南船北馬一団「どこかにいます」

 大阪を拠点に活動している南船北馬一団が、2000年夏に上演した「どこかにいます」の改訂版再演を東京・梅ヶ丘BOXで開きました(8月4日-7日)。子供のころの友達関係やほのかな好意を、大人になってから記憶の底をかき回しな … “南船北馬一団「どこかにいます」” の続きを読む

 大阪を拠点に活動している南船北馬一団が、2000年夏に上演した「どこかにいます」の改訂版再演を東京・梅ヶ丘BOXで開きました(8月4日-7日)。子供のころの友達関係やほのかな好意を、大人になってから記憶の底をかき回しながら引き揚げるとどうなるか-。いまの微妙な人間関係を映しつつ、繊細かつ濃密に作り上げるサイコスリラーとも言える舞台になっていました。


 いまは廃校になっている小学校の講堂、という舞台設定です。成人式から8年後に再会を約束して集まった女性2人、男性1人の元同級生。やがて男性と結婚した同級の女性が欠席することが明らかになり、その女性が好きだったクラスメイトの男性との関係をめぐって話がもつれていく…。いやその前に、先に来ていた女性の間でも、無意識か隠微か判然としないいじめの加害と被害をめぐってエキサイトしたり、未婚既婚の差異を微妙に投影しながら、起伏と緩急の織り込まれた会話が続きます。手元に台本がなくて具体的に再現できないのが残念ですが、他人には計り知れない「ささいな」いじめ行為をいささか辟易するほど丹念にあげつらうときの運び方に作者の力量がうかがえるように思えます。

 現在は過去とのつながりで成り立っているとの強い執着が、無意識のうちに登場人物を支配しているようです。やり取りすることばはまっすぐ相手に向けられ、退路を断つほどに追い詰めるので、心理的緊張は次第に高まっていきます。舞台に立つ3人の関係が段々濃縮され、ラストのクライマックスでいくつかの謎を仕掛けたどんでん返しが用意されています。

 過去と現在を出入りする演出にも工夫が凝らされていました。会場は狭かったのですが、その狭さを逆用するように、実際の出入り口がそのまま講堂の出入り口とされ、入ったすぐ前のスペースがステージになり、座席はその両側に作られていました。昔の大事な記憶を蘇らせる場面は、白いレースのカーテンがざざっと引かれます。ライトを絞りながらカーテンの内側で交わされる会話は、確かにベールのかかった空気を醸し出していました。

 思い出探しの旅はどこかで、さまざまな距離感を失いがちです。その旅が同級会という場で実行されたら、現在の人間関係とはまた違った局面をもたらすのでしょうか。それぞれの感情の接近・遭遇という心理状態を克明に、ドラマ仕掛けで見せてもらった気がします。2001年度の第7回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した作者の才能の片鱗が見えたと言っていいでしょうか。

 作・演出の棚瀬美幸さんは海外研修派遣制度によるドイツ留学が決まっているそうです。しばらく活動休止する最後の公演とのことでした。厳しい寒さとそびえ立つ建築物の土地に1年余り滞在した後、どのような演劇体験を持ち帰ってくるか楽しみです。
 東京公演は終わりましたが、大阪公演が8月18日から精華小劇場で予定されています。

[上演記録]
南船北馬一団「どこかにいます」
東京・梅ヶ丘BOX(8月4日-7日)

作・演出:棚瀬美幸
出演:藤岡悠芙子 谷弘恵 後藤麻友 末廣一光 他

舞台美術:柴田隆弘
照明:森正晃
音響:大西博樹
舞台監督:中村貴彦
チラシイラスト・デザイン:米澤知子
企画製作:南船北馬一団

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

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