-そして、いよいよ演劇との出会いですね(笑)。
クラウトハイム はい(笑)。言葉も少しはできるようになって、TIF(東京国際演劇祭)は見ていたので、メーリングリストに登録していたら、フェスティバル/トーキョー(F/T)のスタッフ募集の案内が流れてきました。それに応募して、2008年の立ち上げから関わりました。
-F/Tのスタッフになる前に、小劇場をご覧になっていましたか。
クラウトハイム はい、見てました。ただ結構難しいものがあって、東京に引っ越してきて、いろいろ見たいと思ったのですが、何を見ればいいか全く分からない。ドイツなら、例えばベルリンなら、こういう劇場はこういう特徴をもってこのような演目を上演しているとはっきりしています。でも東京ではチラシの束をどっさりもらっても、どう選択すればいいか分かりません。
-日本のようなチラシはないのですね。
クラウトハイム 1ヵ月の予定を書いたプログラムや、年間プログラムが書かれたパンフレットなどはありますが、個別公演のチラシはありません。
ですから当時は、慶応大学の平田(栄一朗)さん、立教大学の新野(守広)さんたちに何を見たらいいか相談して公演に行ってました。そのころたまたま見たのが、チェルフィッチュの「3月の五日間」です。六本木のライブハウスで開かれた公演です(2006年3月11日-21日、六本木・スーパーデラックス)。それはものすごく印象に残る舞台でした。
-なるほど…。
クラウトハイム リアリスティックではないですけど、動きがとても日本の若者らしい。日本の若者の存在とマインド(心)を捉えたなと思いました。それから、話し方。周りを回っていて、コアな部分に触れない若者の話し方をよく表している気がしました。印象深かったですね。あと、若者と政治との関係への問いかけは共有できました。
-渋谷のラブホテルに籠もっている若い男女の話が中心でしたけど、ホテルの外でイラク戦争に反対するデモ隊の抗議の声が聞こえてくる。ラブホテルに内閉してしまう方向も可能ですが、あの作品は内側の出来事と同時に、外部で起きていることが舞台空間に配置されます。そういうとらえ方を日本では経験していなかったんですか。
クラウトハイム 無意識の部分とか、外部にあるものを感じてはいても、直接的なつながりは持てない。日本人が政治に対して間接的にしかつながりを持てないということを、あの公演を見てはっきり感じるようになりました。ドイツはもっと直接的です。日本の現状、現実が見えてきたような気がしましたね、確かに。
チケットは高くて入手が難しい
-F/Tではどんな仕事をされましたか。
クラウトハイム ドイツのアーチストや劇場の公演だけでなく、ほかの外国の作品も担当しました。主に制作ですね。最初は、リミニプロトコルの「カール・マルクス:資本論、第一巻」(2009年2月26日-3月1日、にしすがも創造舎)。あれはよかったですね。それからやはりリミニプロトコルの「Cargo Tokyo-Yokohama」は横浜のチームと一緒にやりました。大きい作品で言うと、マルターラーの「 巨大なるブッツバッハ村――ある永続のコロニー」(2010年11月19日-21日、東京芸術劇場)。公演を見て泣きましたね。
-そういう海外公演と、それまで見た日本の公演は違いましたか。
クラウトハイム F/Tに参加してから、かなりセレクトされた作品に出会えたと思います。そう考えると、それ以前は注目すべき作品にしっかり出会えていたかどうか分からないとあらためて思いました。信頼できる人に推薦してもらうのがやっとでしたね。
もう一つは、入場料の問題があります。ヨーロッパなら安いので、気軽に見に行けます。2000円ぐらいでしょうか。自分が大学生だったころ、学生向けのチケットは300円から1000円ぐらい。オペラ公演ですが、大学に入りたてのころは毎日劇場に通っていました。それでも生活できましたよ。日本は入場料が高いので、次々に見ることが出来ません。
-そのうえドイツはレパートリー制だから、日替わりでいくつもの演目が見られますね。
クラウトハイム そうです、そうです。日本ではどうやってめざす公演と接点を持てるか分からなかった。学校とか団体とかに所属していたわけではないので、情報も手掛かりもありませんね。
あっ、思い出しました。渋谷の劇場でNODA・MAP「ロープ」公演を見に行ったときのことです。そのときの体験が印象深いですね。まず、チケットがなかなか入手出来ません。いくら事務所や劇場に電話してもずうっと話し中。やっとつながると売り切れ(笑)。当日券があるというので指定された日時に出かけたら、番号順に並びなさい(笑)。1時間ぐらい並んで整理券が配られて、その順にまた並んでやっとチケットが買えました。公演は言葉遊びが多くて、よくわかりませんでしたが、もう二度と行きたくありません(笑)。舞台を見るための煩雑なシステムに巻き込まれてしまって、舞台を楽しむことができなくなるのではありませんか。お客の自由がなくなります。あまりにも規律重視! やり過ぎですよ。ヨーロッパなら暴動が起きます(笑)。