遊戯ヱペチカトランデ「マドモアゼル・ギロティーヌ」

◎ギロチンの見る夢
 水牛健太郎

「マドモアゼル・ギロティーヌ」公演チラシ
「マドモアゼル・ギロティーヌ」
公演チラシ

 遊戯ヱペチカトランデの「マドモアゼル・ギロティーヌ」はフランス革命を舞台にしたミュージカル劇である。というと宝塚歌劇の代名詞的な存在「ベルサイユのばら」を連想する。だが、似たところはほとんどない。むしろ「ベルサイユのばら」の「裏」バージョンとして作られているのではないかと思うほどだ。

 物語はルイ十六世の処刑から、恐怖政治を行ったジャコバン派が失墜するテルミドールのクーデターまでの時期を背景にしている。主人公に据えられているのは、死刑執行人シャルル=アンリ・サンソン(郷田明倫)の息子であるアンリ・サンソン(川畑亮)。タイトル・ロールのマドモアゼル・ギロティーヌ(高橋エマ)はギロチンを女性として擬人化したキャラクターで、ぎらぎら赤く光るボンデージ調の服を身にまとい、左右非対称の化粧をした姿で舞台に現れる。処刑はすべて、執行人とマドモアゼル・ギロティーヌの共同作業であり、執行人の合図に従ってマドモアゼル・ギロティーヌが死刑囚にキスをすることで、ギロチン刑を表現している。

「マドモアゼル・ギロティーヌ」から
【写真=中央の台に立っているのがマドモアゼル・ギロティーヌ(ゲネプロでの撮影なので、衣装は一部本番と異なっている) 提供=遊戯ヱペチカトランデ 禁無断転載】

 主人公アンリ・サンソンは死刑執行人の仕事を継ぐ自らの身の上に絶望し、自由・平等・博愛という革命の精神にも影響されて彷徨を続ける。ジャコバン派のスパイであるローザ(佐伯静香)との悲愛も描かれる。しかし、作品全体では、アンリの比重はそれほど大きいものではない。むしろ革命の進行に従い、次から次へとギロチン台に送られていく人々の群像劇としての性格が強い。その中心となるのは「死の大天使」と言われた革命家サン・ジュスト(一色洋平)。若干二十五歳でルイ十六世の処刑を決定づける演説をし、さっそうと表舞台に現れた彼は、恐怖政治を中核で担って多くの人をギロチン送りとする。

 一七九三年七月のパリ。夏を謳歌して踊る人々の間に、シャルロット・コルデー(山本桃子)という若い女性がいる。シャルロットは、不良に「首切り役人」とさげすまれたアンリを擁護し、「市民アンリ・サンソン」と呼んで拍手を送るが、やがてジャコバン派の大物マラーを暗殺した犯人として、ギロチン台でアンリと再会する。シャルロットによるマラー暗殺はジャコバン派の過激化を招き、その中で王妃マリー・アントワネット(井料瑠美)も処刑される。

 その後、ジャコバン派は内部の亀裂を深め、サン・ジュストの仲間カミーユ・デムーラン(和田裕太)とその妻リュシル(相澤愛歌)も、サン・ジュストの指令により逮捕される。リュシルはあの世でカミーユに再会できることを喜びながらギロチン台に上っていく。やがて、サン・ジュスト自身もクーデターによって失墜し、ギロチン台の露と消えるのだった。

 このように、この作品のプロットは、サン・ジュストの台頭から死までを描く政治劇の形を取っている。歴史の歯車が一つ回るたびに、テーマ曲とともにマドモアゼル・ギロティーヌが舞台に現れ、登場人物は一人、また一人と処刑されていく。

 人間の解放という理想を追い求めながら、あらがいようのない因果の激流に巻き込まれて倒れていく人々の運命を見つめるマドモアゼル・ギロティーヌ。この芝居にはさらに狂言回しとして、錬金術師カリオストロ(山田宏平)が登場する。カリオストロは背中に天使の羽のようにも見えるふくらみのある衣装を身に付けた、性別不詳、正体不明の怪人である。プロット中で役割を担うことはほとんどないが、状況を解説したり、時に端役を務めたりし、ドラマの内と外を自在に出入りしながら、ほぼ出ずっぱりで舞台のどこかにいる。そして怪しげに身体をくねらせる。常に事態の進行を皮肉な目で眺めるカリオストロの不気味な存在感は、歴史の不条理性や魔性を象徴するかのようだった。かつて山の手事情社の中核を担ったベテラン俳優の面目躍如だった。

「マドモアゼル・ギロティーヌ」から
【写真=錬金術師カリオストロ(手前)とサン・ジュスト。提供=遊戯ヱペチカトランデ 禁無断転載】

 この劇の内容は、一般的なミュージカルのロマンティックなイメージとは反するもののように思えるが、歌による感情の盛り上がりがドラマの奥行きを増していた。歌が発散するエネルギーがあればこそ、残酷な内容にもかかわらず、一人ひとりをただの犠牲者ではなく、独自の意思のある主体的な人物として描くことが出来ていた。だから、作品を見終わったとき、明日をも知れぬ状況の中で生き、死んでいった人々の姿に、むしろ勇気づけられるような、不思議な感慨が残ったのである。俳優の歌唱力にはややばらつきがあったが、主人公アンリの父シャルルを演じた郷田明倫はイタリア留学経験もあるオペラ歌手ということで、深みのあるバリトンが素晴らしく、家業として死刑執行を行わなければならない苦悩と息子への愛を見事に歌い上げていた。

 宝塚や劇団四季をはじめとして、ミュージカルは多くのファンがいるが、タレントのタモリがよく口にするように、日本のミュージカルに違和感を持つ人も少なくなく、私もその一人である。私が思うに、ミュージカルに感じる違和感は、芝居で歌うことそのものよりも、おそらく、「西洋のお芝居」と俳優の身体との間に生じる「ずれ」にある。言葉には場を形成する強い力があるので、よほど観客の日常からかけ離れた内容のセリフであっても、その場でそれが口にされているというだけで、観客をその世界に丸め込んでしまう。だから、日本人の俳優が舞台上でトムだろうがマリーだろうが、それだけなら、それほどの違和感はないのだ。ところがそこに「歌う」という、本質的に身体的な表現が加わることで、言葉によって隠されていた「ずれ」が暴かれてしまう。

 だが、ミュージカルが好きな人にとって、この「ずれ」はそんなに気になることではない。というよりは、むしろその「ずれ」が、ミュージカルの「夢」を膨らませるための土台になっているように思える。舞台上で「愛」について歌うという、日本人にとっての無茶をあえてすることで、夢の翼は空気をはらんで、空高く舞い上がる。ミュージカルのコアなファンにとって、その「夢」は、生きるために欠かせない何かですらあるだろう。

 そこにあるのは「ずれ」なのか、それとも「夢」なのか。これは日本人(というか、非西洋人すべて)の西洋文化の受容に必然的に伴う問題で、だからおそらく、当面解消されることはないはずだ。

 「マドモアゼル・ギロティーヌ」の劇作家モスクワカヌは日本劇作家協会の二〇〇六年度の劇作家セミナーで筆者と同期生だった。才気煥発とは程遠い、どちらかと言えば無器用な人だった(今もそうだ)が、演劇、特にミュージカルへの情熱だけを武器に、一歩一歩進んできた。

 モスクワカヌにとってミュージカルにあるのはもちろん「ずれ」ではなくて「夢」であり、彼女にとって不可欠な何かであることを私は疑わない。今回の作品はフランスを舞台とする、その意味で王道ミュージカルで、まさに「愛」についても歌われる。だから私は、日本語ミュージカルについて感じる「ずれ」をこの作品についても感じた。しかし、この作品の持つネガティブさ、そしてなお、それを乗り越えて進もうとする意思は、私を圧倒した。それは「夢」に違いはなかったが、しかし何という暗い「夢」だったろうか。「ずれ」をテコにして初めて表現できる、個人的といっていいような切実な何かが、この作品にはあった。

 ミュージカルの制作は、歌やダンスの要素もあり、キャストも多いだけに、ストレートプレイとは比較にならないほどの手間暇、時間、さらに言えば費用もかかるはずである。それらすべてをクリアして実った今回の作品が、今後への大きな一歩となることを期待したい。

【筆者略歴】
水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
遊戯ヱペチカトランデ「Mademoiselle Guillotine ~マドモアゼル・ギロティーヌ~」
日暮里d-倉庫(2013年9月5日(木)‐9日(月))
劇作:モスクワカヌ
演出:田中圭介
音楽:伊藤靖浩
出演:川畑亮 高橋エマ 佐伯静香 大日向裕実 郷田明倫 一色洋平 山田宏平
相澤愛歌/おかざきめぐみ/神﨑沙織/小口夏生/篠原彩花/白井諒子/
納田洸太/村田智哉子/山本桃子/吉岡亜沙美/リー・ジャクソン/和田裕太
井料瑠美(特別出演)
振付:工藤美和子
照明:松本永
舞台監督:北村太一
音響:島貫聡
Sound design:宮里豊
舞台美術:角田知穂
衣裳:中埜愛子
ヘアメイク:高橋萌
演出助手:元田暁子
宣伝美術:FRAN
Web制作:KAHORI
スチール写真:村山良
ビデオ制作:$堂
制作:藤田晶久
物販:オノマリコ 原田優理子

協力(敬称略・順不同):
演劇集団 円/Fantasista?ish./DULL-COLORED POP/時間堂/Act JP
Entertainment/石井光三オフィス/エアーズロック/㈱グランドスラム/Theatre劇団子/スターダス・21/手力プロダクション/劇団テアトル・エコー/東宝芸能/MAMAGOTO/ミント・プロジェクト/山の手事情社/石丸さち子/荒船泰廣/星野名保子/港谷順
主催・企画製作:遊戯ヱペチカトランデ
チケット:前売 S席 6,000円 A席 5,000円 高校生以下 2,500円
当日 6,500円(全席共通)


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