3人で語る「2010年6月はコレがお薦め!」

青☆組「恋女房達」公演チラシ★カトリヒデトシさんのお薦め
青☆組「恋女房達」(アトリエ春風舎 6月3日-8日)
乞局「裂躯(ザックリ)」(笹塚ファクトリー 6月16日-21日)
南河内万歳一座「びっくり仰天街」(ザ・スズナリ 6月2日‐6日)、クロムモリブデン「恋する剥製」(HEP HALL 6月4日-8日、赤坂RED/THEATER 6月22日-7月4日)、売込隊ビーム「トバスアタマ」(「劇」小劇場 6月3日-6日)
★鈴木励滋さんのお薦め
快快(ファイファイ)「SHIBAHAMA」(東京芸術劇場小ホール 6月3日-13日)
キコqui-co.「カナリアの心臓」(神楽坂die pratze 6月11日-14日)
A.C.O.A.「共生の彼方へ」ベストセレクション「―共生の彼方へV ―どんぐりと山猫」(atelier SENTIO 6月17日-18日)、「―共生の彼方へI ―霧笛」(atelier SENTIO 6月19日-20日)
★徳永京子さんのお薦め
インパラプレパラート×エビビモpro.合同公演「エビパラビモパラート」(東京芸術劇場小ホール 6月3日-6日)
・文学座公演「麦の穂の揺れる穂先に」(紀伊國屋サザンシアター 5月31日-6月9日)
庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」(シアタートラム 6月6日-13日)

カトリヒデトシ 私はまず、吉田小夏作・演出の青☆組「恋女房達」。はっきり言って、2008年までの青☆組はあまりピンときてなかったんだけど、去年3月のMrs.fictions「15minutes made vol.5」の「恋女房」がすごくよかった。今回はその拡大版オムニバスのようです。
徳永京子 その時は「恋女房」で、複数形ではなかったんですね?
カトリヒデトシさんカトリ はい、そうですね。「15minutes made」というのが、複数劇団による15分ものオムニバスですんでね。「恋女房」自身は再々演。今回は、5本くらいを集めた形になるらしいです。シリアスドラマあり、ほのぼの系ありで、どれも夫婦の話というくくり。荒井志郎という役者がいい。ちょっと面長なんですけど、魅力的な声で途中からだんだん二枚目に見えてくる。渋い実力派って感じ。老けの名女優羽場睦子、溌剌とした現役女子高生の井上みなみも出ます。アトリエ春風舎という恵まれた場所で稽古もばっちり積めるようなので、このオムニバスは楽しみです。小夏さんがその柔らかい〈女性性〉を素直に紡ぐようになってから、お気に入りなんです。
2本目は乞局「裂躯(ザックリ)」。作・演出は主催の下西啓正くんですが、前々作「芍麗鳥(シャックリ)」で、いきなり作風が変わって人が死ななくなった(笑)。それまではドロドロで(笑)、たくさん死ぬ芝居ばっかりやってたのに、最後に突き落とさなくなった。秋にやった「汚い月」は再演だから、死んだけど(笑)。プライベートな生活が作品に影響を与えてるのかなと思うんですけど、頭のいい人なんで、この変化はいいことのような気もする。だけど、はたして彼が追及している世界はどう変わっていくのか、ちょっと気になってます。そういう意味でも、今年あたりが正念場なんじゃないかと思います。
鈴木励滋 どうなんですかね。下西さんは、僕は最初「三月の5日間」に役者として出てるのを見ました。彼は、実際にしゃべってる時も穏やかな感じの人。なのに、旗揚げ公演「乞局」の再演を見て、何でこんなのと、ご本人の雰囲気とのギャップに愕然とした。だから、違う展開があるなら僕は歓迎ですが…。
カトリ 乞局では局員というんだけど、女優陣に岩本えり、墨井鯨子という優れた人や、鳥公園というカンパニーもやってる西尾佳織、男優に三橋良平という怪優がいます。独特で変で、そのくせ魅力的な声をもった人たちが揃ってます。下西さんがいい耳をもってるんでしょう。「汚い月」では、カフカの「君と世界の戦いでは、世界に支援せよ」という言葉を思ったんだけど、これから作品世界がどう転がっていくかが、今、非常に興味のあるカンパニーです。

3人で語る「2010年6月はコレがお薦め!」
【写真は左から、カトリヒデトシさん、鈴木励滋さん、徳永京子さん。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

最後は1本じゃないんですが、大阪の劇団もしくは大阪出身の劇団というくくりで、南河内万歳一座「びっくり仰天街」、クロムモリブデン「恋する剥製」、売込隊ビーム「トバスアタマ」の3公演を。大阪の劇団って、昔は東京に対するコンプレックスもあったんでしょう。東京に来れば成功という感じだったと思うんです。代表が劇団☆新感線ですかね。でも、南河内万歳一座の内藤裕敬さんは、新感線のいのうえひでのりさんと大阪芸大のほぼ同期ですが、大阪にいることにこだわり続けてます。クロムモリブデンは、10年以上大阪で頑張った後、2006年に東京に来たそうです。スタイリッシュでとてもオシャレで、かつ面白いものをやるようになった。ただ、大阪時代の人はほとんど残ってないそうですけどね。売込隊ビームは、大阪で伸び盛りの劇団。作・演出の横山拓也くんは、去年、「エダニク」で劇作家協会新人戯曲賞を受賞しました。ていねいで見応えのあるホンを書きます。そういえば、キリンバズウカの作・演出の登米裕一くんも大阪出身。東京での3回目の公演「ログログ」を8月にやりますね。これらの何が面白いかというと、やっぱり〈大阪〉性に関してですね。
徳永 3つとも、大阪的なんですか?
カトリ そこを話したかったんですけど、南河内はやはり大阪=浪速の感じが濃いですね。でも、クロムモリブデンや売込隊ビームは、まったく大阪の匂いがしない。いわゆる関西弁でも、人情ものでも、お笑い系でもない。キリンバズウカもそう。関西出身なんて見ててもわからない。けれど、確実に東京のと違う〈濃い人間〉たちが出てくる。ある時期から、大阪の劇団の方向性が変わったのかなと思うんです。コテコテでやっている空晴(からっぱれ)なんてところも好きですが、大阪を引きずらないように見える大阪出身劇団が出てきているのが面白いなと感じてます。こないだワンダーランドに劇評が載った突劇金魚や、The Stone Age、仏団観音びらきなんかは、東京ではありえないような芝居を作ってますね。劇場もどんどんなくなって、大阪の小劇場シーンが危機的であると聞き及びますんで、在阪の劇団も、東京でもどしどし公演してほしいと思うんです。6月は3つが出揃うので、大阪劇団の今昔ということで、見ていただいて認知度をあげてもらいたいなと思います。

徳永京子さん徳永 私の1本目は、インパラプレパラート×エビビモpro.合同公演「エビパラビモパラート」。インパラはお芝居、エビビモはミュージカルをやってます。そのエビビモのミュージカルは、いわゆるミュージカルと明らかに違う。うまい下手は関係ないというか、歌と踊りを向上させよう、うまくないと伝わらないとは思ってないように見えるんですね。
鈴木 これは、東京芸術劇場の「芸劇eyes」に選ばれて行う公演ですけど、その後が(これまたうまい下手は超越した妙なミュージカル、妙ージカルの)FUKAIPRODUCE羽衣ですから…そういうのが続くんですね(笑)。
徳永 そうですね。それでも、歌と踊りとフォーメーションがないと、このシーンや物語は伝えきれないんだろうなあと感じさせられるんです。今回はキーワードが「音楽」ということなので、おそらくは、音楽寄りの集団劇になるだろうと思います。まだまだ若い劇団なので、これはどちらにとってもプラスになる合体公演じゃないかと予想してます。
次に文学座の「麦の穂の揺れる穂先に」。平田オリザさんが脚本で、戌井市郎さんの演出です。チラシによると平田さんには、小津安次郎の映画をモチーフにという依頼があったそうです。「お父さん、私結婚します。」という言葉があるので、ちょっと懐かしい父と娘の関係が出てくるのでしょうね。10年くらい前なんですが、平田さんが演劇集団「円」に、チェーホフの「桜の園」をモチーフにした「遠い日々の人」という話を書かれてました。岸田今日子さんが主演で、経済的に崩壊していく家庭で、その原因をつくったとも言える母親が、実はその家を支えているという話だったと記憶していますが、私はそれが、平田さんの戯曲の中でいまだに一番好きです。お芝居を見て、めったに泣かないんですけど、その時は〈母親〉という立場の裏表を深く突きつけられて大号泣しました。今回も、新劇系の劇団で、モチーフにする題材があり、ベテランの役者さんがメインなので、平田さんの筆の性質として、とても適しているのではないかという気がするんですよ。職人劇作家としての腕に期待するところです。
最後は庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」。
カトリ うーん、ペニノは当たり外れが多いと感じてましてね。昨年のフェスティバル/トーキョー秋「太陽と下着の見える町」はまったく面白くなかった。PC(ポリティカル・コレクトネス)的にもいいんだろうか、とか思っちゃったし。劇団アトリエのはこぶねでやる時の緊密さとミニチュア装置の精度なんかと比べると、大きいところでやると味が薄まるなあと。
徳永 そうですか、私は面白く観たんですが…。ところでこの公演は再演なんですが、初演はザ・スズナリで、舞台に中2階をつくり、そこでジャズの演奏をしながら、セリフはほぼなしで、延々と、粛々と、手術が行われる、というものでした。患者の体内から内臓が、これでもかというくらいどんどん出てきて、内容的にはほとんどそれだけだったんですけど(笑)。手術はリアルでグロテスクなんですが、私たちはそれに似たものを、テレビ映像などでいくらでも見てるわけです。でも、その既視感が、スタイリッシュなジャズの演奏がガンガン空気を震わせている中でブレてくる。関連性のない2つの情報が目と耳から同時に入ってくることで、既知の領域から未知の領域に連れていかれるというか。ペニノの作品ではたびたびそういう感覚を覚えますが、そうして見せられる風景には国境がないというか、原風景が日本じゃない。そこが不思議だなあと惹かれるんです。

鈴木励滋さん鈴木 僕は、先にふれたFUKAIPRODUCE羽衣は、前に一度選んだから今回は泣く泣く断念します。まず、落語の「芝浜」に題材をとった快快「SHIBAHAMA」を。これは前に、清澄白河のSNACでプレ公演的なことをやりました。もとの話に、拾った財布の金で飲んで騒いでというのが出てくるので、それにちなんで、ほんとに振る舞い酒のドンチャン騒ぎをやった。花見の頃だったので、スクリーンには桜が映し出され、女優さんたちがお酌をして、観客もそのシーンに参加するという趣向。東京芸術劇場では、それはできないでしょうから、まったく違う形のお祭り騒ぎをやるのではないでしょうか。
前作の「Y時の話」は、演出の篠田千明さんが学童保育所に勤めていたとかで、そういう話も入り、なかなか子供が見られるような公演時間ではなかったけれど、子供も楽しめるものになっていました。子供参加型の演劇って、たいていどうしようもなくつまらないものになりがちで、それは、作り手がはずしたくないと思ってる筋というか枠に、参加者をあてはめようとするからでしょう。枠の中で遊ばせて、結局誘導していく感じのつまらなさ。でも快快は参加者がムチャして枠が揺らいでも、それまで含めてそのまま楽しんじゃいそうですよね。そのくらいの覚悟があるというか読みが甘いというか(笑)。まじめな人は怒っちゃうかもしれないけど。
カトリ 評価というのとは別に、人気はすごくありますよね。美大出身だけあって、トータルにアートな空間をプロデュースする能力は高くてかっこいい。飲食スペースを設けて料理を自分たちで作ったりね。
鈴木 空間も作るんですよね。もし物語ということだけで切り取ってしまうと、非常に陳腐になりうる。たとえば、若い人が、さらに若かった頃を懐かしむというくらいの話になってしまうとかね。そのあたりを目指しているのでは、まったくないと思います。関係、空間、現象を創り出している。
次はキコqui-co.「カナリアの心臓」。ここは美術や映像がきれいです。前回の「はなよめのまち」では、被差別部落や神事・生贄をイメージするようなものをからめて、現代なんだろうけれども架空のどこかを舞台に、パラレルワールドを描き出した。そういうのはたいていうまくいかないものですが、途中で大きな破綻もなく、力を感じさせられました。
カトリ 映像にとてもセンスがある。上演時間は2時間20分くらいだったけど、それでも全然時間が足りないくらいの物語の濃密さがあったですね。
鈴木 今回は、ダンスをよくやるDie pratzeを会場にしてますね。脚本・出演の小栗剛さんが演出もする予定だったのが、黒澤世莉さんを演出に迎えることになったそうで、それもいい組み合わせだと思っています。
最後はA.C.O.A 「共生の彼方へ」ベストセレクション「―共生の彼方へI―霧笛」「―共生の彼方へV―どんぐりと山猫」。構成・演出・出演の鈴木史朗さんを私がはじめて見たのは、三条会の舞台に客演として出ていた時。すごく独特で、舞踏にも通じるような身体で、三条会の世界に入り込める人がいることに驚いたのを覚えています。以前は演劇らしい演劇をしていたようなんですが、初めてA.C.O.Aを見た時はもう、舞踏と朗読の間みたいな感じでしたね。「A+」という作品では、ベケットの「ロッカバイ」をモチーフに、短いテキストを延々と繰り返しながら、絶対的な身体で見せるという不思議な舞台でした。老女の孤独な最期の時間を、あたかも祝祭であるかのように見せつけられてしまった。彼は那須を本拠地にしていて、「霧笛」はそこでの初演を見たんですが、最後に観音開きの扉がパッと開くと外へ道が通じていて、去っていくという演出も効いていました。
カトリ 先週掲載の劇評にも書きましたが「霧笛」はレイ・ブラッドベリの原作、灯台の霧笛の音を頼りに、太古の生物が訪ねて来るという話。それを5月に、何と実際に犬吠埼灯台霧笛舎というところでやってしまった! 霧笛を鳴らすための重機械の間を縫いながら、ほんとに狭い空間で演じたのがすごかったです。今回の公演では、演出がまったく異なるでしょうけどね。
鈴木 決して激しく動くわけではない。動きはミニマルで、とてもゆっくりと、でも重く動くんですね。それが、見てる方に説得力としてどんどん積み重なっていくという感じがあります。だから、描いてるシーンなどはごくわずかかもしれない。「どんぐりと山猫」などを見ていても、肝となるところのつかみ方が、三条会の関美能留さんとも通じるところがあって、物語全体を伝えたいというよりは、彼自身が美しいと思ったところを最も印象的に伝えることに重きを置いている。でもその分、強烈な印象が残るんです。
徳永 お話を聞いて、物凄く見たくなってきました。
(5月16日 東京都目黒区内にて)

【出席者略歴】(五十音順)
カトリヒデトシ(香取英敏)
1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。 個人HP「カトリヒデトシ,com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

鈴木励滋(すずき・れいじ)
1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カプカプの所長を務めつつ、演劇やダンスの批評を書いている。「生きるための試行 エイブル・アートの実験」(フィルムアート社)やハイバイのツアーパンフに寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-reiji/

徳永京子(とくなが・きょうこ)
1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「EFiL」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/


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