とくお組「マンション男爵」

 慶応義塾演劇研究会出身の「とくお組」第4回公演「マンション男爵」が東京・渋谷の LE DECOで開かれました(6月15日-19日)。昨年のガーディアンガーデン演劇フェスティバルでは残念ながら出場枠から外れましたが、多く … “とくお組「マンション男爵」” の続きを読む

 慶応義塾演劇研究会出身の「とくお組」第4回公演「マンション男爵」が東京・渋谷の LE DECOで開かれました(6月15日-19日)。昨年のガーディアンガーデン演劇フェスティバルでは残念ながら出場枠から外れましたが、多くの審査員が実力を認める存在でした(「公開審査」参照)。ぼくも予選審査会場にいて、彼らのパフォーマンスに感心した記憶があります。
 明治通りに面したビルの5階。マンションの一室らしいフロアーが会場です。時間ぎりぎりに入場したら、すでに大きなテーブルを囲んで「男爵」たちが席に着いています。すぐにメンバー同士が口論したりして内輪もめの様子でした。


 一段落したところで、片想いに悩む若い男が、会場入り口から入ってきます。恋の成就のために、男爵たちがそれぞれの特技を生かして悩みの原因を特定し、さまざまな手段を駆使して解決策を授けていきます。コンピュータを使って分析するアナリスト(クロコダイル男爵)、恋の相手に他人の名を騙って電話するネゴシエーター(スネーク男爵)、ダンディー気取りで説教を繰り返し、挙げ句の果てに豹柄の服装を強要するホスト(タイガー男爵)、そしてトイレットペーパーで恋の行方をみせようとする占い師(ポテト男爵)はストーリーの節々でボケ役を演じてみせる…。エピソードの割り振りやストーリーの起伏作りなど腕は確かです。

 会場の使い方が変わっていました。テーブルと同じフロアーの3面に客席がセットされ、正面にはスクリーンが張られています。怪しげなデータ解析はここに大写しされるわけです。扉を開けてベランダでケイタイを傍受しようとすると、会場には街の騒音が飛び込んできてなんとなくリアルな感じがします。大詰め近く、恋敵を妨害しつつ、女の子の行動を見張る場面を「おはしょり稽古」サイトのあめぇばさんは「場所いじり」として次のように書いています。

 出演する役者を決めてから台本を書くことを「あて書き」と言うけど、今回のとくお組の公演は劇場版「あて書き」かもしれない。観客と同じドアから相談者は入り、クロコダイル男爵はベランダに通じる扉から外に出て、パソコンで相手の女の子の居場所を特定する。
「いました!」
「どこだ!」
「向かいのスターバックスコーヒーです!」
 この辺のやり取りは学園モノの学生劇団のノリだ。「マンション男爵」のすごい所はこの場所いじりを徹底させて、最後は実際に役者を(道路向かい側にある)スタバまで往復させてしまったところだ。(といっても真意は観客には分からないのだが)

 相談者を助けるつもりでアルバイト先の店長に電話したポテト男爵が、ささいなことでキレて店長と怒鳴り合いを演じたり、ケータイ傍受用のアンテナが鉄製のフライパンだったり、まことしやかな口舌と裏腹に、実際は恋の行方をあらぬ方向にそらす場面作りは会場の笑いを呼んでいました。この辺の呼吸は、好みの人にはこたえられないでしょう。よくできたシチュエーションコメディーと言っていいのではないでしょうか。ポテト男爵を演じた役者の個性が笑いに拍車をかけていました。

 今回の公演はおもしろかったのですが、フォーマルウエアに身を固め、舶来の「男爵」を演じる姿は、やはりどこか窮屈な印象を免れません。昨年のガーディアンガーデン演劇フェスティバルでみせたコント・パフォーマンスは軽快でしゃれていて、みていて気持ちが伸びやかになりました。しゃれたコントを連発して見せた舞台とガチガチに筋書きを固めた舞台と、劇団の才能の幅を見せてもらいましたが、これからどちらの流れに乗っていくのでしょうか。
(北嶋孝@ノースアイランド舎)

[上演記録]
とくお組 第四回公演『マンション男爵』
渋谷 LE DECO(6月15日-19日 )

脚本・演出 徳尾浩司
キャスト 堀田尋史、岡野勇、篠崎友、北川仁、鈴木規史、永塚俊太郎
舞台監督 高山隼佑
舞台美術 山崎愛子・久保大輔・金子隆一・恩地文夫
照明 中島誠
音響 とくお組
映像 岡野勇
制作 飯塚美江・菊池廣平・吉田陽子・佐藤仁美
宣伝美術 飯塚美江

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

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