榴華殿プロデュース R2 「のら猫」

 榴華殿プロデュース R2 「のら猫」公演 (9月9日-12日) が新宿タイニイ・アリスで開かれました。AliceFestival2004 参加公演です。本公演とは趣が違い、榴華殿としては珍しいコメディ仕立ての作品でした。小劇場の芝居やダンス表現を伝える新聞「CUT IN」(タイニイアリスとディプラッツの共同発行)の最新第31号で、井上二郎編集長がこの舞台のレビューをトップに掲載しています。以下、井上さんの承諾を得て、全文を転載します。

◎異言語飛び交う状況を笑いで伝える これぞ小劇場の機知
  井上二郎

 韓国人、日本人、在日中国人三世、在日朝鮮人三世の若い俳優たちが、それぞれの母国語をそのまま用いながら、言語の壁を笑いに変えて繰り広げるコメディだ。舞台が進むにつれ、言葉不用の生き生きしたコミュニティがその場に形成されていく。その活気、笑い、屈託のなさが持つ意味を、注意深い観客は見逃さないだろう。

 はじめ、洋服がびっしりぶら下がった洗濯屋の店内で主人(金世一)と女房(李知映)が韓国語で何か言い争っていると、そこにタマ(森田小夜子)が現れ、従業員募集に応募してきた旨を、当たり前のように日本語で喋る。女房はこれまた当然のごとく韓国語で受けるから会話はアサッテの方向へ。トンチンカンな面談を経て話はなんとかまとまり、タマは洗濯物の片づけに入る。主人と女房がそそくさと出て行くと、今度はミー(王美芳)が仕事を求めて現れ、タマの日本語とミーの中国語のずっこけた応酬に。数分後、これも適当な解決を見てタマとミーは仲良く働きだす。が、ミーがあらゆるものにアイロンをかけたがったりして、気配はスラップスティックに。それからやはり求職中でやたらと漬け物を作りたがるモゴ(梁學允)、リッチ&グラマラスにきめて洗濯物をとりに来たおバカなマリー(愛花)、探偵オタクのハナ(内藤加奈江)、さらには正体不明の放浪少女ラン(金蘭)も登場。

 狙ってない人の顔にモップの先が飛んで行く、「撫でてくれ」を「殴ってくれ」と聞き違えて殴る、あるいは日本語の語尾にやたらとスミダをつけて意志疎通を図る…。言葉が通じないことを逆手にとり、あるいは、その場のノリで雑駁な理解を成立させながら、俳優は伸び伸びと笑いを巻き起こしていった。

 この粗製濫造風のコメディは、言葉が違う人々の交流の実際をおおげさにデフォルメしながらたいへんよく伝えている。家庭や職場、飲食店の厨房や小劇場の楽屋、私やあなたの隣家。すなわちアジアの巷に無数に存在するその現場では、言葉の壁に逡巡するヒマなどなく、機知とギャグで壁を飛び越え、相手と自分の関係を見いだしていくしかない。舞台のちゃらんぽらんな方法は、じつはそういう真実をとらえる機知である。

 これは今の東京の状況を肌で感じ、率直に見つめるところから生まれた作品だ。逆に言えば、ようやく小劇場でごく自然に話題になるほど、異文化混交状況が熟して来たということかもしれない。だからこそ、この舞台には招聘とか翻訳上演という「交流」にはないリアリティがあるし、この地点から、例えばオフオフ・ブロードウェイの名作である「インド人はブロンクスへ行きたがっている」のような言語の壁を扱う秀作も生まれるのだろう。この先が楽しみである。ともあれ、なによりまず出演した俳優たちとって、本質的で根強い交流の端緒となったのは間違いないと思う。
(井上二郎 「CUT IN」編集長)

☆榴華殿プロデュース R2 「のら猫」
☆作・演出=川松理有
☆出演=森田小夜子 内藤加奈江 愛花 金蘭 金世一 李知映 梁斅允 王美芳
☆劇団サイト http://www.rukaden.com/


投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表