振り返る 私の2006

年末恒例の回顧アンケート企画を実施しました。これまで「マガジン・ワンダーランド」やwonderlandサイトに寄稿していただいた筆者のほか、ネット上でレビューを発表している方々にお願いしました。最終的には12月24日までにいただいた30人の回答を到着順に並べました。質問は次の通りです。・今年の3本=今年みた公演のうち、記憶に残る3本を挙げていただきます。 基本的には小劇場の芝居やダンス、パフォーマンスを対象にしますが、何が「小劇場」か、シリーズ公演を1本と数えるかどうかもふくめ、執筆者の判断に任されます。その辺の限定・拡大が必要ならコメントで触れてください。
・コメント=計300字。選んだ理由、漏れた公演、そのほか今年の特徴や新しい流れなどコメント内容は自由です。
・形式は、劇団(アーチスト)+「(公演名)」×3本
-などです。 場合によってリンク、その他の情報を付け加えています。見出しの筆者名をクリックすると、wonderland 掲載劇評の一覧が表示されます。(2006.12.24)

高木登(脚本家、「机上風景」座付き作家)

  1. 東京デスロック「再生」
  2. THE SHAMPOO HAT「恋の片道切符」
  3. 机上風景「乾かせないもの」

1は長く書けば、週刊マガジン・ワンダーランドに寄稿した通りだが、ひと言で言えば「良いもん観せてもらいました」に尽きる。あの日以来あの舞台の記憶を反芻しない日はない。2は「蠅男」以来この劇団のファンで、ついに「蠅男」を超える作品に出会えたと実感できたので。超えて、かつ作家として劇団として、さらにその先へと前進しているところを観せてもらえた。「成熟」とはこういうことを言うのではないか。3は身内贔屓を承知で入れた。古川はかねてから役者にだけ専念したいと言っており、おかげで次回は私が演出する羽目になったりもしているわけだが、せっかくの才能なのだからコンスタントに書きつづけていってほしいと願う。せめてオーソドックスであることの貴重さに多くの人びとが気がつくその日まで。

芦沢みどり(戯曲翻訳者)

  1. イトー・ターリ「恐れはどこにある2006version」
  2. 鴎座「ハムレット/マシーン」
  3. チェルフィッチュエンジョイ

1は、レズビアンであることをカミングアウトして以来、自己のセクシュアリティーを主要テーマとして、国内外でパフォーマンスを展開してきた作者の最新作。痛みと哀しみの表出だけでなく、強さ、ユーモア、他者を包み込むおおらかさがある。美術が秀逸。
2は、新劇、舞踏、アングラと、出自の異なる俳優を同じ舞台に載せて、この難解な戯曲に挑んだチャレンジ精神に拍手。佐藤治彦という新人(?)を発見。
3は、間接話法で始まる話が間接話法の身体を生む、という感じの舞台。当事者になり得ない身体に、時代への批評精神とある種の痛みを感じさせられた。

藤原央登 (wonderland 執筆メンバー、劇評ブログ「現在形の批評」サイト)

  1. 演劇計画2006「ノーバディー
  2. 劇団八時半「完璧な冬の日」
  3. bird’s-eye view 「girl girl boy girl boy」

1・3位が京都での作品であるように今年を振り返って思い当たるのは京都で芝居をよく観たという事である。特に五反田団・前田司郎による「ノーバディ」が良質な舞台作品であった。登場する人物全てがただ死んでいくというその死に様のコミカルさ、その後ただじっと死体を演じ続けることによって身体への思考を促すという実験性の2点が面白かった。ワークインプログレスという位置付けなのだがこれだけでも十分に成立しており、いくつかの問題点はあるものの来年の本公演が非常に楽しみである。ゆったりとした京都の時間軸が醸成する芸術と人との豊饒な関係が、東京のように資本化された大阪にはない制作体制と演劇への身近さを生んでいるのだろう。

高野しのぶ(「しのぶの演劇レビュー」サイト)

平田オリザ氏ひきいる青年団の若手(多田淳之介氏、松井周氏ら)の活躍が目覚しい。渡辺源四郎商店の畑澤聖悟氏はコンスタントに佳作を発表している(「夜の行進」「猫の恋、昴は天にのぼりつめ」「背中から40分」)。再演で際立った成果はチェルフィッチュ「三月の5日間」、俳優座劇場プロデュース「東京原子核クラブ」。
ウラジオストク青年劇場「かもめ」、ガラシ×ク・ナウカ「ムネモシュネの贈りもの」、劇団「木花」「ロミオとジュリエット」などの海外のカンパニーの作品で、俳優の力を見せつけられた。
(注)今年の3本は小劇場公演(客席数300席以下の劇場での自主製作/ただし劇場プロデュースを含む)の中で、私が観た作品から選出。12月12日時点の2006年観劇本数は340本。文中のタイトルは初日順もしくはあいうえお順。

◇藤田一樹(ブログ「藤田一樹の観劇レポート」サイト)

  1. 演劇フェスティバル「TOKYOSCAPE
  2. チェルフィッチュ「三月の5日間」
  3. 演劇集団円「ロンサム・ウェスト

今年の夏は京都で開催された演劇フェスティバル、「TOKYOSCAPE」へ自ら足を運ぶことが出来ました。丸一日で4本の演劇公演を鑑賞するハードスケジュールでしたが、どの作品も個性があって面白く、非常に充実した観劇を体験出来て良かったです。東京での小劇場公演ではチェルフィッチュ「三月の5日間」の新しい才能が芽生える作品に刺激を受け、演劇集団円「ロンサム・ウェスト」では久々に小劇場で良質なストレートプレイに出会うことができました。今年も面白い演劇に沢山出会うことができ、非常に嬉しかったです。来年もより演劇が盛り上がることを期待しています。

楢原拓チャリT企画主宰)

  1. ナイロン100℃「カラフリメリィでオハヨ ~いつもの致命傷の朝~」
  2. 新国立劇場「やわらかい服を着て」(作・演出/永井愛)
  3. 東京デスロック「再生」

「カラフリメリィでオハヨ」はちょうど10年前の再演も観ていて、その当時はあまりピンとこなかったことを記憶してますが、今回は10年歳を重ねた分なのか、身に迫る内容で、いたく共感してしまいました。
「やわらかい服を着て」は、反戦運動に携わる若者たちの等身大の姿が描かれていて感動的でした。
東京デスロックの「再生」は、賛否別れるところでしょうが、”現代口語演劇”の枠からはみ出そうとする作者の思いが伝わり、それを敢えて実践してしまったところに同じ世代の表現者として”カッチョいいなー”と思い、大変印象的でした。

中西理 (演劇コラムニスト、「中西理の大阪日記」サイト)

  1. 維新派「ナツノトビラ
  2. 五反田団「ふたりいる景色」
  3. ポかリン記憶舎煙の行方

私にとって今年(2006年)を象徴する芝居と考えた時に上記の3本となった。興味深いのは意図して選んだわけではないが、いずれも現実と地続きのような非日常との邂逅を描いた一種の幻想劇であることだ。スタイルはまったく異なるが、「死者ないし異界との遭遇」という伝統演劇である能楽に通底するような構造を持っており、それを単なる絵空事ではなく、舞台上でアクチャルに示現させる独自の方法論を持っている。維新派「ナツノトビラ」はこの集団がいまもなお進化を続けて、新たなフェーズに入りつつあることを示した道標となった舞台。五反田団の前田司郎もこの舞台と「さようなら僕の名声」の2作品で、平田オリザの重力圏から離れ、「妄想劇」という自らの立ち位置の独自性を明確に示した。「煙の行方」も単なる再演にとどまらず京都・須佐命舎という「場の力」を存分に活用した「見立ての演劇」という新たなアプローチを鮮明にした。

木村覚(ダンス批評、美学研究者 ブログ「Sato Site on the Web Side」)

  1. 黒沢美香&ダンサーズ「ダンス☆ショー きみの踊りはダンスにしては重すぎる」
  2. 手塚夏子私的解剖実験-4 -表層から見た深層-」
  3. KATHY「Happy Birds」

ダンス限定。挙げてみるとすべて劇場以外の場での公演だった(奇遇か 必然か)。方法(アイディア)を研ぎ澄ましかつ安住しない姿勢、それ だけが観客に1秒も目を逸らせない(怖れと驚きと哄笑とがすべて混ざり合った)スリルを与えてくれる。そのことを再認した3本。特筆したいのは手塚の「表層」への展開。声高には語られていないがダンス史上 の大発見・大展開だったのでは!次点は康本雅子のWOWOWで放送 されたビデオ作品(「茶番ですよ」)、新人賞はピンク(「We Love Pink!」など)。
演劇は、1.五反田団「さようなら僕の小さな名声」2.ポツドール「夢の城」3.庭劇団ペニノの「アンダーグラウンド」。

伊藤亜紗(ダンス批評、ブロググビグビ

  1. 五反田団「さようなら僕の小さな名声」
  2. 黒沢美香&ダンサーズ「ダンス☆ショー きみの踊りはダンスにしては重すぎる」
  3. 神村恵+種子田郷「うろ」

無理が満載の話をやらされて悲壮感さえ漂う役者たちの姿に、舞台上ながら笑いを禁じ得なかった五反田団団長・前田司郎のユルみ加減にまず一票。演技なんて恥ずかしいという自意識を地として描かれるフィクションだからこそ、表情のさじ加減ひとつでスリリングな「ぐらつき」や「ユルみ」が生じる。その圧倒的な生々しさ(ライブ感)がたまりません。
二つめ、黒沢美香&ダンサーズは、評でも書いたとおりふてぶてしいのにグルービー、野太いフリして不意打ちを乱射してくる。その「毒気」は何度でも浴びたい。
三つめはミニマルなのにねばっこい動きの執拗な反復によって、身体が自動化し空洞化していくことのホラーさえ垣間見せた神村恵。ミリ単位で体の向きを変えていくような緻密な計算から目が離せなかった。

吉田俊明(wonderland執筆者、ポータルサイト「劇人」運営)

  • 表現・さわやか「そこそこ黒の男」
  • SKグループ「再演A。~キミのなかのボクのこと~」
  • 青年団若手自主企画 「立つ女

まずは、直近で面白すぎた作品「そこそこ黒の男」です。今年一番笑った作品ということでランクイン。猫のホテルの恐ろしさを改めて感じました。次は今年のリージョナルシアターからですね。北海道の劇団ですが、人間をテーマにした感動的で深い物語に感動。観客の熱さにも心打たれました。最後の「立つ女」はダンス作品、アトリエヘリコプターの倉庫を使った印象的な空間 にオムトンの音楽が響き渡る。「座る」と「立つ」という動作の奥深さに触れた。あとは、次点ですが・・・鹿殺しの「山犬」、ドイツ座の「エミーリア・ガロッティ」も印象に残ってます。