振り返る 私の2012

高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー、「しのぶの演劇レビュー」主宰」

  • THE SHAMPOO HAT「一丁目ぞめき」
  • 神奈川芸術劇場「暗いところからやってくる」(KAATキッズプログラム2012)
  • KUNIO 10「更地」(KYOTO EXPERIMENT 2012)

「暗いところからやってくる」公演チラシ

 2012年は個人的事情で観劇本数が激減し、自分のブログに観劇感想を書く余裕もなくなった。被災地から離れた東京で、昨年の震災の影響がずっと続いていることを実感している。数年後には舞台作品も観客も、震災前とは様変わりしているかもしれない。
 ずっとそんな意識でいた今年は、崩壊し消滅する物体、目に見えなくても存在する何か、どんな悲劇的状況でも生きる人間…などを描いた作品に惹かれ、体の芯から癒された。快快の実質的な解散公演となった『りんご』も素晴らしかった。1人の女優が日本とドイツで継続開催している『原サチコのハノーファー⇔ヒロシマ☆サロン』の今後にも期待している。
(注)3作品の並びは上演順。客席数300席以下の小劇場公演から選出。年間観劇本数は195本の予定(2012/12/21時点)。

廣澤 梓(会社員、イチゲキ=ひとり観劇者の会)

  1. のこされ劇場≡「枝光本町商店街」(再演)
  2. 東京デスロック「モラトリアム」
  3. 岸井大輔「シェア大学(仮)準備室」

シェア大学(仮)準備室webから

 商店街が、白い壁に囲まれた部屋が、学びの場が、それぞれの演劇作品の起こる場所である。そこでは舞台も客席も、強力に人目を惹きつける俳優も必須ではない。その場に集まった人がもれなく俳優となり、かつ観客となる。これまでも参加型演劇や劇場の外で行われる演劇の類には関心を寄せてはいたものの、そこで体験した時間に日常生活がこれほどまでに揺さぶりをかけられることは初めてだ。STスポットで過ごした8時間の影響下に、未だいる気がしてならない。
 観劇を定期的にするようになって7年になるが、自分としては、これまでになく「動いた」1年だったように思う。これも上記3作品の影響によるところが大きい。一般向けのワークショップに参加したり(初めては枝光のアイアンシアターで)、自分でささやかではあるが戯曲の朗読会や勉強会を開いてみたり。またBlog Camp in F/Tに参加し、同世代の演劇に関心のある人たちと意見交換したことも貴重な経験となった。
(年間観劇数 60本)

林伸弥(演出家)

  1. MuDA「MuDA 菌」
  2. Baobab「~飛来・着陸・オードブル~」
  3. 選べず。

「MuDA 菌」公演チラシ

 ダンス門外漢な僕だけど、MuDAダンサーQUICK氏とBaobabダンサー北尾氏の、世界に対する、人間に対する、舞台芸術に対する切実さに心が震えた。3本とのことだが、あと1本、以下の作品はどれも甲乙付けがたいほど魅力的で選べず。メイシアター× sunday 「牡丹灯籠」・ニットキャップシアター「ピラカタ・ノート」・村川拓也「ツァイトゲーバー」・dracom「弱法師」・桃園会「中野金属壮PK戦」(順不同)。流れ的には今年も震災を扱った作品が多く、そこに大変な違和感を覚えた。もちろん芸術は現代社会の鏡であるべきだけれど、自己表現のために、震災の上辺だけを掬い取るのはやはり表現者として、人間としてやってはならないことではないか(言うまでもないことだがすべての震災を扱った作品がそうだったとは言っていない)。震災は表現のキッカケとして使い勝手がいい、という事実は肝に銘じるべきである。
(年間観劇数 50本ぐらい)

片山幹生(フランス文学、ブログ「楽観的に絶望する」)

  1. 五反田団「びんぼう君」
  2. ア・ラ・プラス「女がひとり」
  3. 前進座「さんしょう太夫」

「びんぼう君」公演チラシ

 自分でも意外なのだが、一月末に見た五反田団『びんぼう君』の印象が頭を離れない。舞台の一角のみが照明で照らされた殺風景な空間で、侘びしく切ない日常の風景が展開する。舞い上がって奇矯な振る舞いを続ける父親の痛々しさに自分を重ねてしまった。ア・ラ・プラスの『女がひとり』は、女優のモノローグによるひとり芝居。圧倒的なボリュームの饒舌が作り出す悲壮な虚無感に飲み込まれた。前進座『さんしょう太夫』は1974年以来、千回以上上演されているこの劇団の代表的レパートリーの一つ。説教節の語りの雰囲気を生かした優雅な様式美のなかで、素朴で力強い物語が再現される。この他、ふじのくにせかい演劇祭で上演されたティム・ワッツの『アルヴィン・スプートニクの深海冒険』、坂本長利の『土佐源氏』が印象に残っている。いずれも演者がひとりの芝居である。
(年間観劇数 約80本)

中村直樹(会社員)

「るつぼ」公演チラシ

  1. 新国立劇場「るつぼ」(JAPAN MEETS・・・ ─現代劇の系譜をひもとく─VII)
  2. NYLON100℃「百年の秘密」
  3. 範宙遊泳「男と女とそれを見るもの(x?)の遊びと退屈とリアルタイム!暴力!暴力!暴力!」(東京福袋)

 PLAYPARK、東京福袋とオムニバス形式のイベントを体験し、多くの劇団を知ることが出来た。そして劇評を書くことにもっと深く関わることになった。とても充実していた一年である。そして、劇場法の制定や大阪での文楽の騒動、バナナ学園純情乙女組の騒動と劇場の外でもいろいろと起きた一年である。さて、来年はどんな一年になるのかな。来年のチケットを握りつつ夢想するのである。
(年間観劇数 100本ぐらい)

今井克佳(大学教員、日本近代文学・演劇)

  1. 文学座5・6月アトリエの会「NASZA KLASA(ナシャ・クラサ) 私たちは共に学んだ —歴史の授業・全14課—」
  2. 世田谷パブリックシアター「南部高速道路」
  3. てがみ座「青のはて—銀河鉄道前奏曲—」

「NASZA KLASA(ナシャ・クラサ) 私たちは共に学んだ」公演チラシ

 今年は観劇数が100本を切ってしまった。小規模劇場(300席程度以下)での上演からのチョイス。1は老舗新劇の堅実な演技とポーランド現代史をめぐる詩的で刺激的な戯曲の合体。演出も斬新。新劇も頑張っている。2は、ラテンアメリカ作家の小説を、長塚圭史が構成・演出。留学以後、名声に甘んじず、作風を変え続ける長塚の更なる挑戦的な芝居作りに驚嘆。3は劇団の近代文学三部作の最後で、宮澤賢治が素材。長田育恵の緻密な戯曲と扇田拓也のセンスある演出が光り、三部作で最も秀逸だと思う。その他、再演のNODA・MAP「The Bee」(日英両バージョン)、キャサリン・ハンター出演「カフカの猿」、F/Tの村川拓也「言葉」、同じくF/Tに来日したイランのメヘル・シアター・グループ「1月8日、君はどこにいたのか?」など。某政治家の浅薄な文楽批判、日本の芝居を支えた演劇人たちの死など暗い年であったが、それでも幾つかのよい芝居に出会えたことに感謝したい。
(年間観劇数 85本)

山下治城(プロデューサー、主宰ブログ「haruharuy劇場

  1. トラッシュマスターズ「狂おしき怠惰」
  2. ナイロン100℃「百年の秘密」ナイロン100℃
  3. 風琴工房「記憶、あるいは辺境」

「狂おしき怠惰」公演チラシ

 今年の収穫は、中津留章仁のトラッシュマスターズの舞台を見られたことと藤田貴大のマームとジプシーの公演を見られたことです。それ以外にも、いつもの素敵な演劇人たちの活動を見ることが出来ました。
 ナイロン100℃はじめ、青年団、大人計画、イキウメ、ハイバイ、こまつ座、BATIK、城山羊の会など。どれもレベルが高く楽しめました。中でも、風琴工房の詩森ろばの作品を久しぶりに見てその筆力の高さに感動しました!
 フェスティバルトーキョーも毎年開催されており、そのレベルが維持されていることに感謝。新装なった東京芸術劇場とその他の公共ホールの競い合いについても興味深く拝見しています。
 また、演劇を考えるという意味で、想田和弘監督のドキュメンタリー映画「演劇1」「演劇2」が公開されたことも特筆に値すべきことではないでしょうか?
(年間観劇数 約130本)

鈴木アツト(劇団印象-indian elephant-主宰、個人ブログ「ゾウの猿芝居」)

  1. 世田谷パブリックシアター「南部高速道路」
  2. 華のん企画プロデュース「チェーホフ短編集『賭け』」
  3. 「小町風伝」(作/太田省吾 演出/李 潤澤(イ・ユンテク)、日韓演劇フェスティバル in 大阪)

「小町風伝」公演チラシ

 1で、3.11を連想した。あの日、あの時の東京を。非日常の中での生活を優しく描くその手つきとまなざしに、自然と心を打たれた。
 2は、自由と金をめぐる短編小説「賭け」とその「賭け」の中に、他5作品を編み込んだ構成が見事だった。「自由」が羽ばたくクライマックスが特に素晴らしい。見終わった後で、図書館に駆け込める「あうるすぽっと」での公演というのも良かった。
 3は、太田省吾のテキストの素晴らしさを、ど派手な韓国風演出で魅せてくれた作品。もし、太田省吾が生きていたらどんな感想を言っただろう?(笑)
 他に、劇団黒テント「青べか物語」、文学座「NASZA KLASA(ナシャ・クラサ)」、二兎社「こんばんは、父さん」をおもしろく見た。
(年間観劇数 不明)

都留由子(ワンダーランド)

  • 中野茂樹+フランケンズ「スピードの中身」(中フラ演劇展からAプログラム【A2】)
  • ピンク地底人「明日を落としても」
  • ハイバイ「霊感少女ヒドミ」

「霊感少女ヒドミ」公演チラシ

 見た順に。中フラ「スピードの中身」は、どこをどう誤意訳したのか、原作(?)を読もうと決意したのを、すっかり忘れていた。お正月に読もう。驚くような演出とか、台詞とか、飛び道具の類を使うわけでもないのに、がっしり掴まれた。ピンク地底人のボイスパーカッションにはココロを奪われてしまった。「霊感少女ヒドミ」は、終始ポカンと口を開けたまま見ていた。これにもココロを奪われたのだと思う。
 他にも「ビート・ジェネレーション」(東葛スポーツ)も、ポカンと口を開けて見た。ダンスはいつもどうやって見たらいいか分からなくて、きっとダンスは私のことが嫌いなんだと思って劇場をあとにするのだが、「最後にあう、ブルー」(東京ELECTROCK STAIRS)には、ちょっと親切にしてもらった気がして嬉しかった。ありがとう。
(年間観劇数 60本)

北嶋孝(ワンダーランド)

  • 鵺的「荒野1/7」
  • ピンク地底人「明日を落としても」(東京公演)
  • ブルーノプロデュースのドキュメンタリーシリーズ(「サモン」「ラクト」「くんちゃん」)

ブルーノプロデュース「くんちゃん」公演チラシ

 今年前半はほとんど劇場に出かけなかった。おかげで年間観劇数を100本未満に抑えたいという願いは達成できそうだったが、後半は諸事情で数字は右肩上がり。今年も貧乏暇なしの年になってしまった。その中で「記憶に残った3本」。
 1.は、書きたいことだけがせりふになった。無駄が削がれた筋肉質の会話劇は、実力を付けてきた劇団の証でもある。2.は舞台づくりの着想がユニーク。肉声音響アンサンブルのアイデアに驚いた。3.は登場する役者たちの記憶を舞台化する一連の実験作。記憶の個別と普遍を探る試みだろう。遠回りしているように見えても、その軌跡がやがて結実する日のくることを疑わない。
 うさぎストライプも着実に歩んでいると聞くが、今年は未見。ダンスをほとんど見られなかったのも残念。東京以外の土地で活躍する劇団、劇場を目に出来なかったのはもっと悔やまれる。
(年間観劇数 130本)

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【注】
・記憶に残る3本は「団体(個人)+演目」を基本とした。必要に応じて劇作家、会場、上演日時などを追加した場合もある。
・団体のWebページがなかったり変更されたりするケースがあるほか、簡単な操作で各自が当該ページを検索できるようになったことを考慮して、今回は劇団や演目へのリンクは張らなかった。
・ツイッターのアカウント情報などはコメント末尾に掲載した。
・公演の画像情報は3本のうち最初の公演から。チラシ画像が入手出来なかったり先に掲載されている場合などはその次の公演から取り上げた。

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