連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第5回

||| いつも8割以上の集客率

―アンサンブル公演は、この間の「オンディーヌ」が9回目なんですね、3年で何でこんなに公演を打てるんだろうと、びっくりしました。

ゲスナー そうそう、すごいでしょ! やっぱり、芸術監督は自分のアンサンブルをもってないと、意味がないですね。

―こちらでは予算を超過したことがないとうかがいましたが、集客率はどのくらいですか。

ゲスナー 必ずいつも80%以上の席が埋まります。嘘ではありませんよ。小さな劇場だということもありますが、それでも10回公演をやったら1000人が集まります。後でお話しますが、今井雅之の「THE WINDS OF GOD」は、再演の時でも100%でした。毎年12月に家族で見られる作品として上演する、クリスマスメルヘンはいつも満員で、「雪の女王」のときは追加公演までやりました。

―お客さんは仙川の方が多いですか。よそからもたくさん来られるんですか。

ゲスナー 調布市の観客が多いのは間違いないですね。でも、もちろん他のところからも来ます。出演者の関係で来るお客さんも多い。私たちの不得手なのは宣伝ですね。せんがわ劇場ではいろいろなことをやってるのですが、人手も予算も少ないために、他に向けての宣伝が下手ですね。調布のケーブルテレビや調布FMには、ずっと出てるんですけどね。

―アンサンブルのメンバーは、基本的に若い方ということですか。

ゲスナー いや、いろいろな年齢の人がいます。たとえば、50代の私と同じくらいか年上だと思う方が、いつも参加してくれています。

―スタッフとキャストは毎回、公募なさるんですか。

ゲスナー キャストはその時々ですね。オーディションをしていたら、間に合わないこともありますから。それでも、年に2回は、必ずオーディションをしています。スタッフは1年中、ずっと募集してます。何のイベントをやっても、必ずスタッフ募集はありますね。

―芸術監督として、今の契約ではあと何年とか、そういったご予定はおありなんでしょうか。

ペーター・ゲスナーさんゲスナー ここがオープンする前の年、2007年の5月から、私は働いてたんですね。そしてその時、とりあえず3年間やろう、と思ったんです。そして3年目の今年で、辞めることになっています。それで、来年以降の体制作りのために、運営検討委員会を立ち上げて、話合いをもってるところです。

―お辞めになるというのは契約期限がきたからですか。

ゲスナー 契約は1年ごとです。いつでも私のこと、クビにできるように(笑)。

||| 地方の公共ホールのモデルとして

―これまでを振り返って、どういうことを考えながら、お仕事をなさってきたんでしょうか。

ゲスナー もちろん、全部スムーズにいった、パーフェクトだったわけではありません。いろいろな問題もありました。でも、やってきたことについては、結局、調布市もとても認めてくれています。
 このせんがわ劇場は、私の理解として、必ずしも東京では必要かどうかわからないけど、地方のためのモデルと思ってたんですよ。新国立劇場や座・高円寺などのことを、地方都市の文化ホールは、なかなか真似できないと思うんですよね。でもここでやってることなら、できると思います。地方には、基本的に貸し館だけのホールが、いっぱいありますよね。予算も少なめの。むしろ、ここより多いくらいかもしれません(笑)。
 専属劇団を作るというのも、いろいろな意見を持っている人たちもいるし、難しいところがあるんですよね。劇場で働く人たちが、嫌がるかもしれない。ですから、普通あんまりそういうものは作らない。みんな、一番簡単な道をとりがちですから。でもそうなると結局、街の人たちは〈私たちの文化ホール〉となかなか思えないでしょう。でも、ここで何年間かアンサンブルに参加した人たちは、〈私たちの劇場〉って実感すると思うんですよ。ここの温かさというか連帯感、これはただの文化ホールにはない。普通なら、私はここまでしか働かない、私はここまで…となります。私たちは、失敗しても一緒にやろう、この人たちを大事にしよう!と考えている。そしてそういう劇場の雰囲気を作ってきました。それが、芸術監督として私のやった仕事です。
 最近は私も、まったく何も言わないんです。もう、そういうふうになってしまっているから。いなくてもいいくらい(笑)。といっても、今の嘱託の人が辞めたら、がんばっている公務員の人が異動になったら、そして私もいなくなって、別の何も知らない人たちが来たら、これまで培ってきたものは、必ずなくなってしまうのは決まってるんですね。
 あるいは、作品に対して、これはおもしろかったと普通の公務員の人が言っても、芸術家はピンとこないんですよ。専門家として認められない人ですから。おもしろかったとも何も言わない人も多いですけどね。でも、キャリアのある芸術監督が、本当におもしろかったよ、がんばったねと言ったら、かかわった人の反応は全然違う。
 そういったことを含めて、平田オリザさんの芸術監督の必要性などについての考え方を、私は支持する立場です。シアターXの上田美佐子さんはそれに反対しているんですけど。あそこでは、うずめ劇場として公演したこともあるし、彼女とはお互いに尊重し合っている間柄です。そして、彼女の考え方も、ある意味で理解はしているんです。でも私はあくまでも、ここで芸術監督として働いていますからね。
 車を作る時は専門家が作るでしょう? 同じように、劇場では、演劇の専門家―芸術監督を信頼して、仕事をさせたらいいんじゃないかと思います。失敗する場合があっても、まずやらせなければ、新しい方向性は出てこないですからね。一方で、上田さんのようなプロデューサーの働く場所も必要ですね。そういう仕事は、誰もができるわけではないですから。ですから、ルールというものも、そういう能力のある人たちに合わせてもいいと思うんです。でも、役所には、その柔らかさはありません。私も、調布市の決まりも認めないといけないんですけど、それは簡単なことじゃないですね。
 たとえば、ここで最初に私の意見が通らなかったのは、貸し館としての、照明や音響などの付帯設備費を決めた時。私は、演劇を大事にしようとするなら、割安になるよう、使用料にセットで組み込む形にしてほしいと頼んだんですけど、それはルールでできないと。別途料金で、場合によっては高くつくことになってしまいました。
 それに対して私の意見が通ったのは、何日間か公演を打つ劇団は、13か月間前に借りることができ、コンサートなどの1日だけのイベントは12か月前に、という方式をとるということ。そうしないと、演劇の方が不利になりますからね。というのも、先に言ったように、地方の文化ホールのモデルをやりたかったんですが、そういうところは、何でも同列に入れるじゃないですか。

―地方の公共劇場では、劇団がカラオケ大会と一緒に並んで、会場をとらなくてはいけないという話も聞きますね。

ゲスナー それは、すごく下手くそなやり方で、プロの考え方ではない。ここでは全然違います。
 北九州でも何度もあったことですが、あるやり方について、何でこの方法でやらないんですかと聞くと「それは例がありません」「日本ではありません」って言われるんです。その「前例がない」というのが言えなくなるように、せんがわ劇場ではいろんなことをやりたいと思いました。いや、前例はあるよ、って言えるようにね。それは単なる夢じゃなくて、3年間、そういうことを実際に少しずつやってきました。また、地方の人は、東京でそうやっていると言うと、急に考えが変わるんですよ。日本はそういうところがあるようですね。
続く>>

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第5回」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: yasu sato
  2. ピンバック: J. Nishimoto

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