連載企画「外国人が見る小劇場」第4回

◎システムを「革命」する「身体性」を
 カティア・チェントンツェさん(イタリア)

日本語より先に舞踏と出会う

-イタリアから帰国したばかりだそうですね。

チェントンツェ ボローニャ大学で開かれた国際舞踏学会のシンポジウムに出席して帰国したばかりです。ボローニャ大学には「カズオ・オーノ(大野一雄)アーカイブ」があります。世界的にとっても有名なアーカイブです。ボローニャ大学は演劇・音楽・映像・ダンスなど舞台芸術を勉強できるコースを備えたイタリアで初めての専門大学なんです。

 今回学会に参加したのは、ドイツに住んでいる舞踏家の遠藤公義さん、大野一雄研究所の担当している溝端俊夫さん。それから高橋和子先生(横浜国立大学)、エウジェニア・カジニ・ロパ先生、ジョヴァンニ・アッザローニ先生、オーノ・アーカイブのエレーナ・チェルヴェッラーティ先生ほかの方々が参加しました。午前は大野先生についての発表がありました。午後は、ドイツ、フランス、イタリアなどで舞踏がどのように広がっているかがテーマでした。ドイツにおける舞踏については、私が発表しました。山田耕筰から始まって、村山知義、ドイツの身体文化(Körperkultur)と土方巽の関係などに触れて、ドイツと日本の身体性がどのように交流しているかを分析してみました。タイトルは「舞踏は踊らない踊り―ドイツと日本の身体性と舞踊文化の比較」です。

-ヨーロッパで舞踏は知られているのですね。

チェントンツェ 舞踏は向こうでよく知られています。最初にヨーロッパで活動した舞踏家は石井満隆さんでしょう。そして室伏鴻さんは1970年代後半、カルロッタ・イケダさんと一緒にヨーロッパで舞踏公演をしていました。
 ボローニャ学会が開かれる前の3日間、市内のギャラリーで大野一雄先生の写真展がありました。またボローニャ大学のマッテオ・カサーリ先生と私が大野慶人先生と前衛についての対談も行いました。カサーリ先生は『現代詩手帖』に論文を発表したこともあります。出席者も多くてちょっとビックリしました。

【写真は、カティア・チェントンツェさん。撮影=羽田丈浩 禁無断転載】
【写真は、カティア・チェントンツェさん。撮影=羽田丈浩 禁無断転載】

-学会には何人ぐらい集まったのですか。

チェントンツェ 80人ぐらいかな。100人もいたのかな。自分の発表があって緊張していたので数えてはいません(笑)。でも結構いましたよ。

-国際学会はよく開かれていますか。

チェントンツェ ヨーロッパで学会やシンポジウムはありますよ。2009年にヴェネツィア大学で「Avant-garde in Japan」のシンポジウムが開かれています。その年は、イタリアで始まった「未来派」の100周年、同時に「舞踏」の50周年でしたから。

-いつごろ来日したのですか。

チェントンツェ 貿易の仕事をしていた父に付き添って1992年に来たのが最初でした。その時は4日間くらい滞在しただけです。大学2年生の時でした。日本に来るのは結構緊張しました。その後、99年に1週間滞在し、同じ年にさらにまた1ヵ月ほど来ています。99年にはヴェネツィア・ビエンナーレ・ダンスフェスティバルに大野一雄先生を招くことを計画して、そのために大野先生の稽古場に行ったのです。

-大野一雄さんはその前から知っていましたか。

チェントンツェ 97年にボローニャに近いフェラーラで大野先生たちの公演があり、その翌日にワークショップがありました。その通訳をしながらワークショップを受けて、大野先生たちに会いしました。これが舞台を見た最初です。
 でもその前、舞踏との出会いは15歳のときでした。15歳というと、イタリアでは高校生になります。わたしはドイツ生まれで14歳までドイツに住んでいたのですが、ドイツではクラシックバレエをやっていました。そのころまで舞踏に接することはなかったと思います。その後イタリアに引っ越してから、クラシックバレエではなくモダンダンスの学校に入りました。そこはマーサ・グラハム・テクニックの学校で、そのときも舞踏のことは全然知らなかった。翌年からアンナマリア・デ・フィリッピ(Annamaria de Filippi)の学校でコンテンポラリーダンス、ジャズダンスとクラシックバレエを学びました。彼女は舞踏の影響を受けていて、振付にいろんな動きを入れたりしていたので、もしかしたら舞踏の話もしていたかもしれないですね。今、考えると本当に面白いですね。イタリアの南部の、とても保守的な環境なのに、意外にも、生き生きした新しいものに関心を持つ人たちがいたのです。新しい音楽とか美術とかに関してみんなすごく興味を持っていました。(舞踏への関心は)そういうことを含めてのことだと思いますね。
 その後1986年ごろでしょうか、『ロックスター』という音楽雑誌に舞踏の記事と写真が載っていて、それで初めて舞踏を知りました。写真を見て感動したんです。

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katja03【略歴】
カティア・チェントンツェ(Katja Centonze)
 ヴェネツィア大学東洋学科卒。トリアー大学(ドイツ)博士課程。専門は日本の舞台芸術(舞踏、コンテンポラリーダンス)。99年から2003年までヴェネツィア大学東洋学科非常勤講師、2005年から2009年までカラブリア大学非常勤講師。国際交流基金2009年度日本研究フェローとして早稲田大学演劇博物館にて「身体論と技術:舞台芸術から土方巽の舞踏へ―パフォーマンスとテキストにおける身体とメディアをめぐって」をテーマに研究。現在、早稲田大学演劇博物館招聘研究員。編著書に”Avant-Gardes in Japan、Anniversary of Futurism and But?: Performing Arts and Cultural Practices between Contemporariness and Tradition”(2010年、Cafoscarina)など。

・“Resistance to the Society of the Spectacle: the ‘nikutai’ in Murobushi Kō”
http://danzaericerca.unibo.it/article/view/1624
・フェローセミナー「身体論と実践:土方巽の舞踏における「身体」と「肉体」をめぐって」>> http://d.hatena.ne.jp/japanfoundation/20100818/p1
・Dance Triennale Tokyo 2012 >>
http://asiamedia.unive.it/www/content/dance-triennale-tokyo-2012#.UNGhjDn2AXs.twitter
http://asiamedia.unive.it/www/content/strani-funghi
http://asiamedia.unive.it/www/content/dance-triennale-tokyo-2012
・2004年、柳下規夫のもとでクラッシクバレエとモダンダンスを学び、柳下モダンバレエグループの「廃屋にて」に出演(2004年『現代舞踊展』、メルパルクホール東京)。

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