「劇団、本谷有希子」の第9回公演「乱暴と待機」が新宿シアターモリエールで開かれました(4月8日-17日)。自分の名前を劇団名にする1979年7月生まれの23歳。第7回公演の「石川県伍参市」が岸田國士戯曲賞の候補作になり、「ユリイカ」「新潮」などにエッセーや小説を執筆。この4月からニッポン放送「オールナイトニッポン」のパーソナリティーも務め、小説「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(04年12月「群像」掲載)が三島由紀夫賞の候補作になるなど、いま注目の作家です。ネット上に公演レビューも数多く掲載されています。
劇団のWebサイトによると、あらすじというか、次のような設定で物語が進行するようです。
2人の関係は舞台でどう具体化されているのでしょうか。「Somethig So Right」サイトは次の個所をピックアップしています。
「おにいちゃん、明日は思いつきそう?」
「思いつくさ」
「そう、よかった」
象徴的かもしれませんね。
実は、さらに続きがあるようです。「正しくも松枝日記」によると「そう、よかったね」と答えた後、「カレンダーに丸印をして/そして電気を消して寝る」のだそうです。だめ押しですね。
「物語の前提やストーリーにはところどころ腑に落ちないことがあったし、ラストも私には特に響くものがあるわけではなかったのですが、さらりとしながら非常に狡猾でいやらしい精神的SMの世界に、どっぷりはまり込んでめちゃくちゃ楽しませていただきました。あの少し冷めた視線からのどん底のいやらしさは、女性ならではのものじゃないかなぁ。いや、本谷さんならでは、なのかもしれませんね」と言うのは、「しのぶの演劇レビュー」サイト。相変わらず精力的な舞台渉猟ですが、目の付け所がほかのレビューとは違って、かなり食い込んでいるように思います。
なるほど、なるほど。失禁シーンを取り上げたのは、「しのぶ」さんだけではないでしょうか。
全体のイメージはどうなのでしょうか。「無駄だらけの毎日。」サイトの「更紗」さんはこうまとめています。
「ヤサぐれ者の魔窟vs発掘亭日乗越」サイトの乗越たかおさんは「小劇場的という設定としてはある種オーソドックスともいえる造りなんだが、よくできていて、引き込まれる。『突き放した感』と『いきなり懐に刺し込む感』の緩急が絶妙。相当に削いでいっているのがわかる」と感心しています。
役者の皆さんも魅力的だったようですが、特にスウェット姿の馬渕英里何さんは印象深かったようです。「主演の馬渕さんのスウェット+メガネ姿がエロ心をくすぐりました。作家は女性ですが、女性にもこういう心が分かるんですかねえ。。。不思議」(きくちブログ)
「芝居に熱中すればするほど、観客は繰り返し馬渕英里何のジャージ姿を意識させられることになる」(a piece of cake !)
「馬渕英里何さんの灰色スウェットの上下がめちゃくちゃいやらしいです。これをいやらしいと思ってしまっている時点で私の好み(嗜好)ってヘン?男性っぽいでしょうか?」(しのぶの演劇レビュー)
「このスウェット、妙に着古してあってぺらぺらで、スウェットのエロスというものを感じることが出来ます」(正しくも松枝日記)
スウェット姿は本谷有希子の狙いだったようです。馬渕英里何との対談(前半)で、「馬渕さんに出演してもらうって決まった時、まず「スエット!」って思ったのね。ホリプロから呼んどいてスエットしか着てない役っていうのも「いいよねー」と思ったし、他の人が当てないような役を当てようという狙いもあって。他では見れない馬渕さんをうちで見せようと思うから」と語っている。
とまあ、だらだら書き綴ってきました。みていないと、あれもこれもと気が散りますね。このほか取り上げ損ねたレビューもいくつかあります。追記の形で取り上げます。しばらくのご猶予を。
劇団サイトは、本谷本人の日記のほか、この公演に出演した役者座談会や、演出助手の女性による演出・制作エピソードが盛り込まれたりして、なかなか興味深い読み物になっていました。
[上演記録]
「劇団、本谷有希子」第9回公演「乱暴と待機 」
新宿シアターモリエール(4月8日-17日)
□出演者
馬渕英里何
市川訓睦(拙者ムニエル)
多門 優(THE SHAMPOO HAT)
吉本菜穂子
□スタッフ
作・演出 … 本谷有希子
舞台監督 … 宇野圭一+至福団
舞台美術 … 中根聡子
照明 … 中山 仁(ライトスタッフ)
音響 … 秋山多恵子
演出助手 … 福本朝子
小道具 … 清水克晋(SEEMS)+山本愛
衣装 … 金子千尋
宣伝美術 … 風間のう
宣伝写真 … 引地信彦
WEB担当 … 関谷耕一
制作助手 … 嶋口春香
制作協力 … (有)ヴィレッヂ
制作 … 寺本真美 中島光司