振り返る 私の2012

宮本起代子(因幡屋通信/因幡屋ぶろぐ主宰)

  1. オフィスコットーネプロデュース「黄色い月-レイラとリーのバラッド」(デイヴィッド・グレッグ作、谷岡健彦訳・ドラマツゥルク)
  2. モナカ興業「旅程」
  3. 瀬戸山美咲(ミナモザ)作・演出「ファミリアー」(みきかせプロジェクト「大吟醸マテリアル」より)

「黄色い月-レイラとリーのバラッド」公演チラシ

 演劇が劇場内にとどまらず、みた人がさまざまなことを考えるきっかけ、劇世界と実社会をつなぐ水路になりうる作品として、上記3本を挙げる。
 『黄色い月』は本国スコットランドで2006年の初演以来、多くの学校を巡演しており、本邦初演がわずか5日間だったのは残念である。『ファミリアー』は小中学校での公演が検討されている由、親御さんもぜひ一緒に。『旅程』は舞台慣れしていない人にとっていっけん別世界風の作りであるが、女性が社会で男性とともに働く功罪や軋轢という視点から一種の社会問題として読み解くこともできる。
 ごく一部の演劇ファンの閉じられた文脈のなかだけでなく、むしろ日ごろ演劇になじみのない観客との出会いによって、思いもよらない方向に舞台が進化したら。そしてそれがこの国における演劇の認知度、必要性への意識を高めてゆくことにつながったら。3.11の衝撃と苦悩と混乱が続くなかで、3本の舞台は暗い道を照らす希望の光である。
(年間観劇数 118本-12月20日まで)

小泉うめ(会社員)

  1. 空想組曲「組曲『回廊』」
  2. ロリータ男爵「はんぶん隠し味」
  3. 劇26.25団「秘密の繭」

「組曲『回廊』」公演チラシ

 東日本大震災から一年余を経過した。「人生」を今現在の感覚で壮大に語る舞台に心を動かされる機会が多かった。また皮肉なことでもあるが、従来の日本人には広く理解され難かったような「不条理劇」が熱心に数多く公演されており、そしてしっかりと受容されていることを客席からも感じている。
 さて、3本は小劇場の新作公演に限定して選んだ(観劇順)。気付けば全て下北沢OFF-OFFシアターである。いずれも先ずキャスティングが楽しく、魅力的な役者を活かしきっていた。
 1は、物語が溢れて止まらない作家が案内する夢の回廊。「深海のカンパネルラ」での銀河鉄道の深海への旅も幻想的だった。
 2は、姥捨山の山頂の喫茶店を守るための現代日本演劇の象徴との闘争。出演者の「演劇100人組手」での即興力も記憶に残っている。
 3は、大切なものを守る繭を群像でコラージュし、そして見事に羽化させた。同作家はセカイアジ「熱の華」でも骨太かつ繊細な脚本を書いている。Twitter: @co_ism1_U_Me
(年間観劇数 210本)

齋藤理一郎(会社員、個人ブログ「R-Club Annex」)

  1. シンクロ少女 「オーラルメソッド2」
  2. マームとジプシー「真夏のリプライズ-マームとジプシー reading EUREKA」
  3. 月刊「根本宗子」「保母、処女」

「保母、処女」公演チラシ

 小さな場所での公演の中から特に印象の深かった3本を選びました。沢山の心惹かれる舞台に巡り会えた1年で、劇場以外の小空間での公演からもふくよかな果実を受け取ることができました。ブルーノプロデュース、Collol,miel、東葛スポーツ、ナカゴー、ぬいぐるみハンター、gojunko、鳥山フキ個人企画等々、実に多くの団体の作品に捉えられました。
 また今年は、王子小劇場などでの演劇祭、演劇アトラクションLINX’Sや鬼フェスなどのイベント公演、青年団やナカフラの『演劇展』、月刊「根本宗子」やMUなどの同じ会場での連続公演、DULL-COLORED POP「完全版・人間失格」x2や「愛のゆくえ(仮)」x3のような異なる演出での戯曲の世界のさらなる描き出しや、工場の出口が用意した作劇の過程を共有するメニュー等、作り手の、作品を広く深く有機的に観客に供するための様々な企てや挑戦に成果が生まれていたように思います。あと、KAATでのnottDance、おもしろかったなぁ…。
(年間観劇数 300本をかなり超えました)

手塚宏二(CoRich舞台芸術担当演劇コラムニスト、CoRich手塚の小劇場応援ブログ

  1. ラッパ屋「おじクロ」
  2. おぼんろ「ゴベリンドンの沼」
  3. ハイブリットハイジ座「シアターグリーンにて~立った立ったハイブリットクララが立った!!~」

ラッパ屋「おじクロ」公演チラシ

 毎回安定して感動的な作品を提供してくれるラッパ屋だが、今回の「おじクロ」はその集大成のような作品。不景気で苦しい時代をそれでも強く生き抜く親父達の生きざまは見事。初日に観たが初日から完成度が高く、終演後観客の拍手が鳴りやまなかったのが印象的。
 おぼんろ「ゴベリンドンの沼」は今年私が見た演劇の奇跡のひとつ。30人くらいが定員の廃工場での公演が口コミで評判になり、客が客を呼び、なんと楽日は110人も観客が交通の便の悪い工場に集まった。いい作品を作れば客が集まるという代表例。
 最後に今年シアターグリーン学生芸術祭でグランプリを獲得したハイブリットハイジ座。2時間を超す大作ながら圧倒的なスピード感で、中だるみするどころかまだまだ終わらないでほしいと思ったくらいの作品。久々に新しい時代を切り開く才能の登場を感じた。これからの伸び代がどれくらいあるのか楽しみでならない。
 他にもぬいぐるみハンター「軽快にポンポコと君は」、FUKAIPRODUCE羽衣「耳のトンネル」、ポップンマッシュチキン野郎「こい!ここぞというとき!」、テノヒラサイズ「テノヒラサイズの飴と鞭と罪と罰」、悪い芝居「カナヅチ女、夜泳ぐ」などにも感動。
(年間観劇数 230本)

薙野信喜(演劇感想サイト「福岡演劇の今」)

  1. いわき総合高等学校演劇部「Final Fantasy for XI.III.MMXI」
  2. 時間堂「ローザ」
  3. 金魚+鈴木ユキオ「揮発性身体論」

「Final Fantasy for XI.III.MMXI」公演チラシ

 わたしの住む北部九州は演劇フェスティバルがいくつかあって、地方としては関東や関西の劇団の来演が比較的多く、観客としては恵まれている。ことしも、チェルフィッチュ、ままごと、マームとジプシー、ハイバイ、サンプル、渡辺源四郎商店、東京デスロック、岡崎芸術座、柿喰う客、鹿殺し、富士山アネット、時間堂、アマヤドリなど、多くの劇団を公演を地元で観られたのはありがたかった。
 1.は、原発事故を一片の感傷も感じさせることなく描いていた。2.は、歴史的な時間と空間の広がりを会話劇の中にみごとに凝縮していた。3.は、身体の存在感を際立たせていた。これは北九州のえだみつ演劇フェスティバルで観た。
 ほかには、日田演劇祭で観たチェルフィッチュ「女優の魂」、福岡演劇フェスティバルで観た劇団鹿殺し「暴れん坊 銀河鉄道の夜~前張り2012~」、別府混浴ゴールデンナイト!でのThe NOBEBOの金粉ショー、大人計画「生きちゃってどうすんだ」が強く印象に残った。
(年間観劇数 約140本)

日夏ユタカ(ライター・競馬予想職人)

  • 東京デスロック「再/生」(富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ、3月24日初日)
  • マームとジプシー「LEM-on/RE:mum-ON!!」(京都・元 立誠小学校、3月29日初日18時の回)
  • 快快-faifai-「アントン、猫、クリ」(横浜 nitehi works、2月16日初日)

「アントン、猫、クリ」公演チラシ

 ぐるぐると記憶を手繰っていたら、意図せず、初日にみた作品ばかりを選ぶことになった。ちなみに「再/生」は別会場でのものを含め6回、「LEM-on/RE」は4回、「アントン」は4バージョンを観ているが、ステージの上の作品の完成度でいえば、それぞれを楽々と凌ぐ回や公演があったことは間違いない。ただ、他の多くの団体の初日公演が未熟・未成熟で物足りなさを感じさせることも少なくないのとは反対に、その3本は、どこに辿り着くかわからないなかを彷徨いつづけた結果、いつしか舞台と客席との境界が融解し、観客まるごと異界に運ばれていたかのような刺激的で稀有な体験を与えてくれたのだ。それはある意味で音楽に近いが、けれど演劇の最大の醍醐味だろう。
 なお、「再/生」は、約1年をかけて全国をまわることによって強められた作品の”不親切だから親切な”引き込み力によって、世代のちがう多様な客席をみごとに繋げてしまった印象。なにより、終演後のあの暖かく、強い思いに貫かれた拍手だけで、一本の作品だったとすらいえるはずだ。「LEM-on/RE」のソワレは、白壁に佇む少女な雰囲気を連想させるマームとジプシーが、じつは夜の眷族であることを顕わにした瞬間。廃校の闇のなか出演者やスタッフや観客に混じり亡霊たちが甦り跋扈するさまを、生身の人間が味わえることはそうはない。「アントン」は、ふつうに座席に座りながらも、猫のように自由に歩きまわれ、しかもまるで野外にいるかのように、あの街の空気や匂いまでも感じられた、ほんとうに風通しのいい作品だった。
(年間観劇数 約99本)

玉山悟(王子小劇場代表)

  1. まごころ18番勝負 「”…In The Attic”」(体感型朗読公演)
  2. 劇団肋骨蜜柑同好会「つぎとまります」
  3. ナイロン100℃ 「百年の秘密」

「つぎとまります」公演チラシ

今年も去年に引き続きあまり見られませんでした。
まごころは脚本の技巧と演出の企みが見事で感服しました。
王子小劇場の演劇祭で上演された「錯惑の機序~」も大好きでした。
劇団肋骨蜜柑同好会は会話のおもしろさがバツグン。
11月によその劇場でやっていた公演を12月に王子で再演させるという荒業を使ってしまいました。
何年ぶりかでいった本多劇場でみた「百年の秘密」はもう全ての要素に感動しっぱなし。あれすごいよ。
(年間観劇数 100本から200本の間)

土佐有明(ライター、ブログ「土佐有明のPlaylist」)

  1. ロロ「LOVE02」
  2. 東京デスロック「モラトリアム」
  3. ポツドール「夢の城」

「モラトリアム」公演チラシ

 去年あたりから「役者やりたい、ロロの舞台に出たい!」と周囲に漏らしていたが、実際、春頃までは演技のワークショップやオーディションを必死で受けたり、短編自主映画に出演していた。ロックが好きでバンドがやりたくなったのと同じ思いで、俳優として舞台に立ちたいと本気で思っていたのだ。そんなこともあって、観劇と同じくらい、三浦直之のワークショップを受けたことや五反田団の受付を手伝ったことが印象に残っている。前田司郎のワークショップの「桃太郎をリアリズムでやる」というエチュードでうまいこと笑いを取れた時の快感は忘れられない。夏頃からはアイドル現場に頻繁に通うようになり、ライヴハウスと劇場で色々な人と出会って貴重な話をした。観劇本数は減ったけれど、音楽誌で劇評を書いている自分は、このまま良い意味での外様意識は持ち続けたいと思っているところ。そんなことを語る機会が最近たまたまあり、 http://diskunion.net/jazz/ct/news/6 で演劇とジャズとアイドルをまたいだ話をしました。
(年間観劇数 40本程度)

水牛健太郎(ワンダーランド)

  1. ピンク地底人「明日を落としても」(大阪公演)
  2. 演劇ユニット鵺的「荒野 1/7」
  3. ぐうたららばい「観光裸(かんこーら)」
    (上演順)

「明日を落としても」公演チラシ

 「見なくちゃ」という義務感を極力排し、「見たい」かつ「見れる」公演だけを見るよう心掛けた一年だった。各種の「話題の公演」もほぼ見ていない。それで50本というのは多い?少ない? その50本というのも「たぶんそのぐらい」で、正確に数える気すらないのだ。そんな怠惰な自分に、それでもすっと沁みてきた3本を挙げた。
 ピンク地底人は、これからの関西小演劇の一つの軸になりそうなスケール感と知性を備えた団体。鵺的の「荒野 1/7」はシンプルな演出が強靭なドラマを浮き上がらせた。ぐうたららばい「観光裸(かんこーら)」はかっこよくて切ない大人のショー。
 それで結局、私は演劇を見るのが好きなのか嫌いなのか。たぶん、そんなに嫌いではないと分かったので、来年はもう少し見ると思われる。
(年間観劇数 約50本)

武田 浩介(脚本家・ライター、「OLD FASHION」)

  • ユーキース・プロデュース「贋作 一条さゆり」@新宿ゴールデン街劇場
  • コクーン歌舞伎「天日坊」@シアター・コクーン

「贋作 一条さゆり」公演チラシ

 どんどんひどくなっていく。どんどん息苦しくなっていく。生まれた頃は世の中ってのがこんなだとは夢にも思っていなかった。そんな中で、何を問うか、どう問うか。でもって、劇という表現が何で必要なのか。そこんとこで刺激を受けた作品を選びました。ごめんなさい三本ということでしたが、二本です。規定破りだけど、岸田戯曲賞だって今年は三本同時受賞とかだったし、ま、よくね。
 まず一本目。現役ストリッパーである若林美保が伝説のストリッパー・一条さゆりに寄り添い、ぶつかり、共鳴し、そして越えようとした舞台。演じるということをラディカルに問いかけてきた。
 で、ネイキッドな女性のひとり芝居から、いきなりコクーン歌舞伎に飛ぶ。素晴らしかった。若手メインの役者陣に宮藤官九郎脚本もキッチリはまり、何かの扉が開いた感を強く感じた。だけど扉が開いたその先に、勘三郎がいなくなるという、とてつもない喪失を味わうことになるとは…。
(年間観劇数 33本)

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【注】
・記憶に残る3本は「団体(個人)+演目」を基本とした。必要に応じて劇作家、会場、上演日時などを追加した場合もある。
・団体のWebページがなかったり変更されたりするケースがあるほか、簡単な操作で各自が当該ページを検索できるようになったことを考慮して、今回は劇団や演目へのリンクは張らなかった。
・ツイッターのアカウント情報などはコメント末尾に掲載した。
・公演の画像情報は3本のうち最初の公演から。チラシ画像が入手出来なかったり先に掲載されている場合などはその次の公演から取り上げた。

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