ロ字ック「鬼畜ビューティー」(クロスレビュー挑戦編第29回)

 ロ字ックは初公演から3年。「女性特有の視線から切り取られるがちゃがちゃ人生観」をモチーフに「人間の本能・性質・悪意を独特のロッキントークでポップに描く」のが特徴だと劇団Webサイトにありました。今回の第5回公演は性格の違う姉妹の愛憎を軸に、学校や風俗店にまで舞台は広がります。実際はどんな展開だったのか、5段階評価と400字コメントの各レビューをご覧ください。掲載は到着順。末尾は観劇日時です。(編集部)


武田浩介(脚本家・ライター)
 ★★★

「鬼畜ビューティー」公演チラシ
「鬼畜ビューティー」公演チラシ

 ヤリたい悩み、ヤレない悩み、ヤッたがゆえの悩み。こじれ女子の暴走に暴発。でもさ、ここに出てくる姉妹、結局ふたりともヤレてんだよな。女はその辺、楽でいいよな…なんて陰口には耳も貸さずに、突っ走ったり、嫉妬したり、疲れたりの、メスくさい80分。
 で、ヤルでしょ、ヤルのはいいんだけど、ヤッた「他者」だったり、ヤッた上での「関係」だったり、そこんとこがあんま描かれないのが残念。だから同じトコで同じヒトがグズってるだけってゆうか、立体的に世界感が迫ってこない。そんでもって帰結するのが「血縁」って。他に何か見つかんなかったかなぁ?
 風俗で働く女の、「みんな」と「わたし」の狭間に屹立するあり方と、ラストに放つ啖呵が爽快だった。彼女のしぶとさだったり、舌打ちしながらの肯定感だったりに気がいっちゃうのも、こじれオトコである俺の幻想ですかね。しゃあない、こじれ続けるしかねーのだ。『愛の才能』も気がつきゃ懐メロだ。
(6月7日19:30の回)

宮本起代子因幡屋通信発行人)
 ★
 若い女優たちの熱演はすさまじいものの、地味な姉と奔放な妹の確執と愛憎という題材や人物造形には既視感があり、伝わってくるものが思いのほか希薄であったことは否めない。
 学校の教室、姉妹が暮らす部屋、風俗店の空間が絡みあいながら進行するつくりは、人物の配置や場面転換に工夫を凝らせばもっと効果を上げられるはずだ。また内面をさらけ出す作劇は少なくとも「投げ出している」のではなく、作者の視点、切り口をもってしてこの表現に至ったと察せられるものであってほしい。終始絶叫調で聞きとれない台詞や、細かいことだが教師にしては不自然に派手なスーツや踵の高い靴にも集中を削がれた。
 作者にはまだまだ書きたいことがあるのでは?
 自分の思いと最後まで向き合い、溢れだしたものを冷静に整え、あるいは大胆に壊しながら、心のうちをどこまで、どのように示すかをねばり強く探ってゆけば、みる人に確かな手ごたえを残す舞台成果が得られると思う。
(6月6日 14:00の回)

「鬼畜ビューティー」公演の写真1
「鬼畜ビューティー」公演の写真2
【写真は、「鬼畜ビューティー」公演から。 撮影=Pinco 提供=ロ字ック 禁無断転載】

佐々木敦(批評家)
 ★★★
 冒頭いきなり騒ぎ立て踊りまくる女子中生たちの姿に(それはそれで全然良いのだが)、ああこのパターンか~と一瞬ビビリかかったのだが、芝居の要は堅物教師の姉と売れないグラビアアイドルの妹の愛憎にあって、そこの台詞はなかなかよく書けていると思った。幼い頃から正反対の道を歩んで来て、それゆえ反目の絶えない姉妹なのだが、互いに相手とは全然違うと思っていても、結局は血の繋がった似たもの同士という感じがうまく出せている。ありがちな設定といえばそうかもだが、言葉の端々に好ましいイタさと痛みがあって、もっとここら辺を突き詰めていったら今後更に化けるかもしれない。終わりがけの重要なシーンで肝心の一言を云わせずに済ますセンスも良い。ラストはちょっとわかりにくいかも。テンションの高い音楽で場面を繋いでいくのは、もう少し工夫があってもいいのではと思った。役者たちの顔というか表情には妙なリアリティがある。伸びしろ多し。
(6月10日12:00の回)

藤原央登(劇評ブログ『現在形の批評』主宰/[第三次]『シアターアーツ』編集部)
 ★★★
 男性経験ゼロの地味な中学校教師の姉・素子と、枕営業を繰り返して自由奔放なセックスライフを送るグラビアアイドルの妹・愛美。互いに嫌悪し合う対照的な姉妹を主軸に、〈リア充〉を希求する女性の自意識が吐露される。
 同僚教師相手に処女を喪失した途端、素子は妙な自信を得る。容姿も性格も変わり、周囲に遠慮することなく、ずけずけと攻撃的に接する人物に豹変。妹とのパワーバランスも変化する。音楽と照明によるポップなノリが伴っているため、唐突な展開にもあまり違和感はない。抑圧されていた性の解放をフックに、自分の欲望のまま、どこまでも突き抜けようとするドライブ感が作品の基底となっている。
 しかし、この舞台の主眼は、単なる自意識の過剰な表出ではなく、母親を含めた姉妹のささやかな和解にある。そのきっかけとなるのが、問題を起こした生徒の保護者と素子が対峙するシーン。我が子を擁護するモンスターペアレントへ、素子は子供側の気持ちを堰を切ったように代弁する。舞台には登場しない母親が保護者に転写され、互いに本音をぶつけ合う「母子」の会話が展開されるのだ。ここから、「性」にまつわる問題は「生」へと昇華され、愛するが故にすれ違い、思い違っていた家族の物語が浮かび上がる。
 このシーンがひとつの見所となっていたのは、他者との関わりを通して家族を逆照射しているからだ。そのため、作家の自分語りに、観客がアクセスする契機が与えられた。今後は、観客の想像力を開くこういった筆致を、意識的に磨いていただきたい。自らが抱える問題を、派手さや猥雑さといった要素だけに頼らず、観客といかに想像力を切り結ぶか… 演劇ならではのたくらみを豊かにしてほしい。
 さすれば、舞台全てを批評する幕切れの台詞「死んじゃえ!ばーか」も、観客は自分のこととして受け取るに違いない。
(6月8日19:30の回)

「鬼畜ビューティー」公演の写真3
【写真は、「鬼畜ビューティー」公演から。 撮影=Pinco 提供=ロ字ック 禁無断転載】

高木登(演劇ユニット鵺的主宰・脚本家)
 ★★★
 喪男童貞については語り尽くされた感があるが、喪女処女に関してはあまり例を知らず、作品としては新鮮に見た。自分も以前「三十代半ばで童貞の男」を主人公にした芝居をつくったことがあり、そのときに演じさせたのが(劇団所属の)平山だったため、「そうは見えない」という意見を内外に頂戴したが、今回良い歳をして処女を演じた松浦智美には一定のルックス的説得力があったと思う。無礼は承知だが、これは重要なことである。
 タイトルからして露悪的で救いのない話を想像していたが、思いのほか作者のまなざしはやさしい。主題は性、というよりそれを通じた自己の解放で、ヒロインを中心にした群像劇なのか、あるいは周囲はあくまでも背景にすぎぬのか、どちらにもなっていないのが惜しい。演者の技量もいまひとつで、そうした粗を演出の勢いで見せている。作者の才能は確実であり、公演をかさねるごとに欠落は埋められ、表現は洗練されていくだろう。
(6月9日14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★
 教師をしている真面目な姉と、風俗まがいのグラビアアイドルをしている男にだらしない妹の確執。姉の勤務している中学の、女子トイレを覗いたという男子生徒。その母親と教師たちとのトラブル。姉が片思いする男性教師は、同僚と不倫。妹に馬鹿にされて姉は一気に風俗のアルバイトに走る。その風俗店には卒業生が勤めている。先生相手に生意気な口をきく女子中学生たちはお行儀悪く、かしましく、ませている。幼いころからの母親をめぐる姉と妹の嫉妬。罵り合いつつ、どこか通じ合う姉妹。どのエピソードもそれなりに面白い。役者たちも大熱演。だけど、どれも「どこかで聞いたような話」に留まっていたように思う。どこかで見たような、聞いたような、の中に、あ! と思わせる新しい視点や、そこをそう演じるのか! と思わせるものがあれば、もっと見ごたえがあっただろう。中学の先生が教室でハイヒールを履いているのは、今は普通なのかしら。
(6月6日14:00の回)

齋藤理一郎(会社員 個人ブログ:RClub Annex
 ★★★★
教室の空気が醸された舞台、ストイックな教師の姉と自由奔放な妹という構図が立ち上がり、やがて鬱屈した姉の箍の外れ方と踏み出しに愕然とし目を瞠る。その遅ればせながら美や性に目覚める態はあからさまで、でも可笑しさの中に姉が自らを解き放つに至る理が裏打ちされていて。
 一方妹の奔放さにも少しずつ陰影が編みこまれ、やがては「自らにだけ口うるさい」妹の母と「妹のことしか言わない」姉の母の姿がひとつに撚り合わされ、そこからのはみ出しがそれぞれの「歪」として浮かび上がる。
 台詞から紡ぎだされる女性が生きることへの俯瞰なども印象に残りつつ、生徒や教師などの戯画的な部分と生々しさの絶妙なバランス、今の生徒と姉が生徒のころの記憶の重ね合わせ、さらには風俗嬢の達観や、男子生徒が登校したラストシーンの教室などの組み上げに映える、姉妹それぞれの「歪」の質感にこそ捉えられて。猥雑さの中にその姿を鮮やかに描き出す作り手の表現力に強く惹かれました。
(6月6日19:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 もう10年も前の『負け犬の遠吠え』という本を思い出した。これは互いに「負け」を認めたくなくてケンケン吠え合う、保守的な中学教師と奔放な売れないアイドルの姉妹のお話。あの本で負け犬とは「…自らの弱さを認めた犬のようにお腹を見せておいた方が、生き易いのではないだろうか? という意識から来る一種の処世術」でもあるというんだけど、ここで先に白旗を上げるのは姉の方。男を知らないコンプレックスを克服すべく、夜は風俗店でバイトをしたり、嫌がる男性教師に迫ったりの弾けっぷり(折しもニュースでこれまた十数年ぶりに思い出された東電OLを髣髴とさせ…ないかしら?)。一方妹の方は、不倫相手の妻に刺されるが話題になることもなく泣きっ面に蜂。後半「お腹を見せ」合った姉妹には和解の雰囲気が漂う。
 この二人や教え子の中学生たちの一方向ではないキャラクターの描き方に、ちょっとひねりがきいている。特に妹は、男と寝たのは結局自己実現のため? それでホントにアイドルになりたかったんかい!? と突っ込みたくなるような中途ハンパさで、エロいんだかどうだかつかみどころのないとこがむしろリアル。舞台がガチャガチャと雑なのも(好みの分かれるところだろうが)そう悪く働いてない。
 ただし母親の愛情の奪い合いとか、話をそこいらの家族の形式に回収しそうになっていたのが残念。「絆」は今や、取り扱い注意! じゃないでしょうか。
(6月6日19:30の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★
 この舞台はたとえて言うと、真っ赤な描線が激しく動き回ったキャンバスかもしれない。
 お堅い教師の姉と奔放なグラドルの妹。二人の愛憎に加えて、姉の学校で起きた男子生徒による女子トイレのぞき事件騒ぎが絡み合って描かれる。共通項は性的関心あるいは欲望だ。女生徒たちのけたたましいセックス?トークは描線が太くて強いから舞台はすぐ真っ赤に染まってしまう。教師同士の不倫や姉のアダルトビデオ閲覧をめぐる諍いなど既視感のある風景は現れても、状況を繊細、微妙に描き分ける柔らかな線とタッチはなく、かすれたり途切れたりのリアルなあわいは見えてこない。ほとんどの会話は欲望むき出しの「本音トーク」にセットされ、観客の想像力が働く余地は限られている。
 深読み可能かと台本を手に取ったが、「性」を立体的に浮かび上がらせるというより、作者の思いと舞台は文字通り地続きで、勢いとエネルギーに乗って、弾ける欲望の幅広い放水路を選んでいた。作・演出の山田佳奈は二十歳代半ば。期待はこれからだ。
(6月6日 14:00の回)

【上演記録】
ロ字ック第5回本公演 「鬼畜ビューティー」
新宿サンモールスタジオ(2012年6月6日-10日)
作・演出/山田佳奈

キャスト
川原真衣、山田佳奈、小野寺ずる、堂本佳世、竹田有希子(ぬいぐるみハンター)、長瀬良嗣、松浦智美、 川船敏伸(.comet)、白石量子、寺尾みなみ(劇団東京ペンギン)、轟もよ子、葉湖芽、山田麻子

スタッフ
舞台監督:佐藤秀憲
照明:大津裕美子
音響:久郷清(オトコトバ)
舞台写真:Pinco
Web:サイトウ
QPOD:金田慎平
題字:宮原真理
演出助手:桑田拓哉(はんなりふるぼっこ)
衣装:山下奈那
制作:宮原真理、川原真衣、清水美峰子(劇団銀石)
企画製作:□字ック
協力:オムプロモーション 劇団東京ペンギン .comet ぬいぐるみハンター main cast promotion 明治大学演劇研究部

※6日(水)14:00公演は早割 \2300
※8日(金)14:00公演は終演後にアフターイベント「家畜ビューティー」(作演出:小野寺ずる)

チケット料金:前売り\2500/当日\2800(全席自由)


「ロ字ック「鬼畜ビューティー」(クロスレビュー挑戦編第29回)」への12件のフィードバック

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