月面クロワッサン「夏の目撃者」(クロスレビュー挑戦編第30回)

 月面クロワッサンは2011年、京都大学在学中の作道雄を中心に旗揚げ。「基本的にはシチュエーションコメディが得意」だが、「ファンタジー、ミステリー、SF、サスペンスといった要素が綿密に織り込まれた、骨太かつトリッキーな構造の群像劇に特長」(劇団サイト)があり、京都を拠点に活動しているそうです。今回は作道雄・丸山交通公園の共同執筆脚本、作道雄演出というスタイルで挑みます。どんな舞台になったのでしょうか。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。各レビューの末尾は観劇日時です。(編集部)


「夏の目撃者」公演チラシ
「夏の目撃者」公演チラシ(表)

森山直人(京都造形芸術大学教授、演劇批評、現代演劇論)
 ★★★
 ファンタジックな前作とは違い、いわば脱力系ナンセンス・コメディ。湖の畔の病院の病室で、医者らしくない医者たち、患者らしくない患者たちがグダグダな闘病生活を送っている。病室には湖に面した窓があって、ある日そこから伝説の怪獣ネッシーがひょっこり顔を出す(姿は最後まで出ない)。彼/女たちは当たり前のようにネッシーと会話し、ネッシーも彼/女たちの呼びかけに答える(答えているらしい)。実際には何もない舞台上手の窓の向こう側を、登場人物たちがそろって覗き込み、話しかける様には、どこか不条理な古典落語を思わせる可笑しさがある。演技スタイルは全体的に一種の学生ノリが残留しており、雑で中途半端な点が多々あるが、時折それが絶妙な中途半端さを形成している部分もなくはない。劇団員は現時点でそうした感覚を共有しているが、一度それが崩れたら単なる粗雑なコントに陥る恐れもある。ナンセンスを極める覚悟があれば今後バケるかも。
(6月9日19:00の回)

水牛健太郎(ワンダーランド編集長)
 ★
 演技のトーン設定が狂っていて、劇の効果を損じていた。病院を舞台にしているが、医者が突然大声を出して笑いを取ったり、「絶対安静」の患者が窓から出入りしたりという狂騒ぶり。コントにしか見えない。しかし、それほどおかしいわけでもない。一方で基本トーンがコントなので、最後のシリアス展開は響いて来ない。中途半端だ。両方やりたいなら、場面ごとにきめ細かく演技・演出の調整を。
 三人の患者役は病気の演技を一切しない。元気いっぱい。そのうちの一人は死の危険 すらある病気の設定なのに。「病気です」というだけで病人になるなら、役者の体は何のためにあるのか。演技でも病気を表現させるべきだった。吉本新喜劇でも病人は病人らしい演技をするし、観客はそれで思わずほろりとする。お約束の演技にも意味はある。お約束が嫌なら演技・演出を工夫すべきで、ただ何もしないのは安易に感じる。
(6月10日14:00の回)

伊藤元晴(大学生 象牙の空港主宰)
 ★★
 この芝居は、その長所も短所も小学生男子の雑談だった。
 安定した自然な雑談が魅力の劇だ。ギャグも自然なリアクションの中に埋没して心地よいが、それ以外が拙い。展開はいちいちあざとい上、女性キャラの扱いが酷く薄っぺらく、女優が飼い殺し状態だ。なによりここに「女(おんな)」は出て来ない。
 見舞いババアはうるさい母親、マドンナ看護士は同級生の女の子、医者も教師に見えると、メインキャストの男たちが修学旅行の小学生に見えてくる。彼らは未熟な小学生だ。こいつらはきっとマドンナの女の子に声もかけずに遠くから眺めているだけ、母親の世話にも悪態でしか返事をしないのだろう。そしてそんな風にしか女性を見れないことにも無自覚なのだろう。そんな、いい歳をして、自分の幼さに無知で未成熟な男性像が、そのまま作品像になっている。成長しない時間は、長引けば飽きてしまう雑談そのままだ。その未熟さにとって付けたような感動を語られても、拍子抜けしたピンとこなかった。
(6月11日 19:00の回)

大原渉平劇団しようよ代表)
 ★★
 目前で物事が起こる事の「諦め」を観客と演者が共有し、上演時間の中で互いの接点を見つけ感動に導く。それが演劇の魅力と僕は考える。だからフィクションに頼りきる事が「演劇の強度が無い」と感じる。
 であれば今回、どう「演劇の強度」に向かうのかが観劇開始より気になった。
 フィクションを積むのなら、徹底的に積まなければ成り立たない。リアリティーに支えられているはずが、リアリティーが満ちていないと感じた。
 しかし作道氏は、話の細部で魅せるのではなく、俳優の「最大瞬間風速」を魅せたいのではと想像した。俳優のパフォーマンスに依存する作り方だと。それは劇団員だけの公演にふさわしい作り方ではあると思う。
 とすれば、俳優は俳優としての責任を全うしなければ成立しないはずだ。笑えるし、楽に観劇できるのは魅力的だが、誰に話が積み重なっていくのかが解り辛く、「そのシーン」で登場人物たちにとって何が一番大事なのかがわからなかった。
(6月9日14:00の回)

中西理(演劇批評誌「act」編集長、演劇舞踊批評、ブログ「中西理の大阪日記」)
 ★★★☆(3.5)
 2011年、京都大学在学中の作道雄を中心に旗揚げ。ヨーロッパ企画に続き人気劇団としてブレークするのではと期待の京都の注目若手劇団の新作。重要なモチーフとしてネッシーが登場する。これは幻想ではなく、舞台そでにいるものとして物語は展開するが、舞台上で観客が実際にその姿を目にすることはない。ただ、このネッシーは3年前にこの病院に入院していた患者にも目撃され、また、同じ病気で入院して病状が悪化している患者にだけその話し声(鳴き声)が聴こえるということから、死の象徴でもあるということが舞台の進行とともに分かってくる。
 芝居そのものは深刻だったり悲劇的だったりする雰囲気はいっさいなく、すべてがコメディータッチの軽い筆致によって語られていくが、湖のほとりの病院を舞台に「死」を中核に置いた作品なのだ。娯楽性も高く、このままでも一定以上の支持を受けそうだが、この物語内で深くは語られないけれども亡くなった患者と女医の関係が深層に位置し、それをもう少し深堀りする仕掛けがあれば深みが格段に増したと思われ、それが残念だった。
(6月10日 19:00の回)

【上演記録】
月面クロワッサンvol.4 「夏の目撃者」
元・立誠小学校職員室(京都、2012年6月8日-11日)

脚本:作道雄、丸山交通公園
演出:作道雄
音楽:高瀬壮麻
共催:立誠・文化のまち運営委員会
キャスト:
浅田麻衣、稲葉俊、太田了輔、小川晶弘、西村花織、丸山交通公園、森麻子

■スタッフ
ドラマトゥルク:稲垣貴俊(劇団しようよ)
舞台監督:吉村聡浩 舞台美術:栗山万葉
照明効果:ぷっちヨ(劇団愉快犯)
照明操作:黄瀬奏江(劇団立命芸術劇場)
音響:中野千弘(BS-II)
音響操作:森田脩平(劇団立命芸術劇場)
小道具:太田了輔
衣装・メイク:森麻子
フライヤーデザイン:森慧祐
web製作:小川晶弘/稲葉俊
撮影:橋ヶ谷典生(ゲツクロスタジオ)
制作:浅田麻衣/西村花織/稲葉俊
協力:近未来公房/劇団しようよ/劇団愉快犯/劇団立命芸術劇場/BS-II

■アフタートーク:
10日14時の回 MONO代表:土田英生氏
11日14時の回 企画外企画劇場 出張篇

■チケット料金
U-25前売:1200円/当日:1500円
一般 前売:1500円/当日:2000円
※U-25は25歳以下の方対象。当日受付で証明書を提示。
[団体割引]
25歳以下で3名予約の場合、3名で計2400円。

※上演時間は約90分。
※11日14時の回、記録用のビデオ撮影。
※各ステージ座席数は約50席。


「月面クロワッサン「夏の目撃者」(クロスレビュー挑戦編第30回)」への6件のフィードバック

  1. ピンバック: ワンダーランド
  2. ピンバック: 丸山交通公園
  3. ピンバック: 浅田麻衣
  4. ピンバック: 水牛健太郎

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