チョイ・カファイ “Notion: Dance Fiction” and “Soft Machine”
アマヤドリ「幸せはいつも小さくて東京はそれより大きい」

◎心と口と行いと―KYOTO EXPERIMENT2012報告(第4回)
 水牛健太郎

 チョイ・カファイはシンガポールのアーティストである。大柄で太り気味の中国人だ。通訳としてcontact Gonzoの塚原悠也を引き連れて、電気と筋肉の関係についてやおら説明を始める。18世紀以降の研究史をスクリーンに映しながら解説する。

 研究によって分かったこと。人体は神経繊維を通る電気信号によって筋肉に命令を伝え、動かしている。そして解説は、この科学的な成果を利用したパフォーマンスのアイディアへと収斂していく。コンテンポラリー・ダンスにおける身体の各部位の筋肉の動きを電気信号に変換してコンピュータに記憶させ、それを別人の身体に流すことによって、同じ動きをさせることができる。動きをコピーするというか、レコードで音を再生するのと同じように、動きを再生する。こういうアイディアである。

 さっそくやってみよう。というわけでダンサーの寺田みさこの手足や肩などに、電線をテープでくくり付け、イザベラ・ダンカンとかピナ・バウシュ、ピチェ・クランチェン、土方巽など、様々なダンサー・振付家の動きを15秒ずつぐらい、寺田の身体で「再生」してみせる。「再生」ぶりは見事なもので、画面に映るオリジナルのダンサーの動きと同じに見える。やがて上半身と下半身、右半身と左半身をそれぞれ別のダンサーの動きにするといった試みも行われる。

 とはいえ、これはジョークみたいなもので、科学的な実験なんかでは全然ない。電気信号によって、寺田の身体に不随意的な筋肉運動が起きているところまでは、どうやら事実である(どういうものか正確には分からないが、かなり気持ち悪く、時々痛みもあるようだ)。

 しかし、それを滑らかなダンスの動きにして見せるのは、寺田の身体に蓄えられたダンサーとしての豊富な経験である。画面に映し出される様々なダンサーの動きの特徴を寺田は明らかに知っていたし、その様式を自分で踊って試してみたことも一度や二度ではないはずだ。

 顔こそ画面の方を向いてはいなかったが、筋肉に伝えられる電気信号から、「これはあれだ」と察知して動きを調整し、それらしいものとして仕上げるぐらいは寺田にとっては朝飯前だ。逆に言えば、誰が装着してもオリジナルと同じ動きができるとは、到底思えない。「だからインチキだ」というようなことが言いたいのではない。その怪しさも含めてのパフォーマンスであり、楽しい見ものであった。

チョイ・カファイ公演から
【写真は、チョイ・カファイ「“Notion: Dance Fiction” and “Soft Machine”」公演から。撮影= Ka Fai Choy 提供=京都国際舞台芸術祭 禁無断転載】

 ここまでが”Notion: Dance Fiction”で、十分間の休憩をはさんで”Soft Machine”となる。こちらは塚原悠也が中心で、ざっくり言ってしまうと、contact Gonzoにチョイ・カファイが参戦、みたいな感じであった。

 contact Gonzoは初めて見たが、プロレスみたいというのが第一印象だった。様式化された、遊戯の要素がある戦いという印象だ。プロレスは戦う理由を「因縁」とか「チャンピオン・ベルト」といった形で作るわけだが、contact Gonzoには戦う理由がない。

 しかし、プロレスの「戦う理由」は実際にはフィクションで、戦う理由はやっぱり、特にない。理由はないけど、見せるために戦っている。そのことはプロレスを見る人も知っていることなのだが、それでも「戦う理由」を作って見せる。マイク・パフォーマンスであおったりしながら盛り上げる。「戦う理由」のショーアップはプロレス興行の重要な要素だ。

 contact Gonzoは戦う理由のなさをあからさまにしながら、目の前で戦って見せる。しかし、戦う理由がないということは、実は隠蔽しなければならないことなのかもしれない。楽しいが、どこか居心地が悪いのは、きっとそのせいだ。理由なく展開される戦いと痛み。本当は、地上のどこにも、戦う理由なんて存在しないのかもしれないのだ。

 アマヤドリの「幸せはいつも小さくて東京はそれより大きい」は監禁の話、ということになっているのだが、実際は被害者(?)は自由を奪われていないので監禁ではない。分かりやすいので監禁ということにしているのだろう(法律上の監禁に当たらないということは、登場人物のせりふでも明らかにされている)。実際は、他人の家に居候して引きこもる不思議な女性の話だった。

 作・演出の広田淳一は演出家としても高い評価を受けているのだが、この作品では全体に言葉の力が勝っていた。いいセリフを書くし、会話も面白い。東京郊外に住む、地元出身の若者たちを描き出していく筆遣い。中でも、木村夫婦や高橋といった、主なストーリーにかかわらない脇役が際立って印象的だった。そして最後の種明かしの鮮やかさ。

 印象的な言葉を連ね、リズムを作り出す手並み。広田の文学的な資質である。それだけに若干、言葉に頼りすぎではないかと感じる部分もあった。特に「監禁」の対象となる三谷クミコを描くとき、言葉遣いに思い入れのような力みが見えた。彼女の存在を「詩」としてまとめようとする意志とでも言うか。それはちょっと違うのではないか。今の時代、抒情詩人になっちゃったら終わりである。まして演劇なのだから、言葉の包囲網を突破する黒々とした存在感がほしかった。

 演出としては、場面をつなげていくスムーズさ、空間の使い方の自由さが際立っていた。ひょっとこ乱舞でも使われた、身体を傾けて重心の方へ一気に走り出すという動き、また登場人物の名前を三回連呼するといった形式が目立ったが、作品の強度を増しているように感じられなかったのが正直なところだ。

 この脚本に関して言えば、作りこんだ民家風のセットで手堅い演出をしても上演成果は充分にあるだろうし、どういうわけかそっちの方をちょっと見てみたいと思った。恐らくは脚本としての完成度が高く、演出の余地があまりなかったということなのかもしれない。

【筆者略歴】
 水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。2011年4月より京都在住。元演劇ユニットG.com文芸部員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
KYOTO EXPERIMENT2012
KYOTO EXPERIMENT 2012フリンジ“PLAYdom↗”

チョイ・カファイ『“Notion: Dance Fiction” and “Soft Machine”

“Notion: Dance Fiction”
【コンセプト・演出・マルチメディアデザイン】 チョイ・カファイ
【振付・出演】 寺田みさこ
【通訳】 塚原悠也(contact Gonzo)
【照明・テクニカルディレクター】 リン・アンディー(stage ’LIVE’)
【特別協力】 STUK Art Center
【デザイン・インタラクション】 英国ロイヤルカレッジオブアート

“Soft Machine”
【コンセプト】 チョイ・カファイ
【創作・出演】 チョイ・カファイ、塚原悠也(contact Gonzo)
【共同製作】 KYOTO EXPERIMENT
DANCE BOX Residency Program2011参加作品

「Soft Machine Project」
【助成】 The Arts Creation Funds、National Arts Council, Singapore
【主催】 KYOTO EXPERIMENT

公演日時
10 月13 日(土)20:00-
   14 日(日)17:00-
※受付開始→開演の60分前
※開場→開演の10分前
上演時間:80分

チケット料金
一般      前売2,500 円/当日3,000 円
ユース・学生  前売2,000 円/当日2,500 円
シニア     前売2,000 円/当日2,500 円
小・中・高校生 前売1,000 円/当日1,000 円
※ユースは25 歳以下、シニアは65 歳以上。
※全席自由
会場:京都芸術センター フリースペース

『Soft Machine』映像バージョン展示
会期:10月8日(月・祝)-14日(日)10:00-20:00
会場:京都芸術センター 和室「明倫」
※入場無料

幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい』(KYOTO EXPERIMENT 2012フリンジ “PLAYdom➚”参加作品)
2012/10/13(土) ~ 2012/10/16(火)
【作・演出】 広田淳一
【出演】中村早香、松下仁、笠井里美、田中美甫、糸山和則、渡邉圭介、稲垣干城、小角まや、榊菜津美
【日程】10/13(土) 19:15~←終演後、山崎彬さん(悪い芝居)とのポスト・パフォーマンス・トークあり
10/14(日) 17:00~←終演後、杉原邦生さんとのポスト・パフォーマンス・トークあり
10/15(月) 19:00~
10/16(火) 15:00~
【会場】 元・立誠小学校


「チョイ・カファイ “Notion: Dance Fiction” and “Soft Machine”
アマヤドリ「幸せはいつも小さくて東京はそれより大きい」」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: KYOTO EXPERIMENT
  2. ピンバック: 丸井重樹

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