ハイブリットハイジ座「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」

◎ひねくれものの祝祭に乾杯!
  梅田 径

 一月頃に酒を酌み交わした某出版社勤務の友人がデタラメに酔っ払いながら「ハイジ座、面白いっすよ!」と強くオススメしていたものだから、劇団名は強く印象に残っていた。なんでもシアターグリーン学生演劇祭の最優秀賞を受賞しているとか、今回劇評の対象とする「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」でおうさか学生演劇祭にも乗り込み(こちらは最優秀劇団賞を逃した)、二都市公演を行うとかで、その名前がほんのり小劇場界にも轟きはじめたころ、本作の一作前、早稲田大学学生会館で公演された短編オムニバス「天然1」を観劇した。

 そのときは番外公演ということもあり、いろいろ問題もあったけれど「なるほど、この劇団はユニークなのかも、しれない」と思わせるものはあったのは確か。自然期待は膨らんで、本公演を楽しみに待ちわびている最中にも、シアター風姿花伝十周年プロジェクトの「明日のカンパニー」にも選ばれて快進撃を続けていて、まだまだ、若手劇団のホープらしくこの勢いは続きそうである。

 さて、本公演はどうだったか。
 公演が終わり俳優が深く頭を下げてると、いままで僕がみてきた芝居の中でもひときわ大きな拍手が巻き起こった。八割はよくやった、よくがんばった、そしてよくぞまぁこんな……ガチャガチャでハチャメチャな芝居をやったなぁ! といった好意的なものが多かったのだろう。

 けれども、残りの二割は正直にいって「やっと終わった」の投げやりなニュアンスがあった。終演十五分まえ、客席から響いた「よくがんばった、ブラヴォー! もういいよ!」という悲痛な野次には、「やっと終わった」と「よくやった」を分ける、少しく根の深い演出上の問題が含まれていたように思う。それについて少し書いてみたい。

 舞台空間はシンプルである。舞台後方に大板が立てられていて、水玉模様の照明が投げかけられている。大板に階段二段分ほどの高さに引き上げ式のカーテンで中が見えないようになっている空間が設置されている。また、ドアノブつきの扉と、左右にも通路と合わせて出入り口が三つ作られているが、観客席からは一見して背景があるだけ。照明も音響もシンプルだ。

 話の内容は大体こうである。といってももうハチャメチャな話で「内容」があるわけでなし、何をいってるのかさっぱりわからないという向きもあるかもしれない。ここは読み飛ばしてくださってもかまわない。

 主人公はなにもかもズラさなければ生きていけない高校三年生の蒼日々ズラシ(広井龍太郎)。まっすぐなことが大嫌いで、日常的にそのあたりにいるオヤジを高校生に見立ててズラをかぶせてみたり、クラスの入り口に罠を仕掛けていたりする。今、彼が所属する学校では熱血教師(城築創)の方針もあり鳥人間コンテストに向けてクラス中一致団結しようと動いており、まっすぐな熱血とかベタな団結などが大嫌いなズラシはそれを阻止しようとしている。

 面白くないズラシは学校の外へと飛び出していった。そこで、ズラシは過去に告白したことがある女性-七人姉妹で、その全員である-とそっくりな女性、命ハコビ(田中裕子)がロケットを盗んだせいで宇宙飛行士(仮屋浩太郎)に追われているところに遭遇し、ズラシは彼女に一目惚れしてしまう。

 彼女は謎のアメリカ人にも追われていた、
 彼女の逃走を手伝うなか、ひさしぶりにまっすぐな「人助け」をしたせいで内臓に拒絶反応が起きて破裂してしまう。彼の肉体は告白した七姉妹の臓器をつぎはぎに接合させたものであり、まっすぐなことをすると合併症が起こって臓器が爆発したり体が壊れてしまうのである。
 しかも、その七姉妹が亡くなった原因はズラシにあった。そのせいで姉妹の両親(鎌田トクハル・沖野樹里)にむちゃくちゃな労働を強いられており、放課後はいつも彼女の両親に奉仕していた。一方そのころ、クラスメイトたちは鳥人間コンテストに向けてさらなる団結をはかるべく、ズラシを仲間に引き受入れようと彼の後を付け回していた。

 そのストーキングによってズラシの過去を知ったクラスメイトは、特になにもしなかった。その後、いろいろあって命ハコビを追いかけていた宇宙飛行士が実は記憶喪失の元ホモでヤク中の僧侶であり、ズラシの母によって、赤ちゃんのズラシでボコボコに殴られ、長年記憶を失っていたことが発覚。ズラシがまっすぐなことをすると死にそうになってしまうのもその時のトラウマが原因であったことが判明する。
 ついでに実は熱血教師もズラシの父であることも判明する。ズラシは意を決して自分の、ハコビにたいする愛を告白することに決めた。

 しかし、まっすぐ告白ができないズラシ。告白するたびに「ずれてるー!」とつっこまれ続けた経験を再現することで、自らのトラウマを克服し、七人以上の手をもつ千手観音となって全方向がズラされていながらまっすぐでもあるという悟りの境地に達し、みんなに幸せを振りまくのであった。

、「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」公演から
【写真は、「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」公演から。撮影=©若林康人(大阪市立芸術創造館) 提供=ハイブリットハイジ座 禁無断転載】

 ストーリーにはそれほど強く関わらない実に魅力的なクラスメイトの三人の女性と、澤田海が演じるクラスメイトで鳥人間コンテストの翼を設計しているライト兄弟(兄弟といいつつ一人です)も魅力的な配役であるが、この四人については後にふれる。
 
 元気いっぱいにハチャメチャな演出が観客を「熱く」させていくカーニバル的な趣向である。綿密に計算されたアンサンブルとスピード感あふれる展開でグダグダした冗長さはまったくない。カーテンで仕切られた舞台中央の空間を使った演出は、次に何が飛び出てくるか待ち遠しく、先が読めない展開を繰り広げる。アッパーテンポのアンサンブルで次から次へとシーンを切り替え、独特の身体表現と言語センスで観客に息をつく暇を与えない。

 そこから織りなされる演劇空間は繊細ではあるが力技だ。物語と叙情的な感情表現でみせる「劇」というよりも、ジェットコースターを彷彿とさせるアトラクション的な楽しさに満ちあふれている。次にいったい何がでてくるか、何をするかまったく先が読めないことの楽しさだけなら、以上「ジェットコースター」とまとめてしまってもよかっただろう。

 しかし、ハイブリットハイジ座の魅力は、こうした身体性が「ずれることまっすぐでいること」の葛藤をメッセージに据えた「物語」と強く結合していたところにあると見た。
 ハイブリットハイジ座のファンはこのようなパワフルな演出と展開を愛しているのではないかと思う。うかつにも僕もファンになってしまいそうな魅力があったことは否定しようもない。
 劇団としてもこの観客を押して押してアゲ続けるタフな演出に自信があるはずだ。そこから、もう一歩先にも進みたい! という意欲もあったのだろう。
 それが、クライマックスに起こった九回の告白シーンである。

 告白のシーンはダンスによって再現される。一回五分程度の、激しいようなそうでもないような独特のダンスをキャスト全員どころか、なぜかほぼ裏方であるはずの主宰の天野峻まで出てきてさんざんに踊ってのち、舞台中央にいるズラシが愛の告白をするのだ。
 「好きです、つきあってください!!」
 しかし、彼はまっすぐにいうことができない男!! なぜか体は斜めにまがり、それに答える命ハコビは大声で一言「ずれてるー!」と叫ぶ。

 舞台は暗転。息も絶え絶えの俳優たちはごく短いブレークをとってのち、ふたたび同じ音楽が鳴り始め、ダンスが始まる。

 それが九回!

 冒頭で述べた「もういいよ!」が聞こえたのは三回目か四回目だったと記憶する。そのときは過去の女性七名全員の告白を再現しなければ意味がないのになぁ、と作劇上のことに思いを巡らしただけだったが、七回どころか九回である。

 観客席からあがった悲鳴の如き「もういいよ!」には二つの含意があったことは疑いない。
 一つは「同じダンスを何度も見るのはつらい」。再現されるのは、すべてまったく同じダンスではない。基本的なフォーメーションやアンサンブルは変わらないが、ポジションや挙動は毎回異なっていたし、一同の、ほがらかで無理矢理な笑顔(疲労を感じさせない!)も印象的であったけれど、ミニマル的な差違性も、ダンスとしての魅力も薄い。

 二つ目は、この九回にわたる告白の反復が「ストーリー上の必然」として感じられなかったことだ。
 このダンスの反復を、俳優の限界を試みるとか、よくわかんないけど観客を盛り上げるとか、観客に「いいからもういいよ。ほんともう、いつまで続くんだよ」と思わせるなどの「外挿的」な手法としてしか見られなかったところが、この公演の熱力を大きく下げた。
 九回のダンスが終わったあとにはそれも「千手菩薩になる」ための儀式というある種の必然性(かなり好意的な解釈だけど)があったことになるのだけれど、ダンスの最中にはそれが感じられなかったのだ。

 それまでの展開が、一応は脚本に密着した形でダンスを取り込んでいく作品であった分だけ、ドラマの必然性とダンスシーンの連関を作り出せなかったことは明確に欠点として残ってしまったように思う。

 つまり、本公演において、ガチャガチャした演出はそれ単体で成立しておらず、シナリオ上の必然性とセットであったと先に記した。僕にはそれが面白かった。日常生活では見ることがないような演劇的でアクティブな身体表現を、あくまでも「物語」との連関のなかで表そうとするのだから、そこには精密な計算もいるしテクニックもいる。ただし、その連関が今のところ十全にうまく言っているとはいいがたく、見ていて「辛い」シーンができてしまったことも否定できない。

 だから、はじめから最後までアクセル全開で走り抜けようとする力強い演出が空回りした。野次を飛ばした人にとっては、ダンスの場面がダメだったのではなく――そういうふうに感じられたのかもしれないが――ダンスに「いたるまで」の世界が、九回の告白ダンスと物語との乖離によって「冷めて」しまったのではないだろうか。
 観客に訪れるこの冷え、あるいは萎えが、ハイブリットハイジ座が描き出そうとした力強い世界の敵だ。そのことは演出家も百も承知と見たし、おそらくそれは劇団としても織り込み済みだっただろう。

 しかし本作では、その敵を倒そうとするあまり、余計に空回ってしまったのではないかという印象がどうしても拭いきれなかった。でも、僕はこの敵を絡め取れる可能性もあったように思う。
 
 ハイブリットハイジ座は(こういう評価は見たことがないが)ガチャガチャした演出やダンスと同じぐらい、あるいはそれ以上に〈静止してなにもしていない〉ことが魅力ではないか。
 その最たるものが先に触れたライト兄弟(澤田海)の登場シーンだ。冒頭、舞台中央に全力ダッシュで現れたライト兄弟が、なんの躊躇いもなくペットボトルのカルピスウォーターを頭からかぶるシーンの壮絶さは特筆に値する。
 やってることは馬鹿馬鹿しいのだけれど、澤田のオーラと自信と無駄な戦意が観客を圧倒する。彼はとりわけ存在感が強いタイプの俳優ではないが「何の根拠もない自信をこれ以上ないぐらい見せつける」才覚は天性のものだ。

 俳優に関して言えば、生徒3役の南美櫻の演技も特筆すべきだろう。
 ストーリーには深くは関わらないものの、いつもおかしなことを口走り、何かするたびに野獣のごとく目を充血させて理不尽なことを周囲に強いるトリックスターを演じきった力業とタフさには深く感心した。ズラシの母も彼女が演じるのだが――それもなんのかんのと変な母親なのだけれど――赤ん坊をいとおしげに抱き寄せる柔らかく優しい雰囲気にはぐっと心を掴まれた。こちらが本来の持ち味なのかもしれない。
 可愛らしい女優であるが、その魅力を「変な」方向に覚醒させた天野の演出の才覚にはけっこう感服した。元気いっぱいな時と静かな時、どちらの側面の彼女も魅力的で、太陽のようにまばゆいが、個人的には静かな演技も見てみたい。

 主演の広井は体格と癖のある表情や声量に恵まれる一方、澤田は真逆に静止した演技や「タメ」を見せるところがやや苦手であるように見えた。生徒1を演じた羊も澤田に似た魅力がある。ハイブリットハイジ座の俳優たちは「まったく根拠のない自信」や「静止」を力強い表現として見せつける。そちらの魅力は前作「天然1」のほうが強くでていた。

 この魅力が、ガチャガチャ系統の劇団の中で、ハイブリットハイジ座の大きな魅力になりうるように感じた。彼らの祝祭的な空間に突如現れる静止は、仕組まれた間や重苦しい沈黙とは違って、わくわくする。

、「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」公演から
【写真は、「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」公演から。撮影=c若林康人(大阪市立芸術創造館) 提供=ハイブリットハイジ座 禁無断転載】

 若く魅力的な俳優たちとパフォーミングアーツの構成力に恵まれたカンパニーの力量は確かなもので、今作にはうまく行かなかったところあったものの、もっといい作品を作ってくれそうだぞ、という深い期待をもってしまうような劇団だ。

 ただし、舞台美術や小道具は物語や俳優のスケールに比してもあまりに簡素すぎた。また終盤にキーアイテムとなる「仏像」もサイズが小さく、ちょっとした演出もあったけれどインパクト不足は否めず、十全の効果を発揮できなかった。

 それでも観客に対してただ期待されるものを投げ出すだけではなく、自分たちの表現で挑まんとする意気込みは存分に受け取った。

 普通にやればきっとすごく楽しい芝居なのだろう。しかし九回に渡るダンスといい、めちゃくちゃな設定といい、かわいい女の子にトリックスターを配するセンスといい、それらは時にうまく噛み合っていないにもかかわらず、魅力的だ。ただ評価されたい、面白い芝居を作りたい、の向こう側を見ている。でも彼らは観客に何を見せたいのだろう?
 あるいは、そこで少し壁に当たっているのかもしれない。

 その壁を超えてほしい。その期待は裏切られるかもしれないけれど、裏切られても構わない。「きっと何か、次も仕掛けてくるはずだ。」そんなことを思わさせられて、やっぱりどうにも目が離せない。でも、「演劇としての完成度」はまだ低い。
 しかし、ただ独特なだけではなく、愉快なだけでもなく、タフネスと挑戦心、そして魅力的な俳優と未来という光輝く魅力をもった公演であることは間違いない。さあ、次はどんな趣向で攻めてくるだろう!?

【著者略歴】
梅田径(うめだ・けい)
 1984年生。早稲田大学大学院日本語日本文学コースの博士後期課程に在籍中。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/a/umeda-kei/

【上演記録】
ハイブリットハイジ座 第4回公演「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル
東京公演:シアター風姿花伝(2013年3月6日-10日)
大阪公演:大阪市立芸術創造館(2013年3月16日-17日)

【作・演出】天野峻
【出演】広井龍太郎、羊、澤田海(以上ハイブリットハイジ座)、田中裕子(劇団森)、沖野樹里(劇団森)、南美櫻、城築創(創造工房 in front of.)、仮屋浩太郎、富樫菜生子、鎌田トクハル
【料金】1800円-2500円

【舞台監督】櫻井健太郎/岩谷ちなつ
【舞台美術】三井優子
【音  響】田中亮大/角田里枝
【照  明】山内祐太
【制  作】炭田桃子
【制作協力】monoTONE
【小道具】 じょう(アステカダイナマイト)
【衣  装】中山美優(劇団森)
【宣伝美術】サノアヤコ
【映  像】岩切一空   


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