#11 相馬千秋(フェスティバル/トーキョー プログラム・ディレクター)

劇評コンペは今年…

-もう一つ、F/Tでとても興味深いのは、劇評を公募する「劇評コンペ」を09秋から始められたということで、ワンダーランドとしてはとても関心があります。これは、09春が終わったときに、これだけやったのにちゃんとした劇評がなかなか出ないということで、相馬さんの発案で始められたと聞いています。これまでに2回行われて、これからも続けられるのでしょうか。その評価や今後の見通しについてお聞かせください。

相馬 そうなんです。去年は、マルターラーという巨匠をアジアで初めて招聘したにも関わらず、新聞に劇評が出なかったので、本当にショックでした。ただ、今となっては新聞というマスメディアの影響力の衰退を私が個人的に嘆いても仕方がないので、それなら自分たちで自分たちが必要とするメディアを作ろうということですね。単に情報を広く出してくれるメディアがほしいというより、議論の場、批評の場が必要だということで、劇評コンペを作りました。よかったなと思っているのは、まず、潜在的にこんなに批評を書いてくれる人がいるということがわかったこと。もちろん感想文的なものもたくさんあったと思いますが、1回目よりも2回目の方が、明らかによくなっていましたし、読み応えのあるものも出てきました。審査員の先生方が、批評とは何か、劇評とは何かということをレクチャーしてくださったおかげもあって、だいぶん定着してきたのではないかと思っています。

-今年、F/T11の劇評コンペはどうなるのですか。

相馬 まだ全然決まっていないですね。ただ、一つ考えている企画があって、批評家をレジデントしてもらおうかなと思っています。F/T期間中、国内および海外、特にアジアの国々から若い書き手・批評家を何人か呼んで、彼らに滞在してもらって、朝から晩までF/Tの作品を見たり、企画や議論に参加したりしてもらう。で、そこで考えたことを、毎日、ジャーナルという形で発信する。中国人の方は中国語で、韓国人の方は韓国語で発信すればいいし、共通の言語として英語で議論する。そういうことを3週間くらい続けると、批評家同士の間でも、いろんなアイディアのエクスチェンジが起こると思うし、それがF/Tという場にも徐々にフィードバックされていく。これはぜひやりたいと思っています。

-こういうフェスティバルを続けていくのは大変なことですね。1回だけなら、決死の覚悟でやればできると思いますが、お金のことから何から、続けていくのは本当に大変なことだと思います。

相馬 私の場合は、ANJの市村作知雄と蓮池奈緒子という、「お父さん」と「お母さん」がいることが本当に大きいですね。F/Tは、何もないところからいきなり咲いた花ではないということですね。市村と蓮池が、10年間、東京国際芸術祭で蓄積してきたものの上に咲いた花ですから。そのことは本当に肝に銘じています。打ち上げ花火なら、割と誰でもできるんでしょうが、そこで人が食べていくとか、継続して発展させていくというのは、まったく違うことですから。

-そうですね。主体となっているANJは、日本にはモデルのほとんどないことをやってこられたわけで、これはすごいことですよね。ほんとにゼロからだんだん芽を出してやっていくんですから。

相馬 市村という人が、パイオニアスピリットで、新しいモデルを作るということをずっとやってきた人だと思うんですね。時には個人宅を抵当に入れたりして。そういう世代の恩恵にあずかりつつ、それをどうやって引き継いでいけばいいのかが問われていると思います。F/Tはポッと咲いた一つの花ですが、それは、下に流れるANJという組織とそのあり方、その両方があってはじめて花が咲いているんだということを、ぜひご理解いただきたいと思いますね。
(2011年2月3日、にしすがも創造舎)

【インタビューを受けて・相馬千秋】
 わたしのような現場の人間というのは、考えと実践が同時進行していて、毎日が目の前の取組に関するトライ&エラーの連続です。そのため、自分をへんに言葉のレベルで固めてしまわないように、あまり構えず、決まった答えを用意せずにインタビューに臨むのですが、そうすると、とっさには答えられないこともよくあります。今回のインタビューでは、F/Tについてだけでなく、私個人に関する質問も多く、正直、答えに困りました。F/Tのプログラムやアーティストのことを考えている度合いに比べて、自分の過去を思い出す作業などほとんどしていないのだな、ということを改めて自覚しました。久しぶりに、過去のこと、自分のことも思い出させてくれたワンダーランドさんに感謝です。
(3月2日記)
(初出:マガジン・ワンダーランド第233号、2011年3月23日発行。無料購読は登録ページから)

【略歴】
相馬千秋さん 相馬千秋(そうま・ちあき) 1975年生まれ。1998年早稲田大学第一文学部卒業後、フランスのリヨン第二大学院にてアートマネジメントおよび文化政策を専攻。現地のアートセンター等で経験を積んだ後、2002年よりアートネットワーク・ジャパン勤務。F/Tの前身である東京国際芸術祭『中東シリーズ04-07』を始め、国際共同製作による舞台作品や関連プロジェクトを多数企画・制作。06年には横浜市との協働のもとに新しい舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」を設立、09年までディレクターを務める。07-09年、早稲田大学演劇博物館グローバルCOE客員講師。東京国際芸術祭2008プログラム・ディレクターを経て、フェスティバル/トーキョーのプログラム・ディレクターに就任。

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