ユニットR「八百屋の犬」

同じ脚本家の書いた台本を、
どちらも初演版で上演しているところは同じだけど、
千賀ゆう子企画「桜の森の満開の下」
映像を取り入れるなど現代的でシャープな雰囲気の作品だったのに対し、
ユニットRの「八百屋の犬」からは
昔話としてしか知らない
小劇場演劇ブームの時代の匂いが漂ってくるように感じた。


どこまで行っても一本道でいつも薄暗い町内の、
八百屋の三人兄弟が夜ごと犬の夢にうなされる。
夢の中では体の一部が犬のそれになって勝手に動いたり、
老婆が犬の子を孕んで呻いていたりする。
町内ではここのところ野良犬が増えており、
また白装束に長い髪の不審な女がうろつき始めている。

お気に入りの天体望遠鏡や石や布を毎朝愛でて
楽しげに暮らしていた三人兄弟が、
幾つもの夢を経て自分達に流れる犬の血に気付いていく様が秀逸だ。
他の登場人物の動きには逆に、ゆったりした舞のような動きが多く、獣のように跳ね回る三人との対比がいい。

三兄弟の産みの母親である伏姫と
「隣の馬琴」こと滝沢馬琴の対話が話の核を担っているのだが、
二人の丁々発止のやり取りは、
聞きかじりで『南総里見八犬伝』を知っていたので何とかついていけた。
岸田さんの着眼点は非常に面白いと感じたけど、
台詞と言うより作品論を聞いているような気がした。

マイクを一切使用せず完全な生演奏での音響だったため、
不意の大音量に驚くこともなく長い台詞を息詰めて聞いていく感じ。
能や狂言などの古典芸能の匂いが強くして、
昔の天井桟敷ってこんな感じだったのかなあと思いながら見ていた。

母親になることを拒む伏姫と、
三兄弟を育ててきた母親達の対比も興味深かった。
女であろうとする伏姫と母であろうとする八百屋の母達は対立し、
三兄弟は母を食い殺して、町内を野犬となって駆ける。

中上健次の「十九歳の地図」をふと連想した。
あの話の主人公の新聞配達人も、野犬のように街を駆け回る。
飼い主を失って、孤独と自由を手に入れた三兄弟。
逆に街に留まり、父親としての役割に囚われた馬琴は、伏姫の犬になる。

物語は難解だけど妙に丁寧な状況描写があったりして、
今の小劇場演劇のルーツを体感したような気分になった。
ここを原点の一つにして夥しい数の作品が今も生まれている。
合掌の思いで劇場を出た。

岸田理生作品連続上演2006参加「八百屋の犬」

作:岸田理生 演出:諏訪部 仁

2006年6月25日(日)~27日(火)

こまばアゴラ劇場

入場料:前売・予約 3000円、当日 3500円
日時指定自由席

出演
竹広零二、阿野伸八
藤田三三三(遊戯空間)、迫 希実秀(Uフィールド)
雛 涼子、野田貴子
鰍沢ゆき(演劇実験室∴紅王国)
笹森 幸(YUKI改め)
谷口洋一

音楽:白庄司 孝
照明:石田道彦(龍前正夫舞台照明研究所)
衣裳:奈須久美子
仮面・縄製作:ほたる
アクション指導:北島佐和子
宣伝美術:KIRA
舞台監督:西岡幸男

演出助手:上歩祐己(Jokers+)

制作:ユニットR
制作補:玉木康晃、玉木千裕、長野由利子

協力:理生さんを偲ぶ会
提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場

THANKS:プロジェクト・ムー、演劇実験室∴紅王国、
遊戯空間、Uフィールド、プロダクションタンク、
スパンドレル/レンジ、小林達雄、小林千里

岸田理生作品連続上演2006 企画制作:理生さんを偲ぶ会

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