平田オリザ/金明和作「その河をこえて、五月」

 「日韓友情年2005」記念事業の一環として開かれた公演「その河をこえて、五月」は2002年サッカーワールドカップ共同開催の年に生まれ、日本では朝日舞台芸術賞グランプリに輝き、韓国・ソウル公演でも好評を博して権威ある演劇 … “平田オリザ/金明和作「その河をこえて、五月」” の続きを読む

 「日韓友情年2005」記念事業の一環として開かれた公演「その河をこえて、五月」は2002年サッカーワールドカップ共同開催の年に生まれ、日本では朝日舞台芸術賞グランプリに輝き、韓国・ソウル公演でも好評を博して権威ある演劇賞を獲得、日韓ダブル受賞となった作品の再演でした(5月12日-29日、新国立劇場小劇場)。作者は日本側が平田オリザ。韓国側は1997年の劇作家デビュー後、立て続けに演劇賞を受賞した劇作家金明和。演出は李炳焄と平田オリザが共同で当たったそうです。
 新国立劇場Webサイトによると「言葉の通じない状況で、なんとか意思疎通を図ろうとする人々の姿。日韓の歴史的関係、家族の絆、在日問題。そして、国家観、習慣の違い、民族を超えて共感できる人間のつながり……。“異国間コミュニケーション”をテーマに、ソウルの人々が集うという河原の風景を切り取り、出会いと別れを織り込んだ会話のなかから、“日韓の現在”の断片が静かに描かれ」ます。


 「Somethig So Right」の今井さんは「最近の東アジアの政治状況は憂慮すべきだが、実は今年、日韓友情年、なのだそうだ。そうした政治状況は別にして、この作品時代は素晴らしい両国演劇人のコラボレーションだ」と押さえた上で、「平田オリザ流のいわゆる『静かな演劇』の調子が保たれており、派手な動きやドラマはないのだが、ひとつひとつの会話や出来事に、日韓関係がかかえる様々な問題が浮き彫りにされており、目が離せない。二時間半近い上演時間も気にならず、集中した」と述べています。

 「現代演劇ノート」サイトの松本さんは冒頭、次のように始めます。

再演となる『その河をこえて、五月』は、さしあたり〈文化(間)翻訳をめぐる物語=ドラマ〉といえようが、細かなエピソードやモノを介して展開していく話題の多くは、むしろ花見に集まった様々な人々の間に走る〈境界線〉を次々と浮かび上がらせてしまう。従って、展開につれて舞台は〈文化(間)翻訳が頓挫してく反・物語=ドラマ〉といった様相を深めていくのだが、不思議なことに、それと同時に、舞台には力強いまでの明るさが、とある深さをたたえながら満ちていくようなのだ。『その河をこえて、五月』とは、こうした不思議な、そして実に演劇的な魅力を持った作品なのである」

 ここにすべてが集約されていますが、そのあとで「相互理解」に関して次のように述べたくだりがあります。

最後まで会話は何度も挫折し、相互理解は思うようにいかず、双方が安定した場で、共有のコードによって何かが〈伝達=翻訳〉されることは、極めて少ない。となれば、問題なのは「こえる」ことでも「こえたあと」のことでもなく、文字通り「こえて」という、多面的に構成される溝をこえていこうとする絶えざる伝達可能性に向けた運動=意志であるに違いない。
このことは、舞台上ばかりでなく、舞台と客席の関係にも転移している。舞台では、何度か客席が河に見立てられるが、おそらく、日韓双方で上演されるこの作品は、他の多くの演劇作品(真価や意図はおくとして)が「通じる」と思っている言語や身体のコードをあてにしていない。むしろ、そうしたコードの成立が、極めて困難であるということを自覚するところから作られたのが『その河をこえて、五月』であり、だから、〈困難を引き受けながら、絶えざるつながるための営為を繰り返す〉という意味において、この物語は、演劇という形式を模倣しており、あるいは、演劇という表現形態に対して、上演それ自体を通じて批評的に関わろうとした意欲作であるとも言える。そうした言葉の正しい意味において『その河をこえて、五月』は「メタ・シアター」とも言えよう。

 平田演劇を系統的に読み解いてきた蓄積だけでなく、冷静な視線がリアルと演劇の形作る関係を見通しているように感じられます。

 東京公演は終わりましたが、大津・富山・北九州・神戸・富士見(埼玉県)で公演が予定されています。

[上演記録]
「日韓友情年2005」記念事業
その河をこえて、五月
 新国立劇場小劇場(5月13 日-29日)

 全国公演/大津・富山・北九州・神戸・富士見
   大津公演/びわ湖ホール
   富山公演/オーバード・ホール
   北九州公演/北九州芸術劇場
   神戸公演/神戸文化ホール
   富士見公演/富士見市民文化会館
   
作 : 平田オリザ/金 明和
演出 : 李 炳焄/平田オリザ

美術 : 島 次郎
照明 : 小笠原 純
音響 : 渡邉邦男
衣裳 : 李 裕淑/菊田光次郎
ヘアメイク : 林 裕子
演出助手 : 慎 鏞漢/申 瑞季
舞台監督 : 田中伸幸

芸術監督 : 栗山民也
主催 : 新国立劇場

協力 芸術の殿堂(ソウル・アート・センター)
後援 駐日韓国大使館 韓国文化院

三田和代 小須田康人 佐藤 誓 椿 真由美 蟹江一平 島田曜蔵
白 星姫 李 南熙 徐 鉉喆 鄭 在恩 金 泰希

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

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