。ラスト、両家の末裔が手旗信号を使って「和解」を果たす姿には幾らか胸を温められるものがあったけれども、感情表現が随所で安きに流れるのは、正直、観ていて白けた。恋であれ怒りであれ、人間のやりとりは危険なものを含むけれど、相手に殴りかかったり声を荒げたりすればその「危うさ」が表現されるわけではない。もっと細やかなリアリティを演出・演技の面で執拗に追求してほしい。その方法論を錬磨すれば、「どんな言葉を戯曲に書くか?/舞台に乗せるか?」の判断も変わってくるのではないか。単に物語の定石(紋切り型)をなぞるようにしてペロッと出てきた言葉は、安易で、安全で、百年の恋をも醒ましてしまう。
 戯曲の構成としても、SF的な用語説明が物語のリズムを失わせていた。作家の脳内では理屈が完結しているのかもしれないけども、こちらは置き去りにされた感があるし、それはわたし個人の理解力が乏しかっただけとは思えない。これは単にテクニックの問題だけでもないと思う。一流のエンタメを作るのは簡単ではなくて、まさに作家の膂力が問われてくる。何より「百年」という歴史的時間が用意されながら、壮大なスケールが感じられなかったのが残念。なぜに人は傷つき、名声を欲し、嫉妬し、恋をして、子を成すのか。そうした欲望の動きから眼をそらさず、しかも「20世紀」というものをもっともっと深く探究していけば、別の宇宙が広がったのではないだろうか。これからの時代の物語作家に必要なのは、何か「界」をひらくような突き抜けた想像力と筆力だ。そして、音感……。ガルシア=マルケスはその耳で、人々の迷信や噂を浴びて育ったという。本家『百年の孤独』にはもちろん、例えば桜庭一樹の小説『赤朽葉家の伝説』のような一族の物語にも遠く及ばないと感じた。
(2月27日 15:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★
 物語は難しい。いまさらながら、そう言ってみたくなる舞台だった。なんだかんだとケチを付けられながら、物語は演劇の世界で不死のエネルギーを発揮して舞台をドライブしてきた。しかしこれは両刃の剣。コントロールできなければ舞台が壊れてしまう。
 物語はさしずめ機体の設計・製造に当たるだろうが、チームの綿密な打ち合せ、検討はされたのだろうか。天才技師が一人で設計できるほど実際は甘くない。それに整備、操縦、管制などの組み合わせがチグハグだと結果は露骨。残念ながら今回はそれが現実になってしまった。舞台を浮揚させる究極の「反重力装置」はなかったのだ。といって、封印する必要はない。物語はたくましい生命力を持っているのだからチャンスはいくらでもある。ぜひ飼い慣らしてほしい。
(2月27日 15:00の回)

【上演記録】
十七戦地第2回公演「百年の雪
王子小劇場(2012年2月23日-27日)

脚本・演出:柳井祥緒
キャスト:
北川義彦(十七戦地)
植木希実子(Bobjack theater)
鵜沼ユカ
江島朋洋(R2 CREATIVE)
小林祐真
坂本なぎ
真田雅隆
新紗(ヒューマンスカイ)
鈴木理保
篁 莎耶(プロダクション薫風)
永松昌輝
林 有紀(小野事務所)
藤原 薫
松下岳志(ケシュ ハモニウム)
宮本敏和
柳澤有毅(ビー・エス・カル)
吉田海輝

スタッフ:
脚本・演出 柳井祥緒
舞台監督 松本 翠
照明 シバタ ユキエ
音響 野中祐里
演出助手 桑田拓哉(はんなりふるぼっこ)
衣装 積木 綾
宣伝美術 宇佐見 友里
WEB 小幡光秀
写真撮影 木下勢治
モデル 北川義彦
制作 くりはられな 藤村恭子

★トークイベント 2月26日 ゲスト:小林弘利(脚本家、小説家)

「十七戦地「百年の雪」(クロスレビュー挑戦編第22回)」への9件のフィードバック

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