連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第12回

||| 劇場にも学芸員のような専門職を

―最後に、劇場法(仮称)について伺いたいんですが、これについては、もちろん賛成と反対の方がいらっしゃるわけです。賛成の方には、舞台作品を作ることが、どうしてこんなふうに劇場でも何も保障されていないのかという気持ちがあると思います。今のお話を伺っていて、決して美術館も博物館法に守られているから万々歳ではなくて、共通する悩みがあるのかなと思いました。劇場法を作ってほしいという今の流れについてご意見はありますか。あるいは、博物館法はパフォーミングアーツをやる上で有効に働いていると思われますか。

藤田 いや、博物館法が有効に働いていることは、まずないと思います(笑)。

近藤 ないですね(笑)。

藤田直義さん藤田 美術館が学芸員を置かなくてはならないのと同じように、劇場に研究的専門職の人を置くことが義務付けられるとすれば、劇場法も効果は上がるんじゃないかと思います。実は、全国にある県立の美術館の館長のうち専門家は半分ぐらいです。半分は県からの出向者が占めている。学芸員がいるから美術館の専門性が担保されているのです。学芸員的な職をきちんと認めていく必要はあると思います。
 ただ美術館の館長と同様、芸術監督が必要なのかというと、どうでしょうね。今はどこも非常勤でしょうが、就職口のために職を作ってるんじゃないかという感じもするし(笑)、芸術監督ではなくても、館の中に専門職の人がいれば、劇場運営はきちんと成り立つと思っています。

近藤 芸術監督制は疑問ですよね。

―芸術監督ではなく、学芸員やキュレーターとして専門の人が置かれる方がいいということですね。

藤田 そうです。

近藤 私も最初は、パフォーミングアーツをやるような劇場でも、制度化されて、職員の中に制作者のポジションができていくことはすごくいいと思ったのですが、話を聞いていくと、どうしても上から目線で、東京中心の中央集権的な考えで、芸術監督を置かなくちゃいけないという発想ですよね。
 それから、文化庁が出している「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」などにしても、残念ながらうちのようなところは、申請書を書いても枠組みからはずれてしまうんですね。
 何か、この劇場法というのは時代に逆行してるなと感じるんです。いろんな意味で、1980年代、90年代に理想とされた劇場に対しての法案のような気がしてならない。今は、そういうふうに箱で分かれるというよりは、もう少し機能的な形で進んでるような気がします。一番言いたいのは、携わっていくスタッフがちゃんと育っていくような環境を、まずは作ってほしい。そういう人たちの層が厚くなれば、おのずと制度的なものも解決されていくと思います。
 トップに立つ人間について言えば、私は藤田さんに非常に期待してます。というのは、美術館の中でも、館長はほとんどの人が県のお役人、もしくは美術の専門畑を歩んできた人の最終的なポジションみたいになってると思うんですが、藤田さんのように、民間出で公演運営などに携わってきた方が館長になったということは画期的だと考えるからです。これからの美術館や劇場の在り方としても、藤田さんのような方の影響力がもっと出てくるんじゃないかなと思うし、流れを変えていただきたいですね。

―違う分野から来られた館長さんはあまりいないのですか。学芸員出身者と県や市からのお役人というのがほとんどなんですか。

近藤恭代さん近藤 だと思います。うちの秋元雄史館長は直島の地中美術館にずっといて、民間から来ているので異例といえば異例ですけれども。でも、ずっと美術畑を歩いてきた人です。
 ところで、おしまいにちょっと宣伝をさせてくださいね(笑)。私たちは、トヨタコレオグラフィーアワードの審査員なんですが、昨年の受賞記念の古家優里「プロジェクト大山」の「キャッチマイビーム」を9月11日に高知で上演し、最終公演として10月29日・30日に金沢でやります。
 最近、助成金は“作る”方に重きが置かれ、クリエイション、それも初演やレジデントなどにシフトしていて、再演へのサポートが少なくなってしまっているんです。でも問題もありだなって感じるんですね。初演された作品の完成度を上げていくためには、やっぱり再演も非常に重要になってきますから。せっかく生まれた作品が、ある程度ちゃんときっちり評価されていくようにしたいなと考えて、今回は巡回公演をやろうとしています。

―なるほど、初演の誘致やレジデンスをやる一方で、巡回公演については、再演による完成度と評価の高まりを意識されるということですね。

近藤 それからもうひとつ、今後の私たちの最も大きい仕事として、2013年に向けて日・英・韓合同演劇プロジェクトというのがあります。韓国のガンジュ(光州)にアートセンターができるんですけど、韓国は、演劇・パフォーミングアートのアジアのハブを自国に持ってこようとしていて、政府の支援もあって力を入れてやってるんですね。
 その一環として、ガンジュと高知と金沢で、俳優は各地で選び、空きビルや廃屋を使って同じテーマの作品を各地で作るというプロジェクトなんですが、これにとりかかり始めました。韓国のチェ・ソッキュウというプロデューサーと、イギリスのトリスタン・シャープスという「ドリーム・シンク・スピーク」というグループの演出家がコアメンバー。3年の長いプログラムで、初演の目標は2013年の秋です。

藤田 最初の出会いは、オーストラリアのアデレード芸術祭です。近藤さんと私と、今はスパイラルホールに移られましたが、当時山口情報芸術センター(YCAM)にいらした四元朝子さんと3人が招待されていて、一緒に見たんです。
 「ドント・ルック・バック」という作品だったんですが、ある建物の中に3人1組で客が入っていくと、中世の図書館のような部屋が再現されていて、司書が何人もうろついている空間に迷い込んでいく。映像の流れている部屋、生演奏を聴く部屋など、いろんな部屋があって、それぞれを体験して回るという作品でした。その作品のテイストがすごく印象に残っていて、その作品を上演できないかと交渉したこともあったんですけど、あまりにも膨大な時間と経費がかかるということで一旦諦めたんです。
 それが、うちに山浦日紗子という優秀な職員がいて、去年のソウル芸術見本市でプロデューサーのソッキュウさんにお会いし、今回のプロジェクトの計画を聞いた。「あ、そのアーティストは、当館の館長が前から熱心にやりたいと言っている作家です」と。1か月後シナールでソッキュウさん、近藤さん、私が会い、具体的に話が進んできたんです。可能ならイギリスでも上演をという計画です。

近藤 そのソッキュウさんも私の「旅友」です(笑)。5年前にはじめて出会って、行くところ行くところで会ってやあやあ、みたいだったのが、ようやくお仕事を一緒にするところまでこぎつけました。

―壮大な計画ですね。今日は長時間お話いただき、どうもありがとうございました。
(2011年8月6日、水天宮ピットにて。聞き手:大泉尚子、藤原ちから、都留由子 協力:三輪久美子、松岡智子)

高知県立美術館
 1993年(平成5年)開館。鉄筋鉄骨コンクリート造り、地下3階建。電動で格納できる能楽堂を備えた美術館ホールでは、映画の上映会、ダンス、演劇、コンサートなど幅広いジャンルのイベントが開催される。ホールの座席数は、通常399席、能楽堂使用時465席。
金沢21世紀美術館
 2004年(平成16年)開館。鉄筋鉄骨コンクリート造り、地上1階、地下1階建で、建物は円形総ガラス張り。併設のシアター21は、フローリング床に156席の可動席(補助席を入れて最大182席)を持つ多目的スペース。

【略歴】
藤田直義(ふじた・なおよし)
 1955年高知市出身。立命館大学法学部卒業。四国銀行勤務のかたわら実験映画やドキュメンタリー映画の自主上映活動を約15年間行う。1994年、主に高知県立美術館ホールの企画を担当するアート・コーディネーターとして着任。ダムタイプとの共同制作やピナ・バウシュ小品など250以上の演劇・ダンス・映画・音楽等の企画を実施。映画「ちんなねえ」、ビデオ「和紙の身体」、CD「水辺の情景」の制作も行う。兼務の高知県文化財団企画課長として、各種研修会の開催や「高知県立美術館事業評価プロジェクト」「高知県立美術館の指針」「高知県立美術館ホール活性化計画」策定を主導。2006年4月より副館長。2007年4月より館長。

近藤恭代(こんどう・やすよ)
 クラシック、邦楽、現代音楽の公演や、美術、ダンスとのコラボレーションなどの制作を経験。1996-2000年、神奈川県立音楽堂の音楽プロデューサーを経て、フリーランスとして芸術全般に関係するイベントのコーディネートに携わる。2004年4月より金沢21世紀美術館チーフ・プログラム・コーディネーターとして美術館のパフォーミングアーツ部門を担当、現代を視点に置いたイベントや市民参画型プログラムを展開中。カリフォルニア大学サンディエゴ校卒。


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