3人が語る「2010年4月はコレがお薦め!」

【3人共通のお薦め】
鰰(はたはた)「動け!人間!」(アトリエ春風舎4月16日-5月5日)

「お薦め」鼎談★カトリヒデトシさんのお薦め
世田谷シルク「春の海」(シアター711 4月8日-11日)
箱庭円舞曲「とりあえず寝る女」(駅前劇場4月2日-6日)
柿喰う客「八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン」(タイニイアリス 4月15日-18日 <大阪公演>八百長デスマッチ 4月23日-25日 in→dependent theatre 2nd いきなりベッドシーン 4月26日-28日 in→dependent theatre 1st)
★鈴木励滋さんのお薦め
青年団リンク 口語で古典「武蔵小金井四谷怪談」(こまばアゴラ劇場4月17日-29日)
コマツ企画「背伸び王」(下北沢 楽園4月21日-25日)
風琴工房「おるがん選集 春編」(浅草橋ルーサイトギャラリー 4月26日-29日)
※二作品ずつ「桜編」「藤編」があるため、劇団ホームページで上演時間ご確認を。(【桜】「寡婦」原作 ギ・ド・モーパッサン 「濹東綺譚」原作 永井荷風【藤】「親友交歓」原作 太宰治 「流刑地にて」原作 フランツ・カフカ)
★徳永京子さんのお薦め
・「BLUE/ORANGE」(ワーサルシアター4月22日-5月2日)
シス・カンパニー「2人の夫とわたしの事情」(Bunkamuraシアターコクーン 4月17日-5月16日)
文学座「わが町」(全労済ホール/スペース・ゼロ4月9日-18日)

鈴木励滋 4月はなあ。
カトリヒデトシ 3月が終わるとチラシががくんと減るね。でもそれも、今年までですよ(笑う)。来年度になると、情勢からみて、助成金が減るだろうから…。
徳永京子 私がまず推したいのはこれ、鰰(はたはた)の「動け!人間!」なんですけど、おそらくみなさん…。
鈴木 ああ、それですね、僕も推します。
カトリ 私も。じゃあ、3人共通のお勧めですね。神里雄大(岡崎藝術座)と白神ももこ(モモンガコンプレックス)のユニットです。このユニットは去年の「キレなかった14才りたーんず」の時に結成しているから、1年近く準備していたんですね。
鈴木 何でも、二人とも名前に「神」という字が入るので、「神」というユニット名も考えたけど、日和った(笑)というウワサも…。
徳永 今回の第一回公演は、バージョンが3つ、「は」バージョン(「なんとなく『深海魚』と呼ばれている方」)、「た」バージョン(「なんとなく『淡水魚』と呼ばれている方」)、「ハタ」バージョン(「『出世魚』となんとなく呼ばれているもの」)とあって。
カトリ 「た」バージョンは午後4時半から始まって、最初3時間は稽古で、そのあと出来上がったのをかけるっていう。ちょっと…(笑)。出るメンバーもすごいんですよ。稽古からずっと使える春風舎じゃなきゃできない企画ですね。
徳永 公演日数もだいぶありますし、実験的なことができそうですね。
カトリ 「は」が一番ちゃんと作るようです。いわばスタンダード。武谷公雄さん、兵藤公美さん(青年団)とすごいメンバーですね。「た」がぐしゃぐしゃ、「ハタ」はシークレット企画。全くわかりません。
徳永 チラシには「演劇でもダンスでもない新しい?新型の?パフォーミングアートを目指している。」と。何が出てくるか全くわからないし、評価軸が普通と違う二人なので。
カトリ 言葉も出てこないのですが、でもともかく行く。
鈴木 神里さんの「リズム三兄妹」白神さんの「ウォールフラワーズ。」とも存分に楽しめたので、今回も楽しみだなあ。

鈴木励滋さん鈴木 私のお勧めの一番目はハイバイの作・演出の岩井秀人さんの「武蔵小金井四谷怪談」。
カトリ ハイバイ俳優陣は全く出てないんですよね。
徳永 ハイバイ公演じゃないんですか。
カトリ 青年団リンクの「口語で古典」という企画です。
徳永 このチラシ、かなり凝っているんだそうです。フェルトを伸ばして貼って、スパンコールやビーズを付けたという。私はまったくわからなくて、黒い画用紙にクレヨンで描いたと思い込んでいたのですが(笑)。
鈴木 四谷怪談も好きだし、岩井さんの公演とあれば、もう僕は行きます。
カトリ 2月に岩井さんが役者として出演したAGAPEstoreの「残念なお知らせ」もよかったものね。
鈴木 ええ。普段僕は行かない価格帯でしたが、行ってよかった。でも今回は岩井さんは出ないんですね(残念)。
徳永 今回、キャストは青年団のキャリアのある方たちばかりですね。そこにフリーの猪股俊明さん。
カトリ 変なおじさんを演じるといい役者さんですね。
鈴木 「て」の暴君な父親役が秀逸でした。二つ目は、コマツ企画の「背伸び王」。役者が面白いんです。本井博之、浦井大輔、川島潤哉と、どうしてこんなにいい役者がそろったのかな。
カトリ 客演の佐野功くんは柿喰う客の公演や他で殺陣を付けたりしている人で、身体性に優れている。作・演出の小松美睦瑠(みむる)さんは今回は出ないんですね。
徳永 いつもは出ていらっしゃるんですか。
カトリ いつもは主演級で。
鈴木 え、また名前変えたの?「こまつみちる」とひらがなだったのに。しかもみちるですらない、「みむる」!
徳永 わたし、コマツ企画見たことないんですよ。
鈴木 コマツ企画の作品は、人との距離や関係のかけがえのなさを、説教臭くなく、非常にくだらないバカバカしさで見せてしまうので、変に響いちゃうことがあります。ぜひ見にいってみてください。
そして最後は風琴工房「おるがん選集 春編」を推します。
カトリ 主宰の詩森ろばさんは、女性をとても柔らかく可愛く描きますね。
鈴木 日常の人間の機微というか、感情の揺れを丁寧に作れる人です。昨年の秋編(「春は馬車に乗って」 原作 横光利一「痩せた背中」原作 鷺沢萠)も良かったので期待です。
徳永 美しいセリフや迫力あるセリフがありますよね。

カトリヒデトシさんカトリ 私の1本目は、「折込」(劇場で配布されるチラシの束)を止めたカンパニー、堀川炎が主宰する世田谷シルクの「春の海」。他劇団からの折り込みも受けず、ただ「置きチラシ」(劇場のロビーなどに並べたりつるされたりするもの)と上演前にプロジェクターでチラシの画像を映写するということです。資源節約の問題と、チラシ代でチケット料金が上がるのはバカバカしいということで…。OL出身の堀川ならではでしょう。
出演者の中では何と言っても堀越涼。花組芝居の秘蔵っ子ですから演技のレベルがすごい。DULL-COLORED POPの「SHORT 7」で「藪の中」を一人で7役やったんですが、稽古場をのぞいたら、一つの役を7パターンぐらいすぐやっちゃうんですよ。演出の谷賢一がそれを見て「じゃあ3番目で」と言ったらすぐにそれが出てくるという(笑)。伝統的な女形顔で、本当にきれい。おばさま方の追っかけもいるというすごい役者です。
徳永 小劇場界の早乙女太一ですか。
カトリ 2本目は箱庭円舞曲の「とりあえず寝る女」。カンパニーの俳優は3人しかでませんが、須貝英くんの親友で「柿喰う客」の玉置玲央くん(柿喰う客)も出ます。片桐はづき、村上直子(ホチキス)も他で見るよりいい仕事をします。わがままな嫌な女がカッコいい。小林タクシー(ZOKKY)、青年団(入団予定)のリアルJK(女子高生)井上みなみちゃんも出ます。本は遅れているみたいですが、いつものように丁寧な完成度の高いものをつくるでしょう。なんといってもこのキャストは要注目ですね。
徳永 なるほど。
カトリ このカンパニーの作品は社会問題も折り込まれているんですが、作・演出の古川貴義はそれを表に出さないで、普通の人間ドラマのつもりで書いています。しかし、きちんと裏付けられた社会性があって、演出もかっちりしています。
3本目は柿喰う客の「八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン」。「いきなりベッドシーン」は七味まゆ味の一人芝居で再演です。イタい女の子の話なんですが、よく出来ていたし、彼女の身体性がよく生きていた。精華劇場の公演が大変好評で、それをきっかけに昨年、大阪で3本も客演をしました。「八百長デスマッチ」は玉置玲央と村上誠基の2人芝居の新作です。玉置くんは先ほど触れたmonophonic orchestraのストレートプレイもとてもよかった。村上くんは去年柿喰う客に入りましたが、長年客演として出演していて、最強の「外人部隊長」と言われていた。軽みのあるとても優れた俳優です。この2人だけという芝居はとても楽しみです。

徳永京子さん徳永 私の1本目は「BLUE/ORAGE」。千葉哲也さんの演出です。千葉さんは役者さんとしても大活躍されていますが、数年前からTPTで演出されるようになり、地道に本数を増やしている。直接聞いたことはありませんが、2009年に読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞されて、演出家として腹をくくってきたような気がしています。この後にもシス・カンパニープロデュースで堤真一さん、小泉今日子さん、大森南朋さん出演という注目作(エドワード・オルビー作「アット・ホーム・アット・ザ・ズー」)を演出されるんですよ。演出のスタイルとしては、役者さんの生理に寄り添うタイプで、千葉さん自身、演出を始めてから役者としても膨らんできている印象です。役者をしながら演出家として大きくなっている人って、日本ではあまり思い付かないのですが、千葉さんがこれからどのような道を歩んでいくのかとても楽しみです。
今回の作品の出演は千葉さん本人のほか、中嶋しゅうさん、チョウソンハさんで、世代別セクシー男優と言うべきところを抑えてますよね。
カトリ 出演者が演出をするとあまりよくない例も多いのですが、これはちょっと違うのかなあという気がします。千葉さんは、2月に出演したモダンスイマーズの「凡骨タウン」がとんでもなく素晴らしかった。続きものだったのですが、前作に出ていたスイマーズの5人が何だったのかという気にさせられるほどで、圧巻でした。
徳永 「凡骨タウン」作・演出の蓬莱竜太さんにお話しをうかがった時に、戯曲の中に演じ手が舞台に立つ必然性のある言葉を書くことが必要なんだということを、役者としての千葉さんに教えられた、と言っていました。とすると、役者としても劇作家・演出家を育てられる人なんだなあと思って。
2本目は、シス・カンパニーの「2人の夫とわたしの事情」。サマセット・モームの戯曲をケラリーノ・サンドロヴィッチさんが本邦初上演します。プロデューサーの北村明子さんがモームが好きで、戯曲を探していたらこれがあったという。最初に日本で訳された時は「夫が多すぎて」(岩波文庫)というタイトルだったのを訳しなおして、このタイトルに。KERAさんの意見も相当反映して、翻訳劇っぽくない言葉に直してやっているそうです。
正直、個人的には不安材料も感じています。出演の渡辺徹さん、段田安則さんが好きな笑いの質と、KERAさんの笑いの質が違う気がするので、どうなるのかな、と。モームの原作は、昔のよく出来たコメディなんですね。戦争未亡人の主人公が夫の親友と再婚して、子供も生まれて暮らしていると、実は夫が生きていて戻ってくるという。機を見るに敏で超わがままな美人を松たか子さんが演じます。
カトリ 池谷のぶえ、西尾まりが楽しみだなあ。あ、皆川猿時さんもこんなところに出られるようになって…(笑)。
徳永 それに新劇の大ベテランの新橋耐子さんがKERAさんの舞台に出るというのも面白そうですね。チケット代が高いのですが、それだけのものを見せていただけると期待しています。
カトリ 最近KERAさんはカフカやったり、翻案ものが増えてきましたね。
徳永 3本目は文学座「わが町」。
カトリ わー文学座の立ち上げメンバーの戌井市郎さんも出るんですね。93歳ですよ!元気だなあ。
徳永 柴幸男さんが1月にやったワークショップが「ワイルダーで、ままごと」でワイルダーを扱ったり、「わが星」というタイトルも「わが町」から付けたと言いますし、最近、ワイルダーの名前を聞くことが増えていますね。新国立劇場でも2011年1月に「わが町」の上演を予定しています。
カトリ 何かの周年なんですか。
徳永 偶然のようです。
カトリ 池袋でも2008年と2009年にワイルダーをヒントにした「池袋わが町」(作・演出ジェームズ三木)というのをやりましたね。
徳永 同じ作品やひとりの作家に、違う役者・演出家さんが取り組むのを短い期間に見比べられるのはすごくいいことだと「ヘンリー六世」で改めて実感しました。戯曲の理解も深まりますし、演出家やカンパニーの個性なども多角的に見えてきますよね。その階段の大切な一段目として観に行きます。
(3月14日 東京都渋谷区内にて)
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第184号、2010年3月31日発行[まぐまぐ!, melma!]。購読は登録ページから)

【出席者略歴】(五十音順)
カトリヒデトシ(香取英敏)
1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継 ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。 個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

鈴木励滋(すずき・れいじ)
1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カプカプの所長を務めつつ、テルテルポーズ(http://d.hatena.ne.jp/tel-po/)やダンスシードなどで、演劇やダンスの批評を書いている。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)に寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-reiji/

徳永京子(とくなが・きょうこ)
1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、『シアターガイド』『FIGARO』『花椿』などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/

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