3人で語る「2010年10月はコレがお薦め!」

「長短調(または眺(なが)め身近(みぢか)め)」公演チラシ
「長短調(または眺(なが)め身近(みぢか)め)」公演チラシ

★カトリヒデトシさんのお薦め
・Kermit Office Presents「て、に、を、は、がおかしい。」(Artist Space
千石空房
10月8日‐10日)
遊園地再生事業団「ジャパニーズ・スリーピング 世界でいちばん眠い場所」(座・高円寺10月15日‐24日)
★鈴木励滋さんのお薦め
まことクラヴ「事情地域ヨコハマ」(象の鼻テラス10月13日‐16日)
KENTARO!!「僕はまた今日も未完成の音楽で唄う」(こまばアゴラ劇場10月14日‐24日)
・身体地図/岩渕貞太「UNTITLED」(STスポット10月14日‐16日)
★徳永京子さんのお薦め
・あうるすぽっとプロデュース「長短調(または眺(なが)め身近(みぢか)め)」(あうるすぽっと9月30日‐10月3日)
カンパニーデラシネラ「異邦人」(シアタートラム10月7日-13日)
城山羊の会プロデュース「微笑の壁」(ザ・スズナリ10月22日-31日)

徳永京子さん
徳永京子さん

徳永京子 私は最初に、あうるすぽっとプロデュース「長短調(または眺(なが)め身近(みぢか)め)」を。クリエイター陣が豪華で、この先20年、30年のタームで、ジャンルの中心にいつつ、ジャンルを越境しながら活躍していくであろう人たちが集まっています。誤意訳・演出が中野成樹さん、音楽が大谷能生さん、ドラマトゥルクが長島確さん。これにはいくつも仕掛けがあって、説明が大変なんですけど、まず、チェーホフの「かもめ」をラップに変換している。この公演のために「みずうみ」というラップユニットを編成して、彼らが「かもめ」をベースにコンセプトアルバムを作った。そのライブを中心に置きつつ、ライブ会場の外側にもうひとつ、「かもめ」のアナザー・ワールドを用意している。で、さらなる仕掛けとして、タイトルにもあるように、舞台上の「身近め席」と通常の客席の「眺め席」を設けているんです。
カトリヒデトシ 料金が違うんですよね。パリのオペラ座みたいなもんで。
鈴木励滋 「身近め席」の方が、オールスタンディングだから少し安いんですね。
徳永 取材したわけではないので詳細はわかりませんが、作品が二重構造なので、たぶん身近め席は「みずうみ」のライブの観客として、眺め席は外側の世界の目撃者として、作品と関わることになるんじゃないかと思います。サンプル盤を聞いたんですが、これがまあ面白い! 大谷さんのトラックも中野さんの歌詞も、「かもめ」の登場人物を2010年の日本に生息させています。チェーホフ作品でよく重要視されるインテリ層の苦悩みたいなものが、豊かな社会に生きている者特有のわがまま、野心へと位相がズラされているように思いました。「みずうみ」メンバーはおなじみの役者さんが多いんですが、ラッパーとしてもかなりのレベルでパフォーマンスしてくれると期待しています。
カトリ 演劇には難しいロードムービーみたいなのをやってくれると嬉しいんだけどなあ。移動っていう要素が入ってくると面白い。
鈴木 中野さんは、原作がワイルダー「楽しき旅路」の「ちょっとした夢の話〈演劇/映画〉」という公演をやった時に、同一キャストで映像作家が同じ作品を撮ったものも上映するっていう意欲的な公演をしたんですが、それも、カットをつなぐことで移動を簡単に表せる映像作品と並べることで、演劇における移動の表現の模索が見てとれた。
徳永 5月に上演された「寝台特急『君のいるところ号』」でも、移動について、いろいろと挑戦されてましたし、楽しみです。
 2本目は、カンパニーデラシネラ「異邦人」。演出の小野寺修二さんは、「空白に落ちた男」をこの間再演されましたけど、今、ノってる様子で期待値も高いんです。さらに注目は、片桐はいりさんの出演。この作品について新聞の取材で「久々に、どうなるか自分でまったく想像がつかない」って答えていらっしゃいました。片桐さんは、背が高いだけじゃなく、肩幅もあってがっしりタイプ。そういう片桐さんの体型を、デラシネラの流れるような滑らかな動きの中でどう生かしていくかに興味が湧きます。片桐さんの昔のインタビューで「まったく文化の違う国の本屋でも、自分の写真が表紙の雑誌が並んだら、みんなが手にとる自信がある」という話を読んだことがあるんですが、自分の外観に対するそういう認識が、客観的で強気でカッコいいなあと思いました。その片桐さんが、体全体を小野寺さんに預けるっていうことが楽しみですねえ。
カトリ 川崎アルテリオでの「点と線」は、私としては、ちょっと気に入らない出来でした。身体性が生きる前に、テキストに引きずられすぎてて説明的というかね。
鈴木 「点と線」を読んでない人にもわかるようにしていて、トリックなどあるものだと大変だなというふうに見えましたよね。その点、不条理の代表選手みたいな「異邦人」の方がよさそうですね。
徳永 3本目は、城山羊の会プロデュース「微笑の壁」です。作・演出の山内ケンジさんは、CMディレクターとして大活躍されている方。舞台は、亡くなった深浦加奈子さんを主演に何作か作・演出されていました。私は2005年の「乞食と貴婦人」から見ていますが、毎回とてもおもしくろて、特に前作の「イーピン光線」がすっごくよかったんですよね。面倒くさくて、でも魅力的な人間たちをさんざん書いておいて、最後にブツッとカットアウトした、その切り方が完全に落語だと惚れ惚れしました。それから今回は、吹越満さんが主演されますが、スズナリに吹越さんが立つのも久しぶりだと思います。元ハイバイの三浦俊輔さんは、現ハイバイの金子岳憲さんとは懐かしの共演。あと、岡部たかしさんはすばらしい怪優ですね。声もいいし、もっと評価されていいですよね?
鈴木 うん、されていい! 「キレなかった14才りたーんず」の柴幸男「少年B」や、五反田団「生きてるものはいないのか」でも、とってもいい役でしたね。
カトリ 後者では、さまよってさまよって死ねない男。
鈴木 きっと、映像の方でもどんどんやってける人だと思うけど、演劇をやってほしいなあ。
徳永 どのジャンルでも、独特のぬめりを出し続けてほしいです。
鈴木 結局、山内さんは、役者を見抜ける人なんでしょうね。
徳永 「僕はうまい人しか使いません、なぜなら僕が演出できないから」と謙遜しておっしゃるんですけど、そんなことは全然ないですよね。

鈴木励滋さん
鈴木励滋さん

鈴木 僕はまず、ピエロの凄さを感じさせられる、まことクラヴの公演「事情地域ヨコハマ」。〈事情地域〉というシリーズは、吉祥寺・金沢・山口といろんな街でやってきたものです。事前にその街に出没してパフォーマンスしちゃって、その様子を撮った映像を実際の舞台でも使ったりもします。そんな大道芸みたいなことをするのでピエロっていうわけじゃなくて、道化=ピエロの凄さってあるじゃないですか。すべてのことができる、サーカスの中で最もうまい人が、わざとくずして笑いをとるっていうね。まことクラヴには、いつもそういうものを感じるんですよ。〈部長〉の遠田(えんだ)誠さんは伊藤キムさんの輝く未来にもいらっしゃった人で、他のところでは要の存在としてキャスティングされるようなダンサーなんですけど、ここでは、ほとんど踊らない。ほかのダンサーもすごい人たちなんですけども、くだらないことを真剣にやっている。
徳永 くだらないというのは、振付がですか?
鈴木 モチーフが、日本人の古臭い所作だったりしますしね。たとえば「ニッポニア・ニッポン」では、日本人の名刺交換やらお辞儀やらレシートの奪い合いやらが、次第にエスカレートする滑稽さに笑っていたら、気づいたときにはすっかりダンスに感動されられていたり。しかもベタになっちゃいそうなところを、音楽や照明を実に巧みに使って、むしろスタイリッシュに見せちゃうんです。
次の「僕はまた今日も未完成の音楽で唄う」は、KENTARO!!のソロパフォーマンスです。
徳永 ダンスで11日間14ステージもやるんですね!
鈴木 そうなんですよ。彼は、ヒップホップの世界から出てきた人。でも、コンテンポラリーダンスって、そういうのを小馬鹿にしているところがあるでしょう。クラシックバレエとモダンダンスの関係みたいな。コンテンポラリーがストリートダンスを見下せば、ストリートからはテクニックでねじ伏せようとするみたいになっちゃうの不毛だよなぁ。「HARAJUKU PERFORMANCE+2009」に出たはむつんサーブなんかも、他ジャンルの人は、やっかみ半分もあるのか、うまいけどさあ、あの先に何があるの?みたいなことを言う。
カトリ でもあの体、すごいけどねえ。
鈴木 一方で、ストリートダンスも今、ものすごく細分化されてる。でも見る側はそんなことはどうでもいい。それで確かに、ストリートダンスがテクニック・技術の応酬だけになっちゃうのもなんだかなぁだけど、コンテンポラリーを名乗っている側で、本当に何にもできないでやってる(笑)っていうのも違うんじゃないかと思う。要は理屈抜きでこちらに響くかどうかじゃないかなと。で、KENTARO!!も、かっこいいアンちゃんが、かっこいいものを踊ってたという印象だったんですよね。でも、とてもいい感じに老けてきている(笑)。
カトリ アンニュイがあるわけね?
鈴木 ありますねえ(笑)。ボーっとした顔して、歩き方も疲れているように見えて、唐突にキレがあるダンスをやっちゃう感じ。でも、彼の振付で、彩の国で康本雅子さんと2人で踊った「「」の中」は製作日数も足りなかったようで、残念ながらイマイチでした。
徳永 まったく同感です。2人ががっつり絡むところがほとんどなかった。
鈴木 遠慮したのか、踊りの出自が異なる2人が生かし合っていたとは言えなかった。今回は、ソロで毎日やるのも相当キツいと思いますが、期待しています。初日と楽日を見たいなぁ。
 最後は、身体地図/岩渕貞太「UNTITLED」。この前、群々(むれ)というユニットでは「静かな日」という公演をやりました。集合場所に集まると「話さないで過ごすことも含めて作品です」と書かれた紙が配られ、黙ったまま案内されて、近くの廃工場みたいなところに入っていって座らされて、踊りや、ダンサーが投げる金属やガラスの音の響きや外の蝉の声や、スピーカーからも聞こえる増幅された蝉の声やらが相まって…と、何だか変な世界観を作ってました。彼が、急な坂スタジオの坂あがりスカラシップ2008をとった時、若手のダンサー酒井幸菜さんと、まったく同じ振りを順番に踊るという作品をやったんです。技術や解釈の違いもあるし、男女ってこともあるけど、それぞれ違うものが伝わってきた。ダンスには、言葉がない分余白があって、受け取る側がどんなふうにも膨らませられるというのが、よく見える舞台でした。2007年に黒澤美香さんと木佐貫邦子さんとの「50年に一度のデュオダンス『約束の船』」の時、全然違う道を歩いてきた2人のダンサーが、一瞬交わるように同じ振りを踊りました。我を張って違うことしてやろうというのではなく、それぞれの踊りの歴史が染みついてる身体として、かくも異なるものとして立ち上がるのかと感じさせられたんですが、それに近い感覚をこの若さで作り出しちゃうってのがねえ。今回は音楽の大谷能生さんと組んでやるので…
徳永 また大谷さん!
鈴木 大谷さんの活躍ぶりはすごいですよね。照明は、木藤歩さんという、ポかリン記憶舎などでも、若いのにとても印象的な仕事をする人。
カトリ わざと正面から当てなかったりして、凝ってるんだよなあ。
鈴木 で、この作品が、演劇を見てる人から一番遠いかもしれません。ダンスへの入口はいろいろあると思うんですが、入りやすいからといって浅いというわけではない。今日挙げた作品は、どれも精度が高いと思ってます。僕は、こちらでダンスをお薦めする時、小劇場演劇を見てる人が入っていきやすいってことを意識してるんですが、まことクラヴは、コンテンポラリーダンスって、何だかよくわかんないという人には、見るとっかかりとしてもよいのかな。KENTARO!!さんのは演劇の中で踊るシーンなどに惹かれる人、岩渕さんのはわかり易い「物語」に飽きてしまった人、戯曲の行間から現れるものが気になってしまう人にお薦めだと思います。

カトリヒデトシさん
カトリヒデトシさん

カトリ 今月は、実は自分が役者やってて情報収集が間に合わず2本なんだけど、「て、に、を、は、がおかしい」と遊園地再生事業団「ジャパニーズ・スリーピング 世界でいちばん眠い場所」を。
鈴木 「て、に、を、は」は、作・白神ももこさんで夏目慎也さんが出演!
カトリ この2人が組むとは思わなかったので、これは楽しみ。それぞれが属しているモモンガ・コンプレックスと東京デスロックが、どちらもキラリ☆ふじみを拠点とするというつながりで、夏目くんが白神さんをものすごく好きみたいでね。おととしくらいから、白神さんとやりたいッスねえと言うから、いやー、白神さんはキミには興味ないと思うよ(笑)って言ってたんだけど、とうとう彼の願いが叶った。
「ジャパニーズ・スリーピング」はリーディングが非常によかったんで、期待してるんですよ。ひさしぶりに宮沢さんのオリジナリティが炸裂って感じでした。お笑い芸人のやついいちろうくんがいい感じだったし、なかなか不思議な本で面白かった、役名見るだけで興味がわき起こる感じになっていた。お楽しみに。
鈴木 やついさんのエレキコミックがキング・オブ・コント獲っちゃったら、お笑いファンが押しかけて、何じゃこりゃとなったり覚醒したりして面白かったのにね。
カトリ ただ、今月しゃべりたいのはねぇ…、このところ考えさせられることがあるんで、それをね…、ちょっと。10月末から始まる2つのフェスティバルについてなんです。
鈴木 お薦め1本分を放棄してまで?
カトリ ええ。まず「フェスティバル/トーキョー」(10月30日~11月28日、以下F/T)は、前身の「東京国際芸術祭」(以下TIF)から、どんどん大規模になって、主催作品15、公募プログラム8、参加作品3の合計26演目。公募プログラムは応募作品80の中から8つを選んだそうです。フェスが賑やかになるのはいいことです。でもこれを1か月の間にやるんですから、全部見ることはほとんど不可能。しかも、ほぼ同時期に京都で「KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)」(10月28日~11月23日)が行われます。京都芸術センター、京都造形芸術大学・舞台芸術研究センター、NPO法人京都アーツミーティングなどが一堂に会し、京都で初の国際舞台芸術祭をやるというんです。日程が丸カブりの上に、上演団体も一部カブっている。マレビトの会、地点、Port B、ジゼル・ヴィエンヌ、小嶋一郎、dracomなどが。もちろん、すぐれた舞台を東西でやってくれることは、多くの人に見る機会が増えるので、いいことには違いないんだけどね。
鈴木 連動してるわけではないんですか?
カトリ 同時開催のものはANJ(アート・ネットワーク・ジャパン)が共同製作に入ってるんで、連動してるんでしょうね。はっきりと謳われてはいないけど。別地域でやるには日程が近すぎるように思うんですけれど…なんか…ちょっと…
徳永 連動しているんですか? 知らなかった。
カトリ 連動してると断言すると、また、いろいろと問題が生じるんでしょうけれどね。それで、公表されてる資料を見ると、去年のF/T春と秋とで合わせて約12万人の動員があったと。ところが内訳を見ると、春の約6万1000人のうち、主催作品に集まったのは約1万5000人で、参加作品に約1万7000人、カフェに約2万9000人。主催作品を見に来た人は、全体の4分の1程度なんです。参加作品には、NODA・MAP「パイパー」など人気作品も一部日程入ってたりするから、主催作品より動員は多かったりする。けっこうな助成金(税金)や協賛金を使ってやってることなのに、大丈夫なのかとも思うんですよ。
 今年から始まるKYOTO EXPERIMENTでは、地点やマレビトという、京都を代表するカンパニーがでるのは当然なんだろうけど、同じ演目を東京でもやるというのは、何かそれぞれの独自性とかに「?」とも思うし…。協力関係とかをはっきりと示すんならいいんだろうけど…。
 そんな中、世界的にも評価を受けているフェスティバル、沖縄の「キジムナーフェスタ」のことを思ったりするんです。動員数は、2005年の約1万6000人からだんだん増えて、2008年が約3万2000人なんです。沖縄で8日か9日やってるだけでこれだけ集まる。しかもここは集中してやるから、週末3日間いれば半分は見られるようです。今年も世界中の作品があり、全部で30公演あった。ここがすごいと思うのは、公立の文化施設やNPOが集まり、それぞれが自分たちの企画として上演してて、期間を同じにしているという形。
 それに対して、F/TとKYOTO EXPERIMENTはどういう関係か。F/T公募プログラムの小嶋一郎「日本国憲法」は去年、京都芸術センター舞台芸術祭で大賞をとった作品が、公募枠での上演。この時期、京都でもまたやるという。それはいいよね。dracomも2007年に受賞してる。地域で誉められて東京に上がってくるという図式。京都でオリジナリティを感じるのは、演出家杉原邦生くんがコンセプトデザイナーで、劇研を1か月間ピンクにするという、フリンジ企画「HAPPLAY」なんだけど。そこに出てるのはマームとジプシーやロロ、快快という東京で名前が売れている、売れつつあるカンパニー。こちらはロロなんか初地域公演だし、お披露目って感じですか、正しい交流ではあると思う。その地域地域での動員を伸ばすというのはいいんだけど…。
鈴木 東西でカブっちゃうって話ですけど、僕が大阪か京都の人間だとしたら、F/Tなんてクソッとやっかむと思う。
カトリ うん。地域は地域で、もっとオリジナリティあるものを出してほしいっていう、普通の話でもあるんだけど…。
鈴木 ある基準で選ぶと、重なってしまうのかな。公募には、関西圏からも手が挙がるから、それを規制はできないのでは?
カトリ 選ばれたものはアート系って言ってよいような偏りは感じる。こういうとこには、物語主体なカンパニーはほとんど出てこない気がするの。
徳永 F/Tは、エッジーな作品を紹介する演劇祭たろうとしていますからね。プログラム・ディレクターも相馬千秋さんおひとりですし、明確な偏りが、むしろ個性になっている。私はそれは、決して悪いことだとは思いませんけど。
鈴木 物語主体だから国際的なフェスが難しいということはないと思いますけど、むしろ、翻訳の問題があるから単に海外に推し出しにくいってこともあるのでは? F/Tでも、字幕は全然統一されてないけど、そもそも演劇で翻訳の統一、基準というのがない。それを改善する動きは、作り手側から起こってこないといけないし、見ている人も言っていかなかったらダメですよね。
カトリ 若い劇団に、広くチャンスが与えられるという形が望ましいんだろうけど、F/T公募作品も、選ばれてるのは、マームとジプシーとか岡崎藝術座とか…。ああ、あそこね、とわかるところ。これダレ? 知らない、見たいってことはないんですよね。
徳永 マームや岡崎など、F/T公募枠の知名度や評価は、一般から見たらまだまだですよ。
鈴木 地域ごとのオリジナリティ云々というより、津々浦々の面白いものをぼくは近くで見たいし、それぞれの地域でも見てほしい。筒井潤さんのdoracomなんかは、森下スタジオで拝見した『ハカラズモ』だけなんじゃないかな、あんまり東京で見たことがないけど、もっと多くの人に見てほしい。アゴラのサミットみたいに、マイナーでもディレクターが選んだものを提示すれば、客は来ると思うなあ。そういうのを、堀出してきてほしい。F/Tで選ばれた10本だったらとにかく見たいなって思わせるようなね。
カトリ TIFの頃は、各地域から、リージョナル枠ってことで、まだ知名度がってところが選ばれてたと思えるんだけど…。あれは明らかに地域の劇団を紹介するという意味があった。
 ところで、何で口ごもることが多いかというと、今後の大きな方向性ということを考えるからなんですよ。今年の概算要求を見ると、「クリエイティブニッポン発信!プロジェクト」事業で、文化庁が6億円を計上。しかもこれ、外務省と経産省と文科省―文化庁の3省合同で、合計額が27億円にもなる。
徳永 かなりの額ですね。私はよく知らないんですが、どういう事業なんです
か?
カトリ 文化発信をして文化芸術立国を目指すっていう提言が出てて、すでに閣議決定し、実際に予算がつき始めてます。どこに発信していくかというと、アジアみたい。
徳永 アジアよりヨーロッパに打って出た方が、絶対に売れるのに。言葉の問題はどちらに対してもあるんだし、日本の舞台芸術に向けられた興味は、今、ヨーロッパの方が強いのではないですか。この間、快快がチューリヒ・シアター・スペクタクルで新人賞をとりましたけど、チェルフィッチュを筆頭に、ペニノ、ポツドールも、ヨーロッパ各地から続々と声がかかっていると聞きます。
カトリ ヨーロッパのマーケットに乗れば大きいよね。いくつもフェスティバルを回って、数か月間の公演スケジュールを、向こうのディレクターが組んでくれたりするし。でもアジア重視のよう。
徳永 この夏、東京芸術劇場で快快が、タイのB-floorというカンパニーとコラボレーション作品「Spicy,Sour,and Sweet」をやりましたけど、タイで現代演劇をやってる人は欧米に留学して演劇を学んだ人が多いせいか、評価軸が欧米経由という気がしました。だったら先にヨーロッパに行って評価される方が、アジアでも受け容れられやすい気がします。あくまでもこれは、経済を絡めて考えた場合の近道ですけど。近い文化圏同士で何か一緒にやる、という話となると、また違う意味がありますが。
カトリ 文化の海外発信のためにお金を使おうということが、すでに国のレベルで始まって舞台芸術も含まれているんだけど、演劇人の反応はちょっと薄いんじゃないかって感じる。「劇場法(仮称)」でもまだ意見統一できないうちに、さらに新しいことが起こっている。来年の予算をみると、文化庁は、劇場法のキモになってくるはずのアーツカウンシルに、5600万円を請求している。助成金の正しい執行と評価を行うためにカウンシルを入れるっていうけど…誰が評価すんだよって話で。体制翼賛的になったらしょうがないし、お国がやるからみんなで協力しましょうね、という発想も変なんだろうけど、各地でそれぞれが、助成金・協賛金とって独自に開催というのも考えるべき時にきてるのかなとも思うんですよ。税金そのものが縮小しているわけだから。
鈴木 だから、平田オリザさんのような劇場法推進の考え方が独走しちゃうのかな。それはひとつの可能性で、他にもいろいろ模索した方がよいに決まってるでしょ。お金を引っ張ってくる別の手立てを、カトリさんなんかが、どんどん発信してくださいよ(笑)。
カトリ オレは何者だ(笑)。芸団協がやってる文化予算を5倍にしようという署名なんかがもっと集まらないといけないでしょ。今は、国家予算比0.1%しか文化予算がないのを、5倍の0.5%にしようということだけどね。ただ、5倍になると4600億円ですから、演劇にまた助成金が開始された時のような、大変なバブルがきちゃうし。
 フェスティバルの話に戻すと、期間を少しズラして、レパートリーで回ってくっていうヨーロッパスタイルが、日本国内でもできるなら、ヨーロッパからでも呼べるし、いいと思うんですよ。九州、関西、東京、東北、北海道とかね。でないと、ドイツで1000円で見られるピナ・バウシュが、日本で1万5000円するっていう問題は、永遠に解決しないわけなんでね。
 海外発信っていうことを考えるんだったら、国内向けのフェスティバルでも、もうちょっといろんなことを試した方がいいんじゃないかな。まあ、採算がとれるのかとか「製作」っていうところにタッチすると、とても深い話になっていくんで、主催者側だけへの要望じゃなくて、観客側も動かないと事態は変わらないわけですけどね。根本的には、芸術に税金使っていいのかって話から始めないといけないんですよね。自分は舞台なんか見ないけど、日本には文化があってほしいから、税金使うのはいいよっていうくらいまで、国民のコンセンサスがとれるようにしたいじゃないですか。で、演劇って面白いよってことを知らせるには、フェスティバルというのは、非常に有効ははずなんだけど、こんなに長期に渡って、こんなに数やって、こんなに高くて、普通の人が行けるのかって話。
 同時に、告知も大規模なわけで、ある程度演劇に興味を持っている人だったら、そっちに吸い寄せられちゃうかもしれないので、その期間、ほかでやってる人たちがしわ寄せ喰っちゃう。客が下北沢や新宿の小屋に行かなくなれば、フェスティバル以外の公演は11月は苦しい動員になると思うんですよね。規模の違うものをぶつけられる方としては。
鈴木 僕は、それで成り立たないんならやめるという選択肢もあると思う。演劇だけが人生じゃあないのでね。むしろそれは、ホントにアーツカウンシルにちゃんと魂込めるとか、そっちの話なんじゃないのかなあ。多様な価値基準で評価される機会を、できるだけ多くの作品に対して準備できるようにって。
徳永 基本的に私も、芸術にも競争は大切だと思います。以前、ツイッター上で「見たいお芝居が重なって困るから、各劇団で話し合ってスケジュールをずらしたら?」という話題が、わりと真剣なトーンで語られたことがありましたが、どんなに仲がいい劇団であっても、上演期間がカブってしまったら「あそこから客をとってやる」という気概でやるべき。学校の時間割のようにお行儀よくスケジューリングされた演劇なんか、見に行きたくないし、それは演劇界の地盤沈下につながると思います。ただ、複数のフェスティバルに同じ名前ばかりがあると、外から「演劇界は才能が少ない」と見えてしまうのも事実。現実がそうであったらしょうがないんですけど、そうではないですからね。
カトリ 何とかもっと工夫してもらい、全国で共存共栄の形できるようになっていってほしいです。今回は作品主体じゃなくなっちゃったんで、次回はちゃんとお薦めします、すんません。
(9月6日 東京都渋谷区内にて)
※鼎談収録後、カトリさんより、次のような情報とコメントが寄せられました。「9月24日に、F/T公募プログラムが来年からはアジア地域に募集拡大、『F/Tアワード(仮)』が設けられる旨が発表されました。アジアとの協同が盛り込まれるのは喜ばしい限り」とのことです。
(初出:マガジン・ワンダーランド第209号、2010年9月29日発行。購読は登録ページから)

【出席者略歴】(五十音順)
カトリヒデトシ(香取英敏)
1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

鈴木励滋(すずき・れいじ)
1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カプカプの所長を務めつつ、演劇やダンスの批評を書いている。「生きるための試行 エイブル・アートの実験」(フィルムアート社)やハイバイのツアーパンフに寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-reiji/

徳永京子(とくなが・きょうこ)
1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/


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