無機王「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」

 「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」とは、ヘンなタイトルです。でも見終わって、瞬間的に「分かった」という気持ちになりました。ぶきっちょで優しい男の子と、ひりひりするような尖った女の子の、愛と追憶と再生の物語です。愛は現在から過 … “無機王「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」” の続きを読む

 「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」とは、ヘンなタイトルです。でも見終わって、瞬間的に「分かった」という気持ちになりました。ぶきっちょで優しい男の子と、ひりひりするような尖った女の子の、愛と追憶と再生の物語です。愛は現在から過去を発見する旅として設定されます。旅は追憶という名の探検であり、再生は過去の自分との切ない出会いによって成就します。台本は主人公の女子高生を陰影深く造形し、演出は場面と時間を複合的に配置し、主演の女優は余韻の残る印象的なシーンを刻みました。

 まず弟思いの女子高生、思い詰めた少女の造形が鮮やかです。「姉弟」系は、記紀の世界にさかのぼるまでもなく性的色合いを帯びつつ、連綿と語り継がれてきたモチーフです。映画化された幸田文の「おとうと」や、鷺沢萌のデビュー作「川べりの道」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。恵まれない家庭に育ち、かばい合って生きるけなげな姉と心優しい弟。大人びた視線を抱え込まざるを得ない少女という役割は、この舞台にも通底します。「trip in a day」の三梨朋子さんはそんなかたくなな少女像を手始めに「うんうん、センスあるよ」というタイトルで舞台の魅力を次のように書いています。

主演の中島佳子さんが、とにかく素敵!!
他人には自分の感情を素直に表せず、いつもむっつり怒ったような表情しかしない,そんな桜井薫子をこんな魅力的な少女として具現化。
(中略)
共演者の千秋役の高橋さんもドン臭くて一途な高校生を好演。始めはパッとしなかったけど、薫子を好きになって追っかけだしてから、どんどん彼の魅力が出てくる。
ありそうでない、透明感のある繊細でどこかとぼけた空気感。説明を排して、間を大切にした演出。どこか不器用で、ちょっとした不幸を抱えながらも、健気に自分をまっとうしようとして交錯する人物達。しかもそれらがいつしか現代のファンタジーへと、ユーモラス、かつ切ないアンサンブルを奏でていく。
センスあるよ、無機王。

 映像作家らしい、的を得た指摘ではないでしょうか。
 ほかにも気持ちを抑えかねたような表現がネット上に見えました。

「しかし、中島さんは本当にすごい。(中略)見た目のリアリティもさることながら、押し込めた気持ちや堅くなな決心、情感を身体の内側に留めるといった様な感情表現をそれはもう豊かに演じてらして」(「芝居のコトトカ」)
「寂しくて、かなしいお話だったのですが、それを淡々とこなしてました。ちょっとした仕掛けもありましたし。前向きは終わり方ではありませんでした。後味、、悪くないです。」(しばい日記
「芝居自体の良さよりも、一旦自分の中で消化してから思い出して、自分の記憶と芝居から得た想像を混ぜ合わせてもう少し後になってじわじわわかってきそう」(肥溜め日誌

三田村組」を主宰する三田村周三さんもベタ褒めですが、ベテラン俳優だけあってさすがに目配りが利いています。

今回はズバリ(その他の回のことは知らないが)青春モノ(あまり好きな言い方ではないが)いい!みずみずしい!良い感性をしている。
作・演出良し。役者良し!
王子小劇場を構成舞台にして、実にシンプルにうまく使っている。
(中略)いくつかに段差された空門と、大きな寺の階段と、玄関として使用される開き戸、他に具体的なモノは一切無し。それでいて、八方向位の行き来ができ、その奥がお客に実にうまく想像できる。
この芝居の良さは、青春モノでありながら出てくる男が全員バカで情けないことだろう。

 たしかに男たちはウブでブキッチョ、心優しい分どこか間が抜けていてますね(笑)。主人公の薫子に恋心を抱く男の子は一途だけれどもぎこちなく、お寺で修行中の若い坊さんもエロ雑誌をばらまいてうろたえ、ちょっとおませな寺の息子は転がり込んできた女にすぐ参ってしまう。それに引き替え、女たちはなんと魅力的でしょう。薫子はもちろん、バツイチのお寺の娘も、寺の縁の下に住み着く正体不明の女も、薫子の弟の恋人も、けなげだったり切なかったりしても、みんな自分の意思で行動しきっぱり生きていく。女性へのあこがれの視線が濃厚でした。

 とは言っても評価の分かれる部分はあるかもしれません。「休むに似たり。」は「終盤10分で、積み上げてきた人物たちを物語に解き放って、一気に世界を見せる鮮やかさが凄い」と評価しながらも、「しかし、この想いは芝居の見かけに反して屈折ぐあいもただものではありません。この一点を観客が受け入れられるかどうかに全てはかかっていて、もし評価が分かれるなら終着点をどう見たか、だろうという気もします」と述べています。

 現在が過去に出会うという構造は、物語生成によく出てきます。和解と再生の結末を用意するのもパターンだといえるでしょう。しかしそれを超えて、傷を負った家庭でけなげに生きる姉弟と周囲の人々を、確かな視線でしっとりと、ときにユーモラスに描く力に才能を感じました。
 作者の渡辺浩一郎はほかの劇団に作品を提供したり演出する機会も増えているようです。確かにそれもうなずける舞台でした。

 前作「こどもの国、おとなの城」も家族をモチーフに、過去との出会いを描いていたようです。「久々の観劇でやられました。泣いた(ノ∀`)。家族を描いた物語で、主人公の少年時代(思い出)と現在を交錯した演出がなされており、最後に積み重ねられたものがぶわっと来た」(僕と云フ事)「人間の悲しみとかが上手く描かれていて、ちょっと注目株」(踊る芝居好きのダメ人間日記 )「本来の目当てである中島佳子は、ますます気になる存在になってしまった。本当に素晴らしい。写真で見るとなんとも思わないのだが、芝居で見る中島佳子には心がときめく」(ンチャ通信)などなど、底流のトーンは今回とも共通していたのでしょうか。

 無機王の舞台を見て、青木豪の作・演出で知られる「グリング」公演を思い浮かべました。くそったれな日常を突き抜けたりぶっ壊したりする新奇さではなく、移り変わる世の中の底から、変わりきらない何かをすくい上げる作法、行き違ったり捻れたりしながらも密かに通い合う人々の心象風景を描くところに、どこか共通するものを感じます。型を得て脂の乗り切ったグリングに比べて、若い無機王にはまだ延び白があります。易きに流れず丸くならず、エッジの利いた舞台をこれからも期待しましょう。
(北嶋孝@ノースアイランド舎)

[上演記録]
無機王第9回公演「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」(王子小劇場提携)
王子小劇場(5月11日-14日)

出演:
中島佳子
西松希
西山竜一
山田佑美
山﨑康代
―――――
大塚秀記(つよしとひでき(trf))
高橋康則(マーク義理人情)
内山ちひろ(インパラプレパラート)
大矢場智之(インパラプレパラート)
趙徳安(アンテナ)

スタッフ:
作・演出:渡辺純一郎
照明:上川真由美
宣伝美術:小川紀子
制作:無機王
制作協力 Habanera

協力:
王子小劇場
松本 謙一郎


投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください