-今回も、ツイッターでも話題を呼んでますね。
森元 ああ、そうなんですか。ありがとうございます。実は僕自身は、担当している公演については、ネットでの評判はあまり見ないようにしているんです。ネット上でいろんなところが炎上しているのを、いやと言うほど見てきたので、怖いんです。議論はする方ですし、事務所でも喧嘩ばかりしているのに(笑)、人と人が言い争っているのを見るのは、とても苦手なんです。TVの『真剣10代しゃべり場』とか『朝まで生テレビ』とかもすぐチャンネルを変えてました。だってすごいでしょう、意見が違うと。アンケートなど、お客さまから目の前で頂いたものはきちんと読みますけど、ネットは、もう恐る恐るです。でも、後でちょっと見てみますね(笑)。
-たまにしかないことですが、すごくいい舞台の後は、お客さんが何だか膨らんでいるような感じなんですね。『わが星』の帰り道がそうでした。電車に乗ったら、たまたま知り合いに会って、彼女が「やばいですよね!」って(笑)。どっちの「やばい」かと思ったら、「もちろんプラスの意味の『やばい』ですよ」って。二人でワアワア話してしまいました。
森元 そうなんですか。ありがとうございます。そんな会話をしていただける舞台を三鷹で手掛けさせていただけたことを、本当にありがたく思います。先にも言いましたが、『わが星』は、初演の4日後に再演をお願いする企画書を出したんですね。だから時々、岸田戯曲賞をとったので再演するんですかって言われたりしますけど、実際には、賞を取るとか取らないとかいうのは僕の中ではまったく気にしていないことでして。
だいたい三鷹で初演した作品が岸田戯曲賞をとるなんて、思いもしなかったです。だから賞をとった時は「ああ何と、賞まで取ってしまった」という感じでしたね。もちろん受賞は本当に嬉しかったですけど、とにかく他の人の評価は僕の中ではあまり関係ないことなんです。100人のうち99人が面白いと言っても、私と、もうひとりの演劇担当の森川健太が「つまんないよね」と思えば「つまんない」と。それが間違ってると言われても別に構わないです。
||| 劇団には途中で口を出さない
森元 僕と森川は、それぞれ年間150本ずつくらい舞台を見ています。だから「東京の芝居を全部見て決めてます」とは、とてもとても言えない。偶然見ることができた作品の中から選ばせていただいているというのが現実です。時々DVDもお借りしたりしますけど、DVDで「面白い」という評価はしても「面白くない」という評価は絶対にしません。演劇は〈劇場で味わう空気感〉と〈DVDで感じる空間の雰囲気〉が全く違いますから、DVDを見ただけで「つまんない」と評価するのは、劇団の人に失礼だと思うからです。なので、もう可能な限りですけど、必死で見に行っています。
ちなみに、僕と森川はお互いに何を見に行くか全く知らないんですよ。ですから職場を「じゃあまた明日」と別れた後、劇場で再び会ったりとかはよくあります。で、別々にチケットの注文が入るものだから、劇団の制作の人から「仲悪いんですか? 席を離しておきましょうか?」なんて声をひそめて尋ねられたり(笑)。まあ一応僕は彼の上司なので「これを見に行くから」なんて言うと、彼も見なくちゃいけないんじゃないかと思ってしまうのが嫌なんです。っていうのは建前で、仕事の後まで彼と一緒に行動したくないだけですが(笑)、まあ、彼もそう思ってると思いますがね(笑)。
公演を見に行っても別に「超過勤務手当」が出るわけでもなく、自分たちが好きで行ってるだけってことになってますから、ほんとに見に行くのも行かないのも自由裁量なんですよね。で、何を見てどう思ったかは、1週間に1回くらい「最近何見た?」ってぽろっと会話する感じなんですが、「本当に面白い作品に出会った時だけは、必ずすぐにお互いにメールする」ことにしています。「他の予定があっても、これだけは見ておいてくれ」って。
でも、そういうのは年にせいぜい2、3本ですね。150本のうち、本当にいいなというのが2、3本、かなり面白いかなというのが10本、普通に面白いですっていうのが半分ってところですかね。「う~ん、今ひとつ」という作品も正直多いですしね。
-その、本当にいいなっていうのは、具体的にはどんな作品でしょうか。
森元 幾つかありますけど、強烈に覚えているのは、サンモールスタジオで見たイキウメの『短編集』。それから、王子小劇場で見たスロウライダーの『アダムスキー』。これは三鷹で再演しました。あとポツドールの三浦大輔さんがPARCOで公演した『裏切りの街』とか。セリフが生きてて素晴らしかったですね。まあ、三鷹にお呼びしている劇団は、間違いなく「いいな」と思った劇団ばかりですね。そうじゃないとお声を掛けることはないですから。
-その招聘した劇団に対して、森元さんはどういうスタンスで臨まれるのですか。
森元 お声を掛けて、三鷹で公演していただく以上は、僕の中でもう「最大限の敬意を払って来ていただく劇団」ということになるんです。だから老舗だろうが、若手だろうが、今現在の集客数が多かろうが少なかろうが、お呼びする以上は全く同じように接します。「若手には『呼んでやった』と言わんばかりに接し、実績がある人にはやたら丁寧に接する」なんてのは本当に嫌だなあと。
幸いにして部下の森川はそういうタイプではないのでよかったのですが、「絶対に敬意を持って同じように接するんだぞ。売れたら対応が変わったなんて思われないようにするんだぞ」って、入社したころには強く念を押してましたね。
その上で、劇団に対しては、公演の中身のことはあまり言わないです。ちょっと喩えが違うのかも分かりませんが、画家と画商みたいな感じで考えてまして。いくらひいきにしてくれているからといって、まだ製作途中の絵なのに、画商に「ここのタッチが今ひとつ」とか言われたら、画家は嫌でしょう。ましてや「今、こういうタッチの絵が売れてるから、こういうタッチで」なんて言われたら「二度と来るな!」って言うでしょう?
アーチストって出来上がり勝負だと僕は思うんです。最後まで粘りに粘って、周囲から見たら完成しているように見えても、本人が納得していなければ、まだ出せませんって言う、それがアーチストだと、僕は思っているんです。だから劇団の方から、台本できたんですって渡されたら読みますけど、こちらからは求めません。「通し稽古を見に来てください」と言われれば見に行きますけど、求められない限りは滅多に感想は言わないです。もちろん、求められたらしっかり言いますけど。僕が作家でもそれがいい。
後は規制というか、どうしてもNGにしていることっていうのは、もちろんあります。火を放つとか、全裸になって走り回りたいなんて言われると「それはちょっと」って言いますけどね。ただ、こうしたいと言われたときに否定からは入りたくない。僕自身面白い演劇が好きですし、「よくこんなこと思いつくなあ」と、その言葉を褒め言葉として苦笑いするような作品を見たいと、いつも思っていますから。
例えばある時、車を2台出して正面衝突させて大破させたいと言われたんですけど、まずは「いいですねえ、それ」って言うんです。だって面白そうですもん(笑)。見たいですもん(笑)。ただひとつだけ「大破させてもいいけど、自動車の排気ガスは外へ出すようにしてね」と。「劇場内に排気ガスが籠って、気分が悪くなる人がいると困るから」ということは言います。
他にも「本物の犬を登場させたい」と言われたので、それも面白そうだなあと思って、東京都の衛生局に問い合わせたら、猛獣は不可だと言うんです。でも続いて聞いていくうちに驚いたのが「何が猛獣かの明文化した規定はない」と。「虎は?」って聞くと「虎は猛獣です」って言うんですけど、でも猛獣とはこれこれって書いてあるものがないと(笑)。で、まあそのときは犬だったので「猛獣ではない」と言われたのですが、一応劇団には「毎日連れて帰ってね」という条件を出しました。一晩中ホールで鳴かれても困るので。「連れて帰ってくれるのならOK。象でも何でもいいよ」って。
まあ、これらは極端な例ですけど、劇団から「こんなことがしてみたい」って言われたら、可能な限り応えたいなあと思っています。それは制作さんサイドにも同じで「これこれってないですよね?」って聞かれたら、できる限り「あるよ」って答えたい。残念ながらない場合でも「これで代用できませんかねえ?」ってアイデアを提供したい。そう、丁度TVドラマの「HERO」で、木村拓哉がよく行く店で無茶苦茶な注文すると、マスター(田中要次さん)が必ず「あるよ」って涼しい顔で出すような(笑)。
だって、もし「あるよ」って言えたら、ただでさえ忙しい制作さんが「百均」に行く手間がはぶけるかもしれないんですよ。だから「あるよ」って言えた時は本当に嬉しいですし、想像力が及ぶ限り、ご要望がありそうないろんな物を用意しています。まあ特に、一度「ありますか?」とどこかの劇団から言われた物は、その後は必ず揃えて置くようする、その積み重ねですかねえ。気が利かないことだらけなので、気が付いたことだけはなんとかしたいので。(>>)
「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第10回」への6件のフィードバック