範宙遊泳「労働です」(クロスレビュー挑戦編第2回)

 このところ大学の演劇学科出身の若手劇団の活躍がしばしば話題になっています。「ままごと」「東京デスロック」「ロロ」などは日大芸術学部出身の主宰ですが、今回クロスレビュー挑戦編第2回で取り上げる「範宙遊泳」は桜美林大学で演劇を学んだ人たちが中心になって2007年から活動しています。同じ桜美林大生が率いる「マームとジプシー」とともに注目されている劇団の一つです。今公演はどんなステージを見せたのか。★印による5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順です。
(編集部)

▽大庭俊介(Webデザイナー)
 ★★★
「労働です」公演チラシ 時代は2012年3月にストップ・ジ・アースという異変が起こって地球の自転が止まった後の世界です。地球を自転させる会社の地球部という部署が舞台です。演者はずっと紐を引っ張っていて地球を回します。そんな会社内の人間関係を映し出した物語です。設定はとても面白く良かった思いました。
■気になった点について
1.あまり事件が起こらない起伏の無いストーリー
 設定が良く演者の演技もレベルが高くてとても良いのですが、起伏があまりに無くて、退屈しました。要は脚本が面白くなかったです。
2.無駄な間が多かった(テンポが悪い)
 脚本の影響だと思いますが、間が長すぎる場面が多々あり退屈してしまった時がありました。演技は素晴らしく見入ってしまう場面もありましたが、テンポは見る側にとっては命のような物だと思います。
(観劇日3月6日 14:00の部)

 

▽山田ちよ(演劇ライター)
 ★★★
 開演前の会場では、作業服のような格好の役者が何かしていて、どこかの工場の中を想像させる。しかし、実際の生産現場ではあり得ないようなカラフルな滑車が回っているなど、徹底したリアルではない。芝居が始まると、現実味にこだわった会話などが、誇張表現やご都合主義の展開の間に混じる。場面の人物と傍観者的な語り手の間を行き来するレポーター役も、本当らしさと嘘っぽさを併せ持つ。こうしたリアリティーの取り込み方に独自性が感じられた。
 作品は、工場を舞台にした人間関係のドラマに、歌などのパフォーマンスで各俳優の個性を活かす場面、横浜駅でのインタビューの生中継といったライブ感で楽しませるコーナー、舞台装置や数台のモニターなどを駆使した視覚的効果などが組み合わさっている。これらの趣向の一つ一つは面白く、観客を引き込む力は大きい。だが、流れで見せられると、焦点がぼやけ、「盛り込みすぎ」という感想が残った。
(観劇日 3月6日午後6時)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ya/yamada-chiyo/

 

▽水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★
 描かれる「労働」そのものは「地球を回す」とか「何とか物質を何とかして」という、ほぼ意味不明のもの。その代わりに陰口や仲間外れといった、やたらと陰湿な職場の人間関係が、延々と描かれる。「労働」というのは辛い人間関係を耐え忍ぶことでしかないということなのか。ある意味リアルと言えばリアルかもしれないが、二時間もかけてこれでは、イメージとして貧し過ぎる。
 テレビ番組の形式を借りた軽快な展開は楽しいが、ポップであってポップ過ぎず。毒はあるがさほど強くなく。元気はいいがはみ出さず。横浜駅構内からの生放送といった趣向もあるが、嫌味にならない程度。全体に破綻がないというか、お行儀が良すぎて食い足りない。結局何がやりたい? このままだとどうにも中途半端だ。
(3月7日午後2時)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/mizuushi-kentaro/

 

▽佐藤亮太(劇場スタッフ)
 ★★★☆(3.5)
 全ての社畜に贈りたい。
 観客として作品を見る・見させられる、人間が晒されることを意識させられた。先ず客席と舞台。2つの部署や対立する状況で差を見せることに効果を発揮していた。次に客入れや中継の仕掛け。開場以前から続く労働とそこで見られていた役者も中継では見る側に変化する。また、そこでは悪口や陰口も重要である。テレビに映ることで強調され、観客側のように見えた司会役も悪口に加わることで、観客が何もできない辛さもあった。してやられた。
 ここまでは「労働」を見る空間の話であるが、設定も見るところは多い。地球を動かす大きなシステムを動かすためのシステムとそれを動かす小さな歯車があるが、その狭まりスライドしている状態によっても「労働」の意味が変化していく様も面白い(特にここでは存在からも問い直される)。
 一方で、重要な要素なのだが小さないざこざに終始していた感もあり、是非大きなスケールでの作品も見てみたい。
(3月4日 19:30)

 

▽プルサーマル・フジコ(編集者、雑文家)
 ★★
 アイデアは豊富だし、バカバカしい映像も愉快、そして俳優たちは魅力的な変態の群れ(笑)だ。そして台本に書かれたセリフとアドリブ的動作とを混濁させてフィクションを構成していく手法は、いい意味でガチャガチャしたノイズを生み出している。しかし手数が多いわりには過剰なものが乏しく、わたしの心に刺さるものはなかった。バランスを欠いていたけど何かが光った『ラクダ』、まがまがしい突き抜け感のあった前作『東京アメリカ』と観てきて、範宙遊泳は「愛嬌のあるニヒリズム」を抱えた希有な存在だと感じてきたけども、今作『労働です。』はただその手癖(センス)に頼ってしまった感もある。肝心の「労働」のモチーフにしても、「地球の自転/工場のライン/労働者の軋轢」の関係のダイナミズムをつかみきれず、お祭り騒ぎ的な「社会見学」の立ち位置に留まってしまったように見えた。
 もっと物語(劇作)の力を信じていいのではないか? 全体の構造にしても、流れにしても。例えばセリフが安全な選択肢(紋切り型)に流れた時、お客は安心して笑うだろう。だけどその流れた瞬間に「笑い」の陰で死んでしまうものこそが痛ましいのだし、舞台に乗せる価値があるとわたしは思います。その水子の霊みたいな厄介で不気味な存在を呼び込むことができれば、物語は粘り強いグルーヴ感をもって地球を逆回転させるくらいの怪物的なパワーを持ちうるはず。これは決して冗談ではない話です。
 俳優たちに実力も感じるし、ガジェットの配置など、面白がれる点も山ほどあるけど、中途半端な平均点は彼らに似つかわしくないと思うので辛口の★★。確かに今注目の劇団であることは今作でも証明された。とはいえ、小さくまとまる人たちでは全然ないと思いたい。
(観劇日 3月2日ソワレ・初日)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ha/pluthermal-fujiko/

 

▽日夏ユタカ(ライター)
 ★★★
前作の『東京アメリカ』、前々作の『ラクダ』のときには、
空間の使い方や空気感の漂わせ方などがとても達者、という印象が強すぎて、
反対に、自分には響いてこなかったなあ、という感想を抱いた。
いわゆる、演劇にかぎらず、近年のマンガや音楽あたりでも頻繁にいわれているように、
面白くみせる技術は巧みだけど、切実に表現したいものが薄いように感じられたのだ。

けれど。
今回は逆に、
作・演出が自分の感じている世界を、ある意味で不器用に立ち上げようとしていたことにようやく気付き、好感を抱いた。

狭い世界のなかで生じてしまう軋轢と苛立ち。
時計の歯車のような「労働」に従事していながらも、
地球の自転を担っているという強い、自負。

そう。
だからこそ、同世代の強い共感を得ているのだろう。
ほんと、誤解してて申し訳ない…。

それでもあえていえば、
今回は会社、前回は大学の演劇サークルを舞台に、
共同作業によって発生するコミュニケーションの齟齬に焦点があたっているのだけれど、
個人的には、その先が観たいとは思った。
よりよい製品や作品を作るためにどうしたらいいかと、
もっともっと、真剣に惑い模索する者たちの姿を観たい、と。
(観劇:3月8日ソワレ)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ha/hinatsu-yutaka/

 

▽瀧澤玲衣(国士舘大学)
 ★★★★★
 大前提、出演者はみな「労働者」。奇抜だ斬新だと言われるが、「演劇」という枠組み以上に「労働」というテーマに傾倒した結果として出た演出だろう。山本卓卓氏は「芸術」に対し非常に柔軟な演出家だ。まず会場に着くと受付や場内案内、荷物預かりなど演劇公演において所謂「制作」なる部署が担当する業務をすべて役者が担当していた。さらには物語の中で製造部がひたすら作っていた怪しい何かを終演後に販売したり、インタビュアーを上演中にも関わらず横浜駅に駆り出し通行人(もちろん一般人)へインタビュー、さらにそれを生中継するなど、出演者を労働者として演出することに一切の隙を見せない。そして終演後の業務もまた出演者がこなしていた。この「徹底」により、作品世界はだだっ広く展開する。そして描き出される人間模様は、演劇作品としては楽しく笑えるものであったが、「そこで笑うのは人として怖い」というえぐみを醸し出していた。
(観劇日:3月9日)

 

▽都留由子(ワンダーランド)
 ★★☆(2.5)
 お客が若い。役者も若い。君たちは「労働」したことがあるの? と聞きたくなるくらいだ。
 自転をやめた地球を、紐をかけて回している会社の工場が舞台。なぜかバラエティ番組が行われ、インタビューやゲームなど各コーナーは賑やかに盛り上がる。番組の進行につれて、従業員の様々な感情があちこちから染み出し、溢れ、爆発する。楽しそうなゲームは、当てこすり、陰口、告げ口、いじめ、仲間はずれ、そしてそれを楽しむ人たちなどのおかげで、異様なほどの雰囲気の悪さを示す。この異様な雰囲気の表現が、もう居たたまれないほどうまくて、驚いてしまった。さらにその異様な雰囲気の悪さは、いったん回復したかと思ったのに、幕切れでダメ押し。絶対にめでたしめでたしにしたくなかったんだな、きっと。会場の使い方も面白かったし、役者もうまいし、力のある劇団だと思うが、筆者にはなんだか後味が悪く、「面白かったけどちょっと好みじゃない」作品だった。
(観劇:2011.3.4マチネ)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tsuru-yuko/

 

▽徳永京子(演劇ジャーナリスト)
 ★★★
 ある事象を外側から検証して相対化すること、かつ、その事象を内側から突き破ること。脳と身体のカタルシスを同時に実現しようとする山本卓卓のハイブリッドな企みは、アクティングスペースを左右に分け、その中間に客席の配置したことで、かなり成功している。観客は観察者兼当事者となり、また、脳と身体を連結する首を、観劇中たえず左右に“働かせる”から。だが芯部を問えば、労働の苦さや重さ、作品全体のフィクション性の詰めが甘い。だから労苦の対極にあるレクリエーション、フィクションと反対のドキュメントを持ち込むと、遊びのセンスがいいだけに、それらに印象を支配されてしまう。ある従業員の狂気めいた笑い、すべてを清める祈りの歌をラストに配すなら、毒と救いが有効になる準備が必要。そして工場の車輪は常時稼働していたほうが、より意味が広がったのでは?(結局、人間は不要で自動でいいとか)。この劇団の愛嬌と牙は、まだまだ余力ありのはず。
(観劇:3月2日、初日)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/

 

▽北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 自転が止まった地球を、ワイヤー(ヒモ?)で引っ張って動かすのが職場の仕事。頼りなげな若い男たちの非力な様子がいじらしい。向かい側には、地球の核から出てくる物質を製品化するスペースがあり、ここには女性たちが陣取って小さなビニールキャップらしきものを束ねている。「労働」より「作業」が似つかわしい風景だろう。
 描かれるのは上司への不平不満、告げ口、追従…。女性たちの間でもイジメやプライバシーの暴露などよくありそうな小事件が持ち上がる。次第に高まる対立と緊張は、部下を救った上司が片腕を失う事故で和解へ、となればフツーのおもしろおかしい人情劇になるのだろうが、この公演はその先の亀裂をあからさまに見せて幕を下ろす。
 軽くユーモラスな筆致ながら、見慣れた風景の隙間から口に苦い、ドロリとした感触が滲み出る。グロテスクな悪意と言うにはもっと薄味だけれど、ニヒリズムと言うほど大げさではなく、シニズムのように斜に構えているわけでもない。表層の感覚が生のまま、無意識で漏れ出ているというあたりか。規範のない、垂れ流しのような<いま>の空気感が、確かに定着されている。こう思い至ると、自転が止まった地球という設定も、なにやら意味深長に思えてくるから不思議だ。
(観劇:3月8日)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kitajima-takashi/

【上演記録】
範宙遊泳「労働です」
横浜・STスポット(2011年3月2日-9日)
作・演出 山本卓卓

【出演】
熊川ふみ 埜本幸良 浅川千絵 大石憲 大柿友哉(害獣芝居) 川口聡 大森美里(劇団大森美里) 加藤サイセイ 丸石彩乃 斉藤マッチュ(劇団銀石) 田中美希恵(贅沢な妥協策) 福原冠 緑茶麻悠 高木健(タイタニックゴジラ)

【スタッフ】
『作・演出』山本卓卓
『演出助手』菅原和恵+戸谷絵里
『舞台美術+宣伝美術』たかくらかずき
『照明』山内裕太
『音響』高橋真衣
『楽曲提供』三船雅也(ROTH BART BARON)
『振付』北尾亘(Baobab)
『衣裳』天神綾子
『制作』萩谷早枝子

【チケット】
前売2300円 当日2500円 高校生以下1000円(要予約・要学生証)サタデーナイト割引(3月5日土曜日18:00の回2000円)
【アフターイベント】
(3月7日19:30の回)
・楽曲提供 ROTH BART BARONによる生ライブ!!!!LIVE LIVE LIVE
(3月8日19:30の回)
振付 北尾亘による生ダンス!!!!DANCE DANCE DANCE

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