振り返る 私の2006

◇玉山悟(王子小劇場

  1. smartball「My Legendary Girlfriend」
  2. 小指値「Zeller Schwarze Katz[論文編]」
  3. 劇26.25団「108」

自分のところの劇場を宣伝するつもりではないが、今年は王子の公演が1、2位だった。
smartballは、前身の「名トリ本式」で昨年のベストにあげたが、今年の公演もすばらしかった。会話の核心に入るまでの下準備が抜群によい。小指値はダンスとも演劇ともつかない怪作。独特の身体性とあまりにも現代的・文学的なテキストの同居した作品は忘れられない。ダンスLABOというイベントに参加していたので、次からはダンスに舵をきるのだろうか。3位はいろいろ考えたが、「乞局とか少年王者舘とかポツドールとかをいまさらあげるでもないか」と思い、劇26.25団。会話をブツ切りにするのを恐れない作・演のセンスは次回公演が非常に期待できる。

西村博子タイニイアリス・プロデューサー、wonderland執筆 メンバー)

  1. 仏団観音びらき「宗教演劇」(本木香吏 作・演出)
  2. 透明ランナー「2学期の風」(保井健 作・演出)
  3. 劇団アランサムセ「バンテージ」(金元培作・金正浩演出)

上演順。舞台は完成度ではなく、その必然に私は感動する。創る人の、それを創らなければならなかった内にうごめくものの勁(つよ)さに、と言い換えてもいい。笑いで表すにしろ(仏団)、抒情で表すにしろ(透明ランナー)、それを台詞叙述ででなく、全体のプロットと役者と演出ででしか表せないというのも素敵だ。拉致事件、核実験……またまた朝鮮人学生へのいじめが起こっていると聞く。バンテージしっかり巻いて生きていくぞのひそかな決意表明(アランサムセ)に拍手。

村井華代(西洋演劇理論研究)

順位はない。作品の優秀さ云々より、「舞台を通じて」どう生きるのか、何をするのか、他者や世界とどう向き合うのか-真摯な問いと挑戦がある舞台を評価している。そういうわけで、上演すること自体、安易な保守への批評であり、無言の抑圧を破る試みであった三作を挙げた。ハイリスクなドイツの異端児に体当たりで応えたtpt、演劇野郎の生き様総括パラダイス一座…
伊藤キムは半年間の海外放浪後の第一作。ロックで23分間、普段着のような格好で一人ひたすら踊り続けるだけという、シンプルかつ洪水の如き身体感覚に溢れた舞台だった。一度は駅前再開発の波に飲まれた札幌コンカリ復活を記念するイベントでもある。花一輪すら飾らない、それぞれの再出発だった。

梅山景央(「*S子の部屋」サイト)

演劇、プロレス、観客参加型バラエティ-そのすべてであって、そのどれもでもない<底の見えてる底なし沼>マッスルの登場によって大方の小劇場演劇(とくにシベリア方面)がかすんでしまった一年。五反田団は私的最高傑作。「私演劇」の向こう側に四畳半神話を見た。その五反田団新作にも影響を与えたと思われるむっちりみえっぱり。ファニーでカルトな作風はもうフィンランド映画かと。復活作「明日からは粉がある」も素晴らしかった。
他には「ヤンマガ」の隣に置いてもなんの違和感もないポツドール新作「恋の渦」(そんな劇団ほかにあるか? ヤンマガ的な世界を描く劇団は数あれど、演劇固有のフォームでヤンマガばりのテンションとリアリティを漲らせる劇団がさ)、マメ山田の使い方が「ナイン・ソウルズ」していた庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」、そしてゴキブリコンビナート「そよ風のささやき」、超歌劇団「ドガガガーンゴワーシュンボコーンプシューバゴ」と続いた夏の野外劇コンボなどを堪能した。

◇鈴木雅巳(デザイナー、カメラマン、仕事閲覧サイト

「熱海~」は芝居の出来ではなく犯人大山を演じたコンタキンテ、観ていて痺れた。13年前初めて観た歌舞伎の中村勘九郎、10年前小劇場にはまるきっかけになったアンファンテリブルの前川麻子、それ以来の痺れ。「真夜中の~」は演じること、表現すること、伝えることの意味を外に内に問いただすような芝居。「戸惑い~」は軽演劇の神髄を観た感じ。他に下町ダニーローズの「あ・うん」「はなび」は別格で良しだったが、撮影で関わった公演なので除外。
撮影等裏方で舞台に関わることが増え、改めて裏方の役目を考える。裏方は全方位を見なければならない。視界の狭い輩が多すぎ。一番欲しがらなければならないのは観客の拍手だ。

◇谷賢一(DULL-COLORED POP主宰、「PLAYNOTE」サイト)

  1. 長塚圭史作・演出「アジアの女
  2. サミュエル・ベケット作、佐藤信演出「エンドゲーム
  3. カカフカカ「ドラ、え?も、ん…」(早稲田大学学生会館B203)

一位には長塚圭史「アジアの女」を。破天荒な展開とセンスのよい笑いから来る有無を言わせぬ勢いを武器にしてきた長塚が、奇を衒わず物語の芯に拠って立ち、地味で大人しいがずしり重い作品作りで劇作家としての成熟を示した。「エンドゲーム」はト書き一つ無視していないのではと思うほど原作に忠実な上演ながら、どうしようもない閉塞感と絶望の色が静かに立ち昇って来る様は見事の一言。ベケットの芸術を初めて理解した。三位カカフカカは早稲田学内で1500名近い集客を誇るパロディ中心のファルス劇団。著作権上の問題と対象年齢二十台限定のネタ作りからメインストリームには登りようがないだろうが、その才能を今後どう伸ばすか期待。

鈴木麻那美(wonderland 執筆メンバー)

  • KATHY「KATHYのお片づけ」

今年は全体的に観劇した本数が少なかったこともあって、一本だけ選ばせていただきます。
別の言い方をすると、ちょこちょこと少しは舞台を観ていた気はするのですが、思い返すとやっぱりこれが一番強烈でした。普通の生活空間にまぎれてしまう、少し普通じゃないもののおもしろさ、とか、場所が場所ならお客さんを限定しないおもしろさ、とか、なんかいろいろ考えてみるとやっぱりおもしろいです。来年こそは(観れるものなら)いろいろ観たいと思います。おもしろそうなもの、あったら教えてほしいくらいなのです。

田中綾乃(東京女子大講師)

  1. エンドゲーム
  2. メタルマクベス
  3. 「義経千本桜」(かしも明治座 十八代目中村勘三郎襲名披露公演

何が小劇場か、という問いはあるものの、私は上記3点を今年の演劇ベスト3に選ぶ。
まず、ベケット生誕100年祭の一つとして、シアタートラムで上演された「エンドゲーム」。新訳というのも画期的であったが、主演の手塚とおると柄本明がベケット劇を演じるのに相応しい身体能力を保持していることを再確認。
「メタルマクベス」は、シェイクスピア×クドカン×劇団☆新感線という一見、異質なものが綯い交ぜとなった結果、予想以上のダイナミズムな世界が生み出された。シェイクスピア作品としても、現代演劇としても極めて優れた希有な作品の一つ。
昨年、十八代目中村勘三郎を襲名した勘三郎は、今年の巡業では、全国の昔から存在している芝居小屋にて襲名披露をおこなった。「かしも明治座」は、岐阜県の東濃地方(中津川市)の山奥にある小さな芝居小屋。明治27年、村の有志たちによって建てられて以来、現在まで守られてきた実に味わい深く、あたたかい芝居小屋。そこでの「義経千本桜」の「すし屋」における勘三郎が演じる権太は、いままで観てきた権太の中でもひときわ熱演だった。芝居小屋での公演は、歌舞伎であれ、現代劇であれ、芝居の原点を考えさせられた。

高木龍尋(大阪芸術大学大学院助手)

  1. トリプルクラウンプロデュース「彼岸島の不思議な夏」
  2. 劇団ジャブジャブサーキット「歪みたがる隊列」
  3. 劇団Ugly duckling「スパイクレコード

挙げた3作品は今年観た中でも好きな作品なので順位はつけづらいので観た順番です。1についてはwonderlandに書いたものを載せて頂いているので割愛します。2と3は11月に観た作品で、ともに人間の脳の中を扱った作品です。2は多重人格者の内と外を描いたもので、主人格と交代人格をそれぞれ別の役者が演じることでここまで明解になるものか、と強く記憶に残っています。3は記憶について、特に肉体、物体と記憶の関係に描かれたもので、「骨身にしみるまで」という言葉を突き詰めるとこうなるのか、と頷きました。私事ですが、余程ひどいと感じた場合はさておいて、がっかりした作品から当たり障りのない作品あたりの記憶がどんどん抜けていくようです。それでも、今年、スクリーン恐怖症? 恐怖症とはいかないまでも、スクリーン懐疑症になりました。そのことは追い追い……

北嶋孝(マガジン・ワンダーランド編集長)

  • 三条会の「レミング~世界の涯てへ連れてって~」(寺山修司作)
  • 青年団「ソウル市民」「ソウル市民1919」「ソウル市民 昭和望郷編」(三部作
  • 東京デスロック「再生」

今年の3本は、野外空間を生かした驚愕の寺山芝居、現代口語演劇の真骨頂を見せた三部作、身体と死のモチーフを踊りと音楽で押し切った果断な舞台。
ほかに劇団や劇場では在京6劇団の京都公演企画「TOKYOSCAPE」(ワークショップを含む)や王子小劇場のトリビュート公演(自主制作企画)などが目に付いた。単発ではトリコAプロデュース「他人 初期化する場合」や無機王「僕の腕枕、君の蟹ばさみ。」、ブラジル「恋人たち」も忘れがたい。来日組ではドイツ座「エミリー・ガロッティ」は爛熟の美、ヤン・ファーブル演出・振付「主役の男が女である時」は劇場に出かけて初めて主演女優交代を知るミスマッチ満載の公演として記憶に残った。

森山直人(京都造形芸術大助教授)

  1. ヤエル・ファーバー演出『モローラ-灰』
  2. ヤスミン・ゴデール振付『ストロベリークリームと火薬』
  3. 太田省吾演出『ある夜-老いた大地に』松田正隆作・演出『アウトダフェ』

* 2007年1月15日追加。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特別編集号(2006年12月22日発行)
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