3人で語る「2010年8月はコレがお薦め!」

★カトリヒデトシさんのお薦め

「2001-2010年宇宙の旅」公演チラシ東京デスロック「2001-2010年宇宙の旅」(キラリ☆ふじみ 水の広場 特設野外ステージ8月4日‐8日)
・平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)「ロボット版『森の奥』」(愛知芸術文化センター8月21日-24日)
・「墨東まち見世2010『墨田区在住アトレウス家 Part1』」(旧アトレウス家7月31日・8月1日)
★鈴木励滋さんのお薦め
東野祥子ソロダンス「私はそそられる-Inside Woman」(世田谷美術館 くぬぎ広場7月31日-8月1日)
金魚(鈴木ユキオ)「HEAR」(金沢21世紀美術館シアター21 8月21日・22日)
セレノグラフィカ「グレナチュール-横濱番外地」(横浜美術館レクチャーホール8月7日)
★徳永京子さんのお薦め
快快[faifai]×B-Floor「Spicy,Sour,and Sweet」(東京芸術劇場8月13日~15日)
・彩の国ファミリーシアター「音楽劇『ガラスの仮面-二人のヘレン-』」(彩の国さいたま芸術劇場8月11日‐27日)
真心一座 身も心も「流れ姉妹 たつことかつこ 第一章再演」(TOKYO FMホール8月19日~28日)


鈴木励滋さん鈴木 今回のお薦めは3本ともダンス作品にします。ダンサーはトヨタコレオグラフィーアワードの最高賞受賞者ばかりです。
まず、東野祥子ソロダンス「私はそそられる-Inside Woman」を。場所は、世田谷美術館くぬぎ広場周辺という野外公演。最近世田谷美術館では、展覧会に合わせて室内でバレエの服部有吉がコンテンポラリーやストリート系ダンサーと異種格闘技みたいのをやったり、エントランスで『≒2(にあいこーるのじじょう)』の公演や、くぬぎ広場では次にお薦めする鈴木ユキオさんも踊ったりしています。
東野さんはここのところコンセプト寄りの理屈っぽい作りのものが多いように思います。存分に踊るだけのシンプルな作品も大切にしてもらいたい。彼女のようにダンスを見るだけで満足させてくれるダンサーは少ないですからね。余計な仕掛けをしても仕方のない空間なので、純粋に踊りに期待しています。
東野さんはその後8月7日・8日に、「UNICOSMO WONDERLAND(ユニコスモ ワンダーランド)」を吉祥寺シアターで上演します。これは、ワークショップに参加した子どもたちと一緒に作る作品。以前、僕もワークショップを受けたことがあるんですよ、オヤジ対象の(笑)。その時は、体は外の皮膜だけがあって中が空洞、その中にパチンコ玉のような塊をひとつ入れるという設定。体を動かすに連れて中の玉が動くと。そんなふうにやっていると、初心者でも体のいろんな部分が意識できるんです。慣れてきたら、体の中に入っているものがちょっとトゲトゲしたものになります、と言われる。すると、また体の動きが変わってくる。塊が重くなったり、ふわふわしたものになったり……踊ったことがない人たちの動きも、ダンスっぽく見えてくる。
「UNICOSMO WONDERLAND」公演チラシ徳永 面白そう!
鈴木 きっと子どもとも面白いワークショップをやって、楽しいものができてるんじゃないかと。
2本目は、鈴木ユキオさんが金沢21世紀美術館でやる「HEAR」です。
カトリ 21世紀美術館は昨年のチェルフィッチュ「記憶の部屋について」とか、このところ、いい仕事が多いなあ。
鈴木 木炭で描いたアニメーションを使うようですね。予告映像を見ると、スクリーンに線画が出てきて、どんどんイメージが膨らんでいくような感じです。ユキオさんは、土方巽のアスベスト館にもいた人で、舞踏の最後の継承者という印象。畑をやってたりして、そういう生きざまを含めてね。話をするとすごく穏やかな人なんですが、舞台では一転して、激しいというか苦しいというか、ひき毟るようなとか…。でもそれが、痛々しい感じではないんです。むしろ、誰もが持っている苦しさと響き合う。そして、苦しいままで終わらず、どこか解放されていくんです。
この人も東野さんも、どの作品を見ても必ず同じような部分があって、それはモチーフが強いってことでしょうね。モチーフ自体が普遍的で強いというだけでなく、それを表そうという想いも強いんでしょう、奇をてらって毎回違うことをやらなくても成立する。表現者が表現したいことって、それほど多くないはずなんですよね。ただユキオさんの作品は、大勢とやるとかえって伝わってくるものが散漫になる気がします。振付する人が一番ダンスがうまくって、若手の踊り手が、技量としても応じきれてないからなのか。
徳永 劇団の中で演出家が一番演技がうまい、というのと同じパターンですね。
鈴木 本人も出るから、それがはっきりわかっちゃう。今回は、ほうほう堂の福留麻里さんなど力のある人と少人数の作品なので強い表現となるはずです。
最後は、セレノグラフィカの「グレナチュール-横濱番外地」。セレノグラフィカは本公演も見ていますが、トヨタコレオグラフィーアワード受賞者の中で、僕としては未知数の存在。どっちに転ぶかわからないリスクもあるんですが「異なる舞踏背景をもつ複数の女性ダンサーと、ダンサーではない一人の少女を作品内に共存させる」というコンセプトは面白そう。
徳永 グレナチュールってザクロという意味だそうですが、ザクロは〈女性性〉の象徴ですからね。
カトリ エロティックなところもあるんですかね。
鈴木 とにかく僕自身しばらくは見ていきたいと思うので、ぜひいろんな人にも見てほしいです。

徳永京子さん徳永 8月は全体的に本数が少なく、通常の公演と趣向の違うイベント的なものが多いですね。いろいろ迷いますが、まずは、快快[faifai]とタイのB-Floorのコラボレーション企画「Spicy,Sour,and Sweet」。期待と不安をこめて(笑)。
この間、この2つのカンパニーがマスコミ向けの取材会をやったんですよ。数日間、ワークショップをやっていて、その成果の披露という主旨だったのですが、実は根本のところでコミュニケーションがとれてないことが露呈し(笑)、でもそれはそれで面白かった。タイの女優さんがオープニングの挨拶をするのに、快快の篠田千明さんが何気なく猫耳のカチューシャを「これ着けて」と渡したら、彼女が顔色を変えて「着けたくない」と。B-Floorの他のメンバーも、全員が同じ反応だったそうなんです。それが取材会が始まる直前で、これまた何気なく篠田さんがその話を取材に来た人にしたら、その女優さんが、自分がわからない日本語で責められてるように感じたらしくて涙ぐんじゃった。一瞬、完全に空気がこわばりました(笑)。最後の質疑応答で言ってたんですが、その一件が響いて、快快メンバーもB-Floorメンバーも、予定していた段取りが気持ち的にガタガタになったそうです。B-Floorの人に「快快はキャラクターが立ってる集団ですけど、ぶっちゃけ、やりにくくないですか?」と聞いたら「すごくやりにくかった」と(笑)。
カトリ 正直だ(笑)。
徳永 ただB-Floorは、これまでも海外のいろんなカンパニーとコラボしているそうで、違いがあることがベースだと冷静に話してましたね。快快の方も、「取材会に至る数日間、お互いの文化の差についてディスカッションしてきたけど、それ以上に、今日は決定的な違いがあるとわかったことが収穫だ」と言ってました。その実感が本番に反映されると作品は面白くなるんじゃないかなと思います。こちらとしてももともと、完成度ではなく、化学反応を期待しているわけですから。
『ガラスの仮面-二人のヘレン-』公演チラシ次に、彩の国ファミリーシアター「音楽劇『ガラスの仮面-二人のヘレン-』」を。美内すずえさんの少女漫画が原作のこの作品は、青木豪脚本、蜷川幸雄演出で、おととし初演されました。
その第一弾で、当初、蜷川さんは脚本を気に入らないとおっしゃってたんです。というのは、青木さんの脚本は場面展開が多かった。原作が漫画だし、原作に対して思い入れの強いファンも多いし、何話分もまとめて凝縮しなきゃいけないしで。でも幕が開けてみたら、ヤケを起こしたような力業の演出がかえってよかったようで(笑)、評判がよかった。原作者の美内さんは、脚本も演出も気に入られて、初演時に4、5回見にいらしたらしいです。そうしたことが功を奏したか、今回の続編上演になったようです。
カトリ ヘレン・ケラーのところだけやるんですか?
徳永 はい。ひとつのエピソードに絞られることが初演との大きな違いですね。普通に考えると、そのほうが見応えのあるものができますから、期待したいです。
3本目は、真心一座 身も心も「流れ姉妹 たつことかつこ 第一章再演」です。座長が村岡希美さん(ナイロン100℃)、座付き作家が千葉雅子さん(猫のホテル)、演出が河原雅彦さん。他に〈座付きガヤ〉というポジションも定番で、元ジョビジョバの坂田聡さんや阿佐ヶ谷スパイダースの伊達暁さんが何役もこなします。河原さんや村岡さんは、大衆演劇的なノリの演劇を、小劇場界でやりたかったとか。で、千葉さんに声をかけて、森光子の「放浪記」みたいに、再演を重ねられるものをと頼んだら、なぜか連続ものがあがってきたそうです(笑)。すでに第三章までは上演され、次の第四章で一応打ち切りになるらしく、その前にリクエストの多かった第一章を再演することになりました。内容は、常に苛立ち、周囲に牙を向ける姉のたつこ役を千葉雅子さん、穏やかでいつも相手を許す妹かつこ役を村岡希美さんが演じ、それぞれが運命にもてあそばれながら旅を続けるというものです。そこに、たつこと心を許し合う優しい男=ゲストラバーと、かつこを陵辱する男=ゲストレイパーという形でゲストの男優2人がからみます。
鈴木 それはスゴイ話だ! 主役の姉妹は共通していて、そこに毎回、違う男たちがやってくるという設定なんですね。
徳永 そうなんです。再演される第一章では、ゲストラバーの松重豊さんがたつこに惚れられるきっかけが、襲いかかる牛を素手で止めたことで(笑)。ゲストレイパーの粟根まことさんがかつこを襲う場面は、間違いなく、演劇史上最も美しく切ない凌辱シーンでしょう。その他の章でも、木野花さんや高田聖子さんたちが大真面目に、かっこよく、普通はオトナがやらないことに取り組んでいらっしゃいました。
カトリ いろいろネタが多い。
鈴木 バカバカしい話でいいですねえ!
徳永 演出の河原さんが乗せ上手なんでしょうね。爆笑したり胸がキュンとなったり、観ているこっちの感情の起伏は、まさに大衆演劇のそれだと思います。

カトリヒデトシさんカトリ 私の1本目は、東京デスロックの初野外公演「2001-2010年宇宙の旅」。キラリ☆ふじみの中庭の池のところでやるそうで、しかもオールスタンディング。ライン京急などで演劇活動も盛んになっている大谷能生さんが音楽を担当するのも楽しみで、大がかりなことになるんじゃないでしょうか。日替わりゲストも、山縣太一(チェルフィッチュ/ライン京急)、ひらたよーこ(青年団/あなんじゅぱす)、きたまり(KIKIKIKIKI)と豪華な顔ぶれ。きたまりさんは、この間の悪い芝居「らぶドロッド人間」は、率直に言って作品はともかく(笑)、彼女はよかった! きたまりさんがいるから成り立っていた部分があって、へーえと感心しました。身体的にもけっこう楽しみな公演なんじゃないかな。
鈴木 デスロックは以前、こまばアゴラ劇場で「unlock#2ソラリス」という公演をやりましたね。
カトリ SFは得意ですからね。まあ、きっと何かをやってくれるでしょう(笑)。
ロボット版『森の奥』公演チラシ次は話題騒然のロボット演劇、平田オリザ+石黒浩研究室(大阪大学)「ロボット版『森の奥』」です。去年、大阪大学で上演した「働く私」は20分だったんですけど、今回は40分です。その「働く私」のDVDを5、6分ほど見たんですけど、スゴイんですよ。
徳永 ある夫婦の話で、旦那さんの方が働いてないんですよね。
カトリ そう、いい年してニートなんです。そこに家事ロボットが2人(?)いるんですけど、その片方が働く意欲をなくして、こちらもニートになっちゃう。その男とロボット二人のニートが、夕陽の下で人生を述懐するという…。短編なのに、最後のロボットの姿でみんな泣いたというんですよ。
徳永 今回は、前とは全然違う話なんですよね?
カトリ たぶん、そうなんでしょうね。わかりません(笑)。平田さんは、あと10年で人間の役者はいらなくなるとまでおっしゃってましたから、役者主義の私としてはロボットの演技も見とかないとね(笑)。平田さんの話を聞いたら、ロボットは1日20分しか稽古できないんですって。通し稽古を1回やって平田さんがダメ出しをすると、そこを一晩かかってプログラミングし直さなきゃならないから(笑)。平田さんの巧みな劇作術がロボットという新しい表現主体に、どうはまっていくのか、ほんとに見たい1本です。
3本目は「墨東まち見世2010『墨田区在住アトレウス家 Part1』」。
去年から始まった都の芸術事業で東京アートポイント計画というのがあります。アーティストが東京の街でプロジェクトを展開するというもの。そのプログラムの今年のひとつがこれ。コンセプト・構成・演出の長島確さんは、日大建築科の佐藤慎也研究室や東京藝大大学院の市村作知雄研修室と研究ユニットを組み、一軒家を半年ほど借りてそこでギリシア悲劇を継続的に行います。
2月の前作「戯曲を持って町に出よう」は、中野成樹や矢内原美邦らとやったんですが、その中で谷中の大きな日本家屋を借りて「エレクトラ」を上演した回がありました。これがすごかったんです。エレクトラハウスと称し、お姉さんの部屋だとか、お父さんを殺すお母さんの部屋だとかいう設定で、部屋ごとにショートドラマをやり、観客は好きな順で見てまわる。
家具も置いたままの空き家を利用して、長年人が住んでいたのに引っ越したばかりという空気が充満する古民家は、人の記憶、人がいた気配が濃密に漂って、今たまたま空いているという感じが、昔の映画「慕情」にでてくる「かりそめの時、かりそめの場所」という香港みたいな空間。実に演劇そのものって感じです。そこでギリシア悲劇を、因縁や業の深い家族もの、横溝正史みたいな話に編み変えていたのが面白かった。今回はその家で、来年の3月まで「エレクトラ」や「オレステイア三部作」などのギリシア古典劇をもとにした作品を4回連続でやるということです。
古民家にしても野外にしても、場所の力を考えて、それを借りる、利用するということ。そこにしかない場所で、その場所を劇的空間にしていくというのは、演劇にとってとても大事なことだと思ってます。劇場でやるだけが演劇じゃないだろう、と。

-ほかに、この夏のフェスティバルなどで、注目すべきものはありますか?
カトリ 利賀の「SCOTサマーシーズン2010」では、鈴木忠志のSCOTが久方ぶりに新作をやります。「新・帰ってきた日本」という作品で、原作は何と、「沓掛時次郎」! 長谷川伸大好き!! 利賀演劇人コンクールには、ともに青年団演出部の澄井葵(,5)と鹿島将介(重力/Note)や、ほかに下西啓正(乞局)が演出作品を出します。
鈴木徳永 エーッ、そうなんですか!
鈴木 王子小劇場の「佐藤佐吉演劇祭2010」やこまばアゴラ小劇場の「夏のサミット2010」もありますね。
徳永 サミットは今後、年1回になって、タイトルもシステムも変わるらしいです。
鈴木 サミットも、ディレクターが丹念に見て選ぶということは、なかなかできなかったようですが、それにくらべれば、今の杉原邦生くんは意欲的に、今まであまり見たことのなかったようなカンパニーを連れてきてくれたのがよかった。
カトリ 全国からカンパニーが来るようになったのは、すごいことだね。
徳永 佐藤佐吉演劇祭2010に出る菅馬馬鈴薯堂は、まだ見たことがないんですけど、いい評判をいくつも聞きます。
鈴木 そうですねえ。主宰の菅間勇さんは、ずいぶん長く演劇をやってる方らしいですよ。
カトリ それから、中屋敷法仁「ダミーサークル」は、北区の中高校生を募り、ワークショップで鍛えて作品を作るという企画。キラリ☆ふじみでも、7月末から小学生対象のキラリ☆サマーキッズワークショップ2010を豪華な指導陣で今年もやりますね。
徳永 中屋敷さんや多田淳之介さんみたいな人が、若い人たちを対象に、ワークショップをバンバンやってくれると、演劇って何かカッコいいかも…と思ってくれる人が増えるからいいですよね。
鈴木 そう、その出会いがなければ違うジャンルにいっちゃいそうな人が、もしかした演劇をやろうっていうきっかけになるかもしれない。そういう意味でも期待できますね。
(7月11日 東京都渋谷区内にて)
(初出:マガジン・ワンダーランド第201号、2010年7月28日発行。購読は登録ページから)

【出席者略歴】(五十音順)
カトリヒデトシ(香取英敏)
1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

鈴木励滋(すずき・れいじ)
1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カプカプの所長を務めつつ、演劇やダンスの批評を書いている。「生きるための試行 エイブル・アートの実験」(フィルムアート社)やハイバイのツアーパンフに寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-reiji/

徳永京子(とくなが・きょうこ)
1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/


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