連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」 第8回

||| 創造集団であり続ける

-このシリーズで今回は8回目。これまでお話を伺った中には、劇場運営のプロであっても、つくり手ではないという方もいらっしゃいました。現役の演出家としては、せんがわ劇場のペーター・ゲスナーさんに次いでお二人目なんです。中島さんは迷いなくずっと現役で活動を続けていらっしゃるんですね。それはひとつの基軸になっているということですか。

中島諒人さん中島 はい。そうですね。
 それも、いくつかの面があるのですが、例えば国立劇場・県立劇場など公立の劇場の場合。僕は最近よく軍隊にたとえるんですが、正規軍は、アメリカの軍隊にしても、日本の自衛隊にしても、戦う相手がいなくても、戦争があるかもしれないということで存立の根拠がありますよね。「日本は文化国家なんだから」とか「地方都市にも文化が必要なんだから」という、誰も反対できない大義名分があれば、そこで存立の根拠が与えられます。
 しかし、我々は正規軍じゃなくて、ゲリラなんですよね(笑)。ゲリラの場合は常に戦う相手が具体的にいるんですよね。あるいは、戦う相手を見つけていかなければならない。私たちの生活状況において何が敵かということを見定めて、それと戦っていかなければならないという側面がある。ゲリラだから資金も限られているので、いろんなことを創造的に分担しながらやっていかなければならないという側面も。
 ですから、私たちが何をやるべきかを発見していくためにも、私たちは創造集団でなければいけないと思っているんですよ。私自身も、演出家としての活動で、演劇を通じて地域社会に対して何ができるかということを常に考えなくてはならないし、つくる過程を通して発見されることがすごく多いので、それはしなければいけないし、したいとも思っているということです。他の俳優や技術スタッフ、制作スタッフなども含めて、やっぱりつくるという仕事抜きにうちの劇場は考えられないというところがあるんですよね。
 劇場だからこういうことをしていればいいとか、劇場だからこういうことはやらない、という発想は基本的にはありません。「あ、何か匂いがするな」と思うことをいろいろやってみる中で、「ああ、このことの価値はこういうことだったから、次にはもう少し形を変えてこんなふうにやってみよう」とか、「このことは匂いがするからやってはみたけど、この次は止めよう」とか。そんなことをいろいろ試行錯誤してやっているところで、それでいろんなことをしているように見えるのかもしれません。常に社会との関係の中で、本当に何が価値があるのかを探そうとしている試行錯誤の過程だと思います。

-こちらにおられるみなさんは、スタッフとお呼びすればいいんでしょうか、劇団の方とお呼びすればいいんでしょうか。

中島 基本的には、仕事が役者であれ何であれ、劇場のスタッフですね。

-全部で何人いらっしゃるんですか。

中島 私を含めて14人です。内訳は、俳優8名、演出家1名、音楽家1名、制作および技術スタッフ4名。鳥取出身者が3名です。

-みなさん、劇場スタッフでもあると。

中島 はい。仕事の分担はだいたい決まっていて、お芝居をつくるときは、役者、テクニカル、アドミニストレーションと分かれます。自分たちの作品を上演するのではない企画の場合は、その作品につくテクニカルがいて、あとは基本的にはアドミニストレーション、つまり管理系の仕事、広報、財務などの仕事ですね。

-では、かなりフレキシブルに、各自がいろんなことをなさるんですね。

中島 そうですね。一人二つくらいは主な仕事がありますね。

-この方たちは、創設された2006年の時点から集まっておられるんですか。

中島 創立メンバーは何人だったっけ、10人くらいだったと思うんですけど(笑)。大半が創立の頃からずっといますね。

-みなさん「社員」ということなんですか。

中島 正確には、契約の形態としては給与ではなく報酬です。だから、導入したいと思いつつ、まだ社会保険なんかもないんですが。そういう意味では社員というのは変ですね。

-アルバイトではなくフルタイムですよね。契約社員ですか。そういう雇用形態はなんと言えばいいんでしょうか。こちらの組織は…。

中島 NPOです。ですから、そういう文脈から言えば、NPO法人の職員ですね。

|||スタッフの経済的基盤を確保したいが

-こちらの劇場の年間予算が6000万円くらいとか。

中島 ええ、去年2009年の数字で、だいたい6000万円から6500万円くらいです。

-そのうち入場・参加料が600万円くらいなんですか。あとは、ひと口5000円のサポーターシステムからの収入と、それ以外はどういうものでまかなっておられますか。

中島 サポーター寄付金が500万円弱。あとはまず、私たちの劇団がどこかに呼ばれたときの上演料。それから、鳥の演劇祭なんかは実行委員会形式で、実行委員会から鳥の劇場に対して委託ということになるので、その委託料ですね。そして、助成金、補助金。文化庁とかアサヒビール芸術文化財団、セゾン文化財団などから入るお金です。

-2009年度活動報告書には、事業と運営にかかった6000万円のうち、主な財源は、入場料・参加料が約9%、上演・事業の企画運営に対する委託料が約36%、サポーター寄付金約7パーセント、各種助成金・補助金約44%、支出のうち、劇団メンバーにかかる人件費の割合は約40%とありますね。

中島 普通の財団などでは、人件費は最初から枠としてあって、その上に事業費を乗せることになりますね。ですから補助金などを得られると、事業費に充てることができます。でも僕らの場合は、毎年資金調達がゼロからなんですね。
 ですから本当を言うと、今の事業費6000万円というのを最低でも1億円にしたいんです。そうなると、スタッフに報酬として、平均年収350万円から400万円という金額を払えることになりますので。何とかそうしたいのですが、残念ながら今の我々を取り巻く環境では、1億円に到達する手段が見えないんですよ。そこをどうしようかなあと、いろいろ苦心しているところです。

-ただ、今は、中央・地方を問わず経済的に厳しい中で、地方の民間の劇場として精力的に活動なさっていて、こういう数字を拝見すると、大変うまく運営されているんだなあとお見受けするんですが、いかがですか。

中島 ある意味では、その通りだと思います。東京の民間劇場なんかが非常に難しい状況にあると聞くにつけ、地方での活動ということで、いろんな方から積極的にご理解をいただき、ご支援いただいているところは、紛れもなくあると思います。
 でも一方で、うちのスタッフなんかは、1日12時間以上働き、週に1回休みがあるかないかで、年収は200万円に届かないんですね。それでいいのか(笑)。日本のよくある見方では、好きなことをやっているんだから、それでもいいじゃないかって言われるんですけど。確かにそうだ、ありがたいことです、ありがとうございます、なんだけど(笑)。
 やっぱり、僕が願うのは、何度も申し上げているように、社会の中でそれが必要だということがちゃんと証立てられて、公的に意味のある仕事だと認知されることであって、みんなが年収1000万円なくちゃいけないっていうんじゃ全然ないんですよ。
 350万円から400万円というのが、鳥取県の給与所得者の平均年収です。そのくらいのお金があって、いわば経済的には普通の環境の中で、集中して仕事ができて、ということを願うんですね。これは僕らの側からの言い分ですが、芸術に対する投資は、非常にコストパフォーマンスが高いわけじゃないですか。道路を1m作るお金でどれだけの文化事業ができるかという話はよくされますけれどね。
 1年の事業費が6000万円とか6500万円というのは、確かに、非常にありがたい数字なんですけど、毎年これが維持できる保障は、どこにも全くないんですよね。それはもちろんどこでもそうだし、民間の企業もそうなんですけれど。
 劇団の主力メンバーが30代半ばになってきていて、そうすると僕としては、ひとつは演劇人の社会的立場ということで考えたとき、400万円くらいの年収が普通にあって、社会保険や年金も整っているという環境を、意地でも作らなければいけないと思っているんですよ。特殊な事例としてではなく、ごく普通のこととして、こうやって働けるんだということをね。
 みんな無謀にもここまで来て、客観的に見れば、こんなところで活動を始めるというのは、人生を捨てるような行為ですからね(笑)。それをしてくれた同志たちに対して、僕は、最低限そういう形で報いなきゃいけないという気持ちもあるんです。(続く>>


「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」 第8回」への6件のフィードバック

  1. ピンバック: 矢野靖人
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  3. ピンバック: 小暮宣雄 KOGURE Nobuo
  4. ピンバック: 藤原ちから/プルサーマル・フジコ

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