連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第13回

||| 公的施設は何のため、誰のために

大石時雄さん大石 考え方の問題ですが、劇場や美術館関係者は、それぞれの本来機能をとても大事にします。避難所にしたくない、できればお断り。例え受け入れても、できるだけ早く避難した方々に出て行ってもらって、劇場や美術館の本来機能に復帰したいと考えがちです。
 アリオスは震災直後から避難所になりました。音楽や演劇活動を早く再開したいという市民の方々の声もありましたが、アリオスの私はかえって「急ぐ必要はない、焦らないようにしましょう」と言いました。だっていま大事なことは、生活が破壊され、困っている方々のことを考えることだ、そちらが先だと思うからです。館長も支配人の私も、職員スタッフもそう考えました。
 役所機能を別館に移転したとき、市役所の幹部から「申し訳ないな」と言われたのですが、半ば壊れて危険な本庁舎に職員を閉じ込めて置くわけにはいきません。市民の生命財産を守る役所の機能を危険にさらすわけにいかないでしょう。そう答えました。安全な場所で仕事してもらうのが当然だと思います。芸術文化関係者は自分たちの施設の本来機能を聖域にしてしまっていないでしょうか。地域生活が根底から危殆に瀕しているときでも避難所にしたくないと考えるのは、何のために公共施設があるのか、本来の意義と趣旨を忘れているのではないかと思います。劇場は演劇が好きな人、演劇をする人たちだけのために存在するわけではありません。地域住民すべてのためにあるべきでしょう。その地域住民が必要としているときに役割を果たせなかったら、公共公立の施設として、それは違うのではないでしょうか。私はそう考えますね。私は公共文化施設4箇所で仕事をしてきました。その経験から引き出した結論なんです。

-アリオスを準備するなかで、さまざまな人たちと施設の理念や機能を話し合い、施設の基本コンセプトや運営方針として公表しています。そういう経緯が大本にあって導かれてくる考えなんでしょうか。

大石 私がアリオスに関わるようになったのは2003年からです。いま座・高円寺の芸術監督を務める佐藤信さんから声がかかりました。設計以前から理念や機能を専門家、市役所、市民の方々と話し合ってきました。ホールや劇場自体は専門家チームが主に議論しましたが、ホールや劇場の客席、楽屋、ロビー、ホワイエなどについて、ホールや劇場以外の空間については主に私が中心になって関係者と議論しました。一例として、キッズルームは東京などでは観客の託児サービスとしてだけ設置されますが、ここでは地域の人たちにも開放した子育て支援用のスペースにしました。1階の南側、芝生に面したガラス張りのスペースです。夜8時まで使えて、安全と利便に配慮した設計と運営を心がけました。
 舞台芸術の面ですごい公共施設はたくさんあります。しかしアリオスならではのコンセプトは、演劇や音楽至上主義にしなかったことにあります。それが結果として施設自体にも運営にも反映されているし、それが震災でいい方に機能したのではないかと考えています。

||| 再開も地域から

-日常的な自主事業などにはどういう形で生かされていますか。

大石 いわき市は、いまは追い抜かれましたが、昭和の大合併で市の面積日本一になりました。ともかく広い。アリオスから市内で最も遠いところまで車で1時間半ぐらいかかります。そういう地域の住民はほぼこの施設には来ることが出来ないだろうと思いました。でも本来はすべての市民を対象にした舞台芸術活動、自主事業でなければいけませんよね。そこでとりあえず、施設を使える人には目一杯使ってもらう、ホールや劇場では質の高い公演を本数は少なくてもきちんと提供する。それとは別に、この施設に来られない人には、小中高校へのアウトリーチ、商店街やお寺などのコミュニティーに音楽家を派遣したコンサート公演、いわゆる「おでかけアリオス」を計画しました。
 震災後はスタッフが学校に出向いてどんな要望があるか直に聞いてくる調査活動から始めました。御用聞きですね。学校ごとの要望に沿って、6月から演劇、ダンス、クラシック音楽などの「おでかけアリオス」を再開しました。第一弾は、いわき総合高校で、劇団ままごと「わが星」のリーディング公演や同校演劇部のワークショップが開かれました。ホールと劇場は10月19日に再オープンすると決まりました。

-震災直後から全館の公演がすべて中止になりましたね。再開はいつからかまとめて教えていただけますか。

大石 6月中旬からレストランとショップを、8月1日からキッズルームとラウンジなどを再開しました。9月からはスタジオやリハーサル室の利用が始まります。10月19日からは大ホールや中小劇場が、11月1日からは別館が戻ってくるので音楽小ホールや練習室が再オープンします。

-公演中止で払い戻しもあったと思います。財政的な打撃はありませんでしたか。

大石 それはあまりないですね。震災後は営業停止の企業が増え、職を失った人も大勢います。むしろ市の財政が来年度どうなるか危惧しています。(>>

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第13回」への10件のフィードバック

  1. ピンバック: 川口聡 (川口総司)
  2. ピンバック: 森忠治 chuji,MORI
  3. ピンバック: 平松隆之
  4. ピンバック: 川口聡 (川口総司)
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  8. ピンバック: 高野しのぶ
  9. ピンバック: seri kurosawa

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